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2話

 さて、取り敢えず自由に出歩けるようになってからしばらく。一週間ほど自由に屋敷の中を歩いていたが、やはりここは俺の知っている世界ではないらしい。皆当たり前のように魔法を使っている。普通なら、魔法なんて言ってると頭がおかしいんじゃないかと思うだけだが………手も触れずに物を浮かべたり、照明を点灯させたりするのを見ればそうも言えなかった。

 そして………


「今日も吹雪か………止むときはあると言ってたけどなぁ………」


 外を見れば、俺が起きた時から数えても未だにやまない猛吹雪。これのせいで俺は外に出ることは出来なかった。メイドや執事も、外の吹雪を見てため息をついている。寒冷地の雪なんて、やっぱり雪かきが面倒くさいんだろうなぁ………とか思いつつ。


「ノイン。外が気になるのかい?」

「あ、父さん………はい、気になります」

「そうか………吹雪が止んだら、一緒に外を見に行こう。みんなにも、君を紹介しないといけないからね」


 ここでいう皆、とは領民の事だろうか。この吹雪の中良く暮らしていけるなぁとか思いつつ………何となく、父親には何か訳ありなんだろうなという予感があった。外を見ている父が、とても真剣な表情で吹雪を睨んでいるのだから。


「体はもう大丈夫かい?何かあったら、すぐに私や家の者に伝えてくれ」

「はい、大丈夫です。あ、でも………その、本を読めるところはないですか?」

「本?………はは、目覚めたばっかりなのに、ノインは勉強熱心だなぁ………なら、書斎に行こうか」


 父はそう言って、俺を書斎に案内してくれた。屋敷は広すぎて、何度も迷子になったせいで一人ではあまりウロウロ出来なくなっていたから助かる。俺はもう少し、この世界の事を知る必要があった。

 多分、父や何度か様子を見に来る聖女に聞けば答えてくれるだろう。ただ、俺の浮かんだ疑問全てを聞いていたら、いつかきっとボロが出るし、何かしらの違和感は覚えられると思う。そんな確信があった。

 だから、自分で知ることにしたまでだ。読書自体も、別に嫌いじゃないし。


「ここだよ。そうだなぁ………まずはこの本から読むと良い。文字をまずは勉強しないといけないからね」

「ありがとうございます」

「分からないところがあったら、いつでも聞きに来てくれ。それじゃあ、私はまだ仕事があるから戻るよ。またね」

「はい、頑張ってください」


 父はそう言って書斎を出ていく。書斎はとても広くて2階にまで本がいっぱいだった。もし何かがあって雪崩でも起こったらぺしゃんこだろうなぁ………

 なんて縁起でもない想像をしつつ、父から受け取った本を開く。内容は………文字の教本みたいだ。ただ、パラパラとめくってみたが………うん、全部読めるな。これ。


「………?まぁいいや」


 俺は父が本を取った場所に戻し、書斎の中を歩き回る。気になる事が幾つかあった。まずは魔法の事。言わずもがな、魔法なんてフィクションだ。いや、フィクションのはずだった。

 ただ、それだと俺が今まで見て来た説明のつかない数々の事象を受け入れることは出来ない。進み過ぎた科学は、魔法と区別が出来ないという言葉もあるが………いや、それでも手を触れずに物体を動かすなんて真似は出来ないだろう。鉄器を磁石で動かすとかならともかく、ガラス製のグラスを浮かせるなんて不可能だ。


「んー………お、これか」


 適当に本棚の間を歩いていると、初級魔法学という本のタイトルが目に入った。やっぱり魔法があるんだなーと思いつつ、その本を抱える。特別デカくはないはずだが、この体だと重く感じるな。

 俺は本を持って途中で見つけた窓際の大きな机に向かう。少し高い椅子を引いて、座った俺は本を開く。最初のページには、魔法がどういうものかということから書かれていた。


「魔力を媒体にした………様々な現象の発生、湾曲を指す………まぁ、難しくは書いてるけど、思ってた通りの魔法って事で良いんだろうな」


 なんか一々小難しい言い回しをしていて面倒くさい本だ。子供が理解できる内容じゃないだろこれ。俺が元々は高校生だったからいいけど、ほんとの4歳にこんなの見せたら寝るぞ。

 魔法を使うために必要なのは魔力。ゲームで言うMPとかマナみたいなもんだろう。そこに疑問はないから、取り敢えずいいとして。

 魔法を起こす方法はさまざまで、魔力を使った魔法陣を展開して疑似的な儀式を行うものや、魔力を編んで術式を展開するもの、膨大な魔力で術式を省略して発動するもの………他にもいろいろあるけど、長くなるから省略だ。


「コスト的には魔法陣が省エネなのか………ただ、習得は魔力を編む方法が一般的………最後のはあれか。贅沢に魔力が使える奴限定か」


 魔力量は生まれた時点で個人差が大きいらしい。特訓で最大値を増やす事は出来ても………まぁ、天才が努力すれば結局なぁ………別に天才でも何でもなかった俺からすれば、そういう才能持ちは羨ましく思う。


「術式への理解と、発動する際のイメージが大事………イメージは何となくあるんだけどな」


 指パッチンで魔法を使うとか。これはちょっとキザすぎるか。杖を振って魔法の弾を飛ばすとか?まぁ、サブカルはそれなりに触れて来たくらいだから、この程度のイメージは何となくある。

 誰もいないし、それっぽくやってみるか。なんて好奇心に任せて、右手の親指で中指を弾く。パチン、と小気味よい音が書斎に響き………本当に小さな火が、一瞬だけ見えた。


「え?」


 嘘だろ。いたずらな厨二心に任せてやってみた指パッチンで火が起きるとか。試しにもう一度、指を鳴らす。すると、やはり先ほどと同じように小さな火が一瞬だけ灯る。当たり前だが、術式はまだ知らないし、魔法陣も周りにはないように見える。となると………


「もしかして………俺、結構恵まれた魔力持ってる?」


 なんて思ってしまう。が、起こったのは結局こんなちっちゃな火だしなぁ。もうちょっとおっきな火が起こせたら………試してみるか。


「いや、燃え移ったらどうするんだ。二度目の焼死とかごめんだぞ」


 また火事になったら堪ったものじゃない。書斎なんて特に燃えやすい場所でやる事じゃないな。大人しく初心者向けの魔法を練習しよう。まずは………おぉ、物を浮遊させる魔法は初級魔法なのか。ふむ、子供でも覚えられる………そういう割には子供に読ませる気が無い文面なのは何かの嫌がらせなんだろうか。


「まぁ、いいや。使い方は………」


 と内容を読み進めてみる。が、何を言っているか読めはするが、内容があまり頭に入らない。まるで数学で前提となる公式を覚えてないまま発展問題の解き方を聞いている気分だ。魔力を~とか言われても、まず魔力がどんなもんか分からないんだが………


「そっちの説明は………あ、こっちにあるじゃん」


 と言っても、書かれていることはとても抽象的で感覚的な話だった。魔力というのは人それぞれの指向性と変性があり、全く同じ性質の魔力は極めて稀らしい。そのため、己の魔力の感じ方や操作の仕方は人それぞれであり、簡単に纏めることが出来るようなものではないと。

 だから、大半は魔力に精通した神職………ここで言うと聖女か。そう言った者が子供の魔力を鑑定し、その使い方を導くらしい。


「まずはそっちが先か………」


 けど、折角なんだからなんか収穫は欲しいよなぁ………とか思って、またさっきと同じように、今度は人差し指を立てる。そして、蝋燭に灯る炎を頭にイメージすると………ボッという音を立てて、ほんのりと明るい火が俺の指先に灯ったのだ。ただ、直に触れているはずのそれは全く熱くなくて。指も火傷をしている感じはしない。

 この要領で本を浮かべたりできないのかと思ったりはしたものの、いくら念じても本はびくともしない。俺は火を灯す事は得意なようだ。


「ノイン?」

「えっ」


 少しずつ聞き慣れて来た声が俺の名を呼び、驚いて変な声が出てしまった。慌てて火を消してそっちを見ると、驚いた表情を浮かべた父が立っていた。


「まさか………もう魔法を使えるようになったのかい?」

「え、いえ、その………魔法は分からないんですけど………何故か、火を灯すくらいは出来て………」

「………なるほど。文字は?」

「もう読めるようになりました」


 父にそう返すと、俺が読んでいた本を見る。そして、その中の一文を指差す。


「ここを読んでごらん」

「えっと………」


 指差された部分を声に出して読んでみる。音読をこの年になって………いや、普通に考えれば4歳って音読をする物なのか?まぁいいや。とにかく、引っかかることもなく内容を読み終えると、父は感心したようなため息を漏らす。


「ふむ………ノイン。吹雪も少しずつ弱まってきている。明日の午後には外にも行けるだろう。そしたら、聖女の所に行ってみよう」

「魔力の鑑定をするんですか?」

「あぁ。少し早いけれど、君にはこれくらいの方が良いのかもしれない」


 少し早いけれど、と言われて俺はハッとする。そりゃ、数時間のうちに一人で文字を覚え、小難しい本を読んでいる4歳の子供なんて居たら驚くだろう。俺の子供だとしたら、うちの子は天才だ!とかで大はしゃぎする自信がある。

 ただ、ここで変にハードル上げてめちゃめちゃ凡庸な才能とかだったらガッカリさせてしまうかもなぁ………とか。


「分かりました」

「それじゃあ、今日はもう寝なさい。本は私が片付けておくから」

「ありがとうございます。おやすみなさい、父さん」

「あぁ、おやすみ」


 俺はそう言って書斎の外に出る。書斎に入った時はまだ外は少し明るかったのに、もう既に外は真っ暗だった。吹雪のせいで、あんまり明るいとか暗いみたいな変化は大きくないけど。


「そろそろ青空も見たいなぁ………」







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