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13話

 街を出て、吹雪の中を進んでいた。雪の中で横になっても寒いとすら感じない俺が、少し寒いと感じる程の吹雪だった。


「………点火」


 手足に炎を纏う。放たれた熱で周辺の吹雪や積もった雪が溶けて少し歩きやすくなる。ただ、いつもより思った通りの火力が出ない。これも、寒波の呪いが本格的にピークに達しているからなんだろう。街からあの山までは2時間は掛かるが、この天候の中なら、きっとそれ以上掛かるのは間違いない。

 だからと言って、今更戻るつもりは無い。例え俺の炎が弱まろうと………この暗雲の先にある空を、皆に見せるまでは。










「はぁっ………はぁっ………」


 あれから5時間ほどかけて、俺はようやく山の中腹に辿り着いていた。ただでさえ長い道のりを、悪路になった吹雪の中を進んでいたことで俺はかなり体力を持っていかれていた。頂上に着いた頃には、夜が明けていてもおかしくはない。


「丁度、いいじゃないか………!」


 休憩を挟むこともなく、俺は山を歩き続けた。急な山でこそないが、降り積もった雪に足を取られ、登って行くにつれて更に勢いを増す吹雪に行く手を阻まれる。ただの登山が、今まで戦ったどのモンスターとの戦闘よりも厳しいものに感じた。

 それでもひたすらに頂上を目指して、歩き続けた。そして更に2時間が経ったとき。


「はぁっ、はぁっ………」


 俺は、頂上に辿り着いた。岩に挟まれた広い空間になっていて、吹雪は一段と勢いを増す。そして………閉ざされた視界の奥で、大きな影が動いた。そして、恐ろしいほどはっきりとした視線が俺に向けられたかと思えば、その影は威風を感じる女性の声で話し始めた。


「ほう………何が来たかと思えば、このような小僧とは。吹雪の中、良くもここまで辿り着いたものだ」

「お前が………魔龍………!」

「如何にも。妾は氷龍ファフリス。この地を氷河に閉じ、我が地とする………魔龍だ」


 影は躊躇うことなく名乗り始めた。それは、まるで知ったところで何も出来ないと確信しているようで………


「今更征伐に来たかと思ったが………運が良かったな小僧。妾は今気分が良い。本来なら殺すところだが、見逃してやる。既にこの地の未来は決しているのだから………妾の気が変わらぬうちに、ここから去れ」

「去れ?………勘違いするなよ」


 俺は左手に大火を纏い、周囲に払う。周辺の雪が溶け、吹雪が少し弱まって影が少しだけ濃くなる。すると、俺に突き刺さる視線が明らかに鋭くなったのを感じる。


「小僧。貴様、その意味が分かっているのだろうな?」

「あぁ、分かってるさ。魔龍、俺は………この地を守る者として、お前に挑戦する」

「………くく、はははははは!!!お前のような小童が、妾に挑戦するだと?人の子は夢に焦がれると言うが、ここまでくれば見事なものだ」


 魔龍は嘲るように笑い、大きく翼をはためかせる。身体が飛ばされそうな程の暴風が吹き荒れ、それと同時に視界を覆っていた周囲の吹雪が吹き飛ぶ。開けた視界に移った、魔龍の姿。

 身体の至る所に氷を纏い、蒼白い鱗が微かな光に反射する四足の龍。大きな翼を広げて立っているだけで、その威圧感に負けてしまいそうなほどの雰囲気を纏っていた。

 そして、開けた山頂には………


「分かるか、小僧。ここにある氷像。その全てが、妾に挑んだ者達の末路だ」


 無数の氷像が乱立していた。一つとして同じ形のものはなく、体格までもが一人一人違っていた。


「この中に………入る覚悟がお前にあるか?」

「………勘違いするな、って言っただろ。覚悟をするのは………お前の方だ!」


 両手に炎を纏わせる。そして、両足から勢いよく炎を放ち、一気に加速して魔龍に迫る。


「くだらん茶番だ」


 魔龍の周囲に鋭い氷柱が作り出され、次々と放たれる。俺はそれを見て足に炎を纏わせ、雪を溶かしながら滑るように左右に躱していく。右手に炎の剣を作り出して、魔龍へと飛び込む。


「はぁっ!!!」

「………」


 しかし、振るった剣は魔龍が無言で振るった翼に防がれ、それどころかそのまま押し負けて吹き飛ばされる。そのまま大きな岩に体が叩きつけられ、肺から空気が吐き出される。


「ぐっ………っっ!」


 しかし、すぐに俺に目掛けて放たれた氷柱を見て、すぐにその場から横に跳ぶ。放たれた氷柱は俺がぶつかった岩に大きな罅を作って突き刺さり、更にはその衝撃で岩が砕け散る。それを見て、俺は息を呑んだ。


「どうした?今更恐怖したか?」

「だ、誰が………!」

「ほう………ならば」


 魔龍は更に大量の氷柱を生成する。これを全て避けることは出来ないだろう。なら………!


「燃えろ………!」


 俺も周囲に無数の火球を作り出し、放たれた氷柱を相殺する。相殺しきれず飛んできたものを、振るった手から放つ炎で融解させる。


「なるほど。今まで戦った人間よりは骨があるようだ。しかし………」

「っ………!?」


 魔龍は氷柱を放つのをやめ、直接こちらに駆けだし始めた。その巨体に似つかわしくない速度で距離を詰められ、同時にしなやかで長い尾が目にも止まらぬ速度で振るわれる。

 俺はそれをジャンプする事で避け、更に次に来るであろう攻撃に備えて炎を纏う。予想通り、次に放たれたのは巨大な翼による叩きつけ。振り下ろされた翼に、俺は重ねた両手から全力で炎を放って受け止めた。


「っ………くそっ」

「貴様ら人間と我ら龍では、絶対的に埋められぬ差があると知るがいい」

「ぐっ!?」


 横から感じた衝撃に、俺は吹き飛ばされる。翼に集中していた所を、前足で殴られたと気付くのに時間はいらなかった。地面と平行に吹き飛んだ体は、山頂を囲む岩に再び叩きつけられる。


「ぐ………うっ………」


 地面に倒れた体を、震える両手で無理やり起こす。放たれた氷柱を、伸ばした右手から広がった炎の結界で防御する。しかし、さっきの一撃で俺の体は既に悲鳴を上げていた。


「さっきの威勢はどうした小僧。やっと興が乗ったのだ。妾をもっと楽しませてくれ」

「っ………調子に乗んじゃねぇ!」


 右手を掲げると、ありったけの魔力を込めて巨大な火球を作り出す。俺の体より遥かに巨大なそれを、右手を振り下ろすと同時に放つ。


「ほぅ………」


 魔龍は両翼を盾のように広げて体を包み込み、火球が直撃する。直後、巨大な爆発が山頂を揺らした。周囲の雪を融解させ、確かな熱を広げる。だが、これで終わりだとは思っていない。

 両手を胸の前で合わせ、その間に魔力を抑え込むように収束させていく。それはまるで太陽のように輝き、周囲に降り注ぐ雪が俺に届く前に溶けるほどの温度を放つ。

 そして、爆発が消えた直後。その魔力を解放して巨大な熱線を放った。更には周囲にも火球を展開し、追撃のように無数の熱線も放ち………先ほどよりも更に巨大な大爆発を起こした。


「はぁっ………はぁっ………!」


 両手が激しく熱された際の特有の音を立てながら煙を上げる。限界まで俺の魔力を使った攻撃だ。多少のダメージは――――


「っ!?」


 瞬間、未だに続いていた爆発が………凍てついた。そして、激しい音を立てながら砕け散る。確かに魔法で作り出された炎はそのような現象が起こることもあるとは聞いたことがある。だが………


「やるではないか、小僧。だが………妾に傷を与えるには、些か温度が足りないようだ」

「嘘だろ………っ」


 魔龍は両翼に氷の刃を纏わせ、再び迫って来る。俺は炎の剣を纏い、次々と振るわれる翼の振り下ろしを防いでいった。


「潰れよ!」

「ぐぅっ!」


 そして、魔龍が翼を左右同時に振り下ろした。俺はそれを剣で受け止め、潰されぬようにと踏ん張る。だが、所詮は成人もしていない子供の体だ。ろくに耐えられるはずもないことを悟り、俺はすぐに後ろに跳んで逃げようとして――


「がっっ!?」


 薙ぎ払われた尾に吹き飛ばされる。何度も地面を転げ、纏っていた炎が消える。


「良い余興になったぞ。小僧。だが………もう終いとしよう」


 俺が両手で身体を支えながら起き上がった時、魔龍の背後に巨大な魔法陣が浮かぶ。そして、直後に吹き荒れる激しい吹雪。今までの吹雪など比ではなく、一瞬で魔龍の姿を確認できなくなるほどだった。そして………


「っ………体、が………」


 俺の体が、少しずつ凍っていく。俺を包んでいた熱が一瞬で奪われていく。こんな所で終わる訳にはいかないというのに。


「く、そ………」


 俺は残った力で右手を伸ばし………完全に、視界が真っ暗に染まった。









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