老将軍二人
レスタークス派とシャルル派の動きが日に日に活発になっているのをどこ吹く風に二人の老将軍は日当たりのよいテラスでお茶を楽しんでいた。
「ナターシアよ。ちっと過保護がすぎるんじゃないか?」
「なんのことだい?」
「お前の孫たちをレスタークス殿下に付けたそうじゃないか。今回はわしたちは手を出さないって話だったろう」
「あたしは手を出してないだろう。孫たちが勝手にしたことさ」
「口の減らないばあさんだな」
「へそまがりのじじいに言われたくないね!あんただってほんとうは気になってるんだろう。素直に助けてやればいいんだよ」
「そうしてやりたいのはやまやまだが、わしのとこにはロクなものがおらんからな・・・」
ザムザはぽつりとつぶやく。
ナターシアの孫のアレスたちは勇猛で知られているが、ザムザ自身が言うようにザムザの息子や孫は凡庸な者ばかりでパっとしたものがいないのだ。
「あんた・・・ほんとうは手助けしたかったんじゃあ・・・」
あきれたように言うナターシアに、
「まあ、そういうな。わしは息子たちは育てきれなかったが、わしを超えた弟子たちが代わりに殿下を支えてくれるだろうよ」
「騎士団長の小僧ははともかく、嘘つき小僧はあんたの弟子にしてはだいぶタイプが違うみたいだけど大丈夫かい?」
『嘘をつかないタイプ』の策士、ザムザの弟子であるジュリアスが『平気で嘘をつくタイプ』の策士に育っていることをナターシアは気にしている。
「あやつの嘘は一級品だぞ」
「あたしは嘘をつく策士ってのは危ういとおもうけどね。いつかは味方にやられかねないよ」
「それまでにはなんとかするだろうよ。今は嘘をついてよい時期だ。わしだって昔は嘘つきだった事をお前も知らないわけじゃあるまい?」
「・・・そうだねえ。あんたは確かに嘘つきだったね!今は正直爺さんみたいな顔をしているくせにさ!」
ナターシアはザムザの昔の嘘を思い出したのか苦虫を噛むつぶしたような顔でにらみつけてくる。
(こいつは藪蛇だった・・・。意外と執念深いんだよ。この女は)
ザムザは助けを求めるように周りを見渡すとウインが肩を怒らせてこちらに向かってきている。ちょうどよかったとばかりにウインを呼び寄せようとするが、その必要はなかったらしい。
「どういうことですかな!?ザムザ将軍!あなたはどちらにもお味方せぬと言っていたではないですか!」
ウインはいきなり罵声を浴びせてくる。
「そうじゃ。だからどちらにもお味方していない」
ザムザは落ち着いて答えるが、
「ではどうして、勝つのはレスタークス殿下だと言っているのか!」
王国内でも有数の勢力を持つザムザの元には己の身の振り方に迷う者達が話を聞きになやってきている。
ただ、ザムザがどちらにつくかを尋ねてきたもの達にはザムザはレスタークス陣営、シャルル陣営の両方に話したように「わしはどちらにもつかん」と答えていたが、自らがどちらにつくのがよいのか聞いてくる者達には「勝ちたければレスタークス殿下につくことだ。負けを覚悟で恩賞を狙うならシャルル殿下につくといい」と助言していた。
これはすなわちザムザはレスタークスが優勢だと見ているということになり、貴族たちの判断に少なからず影響を与えていた。
「わしは事実を述べているだけよ。この戦、レスタークス殿下が勝つ。事実、現状の勢力で優位にたっているではないか」
「それは、あなたがそそのかしたからではではありませんか!?それで中立派が動いて・・・」
ウインの反論を皆まで言わせずにザムザは口をはさむ。
「そそのかす?馬鹿な事を。ドラゴンが来た時点でレスタークス殿下の方が勢力は上回ったのが事実ではないか。それがわからぬお主でもあるまい。・・・それ以上言い掛かりをつけるようであればわしは中立をやめて『勝利する側』についてもよいのだぞ」
ザムザにひとにらみされてウインは何も言えなくなってしまう。このうえザムザがはっきりとレスタークス側についてはもはや勝ち目がなくなってしまう。
「今からでも遅くはない。お主も『勝利する側』についてはどうだ?お主ならば『勝利する側』がわかっておるのだろう?」
「・・・いまさらそのような事はできませぬ。失礼いたします」
立ち去っていくウインの背中に「不器用なおとこだのう」とザムザは言い、「戦は強いんだがね」とナターシアが付け加えたのだった。




