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後編。白と黒のリア獣。

「さて。じゃ、俺でいいかな?」

 中華鍋猫が降りまして。白猫ちゃんは、特にコメントするわけでもなく、黒猫を一瞥。

 

 フライパン猫は、しぶしぶと空中へ。彼女を譲る気はなくとも、話すチャンスは譲るようで。

 

「知ってるか? 人間ってのはとことん身勝手な生き物なんだ」

 鍋から降りることもなく、突然黒猫がそんなことを言いますが、白猫ちゃんは素直に一つ頷くだけで話を聞く気がありそうです。

 

「俺は近々、どうやら 子供が作れなくなるらしい」

 いきなりの爆弾発言。

 

「それ、どういうこと?」

 普通ならどん引くところでしょうが、なんと白猫ちゃんはむしろ食いついてますね。

 

「人間がどうやら俺に、きょせいしゅじゅつ とやらをして、子供を作らせなくするんだそうだ」

 外野のことなど知らんとでも言うのか。黒と白の猫は、最早二人の世界に入ってございます。

 

「人間の間では、それを俺達 猫に施すのが当然なんだそうだぜ」

 この黒猫の冷静さなら、無暗にどこの馬の骨とも知れない野良猫とギニャーしてしまうとは思えませんが、そんなことを知ってるのは猫だけでしょう。

 

 人間からしてみれば、この白猫ちゃんも立派に「野良猫」でございますれば。

 

 

「そんな。ひどいじゃない」

 やけにしおらしい白猫ちゃん。

 

「まったくだ。だからな。そうなる前に、俺は」

 続きを言う前に、黒猫は厳しい表情で空を ーーやじうまどもを睨みつけた。

 月の光を反射したその目の輝きは、猫たちを追っ払うのには充分だったようで、

 

「みんな、これ以上は危険だ。帰るぞ」

 まだみたい、と言うのをはっきりと声に乗せた、スープ皿に入った猫が大き目の声を張りました。

 

「ち。ちくしょー!」

 いの一番に動いたのはフライパン猫。やかん猫と同じく、すんごいスピードで飛んでいってしまって猫たちは唖然としております。

 

「額に爪痕刻まれちゃたまんないからなー」

 と、お鍋の蓋に乗った二匹の猫のうちの一匹が、スープ皿猫を見てニヤニヤ声です。

 

「それでも、今じゃ勲章さ」

 スープ皿猫は含み笑いで返しながら、自らの乗り物をふよふよと動かし始めました。倣って他の浮いてる猫たちも、ふよふよ 移動開始。

 

 ふよふよ飛んでる猫たちの雰囲気は、見る限り和気藹々。

 

「やっと、いなくなったか」

 たっぷりと一呼吸の間を空けた黒猫に、「続きは?」と期待するような、甘えるような声色で白猫ちゃん。

 

 答える代わりにピョンと中華鍋から飛び降りると黒猫は。

「そうなる前に、俺は」

 もう一回。今度は言い聞かせるように言ってから、白猫ちゃんのところまでトテトテ歩み寄りまして。

 

 そしてなにやらささやきました。そしたらばなんと白猫ちゃん、キュウっと体を丸めてしまいました。

 

 

「どうした?」

 不可解そうな目を向けて。

「……なんでも。ない」

 明らかにてれた声色で、そういう白猫ちゃん。

 

「予定は年が明けたらとか言ってたな。年って奴が俺にはよくわかんねえけど、あんま時間はなさそうだ」

 なんでもないの言葉を真に受けたか、黒猫はそのまま話を続けてますね。機微のわからん奴です。

 

「……クリスマス」

「なんだよ? 丸まったまんまでしかも小声じゃ聞き取れないぞ」

 

 人間にはね。そう言いながら白猫ちゃんが顔を上げると、その顔は 人間みたいに真っ赤でした。少し、黒猫はトテトテっと後ずさり。様子がおかしい、と思ったようです。

 

「人間には、クリスマスって言うその……交尾する日があるんだって」

 おずおずと切り出す白猫ちゃん。その、いつもと違ういじらしさに黒猫はたじたじ。思わず中華鍋に入って丸まってしまいました。

 

 これは日本特有の習慣かもしれませんが、聖夜がいつのころからか性夜と化してることは 最早疑う余地もございません。

 

 

「だから……わたしたちも。その……その日に。……駄目?」

 上目遣いの白猫ちゃん。これでもかっっとガン攻めの姿勢。

 

「あ、ああ。か……かまわない」

 黒猫が、今度は縮こまって小声で返事することになりまして。

 

「ちゃんと顔出して言って」

 最早ただのだだっこと化した白猫ちゃん。自信があったとはいえ、この豹変っぷりには対応がうまく取れない様子で、ゆっくりと顔を出しました。

 

「何日後か、調べて伝える」

「おねがいね」

 嬉しそうに言った白猫ちゃん。

 

 これが、巣主いえぬしの言ってたツンデレとか言うやつか、と納得した黒猫は。

「わかった。じゃあな」

 そっけなく言って、中華鍋を浮かせました。

 

「今度は、わたしもそれ 乗せて」

「考えておく」

 そうして、中華鍋に入った猫は自宅へとふよふよ帰宅の道を飛ぶのでありました。

 

 

「まったく。媚売ってるのはお前もだろ」

 ツンデレに理解は示したものの、そんな認識だったようです。

 

 やれやれの声色でひとりごちた黒猫。寝起きの余裕はどこへやら。あの僅かなやりとりだけで、ゲッソリしてしまったようでございますね。

 「

ま、でも。あいつを選んだのは俺だし。しかたねえか」

 ぐっすり眠れそうだぜ。そう疲れた調子で言って中華鍋を加速させる黒猫でございました。

 

 

 いやー。猫の個性も十人十色、いろいろあるもんですね。中華鍋猫のこれからの苦労が目に浮かぶようで、ご愁傷さまですにゃぁ。

 

 さて、これでこのお話は終わりなんですが、なにか 不満そうなお客さんが。

 え? 一つ腑に落ちない点がある?

 

 なるほど、なにがUFOだったのか、と来ましたか。なんともΩ(おめが)高い。

 

 

 実はこのUFO。アンデファインドフライングオブジェクト、未確認飛行物体じゃ、なかったんですよ。

 じゃあなんなのか、と申しますと。

 

 U。嘘みたい。

 

 F。浮遊する。

 

 そしてO。お料理道具。

 

 

 

 それでは。石を投げられる前に、ネコナベUFO。この辺でお開きといたしましょう。

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