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神をも喰らうヴァイセント  作者: 文悟
第三章・聖なるを穿つ白鴉
73/73

第?話生まれいずる世界、終わらせるモノ

お久しぶりです。

遅くなってすいません。


以下、これまでのおさらい。ざっくり。


家族との旅行中、異世界に飛行機ごと飛ばされてしまった少年、柄倉重悟カラクラジュウゴ

突如現れた恐竜のような大型爬虫類、「竜」に襲われ父は死に、なんとか応戦したジュウゴは、相手が手負いであったがために辛くも勝利する。

これによって呪いと力を得てしまったジュウゴは、オダノブナガを名乗る老人に助けられ、現地語を習得。残る家族、母と妹の行方を探すが、母と妹は一年かけて近隣を探しても見つからない。

残念ながら年老いて逝ってしまったノブナガの思いをついで彼の住む村を後にするジュウゴは、旅の途中で暴漢に襲われる月色の髪の少女エルザ・ブレモンドを助けた。

トイフェルファルベ…悪魔の瞳を意味する、魔物と同じ色の瞳を指した忌み名を持つ彼女は、片目が紅葉のような色をしていたがため、彼女の要望でジュウゴは彼女へ新たな名前「メイプル」を送った。

町に着いた二人は、メイプルの演技力によってバンドーなる宿屋の主人に迎え入れられる。

彼の協力によって平和な時間をすごしていた二人だったが、些細なことで喧嘩をしてしまい、出て行くメイプル。

そこにその隙を狙った人攫い集団餓狼が再びメイプルをさらっていってしまう。

商人の伝で次の目的地になりそうな情報を得たジュウゴは、同時にメイプルがさらわれた恐れがあるという情報を得て、敵地へと赴いた。

そこには餓狼バ・ルーだけでなく、悪徳領主のナハトラハル・ヴェン・ドワノフがおり、メイプルの瞳に隠された本来の意味、【賢者の石】の効力によって不老不死と強力な力を得るため、彼女を食おうと計画していたのだった。

辿り着いたジュウゴは餓狼を蹴散らし、ナハトラハルの出してきた古の兵器、トラウディシアの魔神像をノブナガより受け継いだ竜殺しの刀で切り倒すとその心臓部であり、コントローラーである部分を食ってしまう。

これにより、更なる力と呪いを得たジュウゴは苦しみながらもメイプルと寄り添い、旅を続けるのだった。

それから、占い師を目指し更なるたびを続けたジュウゴは、その道中で狼の力を持つ少女ピエタ・リコルスに出会う。彼女は触れたものを焼き殺す狼の力、浄化の炎の力を持った剣を手にしていたのだ。

彼女との出会いの後、生き物に寄生する魔物ウィスクムに襲われたジュウゴ。辛くもコレに勝利。しかし、再び魔獣の力と呪いを得てさらなる負荷のかかるジュウゴには重すぎ、ダメージをおったまま、苦しむことに。

その後、その魔獣の化身たちが未だ死滅していなかったため、町は未曾有の危機に陥る。

メイプルは町の悪がきどもと、ピエタは単独で解放するはずのなかった力を解放し、魔獣を駆逐し、人々を救った。ジュウゴは前後不覚になりながらもどうにか強敵を倒し、暴走したピエタも止めて、どうにかこの事件を収めるのだった。

それから、旅を続ける一行にピエタが加わり、彼女の協力者であるモルガンのもとへと行く目的も加えながら、占い師の下を目指す。

占い師に会い占いをしてもらうために金が必要になったジュウゴは、その金を稼ぐために会社を起こす。そこで小人の勇者の末裔ブリコーネ・ハントテラーを救い、ブレモンドの一味に復讐を遂げたジュウゴは改めて占い師と会う。

彼女はエルザ・ヴェルニカ。メイプル…エルザ・ヴェルーナの姉であった。多くは語らない彼女は、ぶれる感情のまま、ジュウゴに重大な手がかりを残していく。

転移の真相、ヘヴロニカとは何か。ジュウゴは何をし、どこへと向かわなければならないのか。

己のものではない、己の記憶といういびつな何かにうごかされるまま、再びジュウゴは旅を続ける。今度はモルガンに会うのだ。

しかし、目的地にはモルガンはいなかった。モルガンはピエタが来ることを察知して、その場合のための道具と手紙を用意していた。

再度モルガンを追うことになったジュウゴたちは海の旅へと変わる。

その後、同行した男の住んでいた村に行くことになったジュウゴたちは、その終着点であのサタナディオス(魔神像)を思い起こす魔術的な装置を発見。

その破壊を計画するが、ジュウゴ、ピエタ、メイプルの三人を同時に相手にして圧倒する【英語使いの奇妙な女】雷雲のアンジェラにみつかり、敗れてしまうのだった。



と、ざっくりここまでのあらすじおば。

あとは各章の最後に人物紹介がありますのでお読みいただければ補足されるかと思います。

長い間、お待たせいたしました。久しぶりすぎてかつてのノリや書き方がガッツリ消し飛んでしまっていますが、四苦八苦しながら書いていきますので、よろしくお願いいたします。


あ、今回遅れた言い訳は、活動報告にて。



「世界――この場合の世界というのは、私達が感じているものいないものも含めたこの現実のことを指してのことだけれど、みんなも知ってのとおり、この【世界】というものはあちらこちらに別の現実として複数存在する」

「パラレルワールド、というやつですネ」


 パラレルワールド。

 歴史改変SF作品を筆頭に、時間跳躍などが含まれた作品で発生するタイムパラドクスを回避するため使用される、『この現実に似た別の現実』という考え方。私がここで別の選択をしていた場合はどうなっていたのか、という空想がSF小説や映画などで発展、昇華し、現在は物理学者らがこの疑問を解き明かさんと議論を交わしている。

 時間軸が過去から未来へと進む様からよく【線】のように表現するようだが、私達からしても真実に近い表現だと考えられた。


「より解りやすくなるように図も描いていくわね」


 マヨはホン達が買ってきた袋からスケッチブックと色とりどりのペンを取り出すと、赤の線を六本と少し離れて青の線を一本、その先に来るように紫色の線を一本太く線を引いた。


「この赤が私達の感じている世界とそのパラレルワールド。次に青が異世界・・・ヘヴロニカ。そして最後の紫はまた別の世界で、紫の線がある側が未来、無いほうが過去。あ、ヴァーニャ、このスケッチブックとペンはあとでアリサちゃんにプレゼントするわ。お古で悪いけど」

「いや、悪いことなどない。ありがたく頂くよ」


 私がそう返すと、満足そうにペンをくるくると回しつつ微笑むマヨ。

 過去と未来を書き加え、一旦キャップをパチリと閉めるとその先端で赤の線をコンと叩いた。


「あくまでもパラレルワールドというのは物語をより受け入れ易く、また、楽しくさせるための表現や考え方だけど、実際にここに描いたように私達の世界に似たような世界がそれはもうたくさん、それこそ選択肢の数だけ隣り合い、または絡むように存在するのは確かだわ。ただし、これらは少しずつズレがあって、場合によっては男女が逆転していたり、文化が違ったり、環境が異なったりもするわね」

「共通するのは『この地球が存在する宇宙』の構成を持った現実って点だね、万葉ねぇねぇ


 キンジョーの言うとおり、あくまでここに描かれた赤の世界群は【地球】を含んだ宇宙の、主にそこに住む生命の視点から継続している【世界】という括りだ。とある作家はこれ以外のファンタジックな構成が成された、例えば剣と魔法のファンタジーのような世界も同じく地球と同系のパラレルワールドであるとしているが、その部分は何十年もの研究と試行錯誤の結果、誤りであるということが解っている。

 そう、間違っているのだ。


莉那リナちゃんは研究嫌いだったけど、流石にそこはちゃんと覚えているわね」

「あ、あはは……。ドヤ顔したら地雷踏んでしまったよ」

「ふふっ。さて、莉那ちゃんの言うとおり、赤はあくまでも【地球】の世界群。じゃあ、青の異世界・・・ヘヴロニカは同じじゃないのかしら? どうかな、ユキオくん」

「ボクは胸に栄養を取られ過ぎて考えるのを止めた乳魔人と違うからね、ちゃんと答えられるよ。さっきから万葉さんが異世界を強調しているように、世界の(・・・)作りが異なる(・・・)んだ。星の配置、命の形、環境、文化、物理法則、それらすべては地球に似ているところが有りはしても、それが生み出された【可能性】が異なっているから地球とはまったく別の括りの世界だってこと。例えて言うと、紐とワイヤーみたいな違いかな。だからボク達はあの世界を『異世界』と呼ぶんだ」

「百点満点よ。ああ、でも――」

「やい、キジムナー。いくら利口でも言葉に気を付けない悪いコは、ねぇねぇが直々に、オムコに行けない体にしてやるからね」

「や、やめろ。ボクのほうが年上だぞっ。おい、変なところに触るなってば。削ぎ落とすぞ!」


 私たちは長い修行とマヨの手に入れた全知の眼のおかげで、異なる空間を移動する方法や魔力のような目に見えない存在を(とら)えること、そしてそれを理解することには(・・)成功していた。魔力というものをよく知るモルガンに出会ったのも大きいだろう。しかし、ヘヴロニカは地球のパラレルワールドであるという考え方があった私達は、その根源たる可能性――ユキオの言葉を借りて言うならば“つくり”が違うということに思い至らず、『自分がその場所にいる可能性』を動かす魔術ばかりを研究し続け、その結果、世界間の移動が長くできないでいたのだった。


「しばらくの時が流れた後、私たちはある人物の協力によって答えにたどり着いた。

 括りが違えば、存在の可能性は書き換えられない。A1という世界からA2という世界にはいわゆる転写ができるけれど、AからBという世界にはできない。それは、【我々の世界】というものが、異なるルートを進んだ【世界】の繊維を縒り合わせてできた一本の紐のようなものだからだと知った」

「……倉橋クラハシ……ミドリか……」

「久しぶりに聞いた。良く覚えていたね、源次郎ゲンジロウくん」

「実は……曖昧だ。顔や、どんな格好をしていたかもな」

「私は覚えている。割とハッキリだ。気の強い、サバサバした女の子だった」


 姿はどうだったろうか。

 髪は長く黒かったように思うが、背はちょっと曖昧だ。高かったかもしれない。ハントテラーという者たちに関わる女性で、世界の構造について妙に詳しかった。

 ゲンジロウ、私、ユキオと順に記憶が蘇り、皆が皆、ああだこうだと思い出を手繰り寄せるように語る。そうやって思い返している我々を見て、マヨは小さくため息をつき、次いで苦しそうに微笑んだ。


「私は、覚えていないのよ、まったくね」

「そうなのか? 皆、覚えているようだが……」

「お母さン……」

「そのクラハシミドリちゃんは、私は“クラハシミドリを忘れた柄倉万葉カラクラ・マヨ”と言っていたわ」

「待って、万葉さん、会ったの? 彼女に?」

「……ミドリちゃんは、向こうに残ったはずだよ。ねぇねぇも、見ていたはずさ」


 皆が目を剥く。私とて、先ほどのことがなければ同じ反応をしていただろう。


「さっき、マヨにしか感じられない何かが語りかけてきた、あのときか」

「ええヴァーニャ、そうよ。あのときの語りかけてきたのがこのクラハシミドリちゃん」

「イヴァン、どういうことさ」

「我々にも察知できない存在が手紙を寄越した。その差出人の話だ」

「……ねぇねぇにも察知できなかったの?」

「ああ、辿れもしなかった。中身はよく分からない文字が書かれた名刺サイズの紙が一枚だけだったよ。それをマヨが手に取った途端に、彼女の映像かなにかが現れたのだろう。全知の目にしか知覚できない方法で、マヨに何かを伝えるために」

「一方通行だったけどね。そして、その彼女が伝えてきたのが、“重悟をへヴロニカから解放する方法”、“私たちと、私たちのいるこの世界の真実”、そして、“再度世界を渡る方法”の三つ」

「あーら、あら。今回の話、アタシ、なんだか掴めてきたかもよぉ……」

「タケヒサ?」


 長く黙って話を聞いていたタケヒサが、困ったような顔をして腕組み。ため息をついて吹き払うように咳をした。


「察しがいいわね、剛久タケヒサちゃん」

「……アタシが異世界転移(・・・・・)を実行したんだもの。それから万葉ママの妙な含み、皆の記憶のズレ、欠落。それから、そのスケッチブックに書かれた絵が、アタシの予想を正しいと言っているわ」


 タケヒサの言葉に皆がスケッチブックに目をやる。

 赤い線が六本、青い線が離れて同じように一本。それからその先に紫の線が一本。


「こういうことでしょ、ママさん」


 タケヒサが赤い線の下側から一本ずつ、青い線に赤を引いていく。それから、今度は青に寄り添うように、上書きするようになぞって、切れるところで紫に持ち替え、紫の線を少し先にある、マヨいわく【未来の異世界(・・・・・・)】につなげる。


「この赤い線が、アタシたちねぇ]

「エッ!?」

「……まさ……か……」

「んー? どういうことさぁ」

「いや、でか乳魔人はもっと察しろよ!」

「ユキオ、キンジョーには私から説明するから。今は聞こう」

「う、うん」

「んー?」


 首を傾げるキンジョーを横目に、気にした風もなくタケヒサが続ける。

 フタつきの赤のペン先で線をなぞり、青い線へ。


「アタシたち七人は、それぞれ“違うルートを辿った世界”からヘブロニカへやって来た。ここには六本の線しかないけど、全員が似通った世界からあの飛行機に乗ったり、乗らなかったりして、別々の原因でやって来た」

「あー、ようやくわかったさぁ」

「キンジョー、黙ってろ」

「あーい」

「……それで、全員が全員、異なる人生を歩みつつも出会ったり、出会わなかったり(・・・・・・・・)した」

「出会ワなかったリ?」

「アタシたちはそもそも別の時間を過ごしていたの。似通ってはいても共通した世界の、同じ時間から来たわけではないから、同じルートは辿れない。それぞれがバラバラの繊維として【異なる世界ヘヴロニカ】の繊維にそれぞれ絡みついたってわけ」


 ――と、タケヒサが言い終えたところでマヨが続きを語ろうとするタケヒサを手で制し、話を継いだ。


「もちろん、ヘヴロニカもひとつの【世界と言う繊維の束】だから、“違うルートを辿った世界”はいくらでもある。そこにアタシたちは別々に組み込まれてしまった。なんて言えばいいのかしら……アタシたちが転移をしてきた時のように、外側から結びつけるようにしてって感じでね。

 だから、私たちはカエデという少女を|知っていたり知らなかったり《・・・・・・・・・・・・・》、ドラゴンイーターを|使っていたりいなかったり《・・・・・・・・・・・・》している記憶を持っている。ちなみに、アタシの記憶では、賢者ペイトリエトだっけ? あの子のことは【ピエタ】と呼んでいたわ。そして、死んでもいないのよ」


 つまりはだ、私たちは全員が違うヘヴロニカで多くの冒険をし、戦い、百年か数十年かは分からないが、それぞれ異なる時間を過ごしてきたということか。

 だが――、


「私たちには共通した経験がある。それにそった記憶も、思い出もあるぞ、マヨ」

「ええ、そうね、|ついさっきまではあったわね《・・・・・・・・・・・・・》」

「……どういうことだ」

「私たちは、“ヘヴロニカを脱出し、地球に戻ってきた成功例”、その集団……」

「マヨ、よく分かるように言ってくれ。私たちは言わずともそうだろう」

「いいえ、認識が違うわ。私たちは、それぞれ違うルートからヘヴロニカに渡った者たち。本来は同じ世界には戻らない」

「それはキミの勘違いでは? 私たちは共に苦難を乗り越えてここへ帰ってきたんじゃないか。私たちは七人で成功したルート、ということだろう」

「違うのよヴァーニャ、違うの」


 マヨが苦しげに首を振る。

 指先でスケッチブックの青と赤が重なった線をさし、そこから紫の先端へ、ゆっくりと滑らせる。


「違う記憶、違う経験、違う時を経た私たちは、同じではないの。違う結末を迎えたのよ」

「……マヨ……」

「何万回と言う挑戦を重ねるように世界を暴こうとしてきた“多くの異なる私たち”は、そのほとんどが失敗した。だけど、その内のいくつか、何人かは転移の原因であり、帰還の僅かな手がかりである“世界を外側から見ることができる可能性の存在”――ヘヴロニカに辿り着いた。そして、アレに接触し、説得か討伐か、方法はそれぞれだろうけれど、世界を渡るためのチャンスを得て、そうね、ほとんどの場合は剛久ちゃんの転移で世界を渡ったんじゃないかしら」

「ねぇねぇ……それじゃあこの世界は……」

「転移した“脱出成功者”の世界の繊維を束ねて一本にした……いえ、された(・・・)世界。記憶は齟齬のないように改竄され、魔術や魔人という異世界の可能性を引き込んで変質した【異世界地球】という別の時間軸、だそうよ。クラハシのミドリちゃんが言うにはね」

「そンなァ……」

「ヘヴロニカにとっては不都合だったんでしょう。異なる世界を紡いで隔離すればもう手出しはできないと考えた。だから、私の全知の目も使用できてもろくにつながらなかった。ヘヴロニカのルールは組み込まれていても、そもそも異なる世界なんだもの、届かないわよね、そりゃあ」


 そこまで聞いて、私は頭を抱え、長く息を吐いた。

 まだ、彼女の勘違いである可能性があるが、彼女が、倉橋翠がそう言ったということは受け止めねばなるまい。


「では、どうするんだ、マヨ。届かないのではジュウゴくんたちを救うことはできない。もしできたとしても私たちが再びヘヴロニカを訪れれば、余計な結び目になる」

「……確かに、ボクらが行くのは危険だ。いま、同一化しているとはいえ、転移すれば再度違う世界に分けられてしまうかも」

「……すでに記憶の綻びはあるのだしな……」


 そうだ、そもそもどうして私たちの記憶は突然変化し始めたのだろうか。


「マヨ――」

「ヴァーニャ、聞きたいことは分かるわ。これはミドリちゃんが教えてくれた重悟を解放する方法、世界を再度渡る方法にもつながる」


 一呼吸間を置いて、再びマヨはドラゴンイーターを手にした。


「これも、ミドリちゃんに言われなければ思い出さなかった物。別の空間に取り込んだまま封印されていた重要な道具」

「これが、封印されていたのか?」

「ヴァーニャが目にしたあの封筒の中身には『思い出せ(ズフイェナン)』と書かれていた。私の記憶の封印にほころびを作るものだったの」

「聞いたことがない」

「そうでしょうね。私しか知らない、【私の世界】の言葉だもの。そして、このナイフを取り出した瞬間から私の記憶は殻が剥がれ落ちるようにどんどんと変質していった。貴方たちの今のようにね」


 皆に目を向けると、それぞれがそれぞれに困惑した様子を表していた。

 唯一、キンジョーだけが切り替え早く、ジュウゴくんたちの解放と世界を渡る術の続きを促した。


「それで、そいつはどう使うの、ねぇねぇ」

「これは、可能性の獣であった少女から生まれ、可能性存在たちを殺し続けた、すべての可能性を掴み、断つことのできる存在。ヘブロニカすべての世界に共通して存在して、唯一同一なものらしいの。この世界がヘブロニカのルール、可能性を組み込んでしまった以上、ヘブロニカ自身でさえ断ち切ることのできない唯一の糸」


 マヨはそう言って不意に空中へとドラゴンイーターを投げた。

 ひゅるひゅると回転したナイフは頂点でピタリと止まり、青白い魔方陣を纏い始める。


「人は送れない。いえ、もしかすると、この【異世界地球】の別の時間軸を生きる別の私は、人も送り、その後の憂いも断つ方法を手に入れているかもしれないけれど、私たちはありとあらゆる【物】を送り続ける」

「物を? どうしてだい」

「ミドリちゃんが言うには、どうやらあの子には、重悟には、すべての時間軸の自分たち、その記憶がある(・・・・・)らしい。きっとどこかの私たちが送ったドラゴンイーターを持っているからだわ。なら、私は、あの子に手紙でもなんでも、送り続ける。お味噌なんていいんじゃないかしら。あの子、好きだし。

 それで、そうやって記憶を呼び起こすの。そして、時期を見計らい、このドラゴンイーターもあの子のもとへと送る。そのとき、私は――」



 この世界を終わらせる、彼女は確かにそう言った。

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