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神をも喰らうヴァイセント  作者: 文悟
第三章・聖なるを穿つ白鴉
67/73

第五話赤き化生・雷雲の天使・前1/2

お待たせしました!

危うくまた更新が~か月開いてとかなるところでした。

まあ、言い訳は割烹で。

さて、待たせやがって、しかられてえのかこのドМが!

という声が聞こえてきそうですので、

本日四本上げ上げです。

内容は二話分なんだけど、ねorz

連続更新にご注意

 ケイロスの軍船から港町キローの生き残りを回収した後、俺達を乗せた船は風と潮の導きで順調にケイロスの港町キロー方面へと進んでいた。

 その甲板では回収したハー・イ・マヒ等の魔物の処理が忙しく行われ、解体班からは飲みすぎた翌日のような嗚咽が、鑑定・洗浄班からは引きつるような悲鳴や驚きの声が上がっている。


 そんな中で俺は回収した魔物の解体を手伝っている。でかくなっても姿が変わっても、相手は魚介類。捌くのは“おてのもの”ってヤツだ。

 とはいえ、初めは少々戸惑いもあった。驚くことにハー・イ・マヒという魔物はイカと魚が混ざった生き物だったんだ。

 魚の種類は、俺の記憶にある中ではアゴ……飛び魚に似ている。新幹線みたいな体に羽のようなヒレ。ソレを覆う棘触手付きのナタデココみたいな色をした、やや硬めのイカボディ。なんとも形容しがたいこの体で、よくもまあ大型の船の甲板まで飛び込んで来れるもんだと、変な話ちょっと感心してしまった。

 ちなみにこれが上位種のノゴディップになると、中身は飛び魚でなく大型のマグロになる。その上になったらシャチか鯨でも出てくるのだろうか。

 とにもかくにも臭いは別にして、見た目がなんとも美味そうでキツイ。


 さて、こいつらをわざわざ回収した(主にメイプルの)目的なんだが、思いのほか好い成績で達しようとしている。ノゴディップ以上にならないと金目のモノはなかなか取り込んでいないという話だったが、ハー・イ・マヒの体内からもイヤリングや指輪などのアクセサリーや、金貨だったり宝石だったりといった物もそれなりの頻度で見つかったからだ。

 これにはメイプルはもちろん、船に乗っている商人も目を輝かせていた。

 ただ、ちょいとしんどいのは、そういった金になりそうな物が見つかる場合にはかなりの高確率で、【何かの骨】が一緒に見つかることだ。もう相当数になる。

 何の骨か、なんてことは誰も口にしない。

 言わなくたってみんな察しはついているんだろう。何匹か解体する度にほとんどの人が天を仰いだり手を合わせている。

 俺もここに至るまでかなりの数を切ってきたが、怒りのフィルターが作用していただけで、素面で対する今は結構辛いものがある。慣れはあるけど『今日の夕飯は~』とか別のことを考えていないと気が滅入ってしまいそうだ。

 全部で二百くらいは回収したが、もう少し減らせばよかった。


 ああそうだ、別のことと言えばアルウェルの日記にあった“人と魚がくっついたような魔物”のことだ。俺はいま、そいつが気になっている。

 実は俺達もそいつに遭遇し、回収にも成功していた。

 ちょうど軍船に乗り込んだ時の出会い頭に遭遇したもんで、驚いたピエタが群れのほとんど燃やしてしまって回収できたのは一体だけなんだが、それはまあいい。


 人の体に魚の頭。ウロコの肌に、水かき尾びれ。


 どうやらここらの海では見たことない魔物らしいが、俺にはむしろそいつの姿に懐かしささえ感じた。そう、そいつは漫画やゲームなどにおける海の魔物の典型、元の世界の名で呼ぶならばマーマン。半魚人のイメージそのものの姿だった。


 ―――と、そんなマーマンを初めて目にして、俺はひとつ違和感のような小さな疑問を感じた。それが気になっているってところだ。

 なんと表現していいか。『なにかおかしいぞ』と思うけれども適当な言葉が浮かんでこないでモヤモヤしているところなんだが、大事な何かが引っかかっているような気がしないでもない。

「何なんだろうなぁ……」

 ある程度イカの解体を終えたところで、件のマーマンに手を伸ばし、その黒っぽく濁った赤い目とじっと見つめ合う。


「そんなの食べないでよ、ジュウゴ」

「うおっ」

 突然マーマンから声がかかった。

 いや、流石にそれはないか。マーマンの後ろに誰かいるようだ。

 生臭さで鼻が上手く使えず接近に気づかなかったせいで、ダジャレみたいな驚き方をしてしまった。

「まったく誰だ……って、メイプルか。それに、副船長?」

 マーマンを下ろすと、そこにはメイプルとピエタ、それと確かケイロスに故郷があるという男性、そして三人を引き連れた副船長――赤い煙について説明してくれたあの筋骨隆々の船員がそうだったらしい――が、揃って立っていた。

「どうした、何かあったのか?」

「ああ、ちょっとな。そのことを含めて今後のことについて話をしたい。今から船長室に来てくれるか」

 俺の問いに答えたのは副船長だ。

 何だろうと思ったが、遠巻きの視線がいくつか俺達に集まっているのを感じ、そこに目をやったらなんとなく察しはついた。

「分かった。すぐ行く」

 手についた汚れを簡単に落として先に行った四人を追って船長室に向かう。

 夕暮れ時、海がオレンジよりも赤く染まり始めていた。


 △▲▽▼△▲▽▼△▲▽▼


「ケイロスの港へは寄れねえ」

 船長室で俺達を待っていたのは、丸太のような毛むくじゃらの腕を組み、なんとも険しい顔をした船長だった。

 船長の前には机を挟み、俺達三人とケイロスに故郷を持つ男が並び、船長の斜め後ろには副船長が控えている。

「先にケイロス行きを決めていたこともあって、現状では船の行く先はそっちに向かっているが、進路を変更してほしいという要望があってな。お嬢ちゃん達以外の乗客全員にひとりひとり意見を訊いて回ったところ、結構な数のケイロス行き反対の意見が集まった」

「当然、ではあるよな」

「危険だと判っているものね」

「それで、船の進路はどうされるのですか?」

「…………」

 ケイロス出身の男は黙ったままだが、一応の護衛役である俺達三人が肯定すると、小さく頷いた船長は、その太い人差し指を机の上に広げられた地図の上で滑らせた。

 始まりはケイロス。そこから横にガーリアンまで。

「ケイロスに譲れねえ目的のあるお嬢さん達みたいな者には悪いが、俺達もこのままキローやその他のケイロス国内にある港に寄るのは危険だと考える」

「そうか。プラブドー……いや、シーリカへ帰るんだな?」

「いいや、いまさら引き返すつもりはねえ。目的地をガーリアンに変えるだけだ」

「えっ?」

 俺は地図に目を落とし、船長の指がなぞった箇所を見る。

 砂時計のような八の字の形の国がケイロス。その隣りの右に向かって反る逆三角形が隣国ガーリアン。間に高い山もなく、地図上では隙間を埋めるように寄り添い合う二国だが、海路だとケイロスの端からガーリアンの端までそれなりに距離が在るように見えた。

 誰かが四・五日の距離と言っていたが、人数の増えた今、さてどれくらい余裕のある航海ができるか、船の長と名のつく者としては不安だろう。魔物も出るだろうし。

 それでなぜ、わざわざガーリアンに?

 訊ねると船長はアゴを撫でさすりながら苦笑した。

「当然、利益と損失を考えた結果だ」

 だが、それだけじゃない。

「食いモンや飲みモンが何日持つかは計算中だが、多少人数が増えただけで余裕が無くなるようなキリキリの備えはしてねえ。ただ、この先の海には現役で海賊やっている俺の従兄弟が根城にしている小島があるんで、護衛と補給を頼める可能性を考えると、ここからプラブドールやシーリカ方面に引き返すよりは、ずっと沖をガーリアンへ向けて進むほうが良いと判断したわけだ。……それに、ちょっとした依頼もあってな」

「依頼?」

「金は取っていないがな。届けてくれって頼まれてよ」

 船長はそう言うと机の引き出しから何か書かれた紙を一枚取り出した。

 長々と細かく書かれているが、そこには【救援要請】の文字が読み取れた。

「救援? ……って、いったいどこの誰が?」

「……ケルビン小父様みたいよ、ジュウゴ」

「ケルビンさん? アストレアの?」

「ああ、そうだ。あそこの港の自警団をやってる爺さんだよ」

「ほら、そこの下」

 メイプルが紙の下の方を指差す。そこには確かに紙の一番下にケルビンさんの名前が書いてあった。

 でも、なぜケルビンさんはそんなものを?

 その疑問には副船長が答えてくれた。

「知っているかもしれんが、ガーリアンは国家全体の常なる目標として【弱者救済】を掲げ、国内はおろか国外に至るまで支援活動を惜しまず行っている。その支援ってのは武力支援も含まれていてな、どこかで国難あるときには呼ばれなくても『支援だ』つって、国軍引っ張ってきて首を突っ込んだりするんだ。そこで、その爺さんは考えた」

「自国の役人や軍人は頼れない。だから他国であるガーリアンに介入してもらおうって? いや、無理だろう。国が他国の、それも一個人の嘆願なんかで動くわけない」

「いいや。それが動いちまう可能性があるのがガーリアンって国なんだ。あくまで可能性だがよ」

「マジかよ」

 どんだけフットワークの軽い国なんだ。国家の長は何考えてやがる。

 俺が驚きに唸ると、船長はキローの生き残りをそこに預けるつもりであることを付け加え、嘆願書と言えばいいのかその紙を引き出しの中に戻し、浮かべた苦笑を消して、椅子の背が鳴るまで体重を預けた。

「それに危険があろうと無理しようと、キローであったということが本当のことなら、俺達には伝える責任があるからよ、人として。もしかしたら、もうあっちにも伝わっているかもしれないが、やるべきことだ、やらなきゃなんねえ。いま一番頼りになりそうなところに、できるだけ早く伝えなきゃなんねえ」

「………」

「だから、まあ、そんなわけで、キローはもちろんケイロスの港にはどこにも寄らない。わかってくれ、モーリエ君」

「ああ……って、うん?」

 思わず返事をしかけたが、船長の目は俺達を見ていなかった。

 端っこで俯き唇を噛む、ケイロスに実家があるというモーリエという男を見ていた。

 なんと言って返そうか迷っているのか、強く拳を握り、肩を震わせている。


 そういえば、この組み合わせで呼ばれたのはなぜなんだ?


 この男が客代表ってわけじゃないだろう。俺達も一応客だし、こういう話はみんなの前ですればいい。なぜわざわざ俺達三人とこの人を呼び出したんだ?

 メイプル、ピエタに視線を送るが二人とも肩をすくめて首を傾げる。

 しばらくの沈黙。

 ぎぃぎぃという音をBGMに待っていると、モーリエはやはり俯いたままじわりと口を開いた。

「……い、嫌だ」

 待たせた上で『嫌だ』って、子供か。

 なぜ、どうして、いやなのか。ちゃんと伝えてろよ。

 俺はそう思ったが、その言葉は船長には予想通りらしく、ガシガシと頭を掻きながら溜め息をついた。

「モーリエさんよぉ、軍船を最後まで守っていた男が残した日記を俺ぁ読んだがよ、そこには、どこに行っても生きている者はいなかったと書かれてあった。望みは薄いぜ」

「そ、それでも―――」

 それでも食い下がる。

 だが、その彼の言葉を意外な人物が遮った。

「町や村から人がごっそり消え、それが同じ顔をした化け物と挿げ替えられているなんて、まるでできの悪い怪談話みたいだけど、『ありえない』なんて言えない経験がある以上、アタシ達三人には船長の判断に反対する要素はないわ。アタシ達も大人しくガーリアンへ行く。ねえ、ジュウゴ?」

 メイプルだった。

 メイプルがモーリエの言葉を遮った。

 彼女の意外な言葉に驚く俺を見つめる目には、何か含みは見えない。素直に船長の言葉を後押ししているようだ。

「あ、あれ? お嬢ちゃんは、なんと言うかその、ちょっとは噛み付いてくるかと思ったんだが……」

 これには船長達も驚いたらしい。俺も同意見だ。

 そりゃそう思うだろう。いくら迷いがあったとはいえ、海の上では絶対とも言える船長の最終決定に反抗し、そのうえ罪も罰も恐れず接触不可の舵まで勝手に切って助けに行こうと言うような女が、真っ先に従うと言うのだから。

 するとメイプルは俺達のそんな反応にフンッと鼻を鳴らして、俺から視線を外しながらこう答えた。

「もう、スノクのようなことはごめんなのよ」

「……あ、ああ……そっか……」

 確かに、スノクの状況に似ているな。

村喰いウィスクムとは多少異なるようですが、だとしても最悪の場合、アレと同等の脅威と遭遇する恐れはありますね」

 ピエタが補足する。俺とメイプルは頷いた。

 確かにこんな広域で、こんな恐ろしいことをしでかせるとなれば、魔獣クラスの脅威が潜んでいると考えられる。日記にもそれらしい話はあった。

 それと統一教会との関係は不明だが、もし関わっていれば俺達の目的である【モルガンへの救援】は相当危険なものになるだろう。

「だからか……」

 だからメイプルは素直に従うようなことを。

 俺をそんな奴らと戦わせないために。


 答えに至った俺は、まったく何のことか察しのついていない船長達に、スノクで起こった惨劇を、ウィスクムという魔物の特徴とともにざっと話していった。それが日記に書かれていたことの一部と似ているということも絡めて。

 そしてその最後に、息を呑み青ざめる船長達へ、『俺はそこで一度死にかけた』と付け加える。そうするとメイプルの反応すべてが納得いったようで、彼らはなるほどなるほどとしきりに頷いていた。

 ―――だが、

「それでも、いや、それならなおさら俺は田舎に帰りたい。両親や、妹達がどうなったか知りたいんだ。もしかしたら、まだ無事で助けを求めているかもしれない。頼む。何とかしてくれよ、船長!」

 モーリエの意思は固い。

 家族を想うその意思は、魔物の巣窟であっても飛び込みそうなほどに強い。

 その想い、俺には解らなくはない。


 船長とモーリエが無言で睨み合う中、俺はピエタとメイプルに視線を送る。

 ピエタは微笑み俺の背にそっと手を添え、メイプルは諦めたように一つ溜め息をついた。

 そして、再び広がる沈黙は、俺が破る。

「船長、メイプルは行く言っていたが、俺達も予定通りだ。申し訳ないが、俺達の目的にも人の命が懸かっている。ここらで降りたい」

「そ、そうか、君も!?」

「…………」

 俺の言葉にモーリエは仲間を見つけたように目を潤ませ、船長はこう言われるのが予定通りだったかのように、驚きもせず腕を組み目を閉じた。

 一応ではあるがこの船の護衛役をやっている俺達が抜けるなんてなると、どこからか文句が出るだろう。俺達は俺達の予定があって行動しているが、客や雇われた人達はそこに巻き込まれているところもあるから、無責任と言われても仕方ないとは思う。

 だから、船長の言葉を待つ。

 もしダメと言われたときに降りる手段を考えながら。


 それから数秒、数十秒。


 ようやく目は開かれ、解かれた手で机を押し、船長は立ち上がった。

「この先に鳴き砂ボルポ・ロッソの入江って呼ばれる場所がある。そこに理由をつけて一時間だけ船を着けよう。そこで降りればいい」

「ほ、本当か船長!? ああっ、でも、あそこは危なくないのか?」

「ああ。キローから東に六時間ほどの場所だが、船小屋がひとつぽつんと置かれただけの崖下だから、魔物もやって来るこたぁねえだろうし、大丈夫だろう」

 なるほど、人がいなければ襲う必要もないからな。確かに危険もないだろう。

 だが、嫌がりそうな人もいるはずだが。

「どちらにせよ、どこかで一度処理しときてえ作業もある。文句を言っても仕方ねえぞってな」

「船長……俺達も降りていいんだよな?」

「金はすでに払われてるんだ、物を盗んで行かなけりゃ誰だって勝手に出てきゃいい。お前さん達も初めからケイロスまでって話だったしな。俺達は“予定通りの航路”で予定通りに行動するだけ。ああ、出るならついでにそこのお荷物・・・を、送ってくれたら助かるぜ」

「……なるほど、俺達を一緒に呼んだのはそういうことか」

「そういうことだ。頼めるか?」

「できる限りは」

「なら安心だ」

 ようやくこの四人が呼ばれた事情が飲み込めた。

 船長には初めからどこかで降りる機会を作るつもりはあった。だが、極力近づくのは避けたいし、モーリエ一人を降ろすのも精神的によろしくない。そこでケイロスで降りる予定の俺達に同行させればと思ったが、俺達の方針が変わっていることも考えられた。

 だから四人まとめて呼びつけ、あえて諭すような話をした。そんなところか。

「おうし、じゃあ話は終わりだ。お嬢ちゃん達も作業にキリをつけてくれ」

「……ええ、分かったわ」

「急いで片付けましょう」

「え、えっと……どういう……」 

「あー、モーリエさん、俺達は“予定通り”この先で降りていいんだよ。そんで、俺らは途中まで一緒。OK?」

「お、『おっけ』? なに?」

 おっと。

「まあ、とにかく行こう。ありがとう、船長」

 そう言って俺達はモーリエの背中を押して船長室を後にした。


 甲板に出ると、月が濃紺のカーテンを引っ張ってくるところだった。



 


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