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神をも喰らうヴァイセント  作者: 文悟
転・ヴァイセントの異世界道中
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ヴァイセントの異世界道中8

長らくお待たせしました!

本日はお詫びも兼ねての二日連続投稿の一日目!

四話投稿二本目です。


紐と縞は至高。

ヴェルニカからの指令を受け、早くも十日が経とうとしていた。

期間のうえではまだ十日。

だが、俺達からしてみればもう十日だ。


「時間の流れっていうものは焦るほどに速くなる」


誰が言った言葉だったか。

でも確かに、焦れば焦るほどに一分が一秒と感じるようになっていた。


「今は準備期間。無駄に過ごしているわけではないわ。気にせず各自の役割を果たしましょう」


メイプルがそう言って俺の背中を叩いてくれたのは五日目の夜だ。

あの小さなてのひらは俺に勇気をくれる。



さて、この期間だが、俺達は主に下着の量産と販売ルートの確保、そして組織の構築に費やした。



先ず下着の量産だが、材料は販売ルートとともにマルチさんの口利きで色んなところに“確保したつないだ”ため、比較的安価で沢山作れる状況が確定。早速手に入れられるだけ手に入れて、人を大勢雇い、【百夜】の呪いで当面眠ることの無いピエタを先頭に、三日前から一時も休まず昼夜交代勤務を駆使して作り続けている。


作成する大きさは地球での販売ように、できる限り男女とも色んなサイズを用意した。

胸も腹も大小規格外な人達には申し訳ないが特注でお願いすることになるが、そこは特注だからと高くするつもりは無い。


一応キッズ物も用意したり、激しい動きを日常的にする人達用のものも試作しているが、需要があるかは分からないので見本にプラス五~六組しか作っていないんだが……どうだろう、売れるかな?


タンクトップなんかは俺が欲しいからピエタに頼んで別発注してみよう。



次に販売だが、この町の服飾関係の店だけでなく雑貨屋や一部の宿屋、娼館でも販売をしてもらえるようになった。特に娼館はかなりの大口になりそうだ。


娼館でも売るようになったきっかけは町の女性を集めた意見交換会での一幕だ。

作った女性用の下着は布地が薄くて隠す面積が小さく、ことパンティなどは紐パンがいけなかったのか、ご婦人の中から娼婦が身に着けそうなものだと忌避するような声が上がった。もう少し淑やかな~とか、色が派手すぎて~とか、こんな小さな物ははしたない~とかな。


このときだ。娼館や宿で売るという方法を思いつけたのは。

娼婦みたいだって言うなら実際そんな仕事をされている方々に売ってしまえと。


――で、実際に声をかけ、見せてみたら気に入ってもらえて万々歳だ。ああ、なるほど。耳に痛い言葉ほど利益が隠れてるって本当だっただなって地球のどっかの社長さんの言葉の重みを思い知ったよ。


あ、ちなみに下着のデザインなんだが、みんなの意見を尊重して変えようかとも考えたところ、メイプルが『今夜持って帰って旦那様や恋人にお見せしてはいかが?朝まで放してくれなくなりますわよ』と言ったことで否定的な意見と試作の下着がごっそり無くなり、そのままのデザインで進行することになった。


なお、以後の意見交換会では着心地やデザインの種類の少なさへの意見が増え、使い勝手・・・・の報告と改善案まで上がるようになったんだが、ここは笑ったほうがいいんだろうか?


ああそうそう、[胸元の星明りルス・ダス・エストレラ]でも使わないかと一昨日、上下一組の下着の見本と手紙をスノクのキャナスさんの所に早馬で送っている。あっちでも使ってくれると嬉しいなあ。



――って、そうだ忘れてた。販売するのは何も町の中だけじゃあないんだ。

もちろん最初はこの町で売れないと他じゃ見向きもされないから、先ずは手の届く範囲から力を入れるけど、ちゃんと町の“外側”にも目を向けている。


主にマルチさんからの紹介や宴会で知り合った人達だが、ここオラバルトに拠点を置き、かつ大街道を南北に巡回する商人には話をつけていた。


優先的に卸すとの約束で見本用と販売用を数セット渡し、近くの村や町への行商に持って行ってもらっているが、できれば二週間以内には結果が欲しいところだ。




さあ、最後に【カイシャ】についてだな。


こいつに関してもまだまだ発展途上だが、基礎はできてきた。有り難いやら怖いやら、協力者は名のある人達ばかりだから話はとんとん拍子に進んでいっている。


先ず、組織としては俺がオーナー……社長シャチョウということになっている。言葉の意味は解ってはいないだろうが、この組織のトップ=シャチョウということで皆から『シャチョさーん、シャチョさーん』と呼ばれている。


お偉いさんとの席では必ず俺が対応することになっているので、偉い人だからとみんなとにかく『さん』を付けて呼んでくれるんだが、地球人的に恥ずかしいのでやめてほしい。



そんな俺の下には実際にカイシャを運営する者、統括管理者としてメイプルが就く。

彼女はさらにその下に派生する[生産]・[運輸]・[環境]の三つの部門の管理を任された[管理]部門の長だ。


[管理]部門は下の各部門に必要な金銭・書類・人事に交渉事のほとんどが任されている。


最初こそメイプル一人で行っていた仕事だったが、量産体勢が整い始めてからはさすがに一人では処理しきれないところが増え、後々のためにも商家の子を中心に基礎の知識と応用力のありそうな者を招き入れ[管理]部門を増員し、今は実務でもって訓練し育てている。


ちなみに彼らもしくは彼女らは、みんな三食寝床付き(宿[日の出アマネセル]協力)な代わりに職人達よりも薄給もしくは無給で設定されているんだが、文句が出ないのはどうしてなんだろうか?



さて、下着の量産のために[生産]部門で雇った人達だが、これには三種類の人材で分けて求人募集をかけた。


素材となるものを糸や生地に加工していく加工技術者枠。


町の服飾系店舗各店から出された職人さんやそのお弟子さんの下に就いて指導を受けつつ届けられた生地から下着の基礎の作成に励む職人枠。


出来上がったものに飾りや最後のひと加工を加える最終工程者枠。



基本は女性ではあるが、器用であれば男性も雇った。もちろん老いも若きも関係ない。十代前半の子供だろうが使えるなら雇った。最初に雇った分だけでざっと百人は居るだろう。


雇った人を一度に作業場(マルチさんに貰った建物)へ入れることはできないので朝と夜の二交代制で求人を出したが、これにはギルドがすし詰めになるほどの無茶苦茶な数の応募が殺到したんだとか。面接は基本ギルド任せで良かった。


このとき、雇用を契約更新アリの[定期雇用]で日払いOKの[日給月給制]にし、月給を選んだ人にはオラバルト内の協賛店で一日一食利用できるチケットを付けるだとか、努力次第で昇給アリだとか特典をつけたんだが、多分それが拍車をかけたんだろう。その倍率が某大学の入試レベルで目を剥いた。


なお、残念ながら面接に落ちた人達には再度面接を行い、合格者には他の地球式商品を開発・作成してもらうことになっているため、ギルド長も町長さんもホクホクとした笑顔だった。


ちなみにこのときの求人の形態が今後増えることなるのだが、まあ、このときの俺には知る由も無い。


しかし、今月払わなくていいからって月給制にしておいてなんだが、俺達はあと一ヶ月で居なくなる。金は払うし、これからについては考えちゃいるが、なんだか騙しているようで申し訳ない気分だな。



――でだ、雇ったのは何も[生産]ばかりではない。


他にも[運輸]と[環境]がある。


[運輸]は文字通りの部門だ。


とにかく運ぶ。

出来上がった商品を、その商品の基になる物を、その基を作るための素材を。

ひたすら運ぶ。


……と言ってもまだ実際に販売は開始していないから主な仕事は素材の買い付けを近隣の村々から行うことになっているが、恐らく今後はこの部門が体力的にヘビーな職場になるだろう。もし売れれば商人にくっ付けて王都まで持って行かせるつもりだと、メイプルとマルチさんが酷く冷たい笑みを浮かべていた。いまから悲鳴が聞こえてきそうだ。南無。


最後は[環境]部門。


これは主にこのカイシャの警備とか施設の保全の役割を持つ部門だ。

言ってしまえば“面倒くさい事案の解決”が仕事かもしれない。


今後を考えるとウチは扱う品の量や奇抜さが目立ち、また、商いの規模も大きいことから何らかの問題・・が発生するのは目に見えていた。そのため自分で自分の利益を守る力が必要であり、この部門はその“力”として設けられたのだ。


今のところその力は[運輸]部門が運ぶ荷物の護衛などにしか向けられていないのでどうかこのままであってほしい。


また、この部門は町長や衛士隊長から求められた治安維持の協力や地域の清掃などの社会奉仕活動を担う部門でもある。週にニ~三度は熊のような大男がニコニコと笑いながら街行く人に元気に挨拶しつつゴミ拾い……なんてとってもシュールな絵面が拝めるようになるだろう。



そうそう、ここで驚くべき……いや、喜ぶべき報告がある。各部門の責任者のことだ。


[生産]は言わずもがな我らがピエタ・リコルスが務める。

最近は精神的に疲労してきたのか、会いに行くと周囲に誰が居ても甘えてくるので少々心配だが、彼女にはもう少し頑張ってもらいたい。


まあ、ピエタのことはいい。喜べき報告とは[運輸]と[環境]だ。


この二つの部門の責任者、部門長がなんとあの・・キンベル三兄弟なのだ。


彼らはけして俺達と知り合いであるというアドバンテージを利用したりはしていない。

服を綺麗なものに変え、髪や髭を切り整えて、追い出されたギルドや問題を起こした仕事先の依頼主たちに頭を下げてまで[運輸]と[環境]の部門の面接を受け、そして合格し、俺達の目の前に現れたのだった。


まだ働き始めて間もないがその変わりっぷりは凄まじく、中身がそっくりそのまま入れ替わったかのようで、給料が変わるわけでもないのに朝から夜遅くまで働き、俺達の思いつかなかったようなことを現場の人間の目線で次々に意見してくれた。本当に別人だ。


俺が『おふくろさんのところには顔を出したの?』と訊ねると『客と間違えられてしまった』と苦笑していたのだから親でも見間違う変わりようか。


そんな変化に期待して、俺は彼らにこの二つの部門を三人で管理するよう命じた。

これからこのカイシャがどうなるかは彼ら次第と言っても良いかもしれない。





さあさあ、さてさて、そんなこんなで色々物思いにふけりながら仕事していたら、今日もあっという間にまた日が暮れてしまった。太陽が空の向こうに沈んでいく光景を俺は町から少し離れた丘の上からぼんやりと眺め、朱色の残光を空に滲ませるだけとなったとき、俺は空に向かってぐっと背伸びをした。


「ジュウゴさんや、今日の分は終わったかね?」


そのとき、不意に背後から声がかかる。他の臭い・・・・で気付かなかった。

振り向くと朱のさした月色の髪の少女が汗拭きようの布切れを俺に差し出していた。

俺は誰だか理解すると同時、ふむぅと唸るように息を吐き出して苦笑して見せた。


「メイプルさんや、弓蚯蚓バリヨンの軟骨八十二匹分、針山鼠アサトラーの針六十六匹分だ。いくら年中繁殖して数も多いからってこのままじゃここいらに棲息しているヤツらは俺らに絶滅させられるぞ」


そう言ってメイプルの手から布を受け取り手を拭いた。


俺の手や胸、顔などには真っ赤な血や土が付着していた。

足元にはやはり血や油に塗れた乳白色と灰色の二本のコードのような物体が転がっている。

そのほとんどに真新しいぬめりがあり、まだ乾いていなかった。


それは解体・・の痕跡だ。


「良いわよ、どうせ居たって畑や森を荒らす害獣だし。食べれるところも無くて、利用できる部位だって無いからアタシ達くらいしか使わないんだし」


メイプルの視線の先ではそのコード……骨を抜き取られたマムシみたいな蚯蚓モドキと、太い針金のような体毛を毟られたヤマアラシとカピバラのハーフみたいな大鼠の死骸が山となっている。


「それに、これはもともとジュウゴの発案じゃない。いまさらよ」

「いや、確かにそうなんだけどな。なんだかこのペースは心配になってきた」


二匹の獣は農家の方々に特に嫌われている害獣だ。繁殖力が強く、この時期は特に数が多い。ただ、どちらも見つけるのが困難で、いつも苦労させられるそうだ。


まあ、臭いをたどれる俺からしたら、こんな独特の臭いをもった獣なんざカラーボールをもろに受けた強盗より見つけ易い。


この三日は何人かの男衆とともに俺は近くの森や山に入ってコイツらの捕獲を行っていた。

もう捕獲と言うか乱獲だが。



なんでこんな奴らを捕まえようとしたかというと、たまたま外で作業中、昼飯代わりにこの二匹を捕まえたことに始まる。


食うために捕まえたんだがコイツらはとんでもなくマズイらしいと解体中に知った俺は、食うでなく使うでもなく無意味に命を殺めたことになるのを諦めきれず、何かに利用できないかとアレコレ調べてみた。


すると蚯蚓モドキ[バリヨン]の背骨?は軟骨のように柔らかすぎず硬すぎず、しかしどこかゴムのように伸び縮みするのでゴム紐としてトランクスなどに使えることが判り、鼠のほうは残念ながら骨や肉などはどうにもならなかったものの、その体毛がある程度のしなやかさと丈夫さを持ったものであり、ブラの胸を支えて形作るワイヤーのような役割に使えることが判ったのだった。


それをメイプルとピエタに教えたところ、現在のこの乱獲が始まったわけだ。


(お前達の命、活用させてもらうよ)


自然と眉がより、顔がしかめられる。


「でも、これも明日までよ」


するとメイプルがもう一つ布を取り出して俺の顔を拭き始めた。

俺はそれにされるがままになりながら、『そうだな』と短く答え頷いた。


「明日には在庫も充分な量が揃って本格的に販売を始められる状態が出来上がるわ。そこからは時間との勝負。売って売って売りまくらなきゃ。シャチョーとしてジュウゴにはやってもらうことが山ほどあるから、こんなことをさせてるほど余裕は無くなるわね」

「あ、ああ。がんばる」


俺は苦笑しながらオラバルトの方に目をやった。

すでに日は沈み、街には沢山の灯りがともっている。


「あと二十日……か?間に合うかな二百枚」

「間に合わせるのよ、二百枚。やれるだけの札は集めた。あとは運の有る無し、それだけよ」

「神様に祈ろうか?」

「カミサマよりもアタシに祈りなさいな」

「はははっ。そうだな。そのほうがご利益がありそうだ」


帰りましょう、とメイプルが俺に手を差し出す。

今日の晩メシは何かな、と俺はその手を取った。


「今夜はキノコと暴れ縞牛マシマスロウの香草焼きがオススメだそうよ」

「お、そのフレーズ久しぶりだな」

「なに?」

「なんでも。さあ、急ごう。メシが俺達を待っている!……なんてな」

「ばか」


もうすっかり暗くなってしまった今日のヘヴロニカ。

荷車を押して慌てて駆けて行く運び手のオジサンをすれ違いざまに労いつつ、俺達はゆっくり・・・・と街へ戻っていった。





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