ヴァイセントの異世界道中9
長らくお待たせしました!
本日はお詫びも兼ねての二日連続投稿の一日目!
四話投稿の三本目。
うぃんうぃんは難しい。
「俺の居た世界には『好事魔多し』って言葉がある」
俺達の【カイシャ】が本格始動してから十日。
すべての始まりから二十二日目。
俺は[日の出]に借りている部屋の中央に設置した机に、山と積まれた大量の書類を前に腕組みをして、腹の底からぐううと唸った。
「あら、それはどんな言葉かしら?」
その机には俺ではなくメイプルが何故か小さな片眼鏡をかけて着き、一枚一枚を凄い速さで確認しながらサインや返信をしていっている。
「好い事が続くようなときには周りが見えなくなったり、判断力が鈍くなったりするだろう?」
「そうかしら?いえ、そうかもね」
「そんな時は痛い目見ることが多いから、調子のんな、気を引き締めろ、みたいな戒めの言葉だよ」
「良い言葉ね。でも、この世界には『大商いの四日は兆し』って言葉があるの。一発に賭けた品は売れ易いけど大抵三日しか続かない。でも四日目以降も売れたならそれは大流行の兆しだって何処かの偉い商人が言ってね、商いをするときに続いた幸運はぐいぐい攻めろって意味でよく使われるの」
そこでピタリと手を止めたメイプルが俺を上目遣いで見やり、ニヤリと笑い……。
「これで七日目、一週間よ。この“兆し”を逃すなんて愚の骨頂」
再び書類に没頭していった。
そのうち一枚が机から落ち、俺はそれをまたううんと唸りながら拾い上げた。
「恐ろしい……」
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『 ヴァジーナ商会 』
以下の商品を *月*日 までに納品希望
・【ルナ】 ブラ シー/+ 20
・【アフロディテ】 パンティ エム/- 30
・【フェアリー】 女児用下着 110セット 10
・【マスラヲ】 トランクス エルエル 40
・【マスラヲ】 ワーカータンクトップ エル 30
・【ジパング】 調理用器具 皮むき器 20
・【ジパング】 玩具 コマ ドングリ 15
備考:特別指定 6件 特別注文 2件アリ 別紙
プラブドール:ヒルテン行き
半金支払い 済
(認) もみじ
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結果から言おう。
正直、商売は恐ろしいほど上手く行っていた。
下着だけでなく物のついでに売った地球製の他の品々もその波に乗れていて、その流れは予想――いや、希望通りに町の外へ拡大している。それも異常な速度でだ。
どれだけ人を雇っても、どれだけ材料を買っても、道具や建物、馬を買っても利益が上回る。
笑いを通り越して震えが出るほどの売れ行きだ。
まあ、それでも初日や二日目こそジワジワといったものだったと思う。
物珍しさと売り出している店の名で買ってくれる状態だった。初日完売なんて夢だと知った。
だが、本来金貨で売り買いする品が、高くて銀貨一~二枚の価格で、ほとんどの品が銅貨で買えるとあってか、店頭に並んで三日目四日目となったときには人が人を呼び飛ぶように売れ、五日目六日目にはどの店でも夕方には完売。今じゃ開店前に入荷の荷車に乗った状態から売らなければならない事態になっていた。
特に女性下着の人気は凄まじい。
出たら売れる。出したら売れる。ちょっと金のある奥様なんかは友人にプレゼント用も含めてドカ買いするものだから供給が追いつかず、ニ~三日先までの予約完売の店も出て、慌てて人を追加で雇って施設も借りて増産を決めたくらいだ。
なんでもマルチさんに聞いた話では、今流行りのこの下着は、王族貴族もお忍びで買いに来た、なんて噂が広まっているとかいないとか。
誰がそんな“俺達に都合の良い”噂を流したのかは敢えて探らないが、有り難い。
しかし、このままいくと昨夜三兄弟が酔った勢いで言った[生産工場を町の外周にあるあのスラムに建よう]案が現実になりそうだ。メイプルの机の上に[環境]部門からの書類が混じっているのが見えるのがなんとも恐ろしい。
「これ、確認済みに置いておくぞ」
「ええ。ありがとう」
俺は書類を木箱に入れると、机の上に置かれた水差しとコップを持ってベッドに向かった。
「ピエタ、気分はどうだ?」
そこにはうつぶせになってびろーんと伸びたオオカミ少女が居る。
彼女は俺の声に反応して体を起こし、こちらを向いて女の子座りになると、尻尾を揺らし喜びを表現しながらもため息をついた。
「はふぅ……愛の力が足りません。“旦那さま力”が不足しています」
「『旦那さま力』って何よ。ほら、とりあえず水の飲みな」
「『ふうふう』してくださいますか?」
「いや、水だよ?」
「ダメですか?」
「ダ……や……ああもう、分かった。するから。『ふうふう』するから、そんな小動物みたいな潤んだ目で見詰めないでくれ」
俺は何故か水を『ふうふう』するというこっぱずかしい行為を行った後にピエタにコップを渡してやった。
「んくんく……ふぅ。“旦那さま力”補充完了です」
ダメだ、ピエタは疲労困憊だ。しっかり休ませてやらねば。
いや、体力的にはもしかすると俺以上だからそこは体の具合は心配していないんだ。俺は精神のほうを心配している。
下着を作って売るをことが決まってからこっち、ピエタは毎日毎日ただひたすら切って貼って縫ってを繰り返していた。
狼の呪い【百夜】でほとんど眠ることが無く、体力も魔人と言える領域にあるから休むことなくひたすら作り続けられるピエタは、その点を活かしてただただ機械的に、俺達との接触も最小限にして下着や服を作り続けたのだ。
――で、結果はこの有様だよ。
いまやピエタはメイプルの前でさえ甘えてくるようになっていた。メイプルも現状を理解しているのでいちいち目くじらを立てることは無い。ただ哀れむ目を向けて、『単純作業の繰り返しは人をここまで壊すものなのね』とピエタを優しく撫でていた。
怖いこと言うなよ。
まあ、俺も元の世界の求人情報誌に“~○○だけの簡単なお仕事です”とか“単純な流れ作業!”とか書いてあるような仕事が、何故常に求人を出しているのか、その理由の一端を垣間見た気がしたわけだが。
「補充完了は良いけど、もう少し休んでおけよ?軍への納品分、終わってるんだろ?」
「はい。インナー類は各種類夜明け前に数が揃いまして、オラバルト・スノクの両軍の納品分ともに箱詰めしたらあとは最終チェックを待つだけです」
「男性用下着だけで……全部で千セット、だっけ?急ぎで仕上げたとは言え、よく今月中で作り上げたなぁ」
「ええ、本当に。さすがに最後は作業員全員が私も含めて死んだ顔していましたけどね」
「だろうよ」
そう、ピエタのこの疲労は通常の品々の納品に追われたためではない。
軍の連中による超大量発注に別働隊を作って対応したためだった。
もともとここの軍は司令のススメのお蔭で買ってくれることが決まって……おっと、買ってくれそうだったので用意はしていたんだが、どうもブリックさんが見本品とその話をスノクに持ち帰り、どうも一緒に購入者を募る体で買ってくれることになったそうだ。
その数なんと千二百三十組。
一部女性用も含まれる。
馬鹿かと。アホかと。
オートで作り出す機械があるわけでもないのにそんな数が対応できるかと。
しかも一部は補正指定や特注アリだなんて。
まあ、連日ウン百組作っているし数は用意できなくは無いんだが、あくまでもそれは日常的に売る分だ。それでも請けないわけにはいかないもんで、メイプルは急遽ピエタを中心とした別働隊を組織させ、抜けた部分は人を雇って対応させたのだった。
お蔭で金貨も目標額に一気に近づいたが、代わりに主力を丸一日使い物にならなくされて、現場は悲鳴しか出ていない。
有り難いやら、有り難くないやら。
いや、有り難くはあるか。
「ああ、最初に感じていた不安なんてどこへやら。今は売れすぎるのが悩みの種になるなんて……。まさかこんな状況になるとは思わなかったぞ」
「この世界は私達の視点では予想なんてできないほど“新たな物”に飢えていたんですよ、旦那さま」
俺の声に反応してピエタのふさふさの尻尾が揺れる。
だが、その言葉には俺を越え、机に向かい書類に目を通したままのメイプルが反応した。
「そう、人は常に新しいモノに怯え、そしてその反面に欲しているわ。他人が知らないモノを知る。他人が持たないモノを持つ。他人より優位に立つ。己が羨望の眼差しに晒されたときの、体の奥底から奔る快楽に、抗える人間なんてそうそういない。そして、その人とは違う“モノ”がどれほどの利を生むか理解してしまったら、どれ程の悪意を生むか……」
「メイプル?」
メイプルが突然ペンを置いたと思ったらおもむろに席を立ち、俺のもとに歩み寄ってくる。
その手の中では数枚の紙の束が筒状に丸められていた。
「これを読んで。[環境]部門からいくつかトラブル報告が上がってるわ。泥棒に山賊、火付けに暴行その他沢山……」
メイプルが差し出すその紙束を受け取ると、俺はピエタとその報告書に目を通していく。
「あ、この暴行を受けた人、最終工程ニ班の班長さんです。あれ?こっちは三日前に東のバオアク村に送った荷物です」
「これは……ウチに関連する事件か」
「ほとんどはね。いつもはだいたい[運輸]と併せての配送完了報告が主なんだけど、ここ最近は衛士と一緒に動くことの多い警備班からのこういったトラブル報告が多いの」
例えば、○○が男に襲われ足と頭部に軽度の負傷。偶然通りかかった警備班班員が取り押さえ、衛士隊に引き渡すだとか、例えば、巡回中第ニ倉庫周辺で挙動不振な人物を発見し声をかけると逃げたため追おうとしたが、倉庫外壁に火が放たれているのに気づき、消化を優先。現在巡回を強化中だとかetc……etc……。
「特にこの三日、昼夜関係なく日に何度も重なることがあるのよ。対応としては警戒を強めて衛士との連携をより密にする……っていうのが普通なんだろうけれど、アタシはそろそろ鬱陶しいかなって思うの」
「俺に解決しろってことだな?」
「そういうこと。マルチ小母様達の協力で疑わしいヤツの目星はついているわ。必要であれば二度とこんな真似ができないようにオシオキしても良い」
「旦那さまのオシオキですか。それって死にませんか?」
「おいおい、イイのかよ?」
手加減はできるが、二度と同じ真似ができないくらいって相当なもんだぞ。
「イイのよ。町長以下、主だった偉い人の了解は得ているわ。首謀者含め関係者も殺さなきゃやり過ぎたときは“仕方が無い”って」
「マジか」
「マジよ」
メイプルは大真面目に頷くと、くいっと顎でしゃくって俺に最後の一枚を見るように言った。
「何だ?ええっと、『*月*日、午後八時頃に生産第二工程一班班員のアル・テリシアの母親から娘はまだ働いているかとの問い合わせを受ける。しかし、班長に問い合わせると娘はその日昼勤務で五時であがり、帰宅したとのこと』……これが?」
「まだ続きがあるわよ」
「ん?」
――『テリシア一家はオラバルト“外周”に居を構えており、娘は本日朝九時の時点でまだ帰宅していない。衛士隊は現在捜索を……』――
「……チッ……また、人攫いか」
「衛士長のお爺さまの話だと、やはりこの三日間のうちに“外周”で三件、内部で一件、近隣で一件、同様の事件が起きているらしいわ、その中で外周の三件は全員ウチのカイシャの女の子よ」
「餓狼の残党の線はないよな。ウチのが三件ってのは偶然?」
餓狼は残っていたとしてももう無力だろう。
まあ、人攫いの組織が奴らだけとは限らないんだが、さて、そいつらは俺達のカイシャに所属する者、関係する者を狙ったのか……はたまたただの偶然か。
「判らないわ。でも、知ってる?シーリカでは各地で発生する凶悪犯罪に対抗するため管理者の裁量で、法の刑罰を重くしたり内容を一部変更することができるようになっているの」
「ほう」
「ごく最近だけどシーリカ西部一帯は“人攫い”を行った者、行うに協力した者への現場の対処が変わり、罪を犯したものへは刑罰が重くなったわ」
「それで?」
「それでね、その現場を発見した者や緊急性が認められる状況にある者は、いかなる身分・職の者であろうとも、それを解決するに“如何なる手段を用いても”罪には問われないし、犯人の生死も問わないのだそうよ」
「つまり?」
「旦那さまが悪いお人を探し出して“偶然懲らしめる”ことになってしまっても問題無し。もしそれで死んでしまわれたときは“仕方が無い”からお咎め無し。旦那さまは好き放題にやって良いってことですか?」
「そういうことよピエタ。やるわよね、ジュウゴ?」
「ああ、もちろんだ」
俺は手の中の報告書をメイプルに丸めて放った。
期限まであと八日。
このままの経営状態を保てば金は期日の前には目標に到達する見込みだ。
俺自身の目標以外でも目的を達成しつつある。
仕事が増えたことにより少しずつだが街の内外の金回りが良くなり、最近はギルドでは特に飲食店を中心に求人が増え、外周に住む人々まで仕事が行き渡り始め、みんなの生活が僅かな改善の兆しを見せ始めていた。
商売は順調。環境も良くなり、問題は解決に向かっている。
あとは治安だ。
ウチの商売が上手くいったってそれで働く人やその周囲に迷惑が及んではいけない。
[環境]部門を設置したのはカイシャだけでなく、カイシャの周りの環境も整えるためだ。
結果を残さなきゃ。
「最後の一週間くらいは俺自らが社会貢献もいいだろう」
俺はメイプルから目星をつけたヤツの居場所と名前を受け取り、その足で先ず[環境]部門の責任者の所へと向かった。
感想、評価、アドバイス、いつもありがとうございます!
作者病み上がり。
皆さんも風邪属性の攻撃には気をつけてね。




