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神をも喰らうヴァイセント  作者: 文悟
転・ヴァイセントの異世界道中
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ヴァイセントの異世界道中7

長らくお待たせしました!

本日はお詫びも兼ねての二日連続投稿の一日目!

四話投稿です。

メイプルに貰っていたお小遣いでのろりのろりと買い食いしながら宿に帰った俺は、結局道中に上手い言い訳を思いつけず、俺よりも一時間ほど遅れて帰ってきたメイプル達に無策で相対することとなった。


だが、よくよく考えてみればアレコレ上手い言葉を考えたって結果として怒られるのはほぼ確実であるのは間違いなく、ここは潔くごめんと素直に謝って、これからのことを相談しようと思う。


「すまんメイプル。ちょっと大事おおごとになっ――ッタガッ!!」


白い鞘が俺の即頭部を打ち据えるホームラン

怒られる云々の前に凶器が飛んでくるとは思わなかったが、でもホラ、一発で済んだろ?

人間、素直が一番だ。



帰ってきたメイプル達から大量の荷物を受け取り部屋の隅に並べて置くと、俺は神妙な面持ちで二人をベッドに腰掛けさせ、俺はその正面に正座し『大事になった』内容の詳細を伝えた。結果、俺のキュートなおでこが愛刀の石突でグリグリされることになったが、経緯からカイシャの説明までを終えると、思ったよりもお説教は短く済んだ。


「問題点は多いけど、案としては悪くない」


ウチのメイプル様もグアンダム氏と同じ見解のようだ。

ピエタはそもそも俺の決定に反対するつもりは無いようで、俺が決めたならそれが好いとのことだった。


二人の同意も事後ではあるがいただいて、俺達は改めて【カイシャ】をより良いものにするために意見を交換していく。


カイシャ組織は現在のシーリカ王国では考えられない商売のカタチであるため、意見交換の実りは多い。俺はメイプルから促されるまま包み隠さずカイシャを運営する上でのアイディアや、思い出せる限りの地球の商品を紹介、説明し、メイプルとピエタがそれを一つ一つ吟味していく。


どれくらい話し合っただろうか?日が沈んだ頃にギルドの長ディック氏の使いの者が来た。

夜に町の有力な商人や大店おおだなの店主達との顔合わせの宴会をする用意があるそうだ。


俺のディック氏の印象は面倒くさがりっぽくて、指示待ちタイプな流され易い男というものだったが、俺の人を見る目は当てにならないようだ。流石はギルドマスター、仕事が速い。


月一の町内会議にさえなかなか顔を出さないような大物も顔を出すとのことで俺のフォローのために町長さんも参加決めたそうだ。宴会では時間を設けカイシャの説明をするので、とスピーチも考えておくよう頼まれた。


嗚呼、この顔合わせもまた大事になりそうな予感。

俺の頬を冷たい汗が伝う。


「ふふふ……顔合わせだけで済ませたりしないわ。出すモノは出せるだけめいっぱいに出させてやる……」


別の意味でも。


「俺、胃が痛くなってきたかも……」


丈夫なハズなんだけどな。

スピーチなんて中ニの時以来だから緊張しているのかもしれない。


まあ、この数時間後には強張っていた俺の顔が解き放たれた安堵で満たされていたようだから、問題は何も無かったとそう思いたい。


そうさ、宴会はトラブル無く終えられた。

結果から言えば顔合わせは大成功だった。


あとでメイプルから聞いた話ではカイシャと既存店との利害のやり取りでかなりギリギリの攻防はあったそうだが、メイプルは俺たちにしっかり利のある形で主だった商売敵との“擦り合わせ”を行ってくれた。


なかには相互協力や出資を約束してくれたところもあったらしい。今のところ紙の上ではあるけれど、金貨百五十枚分集まったそうだ。町長さんも絞られていたのはかなりハラハラしたぞ。


ああ、だけどそれよりも、町の女性にかなり大きな影響力を持つって人に気に入られたことをメイプルは喜んでいたっけか。


百五十枚といえば目標額の半分上になるが、今後消費が確定している金よりも、それを超える金を呼び込む“ツテ”が得られたってことなのだろう。とりあえずそこら辺は全部メイプルに任せよう。



さて、そんなこんなで夜もけ酔いも深くなり、俺達が宿に帰りついたのは日付が変わってずいぶんしてからのことだった。


「でも、なんだろう?何か嫌な感じで引っかかるんだが」


ま、いっか。



……で、その翌朝、俺はその『ま、いっか』を後悔することになる。


それは、宿に帰ってから数時間後のこと。




「なんと俺は町の北にある森で、大怪虫だいかいじゅうの繭を採集することとなっていたのですっ!」

「カラクラくーん、次いけるー?」

「――くのっ、はーい!ただいまー!」


オラバルトから北に三キロほど行ったところにある森で、俺は早朝から巨大な白い芋虫と文字通り格闘していた。なお、コレは、今日の俺の予定にはまったくなかった事である。



虫の名は【大繭虫メガロスククリ】。

見た目が放射能を吐く怪獣のライバルにそっくりだが、ようは馬鹿デカイカイコガの幼虫だ。


確認されているもので最長六メートルを超えるような個体もいるこの虫は、主に隣国プラブドールに棲息し、シーリカではオラバルトでのみ見ることができる。


草食で基本的には温厚。襲われればデカさに重さが相まって危険だが、縄張り争いをせず、ちょっかいをかけない限りいかなる生物が近くをうろつこうと手を出してこないので安全。

木を食ってしまうのが痛いが、生まれて死ぬまでに一本程度なので害も少なく、怪物であっても魔物認定がされていない。


このメガロスククリは成長段階が三段階あり、その二段階目で卵を産む非常に珍しい生物で、このとき産む卵を守る平均六十センチほどの巨大な繭が絹に次ぐ良質な糸や生地の素材となる。


このため、主な棲息地であるプラブドールはもちろん、木々の多いオラバルト周辺ではメガロスククリが多数飼育されており、多くの人に大事にされている。

プラブドールではこの虫をヘヴロニカの御使いとして崇めている地方もあるそうだ。


そのためか、俺にこのバケモノ虫を殺す許可は下りていない。

必要以上に傷つける行為もだ。


「にににににぃ……」


個体によっては横綱級の重さの虫に二体も三体も圧し掛かられたり、噛み付かれたり、突進されて、でも反撃しちゃいけないなんて何の縛りプレイだろうか?

押しのけるしかないとか俺じゃなきゃ詰んでるぞ。


「オラぁ、芋虫ぃ。さっさとコドモよこせやゴラぁ……」


俺は木に巻きついた繭を、親を押しのけ毟り取ってはため息と合図を吐き出して、木々の先に待機した人達に放るだけ・・の簡単なお仕事をひとつひとつ片付けていく。


その間はむにむに、むにゅうにゅ、ガジガジと横槍が入るため、朝からもうベタベタグチャグチャ汗だく汁だくだ。


コレ、楽そうに聞こえるけどダメージは入るし、熱いし、重いしで地味にしんどいんだぜ。


ああ、着替えたい。

ああ、腹減った。


「くっそ、こんなのいつまでやりゃあいいんだ!」


鳥たちが笑い合う森に俺の悲痛な叫びが木霊する。


「え、残りかい?あと三十四箇所だからがんばろうねー!」


ありがたいことに・・・・・・・・どこからか残念な答えが返ってきた。


「さ、さんじゅ――ちくしょー!」


三十四箇所に平均四匹のメガロスククリ。

一箇所で繭はだいたい十四個~二十個だそうだ。


「腹が減って倒れちまうぞ、俺」


メシは後でピエタが持ってきてくれる予定だが、足りないかもしれない。

昨日同様、俺の頬を冷たい汗が伝う。

満腹度的な意味で。





「こ、れ、で……さいごだぁぁ!!」


投げっぱなしジャーマンのような体勢でぽいぽーいと最後の繭を放る。


十三箇所、計二百八個の繭。


この繭で今日の分は終わりらしい。一度に沢山集めた結果、今度は置くところが無いそうだ。


体に張り付いたままのメガロスククリは剥いで落としてちょっとした仕返しにボーリングよろしく勢いよくゴロゴロ転がしてやる。


「っとっとぉ。はい、回収完了。カラクラくーん、今日はここまでー。お疲れ様ぁー」

「了解でーす!」


その声に俺は空を見上げた。

少しオレンジ色を滲ませている。


「もう夕暮れか」


ちょうどいい区切りだろう。



あぁそうそう、今更ながら俺が何故こんなことしてるかなんだが説明しておこう。

こいつはホラ、アレだ、相互協力・・・・ってやつだ。

お互いがウインウインの関係になるために必要な依頼を受けているってわけだな。


なお、二度目になるが俺の予定には無かったことだ。

朝、メイプルから蹴り起こされるまではまったく知らなかった。



依頼の相手は昨夜メイプルが気に入られたというオラバルト一の人気服飾店【ダァジャン】の女店主マルチさんとそのほかの同系統店舗のみなさん。依頼内容はいわずもがな糸の材料であるメガロスククリの繭の採集だ。


繭の採集は毎年屈強な男衆十数人をメガロスククリを抑えることだけに雇い、採った繭の回収・運搬にまた数十人を雇って行うものらしい。だが、繭を回収できるのは一日に十個~二十個。非常に効率が悪く、費用がかかるくせに作業が進まず、毎年何個も取りきれずにいるとのことだった。


マルチさん達は繭の採集をもっと効率的に進めたいと常々考えていたらしいのだが、やはり力技以外に思いつかず今年も時期がやってきた。


ああ、今年は人手は充分あるにしても、また費用がかさむと嘆いていたそうだ。


「そこでアタシ達の出番ってわけよ。マルチ小母様に早速アタシから協力を申し出たわ」


とは朝のメイプル。


馬鹿力で頑丈な冒険者の俺が一人で対応するからと【ハンデールの勇者】の話を盛り込みながら提案してくれちゃったらしい。


だが、間違っている。言葉は正しく使おう。出番は主に俺だ。

そして、本人は了承していない。


まあ、今更言っても仕方が無いことだが。



そんなわけで毎年何人かが怪我をするこの仕事。今年は一番金のかかって危ない抑えと採取役を俺が一人でやることになった。

俺がやって誰に危険が及ぶことなくささっと終わればそれが好いだろうし。それに俺がやってみて何か思いつけばそれもまた今後のためになるしな。


大量に雇うはずだった抑え役の求人は俺のために潰すわけにもいかないので、ここは運び手と職人の助手を増やすことにして対応した。雇った人数が全部で百人は超えていたため、その分をマルチさん達が持とうとしたのだが、今後のためにもそのすべてを俺達が雇うカタチにした。人件費は痛かったが、若者から女性、年配の方まで幅広く雇うことができ、彼らの扱いにおいて色々反省点や管理の仕方が見えてたから良しとしよう。


とにかく俺は例年でいうと二週間ほどかけて終わるか終わらないかって仕事を、今年はこの人数で三~四日のうちに片付けてしまうつもりだ。本当は一日でって考えていたけどそう上手くはいかないらしい。明日はもう少し人手を増やそうか。


「とりあえずそこはメイプルと相談だな」


濡れた布で顔や手を拭い、俺は繭が大量に載った荷車の端に腰掛けて背伸びをした。





………



町に着くと俺はサッと荷台から降りて【ダァジャン】に向かう。

――と、そこで俺の背中に荷車を押していたオジサンの声がかかる。


「カラクラくんは報酬を貰いに行かないのかい?」


俺は首だけ振り向くと、その首を横に振った。


「俺は雇い主が別なんで」


オジサンの依頼主は俺(書面ではメイプル)だがな。


「おお、そうかい。ならここまでだな。おつかれさん」

「ええ、お疲れ様です。また明日も頑張りましょう」


繭を作業場へと運ぶオジサン達に手を振り、俺は再び歩き出す。


途中、雇った人達に出会っては手を振り労いの言葉をかけ合う。

今日は肉体的にも精神的にも疲れたが、こういうのも悪くない気がしてくる。肉体労働って気持ちが良い。



さて、そんな暑苦しいことよりこの依頼の報酬だが、俺達が雇った人は当然現金支給でも、俺達自身は金銭では受け取らないことになっている。貰うのは糸や生地やボタン、ベルト、そのほか金具など。現物支給というやつだ。


今回はマルチさん達は人を雇うのに金を払っていないので、その分こちらが必要な品を沢山譲ってもらえるとのこと。大量生産の時には何人かお弟子さんも貸してもらえるというのでピエタも喜んでいた。


金も欲しいが今は物を作るのが最優先。材料費が浮けば浮くほど安く提供できるからいい。


一番損な役目を負うのは俺一人。

いいってことさ。

しくしく。


まあ、そんなこんなで、服飾関係のお店の方々は少ない人件費で大量に素材を回収したい、俺達は出来上がった糸や生地を安く手に入れたい、ギルドと町は安全で簡単な仕事を多くの人に提供したいって三者の望みが叶った。カイシャ立ち上げに必要なテストもできたし、いいスタートになったんじゃなかろうか。


「善きかな、善きかな


俺は満足して鼻歌混じりに中央通りを歩いて行く。


すると、ヘヴロニカ像のある中央広場から北へちょっと進んだところでドレスと帽子の絵が描かれた看板が目を惹く店が見えてきた。あれが【ダァジャン】か。


「でっけえな」


二階建てでどうやら二階も店のようだ。

外装はシンプルで古めかしさはあるが、どこかそれが高級感というか、格式の高さのようなものを感じさせる。


意味は無いが俺はズボンで手を拭って、そっとその扉を開けた。

小気味よいベルの音に合わせて店員の招く声がする。


「あのー、すいません。メイプル・キャロディルーナのパートナーで、ジュウゴ・カラクラって者ですが……」


店内に入ると花の香りと嗅ぎ慣れない人の臭いが二つ三つ。そして、よく嗅ぎ慣れた人の匂いも漂ってきた。


「あらジュウゴ、遅かったわね」

「あれっ?メイプル?」


カウンターに肘をついたメイプルが、ティーカップを片手にこちらを向いて手を振っていた。


「なんでここに?」

「小母様とお話していたのよ。今後について」


ああっ、と俺は得心してメイプルの向かいに目を向ける。

カウンター越しのそこにはオバサマという言葉は似つかわしくないような、男装の麗人が立っていた。


「今日の分が終わったんだね?進捗は聞いているよ。メイプルちゃんは遅かったって言うけど、いやいやあの量をこの時間までに終わらせるなんて相当な速さだ。流石[ハンデールの勇者]だね」


俺と目が合うと、栗色のショートヘアのその女性が、ハスキーな声で満足そうに笑う。スマートで高身長。モデルか宝塚の男役のよう。

何を隠そう彼女こそ、この町の多くの女性を影響下に置くカリスマ店主、マルチ・ダァジャンさんだ。


「あ、どうもです」

「明日もその調子で頼んだよ勇者」


勇者は止めてくれないだろうか。

俺が苦笑して頷くと、マルチさんは再び満足そうに笑い、頷き返してきた。


そこで今日、最終的に運んだ個数を伝え、終了箇所を報告していく。

一日で三分の一を終わらせてしまったことにマルチさんは大いに驚き、喜んでいた。


喜んだついでに報酬も上乗せしてくれると有り難い。



「ところでジュウゴ、この後は暇よね?」


報告を終えるとメイプルが大変良い笑顔でそう切り出した。


「なぜ暇なのが確定しているのか訊ねても?」

「一度着替えてからでもいいのだけど、今日中にやってもらいたい仕事があって」

「なぜ会話のキャッチボールができていないのか訊ねても?」


あれ?なんでか嫌な予感がするよ?


「ウチが物置程度にしか使っていない建物が南区にあってね。メイプルちゃんに頼まれてそこを君たちに譲ることになったんだよ」

「は、はあ。それはありがとうございます。仕事ってそこの片付けってことですね」


そっか、俺らの寝泊りするところは今のところアマネセルで良いとしても、あの部屋じゃ大量生産ができない。

それなら早めに使えるようにしなくては。


「そうそう。それで、そのついでに織り機とか諸々必要な物を譲ることになったから運び込みたいんだけど、困ったことにそこには幅をとるような大きくて重い物がわんさとあってねえ」

「できれば今夜中にそれら全てを西区の倉庫に運んで、アタシ達が使えるようにしたいのよ」

「そ、それはどれくらいの物?」

「そうね……アタシが見た感じでは今日の虫くらいの大きさ重さの物かしら」

「それがニ階建ての各所にニ~三十ってところかな」

「アレをもう一度ってか」


この体って過労死とかするのかな?

いまちょっと不安を感じた。


俺はうつむく頭を支えながら不承不承に頷いた。


「分かったよ。あぁ、ちなみに俺ひとりでだよね?」

「そうね」

「頑張れ勇者」

「ピエタは?」

「作業中よ」

「ウチの職人と下着についての試作を行っているよ」


だろうな。ああ、だろうな。

過労は無いとして、こんな馬車馬以上に働いたら空腹で死ぬぞ俺。

いや、暴走するか。


「じゃあ、とりあえずメシを食ってから――」

「いいえ、夕飯は後で届けるから今すぐ行くわよ」

「えええっ!?」


この子は俺のことを使い潰す気じゃなかろうか。


「“危なくなったら”その都度口の中にねじ込んであげるから大丈夫よ」

「それ大丈夫って言わないからな。食事ってねじ込むって読まないからな」

「いいからつべこべ言わずにさっさと行く」

「廃棄する物もあるからウチの者をひとりつけるよ」

「え、ちょっと本気で言ってるの!?マジで今すぐ!?せ、せめて何か少しかじらせて!」

「行きにパンを買ってあげるからしばらくそれで我慢なさいな」

「うえぇぇぃっ!?」



結局俺は道中買ったパンをかじりながら、今夜も日付が変わるまで、せっせせっせと働くことになったのだった。






評価、感想、誤字報告ありがとうございます。

コメントや修正など遅れ遅れですが、時間をみて対応していきます。

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