ヴァイセント異世界道中6
するのはパンツ革命だけではない。
タイトル間違ってました!修正!
5月21日
異世界・地球から異世界・ヘヴロニカへとやってきた俺こと異世界人・柄倉重悟には、現代日本の【会社】という組織を正確な形でこのヘヴロニカに地に再現する知識や技術は無い。
だが、俺の目的を達成しつつこの町に今必要なものを提示する、という解決策としての仮称【カイシャ】という仕組みを作るということにならば絞れる頭はあった。
俺が思い描く【カイシャ】によって俺にもたらされる恩恵は大きく三つ。
一つ、大きな金銭的利益を出す機会を得られること。
二つ、個人の生産能力を超えた製造が可能になること。
三つ、カイシャを成り立たせることで発生する多方面での利益をもとに後ろ盾や出資者を得ること。
これはあくまで俺が予想できる範囲でのプラスだが、俺にとっては最初の一つだけでも大きい利である。また、これが成り立つということは、ブリックさんが言っていたような町や国にとって、そして当然住人たちにとっても旨い話であると考えられた。
俺達が大量生産などするために人を雇うことにより、町の就職率が上がる。一人二人ではなく、二~三十人を一気に雇う。だが、もちろんそれでは毛ほども効果が無い。
では、どうするか?
現代の日本人なら思いつくことがまだまだあるだろう。
例えば商品の販売や配達、生地・素材の運搬を自社でやってしまうというアレだ。こうなったら下着だけでなく俺の持ってる全知識を使った商品の製作・販売にも手を出してみても良い。
また、運搬の際の護衛や施設の警備などで人を雇うのもアリだと思う。これで荒事しか力の振るう道を知らないキンベル三兄弟のようなヤツでも仕事ができる。
そうだ、そいつらには社会奉仕の一端として衛士や軍の者と協力し、自警団のような組織として町の周辺の巡回などをさせても良いんじゃないだろうか?
隊のリーダーには毎回本職が就けば少ない人手で権限を有効に活用でき広い範囲で治安維持活動が可能だ。面目が保たれるというのも好ましい。
手の空いたちょっとした時間には地域住民と一緒に清掃などのボランティア活動をさせて環境や住民に配慮しているところをアピールし、終了時に炊き出しや焼肉パーティーなんかを開いて食いっぱぐれて腐ってるヤツにも社会に貢献するっていうことの大切さを教えるのも良い。
俺は率先して参加しよう。
べ、別に食べ物目当てじゃないんだからな。
これを続ければ結果としてオラバルトとその周辺に住む人の生活が上向き、町の環境が良くなるだろうと予想される。また、それにより予想以上の豊かさをこの町にもたらすかもしれない。
まあ、良い事ばかりではないだろうさ。
大規模なことをすればリスクはその分大きくなり、何かを決めようとするといちいちギャンブル的になる。何より俺が成功して目的を達成しても易々とはこの場を離れられなくなってしまうのが痛い。だが、ちびちびと稼ぐよりは可能性がありそうだし、俺としてはできる限り早く【餓狼】のような犯罪組織の温床となる環境を潰しておきたいんだ。
色んな面で【カイシャ】作りは効果がある。
それは俺と町とにウィンウィンの関係を作ってくれる。
なあ、悪くない話じゃないか?
「うむ。多大に希望が入ってはいるが、確かに悪くは無い」
俺の説明にニヤリと口の端を吊り上げて笑うのは、後ろに撫で付けた灰の髪が艶やかに光る長身痩躯の鋭い雰囲気を持った老紳士。ブリックさんではない。
加えて言えば既に陽は空の頂点を越えており、さっき鐘が二回鳴らされた。場所は簡素で男臭い軍の寮でなく、シンプルながらもぐっと身が引き締まるような……そう、どこか校長室を思い起こさせる部屋へと変わっている。確かオラバルト西区に作られた、北部国境警備基地とか言うところ。その司令室だ。ちなみにここにはブリックさんは居ない。俺をここへ案内してくれたあとすぐに用事があるからと言って慌てて消えた。
逃げたか?まあいい。
なぜ俺がここんなところに居るかというと、俺の案を聞いて現状打破に有効と判断したブリックさんが、軍やそのほかのお偉いさんにツテを使って話しを持ちかけたところ、そのうちの一人にすぐさま呼び出しを受けることになったからだ。
呼び出したのは言うまでもなくこの老紳士。
しかもこの人、ブリックさんをパシリに使って他に三人も呼び出しやがった。
故に今、この部屋には小僧一人にオッサン四人というなんとも厳めしい構図が出来上がっている。
老紳士は宣伝用のトランクスを手に持って俺とトランクスを交互に見ながら眉をあげる。
「コレも使い易そうだ」
「でしょう?」
老紳士の目力は凄い。俺は老紳士の鋭い眼光をなんとか受け止めた状態だ。
顔は蒼くなっていないだろうか?
ノーマルな精神状態の俺じゃあ気を抜くとブルってしまいそうだ。
この老紳士は俺の【カイシャ】の案を聞いて集まった四人の男の内で恐らく一番の発言力を持つ男。名をグアンダム・イックスと言う。
なんとここ、オラバルトにて国境を守るシーリカ王国軍北部国境警備隊のトップだ。
俺は司令室の一番奥のイスに座り牙を剥く獣のように笑う彼と数秒睨み合い、続けて他の三人にも視線を送る。
すぐに答えを返したグアンダム氏と違い、他の三人はすぐに言葉を出せるようでなく、口を覆い、天を仰ぎ、腕を組んで、唸ったりため息をついたり何度も頷いたりと忙しい。
この三名もやはりグアンダム氏同様に何かのトップだった。
例えばソファに深く腰掛け口を覆ってうんうん唸っている禿頭で恰幅のいい老年の男性はこのオラバルトの町長でザック・セグンド。
町長と言っても地域の管理者である領主の代行的な役割の人なので、よく『領主代行の』とか『管理責任者の』とか自分でも言ってるらしい。それでも町のことに関しては最高責任者だ。
そうそう、町長といえば他の町では見かけたような見かけてないような微妙な存在だったんだが、実はこの国、信じられないことに町の規模によっては町長って役職の存在が居ないんだと。ほとんど領主が管理運営するらしい。
オラバルトはデカイし、国境の町だし、領主は次ぎの町の管理もしているからこっちは彼任せなんだそうな。
何度うんうん言ったのか、ようやくザック氏も口を開く。
「オラバルト住民の為にも治安や生活の改善は早急に何とかしたいところ。もしカラクラ君の言う【カイシャ】が上手く行けば少なからず良い影響が望めるかもしれない。私も協力させてもらうよ」
「ありがとうございます」
これで町の責任者の後ろ盾は得られた。
大規模な商いは色々面倒な処理があるが、そこは町長とメイプルが協力して何とかしてくれるだろう。
とりあえず後でメイプルに噛まれる覚悟はしておこうか。
隣りの男性に目を向ける。
その男は姿勢よく背は伸びているものの、天を仰いで何度も何度もため息をついている。歳はまだ三十代前半といったところに見える。
精悍な顔つきで体格も大きい赤茶けた髪を短くそろえた歴戦の戦士風だが、この部屋に集まったトップフォーでは一番年下らしく、ここに呼ばれてからずっと肩を縮めて居心地悪そうにしている。
彼の名前はディック・リアス。
ブリックさんの教え子で、元王国軍の兵士。
隊を率いて多くの賊や魔物を退治してきたのだが、あるとき左足に大きな怪我をしてから力を発揮できなくなり引退し、今はオラバルトの職業斡旋所の責任者、ギルドマスターを任されているらしい。
ブリックさんに来い言われて行かないわけにはいかず、やって来てみたらこの町のトップ会談となっているから肩身が狭くて仕方がないといったところか。
まあ、前職のお偉いさんも目の前に居ることだしな。
天を仰いでいた顔を勢いよくこちらへ向けると、彼はザック氏の言葉に乗っかるようにして答える。
「自分は良い考えだと思います。ウチらは利があるなら協力は惜しまない、です」
その見開かれた目は早く帰りたいと訴えている。
分かったからちょっと待ってくれ。
最後に、その向かい……俺の隣に目を向ける。
そこに居るのは年季の入った軽鎧を纏って腕を組み、何度も頷くドンキホーテのような老騎士風の小柄な老人。この町の安全を守る衛士隊の隊長ギヤン・マックーベンだ。
長年この町を守り続けているこのご老人は、既に引退を口にしてもまったくおかしくない歳にも関わらず未だ隊の戦闘に立って指揮を執っている。
今の町の有様に一番嘆いているのは彼であり、この町を一番愛しているのも彼ならば、この町のために何かしたいという思いが一番強いのも彼だ。
ブリックさんがこの人たちを呼んで俺の案を話そうと言ってくれたとき、真っ先に声をかけ、真っ先に応えてくれたのはこの老黄忠とでも言うような御老だった。
ギヤン老は青い瞳を細めて全員を見回すと、グアンダム氏のようにニヤリと笑う。
「ふん、否というヤツがいたらぶっ飛ばしてやるところだったわい」
なんとも物騒なご老公だ。
ギシと音を立てる拳が恐ろしい。
「と、とにかく、全員の意見がまとまって良かったです。皆さん、ご協力いただけるということでいいですね?」
「ああ、問題ないな」
「自分も」
「私もだ」
「ワシに始めから否定の意見など無い」
四人が頷き、俺もそれに頷いて返す。
「では、俺は説明した通りに仲間とともに下着を中心に商売を始めます」
「我々軍はその商品を軍の兵士達に買うよう勧める。他の地域に流すときに協力を仰ぐこともできる」
「お願いします」
これで客は確実に手に入る。
俺はグアンダム氏に改めて頭を下げた。
「ただ、その数を作るには人手や作るための材料が足りませんので……」
「ウチで依頼を出してもらう。ただ、相当な人数が殺到するだろうから人選や人数の調整が必要だろうし、その手間はすべてこちらで引き受けよう。商品の宣伝もそれとなくさせてもらう。ウチの職員にもだ」
「よろしく頼みます。事務に関しては強い者が居ますので後ほど顔合わせに伺います」
ディック氏と頷きあう。
俺達にはいちいち面接や人となりを探ったりする時間が無い。ギルドが信頼できる人間から送り込んできてくれるとやり易い。
「そうなってくると問題が多々出てくるでしょう」
「面倒な手続きに関しては私がどうにでもしよう。伊達に領主様から代行の職をいただいてはおらん。融通は利かせる。目下、大きな問題としたらば商人や既存の店舗からの苦情や圧力だが、これは各代表に話をつける席を設けよう。もちろん、私も同行する」
「ありがとうございます。こちらからもその手の話が得意なのがいますので、ギルド同様にその者を出します」
町長との意思の共有も問題ないようだ。
そして、最後は衛士隊長ギヤン老。
「作業場、宿泊施設周辺の巡回・警備の強化、商品の販売や近隣への配達に関する護衛などならば力を貸すことができるぞ。小僧、お前は人手だけか?」
「いえ、俺の持っている知識の全てで住民の防犯意識の改革を図り、根本的に犯罪を減らしたいと。あとはもし人員が安定するようならば火事の消化を手伝う【青年消防団】の作成や、自警組織の拡大ができるんじゃないかと」
「ふん、ならば良し。だがな小僧、本来衛士は民間に肩入れしないところ、ワシ自らがその“決まり”を破るんじゃ。したいとか、できるんじゃないかではなく、やってもらう」
「りょ、了解」
なんつー眼力だこのジジイは。睨まれただけで体がビリッとした。
動物的な本能なのかなんなのか、一瞬拳を握ってしまった。
異世界は本物の化け物が多いせいか、人間の化け物も多い気がする。
「では、これから皆色々やることがあるだろう。ここで解散でいいかね?」
グアンダム氏がタイミングよく声をかける。
俺達四人は全員同時に頷いた。
「では、解散」
グアンダム氏が立ち上がり、俺達もそれに倣って立ち上がり、一人一人部屋から出て行った。
俺は一番最後でドアを閉める係りだ。
――と、そこでグアンダム氏から声がかけられる。
「あー、ジュウゴ・カラクラくん?」
「はい?」
鋭かった彼の老紳士の雰囲気が柔和なものに変わる。
「ありがとう。有意義な時間だった。これからしばらくよろしく頼むよ」
それは軍人の顔ではなかった。
ただ、町を愛する老人がそこにかかる暗闇に光りを見つけたような、まぶしそうな笑顔だ。
「こちらこそ」
俺はその一言に沢山の想いを込めてドアを閉めた。
さて、一旦怒られに帰るとするか。
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