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神をも喰らうヴァイセント  作者: 文悟
第二章・百夜の大神
27/73

私の剣は凶暴です

戦闘態勢のメイプルをどうにかなだめ、結局状況の説明がついたのが充分に日が昇ってから。

俺の横にメイプルがぴったりくっついて座り、ピエタは二人の正面に座った。


メイプルが気に入らない!と分かりやすいくらいに頬を膨らませ腕組みをしているので、そのほっぺたを突っついてみると、指先にがぶりと噛みついてがじがじ歯を立ててくる。


「いたい、いたい、いたい」


いや、痛くはないけどなんだかそう言ってしまう。


「お二人が恋仲だったとは知らず、誤解を招くようなことを口走ってしまい申し訳ありません…」


ピエタは俺たちの関係を軽く説明するとそう解釈したらしい。剣を抱えたまま深々と頭を下げる。

恋人とは言っていないのだけどそこはそれでも良いかと俺は否定しなかった。


だけど、


「アタシたちは恋人ではないわよ」


意外?にもそう否定したのはメイプルだ。


「え?違うんですか?そんなに仲がよろしいのに」


確かに寄り添って座っているし、さっきだってまず間違いなく嫉妬と捉えるだろう。

メイプルが嫉妬か…なんだか悪くないな。


「ええ。そんな程度の括りで収まるような関係ではないわ」


うん。余計に意味深な感じになったぞ。


「そうなんですか?ふわぁ…大人な関係なんですねぇ」


ピエタ、なんだか先輩から彼氏の話を聞く夢見る女子高生な顔してるが、メイプルは君より年下だぞ。

メイプルもふふんって顔してるし。



「そういえば何故ジュウゴを選んだのよ、貴女。別にその場は事情を説明して、他の人間にあたっても良さそうだけど。だってジュウゴは腕は立つけど初心者よ。本当に偶然ってだけ?」


メイプルは探るようにピエタの目を見据える。


思わず手を掴んだって聞いているし、メイプルは何か思うところがあるみたいだけど偶然だろうさ。

俺はやれやれとメイプルから取り戻したティーカップにお茶を注ぐ。


「え?あぁ、それは誓って本当に偶然です。”ただ”…」

「んっ?」


お茶を飲む手が止まる。

あれ、なんだろう?嫌な感じがする。


「”ただ”?」

「…言って、いいんですか?」

「…いいわよ…」


ちらっちらっとピエタが俺の顔とメイプルの顔を交互にうかがう。

いいとは言いながらメイプルの声はひどく冷たい。


そしてピエタはうつむき、耳まで真っ赤にして、そっと爆弾を投下した。


「運命を感じたんです」

――ガタッ!!

「っ!ぼはぁっ!?」


盛大にむせた。

―と同時に目を見開いて立ち上がり再び戦闘態勢いかくに入ったメイプルの腕をどうにか掴む。


「ふぅるるるるぅっ!」

「ひぃっ!?ご、ごめんなさい!!」


なんだろう。今すぐ逃げ出したいよこの空間。


そしてまた少し落ち着くのに時間を要した。







落ち着いて、全員が深いため息を吐き出したあと、口火を切ったのはメイプルだった。


「まあ良いわ。話が進まないからお互い、気にしないようにしましょう。さて、贅肉胸ピエタの村が[村食ウィスクムい]って魔物に寄生されてて、命からがら逃げ出した贅肉胸あなたかたきを討つために再びこの地に帰ってきたでいいわね?」

「メイプル、敵意ダダ漏れ」


胸を睨まない、胸を。


指摘を受け、俺をひと睨みすると、こほんと咳払いしてメイプルは続ける。


「けれど貴女の村を襲った魔物は討伐隊が組まれてあっけなく討伐完了。話はここで終わりのはずだった。でも、貴女はそうは思わない」

「はい。一個一個で見ればわかりませんが、全体をつなげて見るとどう考えてもおかしな失踪や消失が多く、私はそれこそウィスクムの仕業だと考えています」


実際にハンデールでの餓狼討伐からこっち、ハンデールからエッセル間で起こる誘拐は激減したのに、スノクの周辺の失踪は減っていないようだった。


「で、俺は彼女に協力して、仕事で情報を集めながら上位の依頼を得られるように動いていたわけだ」

「重要施設や立ち入り禁止の場所にも入れる可能性があるわけよね?」

「はい。そのほか討伐隊が組まれた際には参加できるのは上位の依頼を受けられるような方しかできません」

「ただなぁ、上位の依頼を見に行ったが正直いま必要となりそうな場所へ行く依頼は無かった。依頼の拘束予定期間も長いのばっかりだったしな」

「そうですね。別の地域までの長期間の護衛など行っても無意味ですし。ですが、上位の許可証のおかげで、必要であれば衛士の詰め所や場合によって軍の所有する一部の資料も閲覧を申請できるようになりました。個人の情報も多々ありますし、すべてに許可が下りるとは限りませんが」


そこは昨日聞いたところだ。過去の討伐隊の派遣履歴や参加した人の資料が見られる。これはデカイ。


「軍の”顔つなぎ”はできてる。あそこの教官とは拳で語り合った仲だ」

「それ、死んでないわよね?いやよお尋ね者なんて」

「死んでません。ちゃんと生きてます」

「いえ…というかこんな地方とはいえ軍の戦闘教官をされるような方と殴り合ったと聞いて相手の生死を心配するのはそもそも何か間違っている気がするのですが…」


私がおかしいのでしょうか?とピエタは首を傾げる。

だがそれにはどちらも答えず、メイプルは話を続ける。


「思ったんだけど、わざわざ上位の依頼なんて探してないで、調べたいならもうさっさと色んなところ入っちゃえばいいじゃない。

 鉱山周辺とかは囲いしてるみたいだけど街中の施設じゃないんだし、禁忌の森なんて近づいちゃダメってくらいなんでしょう?どっちにしたって郊外ならそんなものジュウゴがばれないように突貫すればさくっと終わる話よ」


さくっとかはわからないが確かにできなくはない。


領主の厳重に管理する郊外の鉱山とその関係施設は森を切り開いて周りの森と離し、囲いや巡回の兵士を用意しているが、禁忌の森に関してはこの地方のみんなが”入ってはいけない”と認識しているだけで、森は囲いもしていなければ巡回する兵士もいない。


それに首を横に振って答えたのはピエタだ。


「ウィスクムに滅ぼされた私の村以外には禁忌の森とされているのはあと二つ。ここから北西の鉱山のある森のすぐ近くにあるウヲーズエ村後方の森と、同じく西の鉱山の傍にあるハンダ村の近くの森。

 どちらもウィスクム討伐以降、森を囲むようにけたたましい音の鳴る警報の罠などが大量に仕掛けられていまして、村人か鉱山の周囲を巡回する兵士か…どうやっても誰かに気付かれてしまう恐れがあるんです」

「実際に俺とピエタでその場所を廻ったり話を聞いたりしたが全部そうなっていたよ。かなりご大層なもんだった。なんでもウィスクム対策と、珍しい動植物を発見したことによる保護目的で、地元の有志で金集めて領主に許可もらって仕掛けたんだとさ。密猟対策かね。村の人はこれで安心だなんて言っていたな」

「別にバレたって構わないでしょ。さっさと逃げちゃえば分からないじゃない」

「まあ、確かにそうなんだけどな」


俺が言いよどむとその言葉にもピエタは首を振った。

少し苦笑しながら。


「私たちがそうしてしまえばいいと思い至った頃には、ちょっと巷で有名になりすぎていましたので、ちらりとでも目にされた場合は簡単に身元が割れますから…」


さすがに抱えるリスクが大きい。

禁忌の森の侵入は重罪であることをピエタが付け加えると、メイプルは俺の顔をチラリと見てこめかみを押さえる仕草をする。


「おバカ…」

「あ、あはは、ハァ…」


返す言葉もございません。


「なので私たちが取れる対策は、ウィスクムの存在の証明とその居場所の特定。そして、討伐隊の結成を促すことなんです」

「討伐隊は大義名分を得ることね」

「はい。あと、ウィスクムの特性上単騎で突入はかなり危険だと判断できますので」

「頭乗っ取られて、寄生されるってやつ?」

「はいそれです。どんな風に意識を乗っ取ってくるのかは分かりません。その上、ウィスクムは成長するので力を増している恐れがありますから複数人で向かわないとジュウゴさんがどんなに強くても”もしも”がありますので」


もし周囲の人間がすでに寄生されていては危険度は上がる。

森を棲みかにしているなら、村人に気付かれずに入れても”寄生された村人”ならなんらかの方法で気付いて取り囲んでくるだろう。


強さの度合いも”条件が揃えば魔獣クラス”なんて不明瞭だし、魔獣クラスになっていたら正直勝てるか判らない。仲間を増やす魔物なら、一匹倒したら一匹増えてなんてなれば目も当てられない。

対策の取れる人手は欲しい。

幸い火に弱いのは判っている。


「だからとにかく情報集め。あとは鉱山やら入ってみたり関連しそうな施設に入ってみたりしておかしなところを探して、ウィスクム居ますよって伝えなきゃならない」

「まるで居ること前提の話ね。確信するような情報があったの?」


まだいまいち引っかかるところがあるような顔のメイプルは、そう言って俺の手元からサッとティーカップを奪い、『んっ』とお茶を注ぐように促した。


まだ飲むのか。随分気に入ったな。あとでキャナスさんに少しわけてもらっておこう。


お湯がもうなかったので再度ティーポットに湯を足すためカウンター奥に入り、少し温くなった湯を注ぐ。

戻り際、食べていいと言われていたクッキーのような一口大のお菓子も皿に入れて持ってくる。

するとメイプルが『気が利くわね』とすぐさま手を伸ばしたので無くなる前にとピエタにも食べるよう促した。


「確信…とまではいかないが疑える要素はあった。軍の方の資料は今日漁ってみるが、今現状で得られるもの、得られたものでこれはってのがな。ピエタ?」


と俺に促され、ピエタは小さく咳払いをし、頭の中のページをめくるようにゆっくり語り始める。


「昨日上位依頼の許可証をもらい説明を受けたあと、私は独自に衛士隊の詰め所に行きました。そこで、通報のあった失踪事件などの件数や状況をより詳しく知るためです。詰め所には私たちがギルドで仕事を始めてから八件、行方不明者の捜索の依頼が入っています」

「八件?短期間で結構多いわね」

「はい。すべて女性であり、ほとんどが十代や二十代であることから餓狼のような一派の仕業か、全員一定以上の富裕層であることから身代金目当ての誘拐で考えられています。多人数である理由は、ある商家の宴会パーティーに出席した帰りだったことからで、会場となった商家の別荘はここから少し北東に進んだところの山の麓です。宴会の主催者は別荘から全員見送ったと」


商家、宴会、と来ればひとつ覚えがある。


「コレに関連するのが私とジュウゴさんが最初に受けた肉屋の店主ウーノックさんの依頼です」

「確かに『宴会用の肉』とか『金持ちの依頼はいつもいきなりだよ』とか言ってた」

「そうです。その宴会に参加された方が八名一気にいなくなっています」

「一気に?それはまた…」


帰り際に襲われた。もしくはその行方不明者にウィスクムが紛れていたということも考えられる。


「でも、おかしくはないわよね。確かジュウゴが餓狼の残党をここでぶっ飛ばしたって聞いたわ。まだそんな名前を口にするヤツがいたのかって感じだけど、それがいるなら単に人買いのもとに攫われたと片付けることができるわね」


メイプルはお茶を飲み終えたのか、俺の前にティーカップを差し出す。


「おかわり」

「まだ飲むの!?飲むペース速いよ?」

「このお茶請け美味しいわ」

「メイプルさんや、答えになってませんけど」

「アタシ、優しいジュウゴが好きよ」

「またそういうことを…」


俺はしぶしぶまた少し注ぎ、メイプルに渡してやった。


「餓狼はもう活動していないそうです」


ピエタのその言葉にメイプルの手が止まる。


「ていうことは他のところが?」

「いえ、この周辺は把握されている限りでは餓狼が唯一の勢力でした。他は過去に吸収されてしまったそうです。また、ここでの一件で捕まった元・餓狼を名乗る者たちもすでに”その手”の仕事から足を洗っているらしく、昔の看板をひけらかしては金貸しや用心棒などで稼いでいたそうです。まだ、詰め所の牢屋に居ましたからお話を聞きに伺ったのですが、何でも教えてくれました。私の顔を見たときにはみなさん天を仰いでお祈りし始めたりして」


更生されたんですね、素晴らしいです、とピエタは手を組み天を仰いだ。

俺はその状況を想像して苦笑しつつ、話を続ける。


「そうすると、新興勢力の筋だが、今のところそんな情報はないみたいだし、結構な大きさのでもない限りそれだけさらっていくのは負担が大きいだろうな。そして身代金にしてもそんな通報はきていない。とすれば、魔物が餌にするために攫っていったって線は消えない」

「この他にも私が調べたもので少なくない数の失踪が相次いでいます。ほとんどは例の村の周辺です。加えて一部の森では動物の数が減り、この一年で逆に倒木兎ハンガルの数が増え、多く見かけるようになっているんです」


その言葉には俺も頷いた。


「ハンガルって、下級の魔物よね、確か」

「はい。雑食性で臆病でいつも巣穴に隠れていますが、その歯と顎の力で木でも齧り倒してしまう恐ろしい兎です」

「肉はなかなか美味かった」

「そこはどうでもいいわよ」

「ぬぅ…」


セネバットさんのところで捕まえたのは全部ウーノックさんに捌いてもらって食べたが、仔兎はなかなかの金になるらしいんだぜ。くすん。


「で、その兎が増えたらどうなるの?」

「ハンガルは、ここスノクのような周辺に鉱山がある場所に多く棲息する魔物なので、もともとこの地方では良く見かけたのですが、実はこのハンガル、”強い生き物”の棲む場所では活発になるという特徴があります。例えば、単純に”その数が増えたり”、”巣穴から出てくる”ようになったり」


ウーノックさんの依頼、セネバットさんの依頼のほかでも結構見かけた。


普段捕獲より発見が難しいらしいからつまりそれは危険信号と取れるのではないか。

そう言うとメイプルは腕組みをして何か考え込み始めた。


「あと、それとは別ですが私、セネバットさんの伝承の話が気になりました」

「セネバット?」

「ああ、北東の森に別荘を持っているお爺さんで、俺とピエタはそこの掃除に行ったんだ。その依頼者がここらにはかなり詳しくてな、いろいろ話を聞いた」


確か、代々この地方に住んでいて、昔は語り部として伝承なんかを文章に残す仕事に関わっていたそうだ。


「その方の昔話を聞く限り、いえ、聞いても、この地方にある”禁忌”の起源が分からないんです」

「はっ?どういうこと?それじゃあ…」


じゃあ何故禁忌なんてされるのか。


「何故禁忌に指定されているのかハッキリしないんです。珍しい動植物の保護は最近でこそ名目としてできましたが、それまでどういった理由から近づいてはいけないのか、推論ばかりで誰も明確に把握していません。

 語り部をされていたセネバットさんの作られた資料を読んでも町の起こりから調べても、禁忌の内容を的確に表すようなお話は出てきませんでした。…現領主様も過去からの風習を守り、そこを禁忌の森として継続し指定した。ただそれだけようなのです」

「昔からそう言われているから触れてこなかった。貴族のする仕事なんてそんなもんだろうけど、それだけなの?」

「はい。単に昔から珍しい動植物が在ったならしっかり調査したうえで進入禁止にして”鳥獣保護区”にすれば良いだけです。恐ろしい謂れがあったならそのお話が残るはずです。”禁忌”などと物々しい呼び方をした理由が分からないなんて…」

「それもかなり昔からな。俺たちは、それをウィスクムの仕業だろうと考えた。ウィスクムは心を操れるからな」


調査に来た人間や村の人間を洗脳し追い返す。もしくは、触れてはいけないような気にさせる。

可能なのかは疑問だが、魔法があるような世界だ。可能性はゼロじゃない。


「私もお化けが出るだの呪いがかかるだの言われて育ち、入ろうとすればあまりの剣幕で怒る大人たちを見てきましたから、結局大きくなっても疑問を持たずあの夜まで入る気など起こしませんでした。

 考えれば恐ろしいことです。私の両親の親、そのまた親、何代遡どれほどさかのぼっても理由が分からないということは、それほど前からウィスクムは潜み、力を蓄えていたのでしょう。であれば、もし、今もウィスクムがどこかに移動して健在ならば、最早尋常な事態で済むとは思えません」


各所を移動し、北に行き、そこで一度討伐されかけたがすり抜け、またどこかに潜んでいる。

そんな可能性もなくはない。

そのまま北上と考えないのは、ピエタの村より北に当面人の集まる場所はなく、この町の周辺で異常が見られることからだった。


そこで話は途切れ、三人は難しい顔で押し黙ってしまう

なかでもメイプルは眉根を寄せて厳しい顔つきのままずっと何かを思案している。


五分…いや十分くらいそうしていたように感じる。

沈黙はそのメイプルが破った。


「…ねえ、ピエタ。貴女はそんな頭をいじれるような魔物の棲む村から一人だけ”寄生”されずに生きて還ったのよね?」

「はい、奇跡的に」


家族や仲間を思い出し、ピエタは目を伏せる。

それを聞いてメイプルはスッと目を鋭く細めた。


「そう、なら…」


刹那、メイプルはハッキリと敵意のこもった目でピエタを睨み腰のナイフを抜き放つ。


「貴女がただの人間である保障はないわね」


そして突然、その眼前に刃を突きつけた。


「ひぅっ!?」

「メイプル!?お前なにすんだ!?」

「ジュウゴは黙ってて!どうかしら?貴女を信じられる証拠があったらそれを提示して。答えの如何によってはこのナイフが貴女を切り裂くわ」


ナイフなど突きつけられた経験などないだろう。青い顔で震えている。

なにせ俺と仕事を始めて一度も剣を抜かず、一度も戦うことは無かった。狩りをしたときもぴーぴー泣いていたくらいだ。

だが、言われてみればもともとそんなことを生業にする子じゃないからなどと自分のなかで納得していたそれを洗脳だと考えれば、メイプルの極端に残酷な反応も頷ける。


俺は俺の意思で行動しているのか、そう思うと不安だ。


「あ、あの、それについては私を救ってくださった方が特殊な手段でお調べくださり、精神も体も問題ないと」

「そんな言葉で『はいそうですか』なんて言うと思ってるの?」

「ひゃっ!いえ、その、それはあくまで間違いないか確認をしただけで…その…ええと、ウィスクムは村を侵していく過程で”生餌”を残すことがあるそうで、その…」

「それで寄生もされず生き残ることができたと?それならもっとおかしいわ。貴女が他の人間を誘い込むための餌なら、貴女に寄生してないはずがない。別に寄生されて死ぬわけではないんでしょ?なら何もせずに放流するなんてありえないわ。最低でも精神を操られているはず」



それもそうだ。家族にバレないくらいの擬態が可能なら生きて逃がされる理由がない。



「あ!あの…それは私が…私がそのぅ…あぁ…神様ぁ…」

「何かしら?私が何?先に言っておくけど次の言葉には気をつけなさい。このジュウゴの故郷には”神様の空耳も三回まで”って言葉があるそうよ。もう二回発言した貴女には次をしくじればあとは無いわ」

「め、メイプル?それ用法も言葉もちが――」

「うっさい!!ジュウゴは黙ってなさい!!」

「はいぃぃっ!!」


チクショウ。ホント女の子って怖い。俺、コレでも魔人だぞ?


「よく聞きなさい。アタシにはね、ジュウゴが”すべて”なの。言ったとおり恋人やらちゃちな相棒なんて枠じゃ足りないのよ。アタシは彼を知って、彼の目的を果たすために旅を共にしている。それがアタシの生きる目的すべて。

 本当はね、こんな場所で貴女アンタの物語になんかに首突っ込んだりしてほしくないの。ましてそれが危険な魔物が相手かもしれないなんて知ったら尚更ね。…どうでもいいの。どうでもいいのよ。ここらの村が全滅しようが、町が消えようが、国が滅亡したってどうだっていい。彼が無事に目的を果たせるならそれでいい。

 だから、アンタが次の言葉でアタシを納得させられなければ、疑わしくても、魔物と確信したならば確実に、アンタを殺す。そしてこの町を出る」

「メイプルお前…」

「さあ、見せてみなさい。聞かせてみなさい。貴女が正しく貴女である証拠」


ピエタは呻きながら俯きもう耳まで真っ赤にして今にも泣き出しそうな顔をしている。

さすがに殺したりはしないだろうが脅すにしてもやりすぎだ。

疑う気持ちは芽生えたままだが、


「おい、メイプルとりあえず――」


その辺で、と言おうとしたその瞬間、


「うぅっ!わかりました!私が魔物でないと証明します!」


そう叫んでピエタは立ち上がり、いきなりのことに面食らった俺たちを置いて酒場の入り口の戸を完全に閉め、真剣な顔で俺たちを睨むようにして振り返った。


「でも、これから起こることは他言無用にお願いします。お二人を信頼してお見せしますので」

「わ、わかったわ」

「お、おう、俺も喋らないよ」


俺たちが頷くのを確認すると、ピエタは俺に近づいて、テーブルの上の袋を取った。


「ジュウゴさん、この袋、ダメにしてしまってもいいですか?」

「あ、ああ。沢山あるし構わないよ。でも何に使うの?」

「ありがとうございます。ではコレをジュウゴさん、手に被せてください。左右どちらでも構いませんから」

「は?ああ、わかった」


布の袋は硬貨を入れるために丈夫で大きく作られている。

丈夫ではあるが俺の力を前にすれば拘束はできないし、なにより二本でも入る多きさに一本じゃ拘束にならない。

とりあえず右手を突っ込んでみる。


「では、その手だけでこの剣を持ってください。そして何かあったらすぐに離して、その袋には触らず捨ててください」


そう言ってピエタはいつも大事そうに抱え、ここまで一度も人前では離さなかったあの青白い鞘の剣を俺に差し出した。


「わ、分かった」


あんなに大事そうに抱えていたから何かがあるとは思ったが、いよいよ本当に何かあるのかもしれない。

とりあえず、手の布越しに、鞘のちょうど乙女の絵の部分を掴む。



いきなりドカン!みたいなのが来るかと一瞬身構えたが、特に何も起こらない。



「なんだ、何も――」


起こらないじゃないか。

そう苦笑する瞬間、突然、布の袋が青い炎に包まれた。


「うぉわぁぁっ!?」

「ジュウゴっ!?」


俺は驚いて後ろに転げ、衝撃の収まらぬうちに慌てて手を振り袋を投げ捨てる。


別に熱くはなかったが、火傷したような感じがして急いで手に息を吹きかけた。


しかし、俺は驚いただけだったが、コレにキレたのはメイプルだった。

ナイフをぶんぶん振り回す。こっちに飛んできそうで怖い。


「ちょっと!アンタなんだかんだ言っておいて、やっぱり殺そうとしたわね!?」

「ひぃっ!ち、違います!この炎は触らなければ燃え移ったりしませんから!」

「そんな問題じゃないわ!魔物かどうかは関係ない。絶対殺す!!」

「ひぃぃぃぃっ!!神様ぁぁっ!!」


酒場のホール内を追いかけるメイプルと、逃げ回るピエタ。

そのピエタの胸にはしっかりとあの剣が抱かれている。

しかし、剣には俺の時のように炎が現れる前兆すらない。


「メイプル!待て!」

「何よ!止めるな!この子は危険なの!」

「いや、待てって!話を最後まで聞いていない!」


ちょうど目の前に来たところをメイプルを後ろから抱きすくめ、拘束する。

お願いだからナイフを振り回さないで欲しい。そのナイフだと俺の体でもさっくり刺さるから。


放せ放せとメイプルは暴れるが、俺の力に敵うわけがなく、ふーっふーっと威嚇しながらどうにか腕の中に納まった。

ピエタもそれを見て、距離を置き止まる。


「ふう…で、ピエタ。今のが何の証拠になるんだい?」

「あ、はい!…その、ここからが他言無用というところなのですが、実はこの剣、持ち主以外の生き物が触れると炎を吐き出して相手をすべて燃やし尽くしてしまう凶暴な剣なんです」


そう言ってチラリと向けられた視線を追うと床の上で先ほどの袋が今まさに完全に燃え尽きる瞬間を迎えていた。炭さえ残さず。床には炎は燃え移っていない。ただ布だけが消えた。


「剣の名は[救済サルヴァサオン]。大昔、現在のプラブドール北西の地に君臨し神と畏れられていた魔物、二匹のつがいの大狼、その雌の血を浴びた神剣。雌の狼は認めざるの触れるを許さず、その高潔さは剣にも現れています。もし、私が”私以外”になったなら先の青い炎が私を焼き殺すでしょう」


他人に触らせると大変なことになる。だから誰かに興味本位で触られぬようにしなければならない。そして、もし、自分がウィスクムに乗っ取られたならその瞬間、あの剣が自分を殺す。

だから彼女はずっと剣を抱きかかえていた。


「メイプルさんの指摘は、すべてが間違いではありません……」


ピエタは俯き、怯えるようにこちらを窺いながら驚くべき言葉を口にする。



「なぜなら私は、その狼の血をこの身に宿す、化け物だからです」


「っ!?」


「なっ…」



俺とメイプルは言葉を失い,

ただ、視線を交わすので精一杯だった。



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