79話
「しゃーない船で釣るのはあきらめよう」
結局転覆して砂浜まで押し戻されてしまった。
エンジン壊れてはなさそうだけど、後でダメにならんと良いが……沖に流されなかっただけましか。
一旦近くの川で体と服を洗わないとだ。
ボートには悪いけど、また湯船に戻っておくれい。
「波飛沫が飛んでくるんよ……」
せっかく洗ったのに塩が吹いちゃうがな。
キャンピングカーを盾にするか……あとは火を起こしてサーキュレータで風をあてておけば服は乾くだろう。
それまでタオル一枚とかほぼ全裸で過ごすことになるが致し方ない。
生憎と着替えは明日の分しか持ってきてないのだ……今更キャンプ地に戻るのは何か負けた気になるにでやめておく。
釣りに関してはちょっと沖に出て大物狙いたかっけど、海岸から仕掛けぶん投げて放置しておくことにした。
鈴をつけておけば当たりがあれば分かるだろう。
しかしなあ。
冬の海岸で全裸でたき火しながら釣りをする男性が一名……令和なら間違いなく通報案件である。
よかった今が戦国時代で。
さ、釣りだ釣り。
せめて今日の夕半分ぐらいは確保したいねえ。
じゃないと夕飯がおにぎり屋とインスタンの味噌汁のみになってしまう。
それはそれで良い? でも釣りに来てそれはちょっと寂しいじゃないか。
だから頑張って釣るのである。
「釣れない」
波が強すぎて常時鈴がチリンチリン鳴っているわ、かといって巻き上げてみても何も食ってない。
試しに1時間ぐらい放置しても、食った形跡すらないとは……このあたりお魚さん全滅してるな。
誰だよジェノサイドかましたの。
「まあこんな日もあるよね」
釣りは諦めた。
こうも荒れた海じゃ釣れる気がしない。
川に行けば釣れるだろうけど、川釣りの気分じゃない……まだ服も乾いていないし、キャンピングカーの中に入ってパソコンでもいじってようかな。
調べたいものもあるしね。
「やっぱ和倉かなあ……加賀のほうにもあるっぽいけど、あっちはちょっと深いんかね? てか加賀のほうには行きたくないからそもそも選択肢に入らんけど」
調べものが何かというと、掘らなくても湧き出ている温泉がどこにあるかだ。
和倉は有名だし、俺も元々知ってはいたけど他にあるかは知らなかったんだよねえ。
一応加賀にも水中から湧き出ている温泉があると言うことは分かった。
でも深いらしくて利用するのは大変そう。
そして何より身の危険を感じるので選択肢からは外れる。
「暇になっちゃったし和倉みてこよっと」
魚釣れないし、服は乾いたし、あとは夕飯までダラダラ過ごすだけでなので、そんなら今のうちに和倉温泉を見てこようと思ったのだ。
一応義総様が整備しているらしいし、キャンピングカーで行けると思うんだよね。たぶんだけど。
「この辺だよなあ……小屋……家? がちょっとあるだけなんですけど?」
とりあえず周囲の山とか海岸の形状から大体の位置を予想して来たけれど、まじで何もないぞ。
一応人は住んでいるみたいだけど、温泉があるのにこの寂れ具合はどうなんだ?
場所間違えたかねえ……。
とりあえずもうちょい移動してみよか。
「ナビが機能してないから位置が分からんのよね……お?」
とりあえず家を避けてなるべく海岸沿いを進んでいると、海面に奇妙なものが見えてきた。なんだろ。
「……あれっぽいな」
遠くに海面からちょろっと円形に並べた石が見える。
そして中心当たりから湯気がのぼっている……これあたりだな。
「これが義総様がつくった奴か。思っていたよりしょぼ……じゃなくて簡素だ」
近付いてみると海岸からちょっと行ったところに井戸っぽいのがある。
まじでそんだけだ。
とりあえず石で囲んで温泉を汲めるようにしたってだけっぽいねえ。




