56話「突撃、隣のなんとか」
「じゃあこっち」
「うむ! そっちだ!」
そんなら逆側の屋敷っぽいのがあたりだろうと指さすと、遊佐さんは力強く頷いた。
あと何か嬉しそう。個人的な恨みとか入ってないよね? これ本当に突っ込んで大丈夫?
まあ、突っ込むんですけどね。
山頂部分は禿山になっているから、もう数十本木をなぎ倒したらあとは崖をのぼるだけである。
のぼった先には城壁やら屋敷があるが、ある程度勢いがあれば問題なくぶちやぶる事は可能。
気になるのは破った先に人がいないかだけど、こう……気配を探るように耳をすませると壁の先に人がいるかどうかが何か分かるんだよね。エンジンやら木をなぎ倒す音でまともに聞こえないはずなのにね。
これも謎パワーの一種だねえ……今も耳をすませば誰かの叫び声が……叫び声?
「あの、壁の上に誰かいて何やら叫んでるんですけど?」
すっげえこっちを指さして叫んでる。
遊佐さんの名前も呼んでるぽいし、これこのまま突っ込んでいいんだろうか……?
てか、突っ込むと壁の上の人を確実に巻き込むよなこれ。
「むぅ……勘付かれたか」
「遊佐様??」
なんか不穏なワードが聞こえた気がするんだが??
城壁の上にいる人、屋敷関係の人か? やっぱこれ個人的な何かあるでしょ絶対。
「壁の手前で止まってくれぬか」
「へい」
さすがに遊佐さんも人が居る城壁に突っ込めとは言えなかったようだ。
とりあえず城壁の手前、ちょっと乗れそうな場所があるからそこで止めようか……と思った時だった。
「あ」
「あ」
思わず出た声が遊佐さんの声と重なる。
ちょっとだけ……ちょっとだけ勢いが余って崖を登り切ったところでキャンピングカーが飛んでしまったのね。
そしてその勢いのまま、少しだけバンパーが城壁に触れてしまう。
ほんのちょっぴりね。
本当にちょっぴりだったんだけど……壁がガラガラと崩れだす。
なんちゅう脆い壁じゃ。
やべえ……どうしようバックして逃げるか?
城壁の上に居た人は……退避して無事っぽいけど。
「御子神様をお連れした! 道を開けよ!」
どうしようと悩んでいたら、いつの間にか遊佐さんがキャンピングカーから降りて城壁の向こうに入り込んでいた。
そして崩れた壁の上からでっけえ声で集まってきた人に威嚇しはじめた。
この人の心臓は鋼で出来るんだろうか。
俺はもう逃げ出したい気持ちでいっぱいだよ。
……でも遊佐さん置いて逃げるわけにもいかんしなあ。
しゃーない、気が重いが俺も降りて顔を出すか。
「重盛殿! これはどういうこと……か」
顔を出した瞬間、顔を真っ赤にしたおっちゃんと目があった。
たぶんさっき城壁の上に居た人だな。くっそ気まずいねえ!
目が合って固まった俺とおっちゃんであるが……どうしようねこれ。
やっぱ逃げようかなあ……とか考えていたら、俺とおっちゃんの間にすっと割り込む人影が。
遊佐さんである。
「どうもこうも確認したはずである。御子神様を城の裏からお連れするが問題ないか、と。その際に壁に多少被害が出ても問題ないとな」
「そ、それは確かに言ったが……だ、だがなぜ我らが屋敷を」
遊佐さん頼りになるぅー!
てか屋敷関係の人というか、もろこの人の屋敷だったんかい。
そんな目の前の人の屋敷にキャンピングカー突っ込ませようとしておいてこの口上とは……やるな遊佐さん。
と、冗談はおいといてだ。
これどうやって収集つけるんだろ。
ちょっと俺引っ込んでおいた方が良い? 野に咲く花のように可愛らしく大人しくしているよ?
「温井殿。その辺りは事前に話あっていたこと……まずは御子神様を案内するのが先であろう」
隠れるタイミングを見計らっていたら、さらに知らない身分高そうな人が登場した。
てかこのおっちゃん温井って言うのね……なんか聞いたことある名前ですねえ?
「うむ! ささ、御子神様。壁の事は気にせず中にいれてくだされ」
身分高そうな人の言葉に乗って、遊佐さんが俺を中の方へ案内しようと……? あ、違うこれキャンピングカーを中に入れろってことか。
ここでちらっとキャンピングカーのほうへ視線を向けるが……うむ。見事に城壁が壊れていてキャブの半分ぐらいが見えている。
ここからキャンピングカーを中にいれるってことはさらに城壁が壊れることになるんですが……ほんとにやっちゃって良いの?
「そこまで壊れていると、途中で止めてもあまり変わらぬかと」
それもそうだ……じゃ、入れるね。
「では、この辺りに停めて貰っても良いだろうか」
「はーい」
エンジンぶいんぶいんと吹かして城壁こじ開けたら、その場に居た人みんながさっと距離をとったのでとりあえず遊佐さんの誘導に従い、キャンピングカーを移動して停車する。
ここは最初に突っ込もうとした屋敷のすぐ隣かな?
ってことはここが遊佐さんの屋敷ということか。
なかなか立派なところに住んでいますなあ……遊佐さんやっぱ身分高い人だったんだねえ。
なんて考えていたら、さっきの知らない身分高そうな人がこちらをちらっと見て頷いたかと思うと、遊佐さんより先んじて屋敷のほうに入っていっちゃった。
おんやあ?
とりあえず遊佐さんと一緒に後を付いていくけど……なんか嫌な予感がする。
「遊佐右衛門尉秀盛です。御子神様の御尊顔を拝し、恐悦至極に存じます」
やっぱこの人絶対遊佐家の当主やんけ!




