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第二十五章 死因

第二十五章 死因


「――お久しぶりです。ラナ姫様」

静かな声だった。

だが、その一言だけで、

空気は張りつめる。

ラナは微笑まない。

「……どういう経緯で、

 うちの旦那と関わったのかしら」

責める口調ではない。

それが、かえって恐ろしい。

マヤは目を伏せ、ゆっくりと言葉を選んだ。

「……あの頃の私は、

 帝国、東帝国、王国――

 あらゆる国から勧誘を受けていました」

「選べなくて……

 心が、限界で」

「毎晩、お酒に逃げていたんです」

静かな告白。

「酔いつぶれていたところを――」

ラナの瞳が細くなる。

「……まるで、

 うちの旦那“だけ”が悪いみたいな言い方ね」

その瞬間。

ラナの身体が、白く発光した。

放電。

弾ける光。

プラズマが八方へと広がる。

――バチバチバチバチッ!!

扉が吹き飛び、

壁が砕け、

空気そのものが焼ける。

だが。

マヤは静かに杖を振った。

展開される――

水の膜。

透明な守り。

プラズマは膜の表面を走り、

地面へと流れ、

霧のように消えていく。

「……効かない?」

ラナの声に、

初めて動揺が混じった。

次の瞬間。

光の先端に浮かぶ無数の刃。

操られたナイフが、雨のように襲いかかる。

しかし――

届かない。

すべて、

水の結界に阻まれる。

膜の内側。

マヤは、静かに弓を構えていた。

水の魔力を纏う矢。

揺らぐ蒼い光。

ラナは――

目を閉じる。

避けない。

その距離、

あと一歩。

その瞬間。

二人の間へ、

一つの影が滑り込んだ。

「――グフッ」

鈍い音。

矢は、

カルディの腹を貫いていた。

静寂。

誰も、動けない。

カルディは血を吐きながら、

かすかに笑った。

「……やはり、君は凄いな」

「この僕に――

 傷をつける人間が、いるとは」

腹には、

致命の風穴。

ラナの悲鳴が裂ける。

「いや……いやあああ!!

 あなた……死なないで……!!」

魔法店主が静かに近づき、

傷を見下ろした。

「……さすがに、

 これは直せないね」

宣告だった。

ラナは震える腕で、

カルディを抱き上げる。

足元もおぼつかないまま、

公邸へと歩き出す。

血の跡だけが、

長く残った。

残された店内。

沈黙。

ドルジが低く問う。

「……どうする?」

店主は肩をすくめた。

「ここでの商売は、

 もう無理だろうね」

「……行き先は?」

「一番の上得意のところさ」

ドルジの目が細まる。

「――アルバのいる、王国か」

店主は答えず、

魔法の鞄を開いた。

次の瞬間。

店そのものが、吸い込まれる。

光も、壁も、路地さえも――

跡形なく。

翌日。

ラナは象兵を率い、

その場所を訪れた。

「……調べなさい」

兵が周囲を探る。

だが。

「――何も、ありません」

店どころか、

魔法路地そのものが消えていた。

ラナは、何も言わない。

ただ長く、

虚空を見つめていた。

その後。

東帝国皇帝カルディの葬儀は、

かつてない規模で執り行われた。

民は涙し、

貴族は頭を垂れ、

国は喪に沈む。

そして――

公表された死因は、ただ一つ。

流行り病。

真実を知る者は、

誰一人として語らなかった。

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