お前はもう死んデレラ(2)(第二章 終)
- Characters -
テッサン:リーダーのオッサン。蓬髪に髭の洒落者。かつて三人が住む集落の長だった。武器は斬鉄木刀。
ヤーボン:武力担当のオッサン。丸坊主に丸首シャツ。かつて戦闘教官だった。武器は超・鉄パイプ。
シマケン:技術担当のオッサン。瘦せ型の白衣。医療とメカを扱える技術超人。車載武器でアシスト。
- Previously -
孤児を集めて静かに生活していた『先生』と子供たちの土地を、半端者の野盗が狙う。
簡単に排除できるはずの三人であったが、『平和と正義の騎士』を名乗る用心棒から思わぬ抵抗に逢う。
だがテッサンの特殊刀は、その世紀末騎士の剣と鎧とを完全に断ち割った。
無法の自由が照らす荒野の、今日という日も終わりに近づいている。
蒼紫色に染まる昏い空の下、小さな廃教会内。
かつて神の居たという、荘厳な陰影の世界で。
非常灯の僅かな光だけが、二人の剣士の決着を照らしていた。
「さて…剣と鎧は壊したが、身体を傷つけてはないはずだ。見逃してやるから、何処へでも」
「黙れ!!平和と正義に支えられたこのわたしが、悪党に屈するかーーッ!」
鎧を剥かれた騎士は、信じ難い行動に出た。
「ん?」
「おい!」
床を蹴り、模擬刀を持ったテッサンに、凄まじい瞬発力で距離を詰めたのだ。
しかし。
「…………」
素拳を頼ったその無防備な特攻の腹部に、芯をとらえたボディブローが、カウンターで収まった。
「油断すんなやテッサン…」
「おぅ。スマンな」
元戦闘教官ヤーボンの確かな判断と能力。
それは無謀な勇気を見せた彼女の意識を、ごく簡単に刈り取っていた。
平和と正義の戦闘少女は、奇妙な声と共に意識の糸を切られ、ようやく停止して床に崩れた。
「方向性が勿体ない根性だのぉ。で――どうすんだコレ」
「いつの間にか、もう一人がいないな」
「あッ?!忘れてた!」
襲撃首謀者にあたる、求婚チンピラの姿がない。どうやら窓から逃げたようだ。
――彼女が用心棒として請け負った仕事は、一応は果たしたことになるワケかな。
シマケンの脳裏にどうでもいい事実認識が生まれ、すぐに吹き去ってゆく。
静寂。
この場は収まった、と言えそうではあるが。
首謀者を逃した以上、この先この廃教会に安寧は考えにくい。
「さて。先生。決断のときだ」
孤児院の責任者に、テッサンが真面目な顔で向き直った。
「此処はもう、長く保つことはできなくなったのは確かだろう。かといって血で血を洗う防衛戦も、アンタたちに向いているとは思えない。――どうだろう」
蓬髪の剣士が、両腕を広げる。
「新天地へ、行ってみないか?」
※※※
「…相変わらず、突然現れるのだな」
銀の総髪に威厳を感じさせる、初老の男。
彼はそう言って、流星号の三人組を迎え入れた。
顔は渋いが、目の奥は苦笑いを湛えている。
それは洞穴というよりも、集落に岩山で蓋をしたような、巨大なドーム状の自然地形。
廃教会から流星号で輸送されてきた子供たちが、珍しげに天井や周囲を見渡している。
――建築の数が増えている。人々の顔も穏やかで活気がある。
順調稼働している地下農場だけでなく、地上の食料畑も見える。
あれから上手く行っているようだ――何よりの状況に、シマケンはやや目を細める。
「ここは託児所ではない…と言いたいところだが、貴様らには一方ならぬ恩がある。何人だろうが、否やとは言わぬよ」
顎を撫でつつそう言ったのは、かつて流星号の手配により築かれた新集落――
『炎鬼洞』と名付けられた、この集落の長。
かつての盗賊団の頭目、ヒャクライである。
「ありがとうございます。畑ならば自分たちで維持できますので、よろしくお願いします」
「『先生』、そんなに頭を下げずとも。子供たちのため、よく決断なさいましたな」
そういってヒャクライは、保護者と握手を交わした。
「貴方の志は御立派だ。家族と思って、集落の一員になって戴ければ幸いです」
「ありがとうございます…!」
「一見ちょいワルのオヤジだが、中身は紳士の人情派だ。強いし、安心していい」
「バカにしているだろうお前…」
テッサンの穿ちすぎた雑な紹介に、ヒャクライの片眉が吊りあがる。
「食料も余裕が出来てきたところだ、新規受け入れは構わないのだが――アレは、なんだ」
「まあ…話せば長くなるが」
二人が見た先にあるのは、コンテナトラックから最後に降ろされた、厳重梱包の『荷物』であった。
「……中年男三人の貨物としては、絵ヅラが最悪だな」
「それはまあ、反論の余地はない」
「お前たち!ここはどこだ!私をどうする気だー!」
誘拐されたかのように縛り上げられた少女は、目隠しと拘束を外した瞬間、三人に襲い掛かってきた。
ヤーボンがため息をつきながらその拳をいなし、再び抑え込みにかかる。
「見た目に騙されないほうがいい。初撃でテッサンとヤーボンは首を飛ばされかけたのだ」
「おぅ。こりゃ猛獣…っつか、レギオンか何かだと思って取り扱った方がいいぜ」
「はーなーせー!!悪党がーー!!」
シマケンの言を、取り押さえに成功したヤーボンが肯定する。
「これは当然の疑問かと思うが…そんなものを、なぜ連れてきた…?」
「『平和と正義のため』、暴力を行使したいと仰せなのだが。いかんせん指針が狂いまくっていてな」
テッサンが、後ろ頭を掻きながら『そんなもの』を見る。
――彼女には、可能性がある気がします。
気絶したサリヨンを見下ろした孤児院の「先生」の言は、三人も同感ではあった。
力は、ある。
もし力の正しい遣い方を覚えれば、どれほどの弱者が助けられるか知れない。
だがここに連れてきたことでその凶暴性と思い込みが改善するかは、未だ誰にも確証はない。
「ま、とりあえずは敗軍の捕虜といったところだ。すまんが少し置いてくれ」
「…まあ、貴様らの管理下ならば、好きにするがいい。おい、誰か」
客人たちに取り急ぎの食事と寝床、集落の案内の手配をしつつ。
ヒャクライはサリヨンが鉄柱に手際よく縛り付けられるのを、複雑な感情で眺めていた。
※※※
「お腹空かないの?」
一人の少年が、後ろ手を鉄柱に縛られた獣に、水と食事を持ってきていた。
サリヨンには見覚えがある。廃教会から移住してきた子供たちの一人だ。
「ぐ…しかし…悪党の施しを受けるワケには…」
言葉では断りつつも、視線を食料に釘付けにされるのは避けられない。
今にも折れそうなプライドが、ギリギリのところで彼女を支えていた。
「どうしてそんなにこだわるの?」
「………わたしの姉は、ある野盗の手にかかって死にました」
サリヨンは縛られたまま、微かに居住まいを正す。
「そして、この世界に平和と正義の必要なことを知ったのです。この時代には、争いの種があまりに多い。それを全て摘み取りたい。そう思いました」
静かな声は、語り続ける。
「やがてわたしはいつしか、平和と正義のためならば、何も恐れず闘える、そんな自分に気付いたのです…昔の話ですが」
「そう…なんだ」
おねえちゃんはきっと、すごく頑張って強くなったんだね、すごいね、と少年は言った。
僅かな沈黙。
今度はサリヨンから口を開く。
「少年…は」
「アンジだよ」
「失礼、サリヨンです。…平和と正義について、アンジさんはどう考えているのですか?」
「ねぇ、サリヨンにはこの集落はどんなふうに見える?」
中央広場が見える場所に縛り付けられたので、集落の様子はよく分かる。
「笑顔。信頼。安心して暮らしているのが分かる。…平和と正義は、このような人たちを守るために必要なものです。そのために野盗のたぐいは、すべて地上から消さなくては」
「ここの人たちはみんな、元野盗なんだってさ」
「は…?」
サリヨンは、縛られたまま眼を見開く。
「ヒャクライのおじさんといろいろ話したよ。お医者さんは是非ほしいから頑張ってほしい、期待してる、って言ってくれた」
「……」
新しい地に移動しても、子供たちは明るく、元気だ。
――思えばこの子たちが平和な古巣を捨てた、その苦罰は何の罪によるものだというのか。
「シマケン先生が、医学の書籍集とデータベース?のGKPをくれたんだ。お医者さんを目指したい人に、コピーを配って歩いているんだって」
「……」
文明時代の有益な情報を収集して配布。その苦役は今日では、並大抵のコストではない。しかも直接の見返りなど見込めない。
「だから僕は将来、本当にお医者さんになれるかもしれないんだよ」
今日よりも、明日の世界のため。
わたしの知る悪党は、絶対にそんなことはしない――しないはずだった。
わたしは一体、何と闘っていたのか。
善悪の区別という、最も簡単なはずのその判断を――誤っていた?
行動。今回の基準は、そもそも何だったか。
それは、平和と正義のためなどではなく。
心地よい勧善懲悪、ただそれだけがあれば…?
いや。考えたくはない。いやだ。
しかし、思考は止まらない。止められない。
わたしは、ただ、戦い勝つためだけに。
『平和と正義』の名目を探すようになっていた――のか?
「僕はここでお世話になって勉強して、大きくなってその分の恩返しをしたいなと思ってるよ」
ねえ、と少年は続ける。
打ちのめされた思いの少女には気付かず。
「おねえちゃんの言ってる『平和』って…悪者の人々も、本当は皆が欲しがってるんじゃないのかな?」
「……人の本質はみな同じ…善悪は…流れ、移り変わる…と…そんなはずは……」
何かが、サリヨンの心の中で動いた。
それは僅かな動きであったが、これまで決して動かなかったものだった。それなのに。
「…その水と食料………いただきます」
アンジの表情が、驚き、すぐに笑顔に変わる。
「それから」
サリヨンは深く息を吸い、内心で叫び続ける己の正義の凶暴性を、一時抑え込む。
「あの三人を呼んできていただけますか」
※※※
「…どういう心境の変化だね。あれは」
「食べた分は働いて返すだけ、だってよ」
微妙な驚きを隠せないヒャクライの問いに、ヤーボンが短い情報を返した。
サリヨンは解き放たれても抵抗の素振りはなく、先生や子供たちと畑作業を黙々と手伝っていた。
「なんだ、空腹に負けただけか」
「いやあ…それだけじゃ、ねぇんじゃねえかな」
ヒャクライを含めた四人の中年は、中央広場近くのテラス席で、リクライニングなチェアに座って悠々とその仕事ぶりを眺めていた。
洞内なのに明るいのは、天井中央部分が大きく開口し、壁面の反射日光が隅々まで届いているためである。元は火山跡なのかもしれない。
日当たりのよい場所を選んでの畑作や通路、日陰は人や機械の居場所。落ち着いて見渡せば、なんとも居心地のよい集落に仕上がりつつある。
ヒャクライの本来の能力なのだろう。
「やる気と進捗はどうなのだね」
「とんでもねぇ勢いだ。取っ組み合ったときもビビったが、ありゃ並みのパワーじゃねぇな」
実は機械動力で動いてるのかもしれんな、とヒャクライが妙な感心をする。
「ふむ。この調子なら、想定していなかった新規の畑が何枚も出来そうだ。これで先生たちの食料は、この先も安定して確保できるかもしれんな」
「キッツイ表情のまんまだが…子供たちは懐いて一緒に作業してんな。ふむ」
団体行動の観察に定評のあるヤーボンがつぶやく。
子供の純粋な眼は、何よりも真実を見抜く。…つまり、そういうことなのだろう。
額に汗して働くサリヨンを、四人はただ眺めていた――そのとき。
「レギオンだ!レギオン発生!警備要員は集合せよ!」
見張りの声、鉄骨を叩く音が、洞内にこだました。
シマケンは反射的に、入口側を見る。
違う、人々が見ているのは入口ではない。――集落の、中央?
「なるほど、空からも来るのか」
呟くようにテッサンが仰ぎ見る。ヤーボンも眩しそうにつられて上を見る。
昆虫型の鋼鉄の殺人機械が三体、洞穴の中央空穴から崖を伝い降りて来ていた。
そのうち一体が、重い音を立てて地上に着地する。
「いや、中央上部からの侵入は珍しいことだ。――時間をかけて洞内に被害が出てもつまらん、わたしが直々に排除しよう」
責任者ヒャクライが、両手に愛用の小手を装着しつつ前に出る。
「火焔放射器で鋼鉄装甲のレギオンを倒せる?」
「金属製の装甲を貫通して、中の電子回路を焼ける。下手な鈍器や銃器より速いぞ」
なるほど、戦車に火炎瓶が有効なのと同じ道理である。
シマケンが納得したのを見て取り、ヒャクライがその装備から炎を吹かせた――その瞬間。
「ふんぬぁぁぁー!!!」
瞬時の二連撃。
農作業用の重い大型スコップでの剣戟が、レギオンの一体の脚関節を瞬く間に破壊していた。
「子供たちは私の後ろに!――わが名はサンドリヨン・ド・スガヌマ!幼き命を、理由なく狙う機械の蟲どもよ――」
使命感と、本物の怒りと。
闘争の快感に酔いしれる、正義の狂気の双眸で。
「――これより平和を執行する!砕け散れ!」
サリヨンが、身体中央に鉄塊削り出しの廃品スコップを立て構え、
機械相手に堂々たる名乗りを上げていた。
※※※
「うらぁ!!」
一体目の頭部を破壊し屠ったサリヨンは、返す刀で二体目に斬りつける。
重量バランスが、おそらくは元々持っていた大剣に近いのだろう。流麗で淀みない動きは、相当な修練が感じられた。
「すごい動きだな…あの重そうな武器で」
「低くて小さな構え。己の喰らい判定を狭めて、敵の攻撃を直線誘導できる、かなり上等な遣り方だよ。よほど大剣でケンカ慣れしてやがるな」
シマケンの素人染みた感想に比べ、腕組みしたヤーボンの評価はさすがに戦闘のプロであった。
「だが静から動へと移るのに、低く締まった姿勢はよほどの速度低下がかかるモンだ。つまりそれを上回る『瞬発力』に自信があるということ…しかも、得物は重たく、長い。――なるほどな、奴の本気の技は」
ヤーボンが呟くように分析する通り、小さくまとまった構えのサリヨンは静かに敵の攻撃を待ち――。
「ィやああああァッ!!」
気合一閃。
目を見開くと同時に、超低姿勢からの超高速の大剣斬りが、レギオンを捕らえた。
「爆発的な、重量大剣による『居合』。当たりの強さは、戦車砲にも匹敵するだろうよ」
ヤーボンの観察は、その超絶破壊力をも冷静に読み取る。
言葉の通り、その一撃は鈍い轟音と共に、昆虫型の胴体を中央で薙ぎ払い。
鋼鉄獣は信じ難くも空中で二つに断ち割られ、その活動を止めたのだった。
ギャラリーの村民たち、子供たちから、驚きと大きな喝采の声が上がる。
「力と技と精神と、三位揃ってなきゃ撃てないシロモノだ。ありゃ大した喧嘩屋だわ」
ヤーボンまでが、手放しに近い称賛の言葉を贈る。
「!」
だが同時に、鉄塊スコップが限界を迎え、折れ曲がっていた。
無刀のサリヨンの背後に、最後の殺人機械が迫る。
だがその刃が届く前に、鋭い模擬刀の打撃が、そのレギオンを下から打ち上げた。
「見事な大剣遣い。昨夜の立ち合い、俺は初見殺しの相性チート武器で助かっていたようだ」
「それはずいぶんと謙虚で大人な発言だな。……喰らえい!」
テッサンの一撃でバランスを崩したレギオンに、彼と位置を入れ替えたヒャクライの垂直正拳突きが炸裂した。
同時に、腕の機構からの業火が宙を焼き払う。
流麗な連撃に内部の電子回路を焼失したそれは、ただの鉄塊と化し、落下して地面に転がった。
「貴様の武器も、レギオンを両断できるのではないのか?」
「部品点数が多い敵だと上手く金属振動しない。制限が多い難物なんだ、こいつは」
他に、動く敵の姿はない。
犠牲者も被害もゼロに留めた、戦闘の達人たちが中央広場に立つのみだった。
「おねぇちゃん、すごい!」
「さすがは長だ!」
「ああ!やはりあの方は別格だぁ!!」
村民と子供たちの一層の歓声が、『炎鬼洞』の内部に谺した。
※※※
「これも焼けた。食えるぞ」
愛用の団扇でコンロを扇いでいたテッサンが、串焼の砂カバ肉を一本持ち上げ、差し出す。
午前の荒野、高い青空の下。
三人と一人が、流星号常載の解凍肉と、肉焼きコンロを囲んでいる。
炭の爆ぜる音、肉と食の煙と香りが、死と廃墟の荒野の僅かな一部分を潤し漂っていた。
「『炎鬼洞』はこの薬草香辛料を交易作物に検討しているそうだ。なかなか旨いな」
「……」
サリヨンがテッサンから無言で串を受け取り、もごもごと食べ始める。
「酒もあるが」
「結構です。未成年なので」
飲みながらのシマケンの誘いは、無下に断られる。
「いつの時代のどこ法律に従ってんだよ?」
「自分の規範です。…それにしても」
串を咥えてのヤーボンの軽口は、瞬時に流される。
「まさか此処に戻されるとは。てっきりあそこに暫く棲まうのかと」
「そこは、思い上がらないで欲しい」
テッサンが静かに言い放つ。
少女と中年の睨み合いに、空気が、やや張り詰めたものに変わる。
「お前はまだ危険物の凶刃で、あそこは俺達の大切な場所だ。だから往復は目隠しまでさせた」
「分かっています。それにしては」
サリヨンは食べ終わった数本目の串をぽいと捨て、廃教会を振り返る。
「水場も畑もついたこの施設を呉れるなどと、ある意味でそれよりも良い待遇ではないですか。どういうことですか?」
「これは先生と子供たちからお前に贈与だとよ。新しい土地を耕してくれた、レギオンから護ってくれた活躍のお返しだと」
「活躍……お返し」
――平和って、悪者の人々も本当は皆が欲しがってるんじゃないかな。
少年の声が、サリヨンの脳裏に蘇る。
「…貴方たちも、本音では『平和』を望んでいるのですか?」
三人が、そう呟いたサリヨンを見る。
「いや?ケンカがなくなったら生きていけんわ」
「平和が好きなら村長に落ち着いてた気がする」
「混沌の時代のほうが、味わい深い人生になる」
「………」
三者三様に、しかし一様に否定されたサリヨンは彼らを半眼で睨みつけ。
やがて、ほぅ、と小さなため息をついた。
「やっぱり貴方たちは、平和と正義の敵ではないですか――」
――わたしを何度も何度も売った、あの姉と同じ。
サリヨンの小声は、荒野の陣風にかき消された。
「さて。スガちゃん」
「誰のことですか」
「……サンマちゃん?」
「更に誰のことですか!サリヨンと呼びなさい!」
テッサンの珍しい弄りに、サリヨンが握った拳を下に伸ばして威嚇がちに抗議する。
「俺たちはそろそろ行くぜ。――少しは賢くなれよ、『剣士』サリヨン」
「偉そうに。貴方たちもあまりワガママが過ぎると、わたしが現れると思いなさい、『テツ』」
テツ。
まあいい、それでいい、とテッサンは静かに笑った。
「それがお前のワガママか」
「そうです。――平和のために、戦争をしましょう。次は」
初見殺しのチート剣術は通じませんよ、とサリヨンはテッサンを指さす。
少しはマシになったな、とテッサンは目を細めて呟く。
「ヤーボン!」
「あいよぉ!」
男たちが、短く声を掛け合った瞬間。
丸刈りの男の太腕が、流星号から引きずり出し、ブン投げた鉄塊が宙を舞った。
それはサリヨンの横の砂地に、豪快に突き刺さる。
――彼女にとって何よりも見覚えのある、それは。
「わたしの剣……!?なぜ!?」
「炎鬼洞は工作機械もいろいろ増やしてるからな。シマケンが修繕をさせてもらった」
綺麗な傷だったので思ったより上手く直った、と白衣の男が言った。
「硬度はきちんと回復しているはずだ」
「いいのですか?敵に塩を贈るような真似を。…ああ…」
睨みつけてはみたが、剣を持ち上げたとき思わず感動の声が漏れてしまった。
手折られた痕は何も見えない。手慣れた重さ、ほぼ完全にかつてのままだ。
「ここはこれから様々な野盗に、レギオンに狙われるだろう」
テッサンが、作物の残る畑を、そして廃教会を見る。
「お前の望む『平和』。それが空虚な言葉だけでなく、実現出来るというならやってみろ。…じゃあ、またな」
言いながら、テッサンは――三人は、流星号へと乗り込み。
その大型のトレーラートラックはエンジンを轟かし、荒野の果てへと、去った。
「――望むところ。此処を中心に半径百キロ圏内を、沈黙に鎮めてみせましょう」
この剣と共に。
改めて愛剣を見たサリヨンは、ふとそれに気づいた。
「ふ……ふふふ。ふふ…」
皮肉か、応援か。あるいは絶縁宣言か。
贈られた言葉に籠められたその思いは、もはや伺い知れない。が。
「ははは、あっはははは!!!」
サリヨンは己を、世界を、憐れみ嗤わずには居られなかった。
青空に、廃教会に、無垢で狂った笑いが、響く。
『戦争反対』。
彼女が手にした暴力の結晶には、共通語でその文字列が、新たに、堂々と彫り込まれていたのだった。
(FIN.)
お読みいただきありがとうございました。次回は第三群を書きたいと思っています。
本当にほぼオッサンか狂人しか出ないシリーズになりましたが、書いてるぶんには楽しかったです。




