表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/102

2-20


 準備にお金がかかってしまった。

 この先は基本的に山ということで防寒対策。

 外套は着ているが、中に着る物を買う。



「慣れれば大した事ないんだけね」

「それ、ヴァネッサだけでしょ。私、寒いの苦手だし」



 竹製の水筒。

 程々の町以上ならあるがこの先は分からない。

 確保できる時に汲んでおけるように購入。

 そして食料の確保も不明のため、日持ちする食べ物を買っておく。

 硬く焼いて乾燥させたパン、干し肉、ドライフルーツ。

「この硬いパンはどうやって食べればいい?」

 普通に噛み付いたら歯が折れそう。

「ナイフとかで小さく砕いて、食べるんや。水と一緒にな。意外と水で増えるさかい、ぎょうさん食ったらあかんで」

 

「買いすぎてもうた?これ全部鞄にはいるか?」

「大丈夫」

 鞄には余裕がある。

 例え一杯になっても、マリーダさんから教わった フロシキ なる便利な物がある。

 正方形の大きな綿製の布。これで物を包んで端をしばり、手に持ったり鞄にくくりつけたりする。

 包み方、縛り方が多種ある。これはあくまで予備。

 食料については減っていくだろうし、重さ自体は魔法でどうにでもなから、憂慮していない。


「これを忘れたらあかん」

 何かと思えば…。

「数量限定パイ!」

「これは美味しかった」

「せやろ?」

 パイを二つ購入。

「二つも食うんか?」

「ええ…まあ…」

 実は違う。


 お爺さんと合流。

 彼も必要な物を買い荷台に積んでいた。

 私も乗り込む。

「さあ、行くぞい」

「はい」

「じゃあ、ここでな。気ぃつけえや」

「ええ…またいつか」

「そうやな」

 アスカの目が潤んでいるように見えたのは、私の錯覚か?。 

 荷馬車が動き出し、アスカが離れて行く…。 


 アスカと別れ、北へ進む。

 道は少し東寄りで、海岸から離れる形になる。

「パイです。よかったら」

「おー、ありがとな。帰ってから、ばあさんと食うからその辺の袋に入れておいてくれ」

 そう言われたので、パイが入った包みを袋に入れた。

 私は自分のパイを口に運ぶ。


「なかなか便利な魔法じゃな」

「はい」

 軽くなった荷台にお爺さんが喜んでくれている。

「ですが、私が離れると効果はなくなっていきます」

「うーむ、それは残念だな」

 そういうが表情は笑顔のままだ。


 昼を過ぎた頃、分かれ道が現れる。

 北へ行く道と東へ行く道。東はお爺さんが住む村がある。

 荷馬車を止めてもらい荷台から降りる。

「ありがとうございました」

「気をつけてな」

「はい」

 お爺さんと別れ、北へ。


 この先は小高い山を東側から迂回する道になっている。

 迂回して少し北へ行くとポロッサである。


 道の東側にかなり大きな森が見え、その手前に村が点在している。

 

 意外と荷馬車が行き交っているの印象的。

 声をかけたものの、乗せてくれる人はいない。

 皆急ぎ走り去っていく。


 雨が振ると辛かった。

 雨自体は魔法で防いげたのでまだいいが、道がぬかるむ。

 

 本筋の道から外れるが、村へよると納屋、物置を貸してくれる所が多かったのは助かった。

 とはいえ、野宿をしなかったわけない。



「したんだ…賊は?」

「いたと思います」

「いるのに野宿?寝れる?」

「いや、さすがに寝れないでしょ?」

「ええ。うたた寝ぐらいしかできない」

 ちょっとした物音で目が覚めてしまう。



 何はともあれ、ポロッサには着いた。

 ポロッサは意外に大きな町というが私の印象。

 もっとこじんまりとした所かと思っていた。



「うん、僕も最初はそう思ったよ」

「どうしてかしらね。あんなに賑わっているなんて。回りは小さな農村ばかりなのに」

「帝国に行くには北の検問所を通らないといけないからだと思うよ」



 王国と帝国を行き来する場合、北にある検問所を使う者が多い。

 検問所とリカシィを結ぶルートは、南へ行って王都経由で行くか、西に行って大きな森の北側を通ってポロッサを経由して行く、方法がある。

 他にも王国中央部の穀倉地帯を抜ける方法もある。



「…だからポロッサが多少賑わってるんだよね」

「そうなんだ。三つのルート、どれがいいの?」

「どれがいいかは、個人、隊商よるかな。早く行きたいなら穀倉地帯と抜けるのがいい。一番距離が短いし。王都へ寄って商売しながらとか、仕入れなんかしたい人は王都経由で。ポロッサは距離は中間かな…でも…」

 ポロッサとリカシィの間に泊まれる所がないので不便だという。

「納屋や物置、倉庫を貸してくれる人がいるから、まだいいけどね」 

「じゃあポロッサとリカシィの間に、宿屋を作れば儲かるんじゃない?」

「どうかな…冬は北側のルートを使う人は減るから…やれなくはない思うけど」

「わざわざ宿作るほどの事じゃないってことかい?」

「だね。儲かる見込みがあるなら、とっくに誰かやってるよ」 

 ウィル様は肩をすくめる。

「あんたは全部のルート通ったことあんの?」

「あるよ」

「ウィルはどれがいいとかあるの?」 

「僕は特にないかな」



 ポロッサからシュナイツまでについて情報収集したが、あまり集まらず、 勾配が少し急になる、くらいだった。

 実際に行ったという人は少ないし、行く事もほぼないという。

 当然ながら、ここからは一人歩きである。

 

 歩きならば、朝出発しても着くのは夜だろうとの情報から事前準備をしっかりとしなければならない。私自身の心の準備も含めて。


 宿の部屋で荷物整理。

 保存食はほぼ食べきっているので、スペースができた。

 残っている分は明日中に食べればいい。

 お金は残っているが、明日の食事分でなくなるか?…。

「若干足りない?…いや」

 保存食は一食分はあるからこれを夕食して、朝と昼の分を買えばいいか。

 

 翌朝、朝食昼食を買い込み、水筒に水を汲む。

 朝食として買った少し甘めのパンを齧りながら、シュナイツへと出発した。


 シュナイツへは川沿いの道を行くことになる。

 この川は シュナイツの北を東から西へ流れている。そしてポロッサの北を通り、海へ流れていく。

 川幅は狭くなく水量も多くはないように見えるが。勾配のせいで流れは早い

 川岸には草が生い茂っている。


 道は川の南側ある。

 シュナイツに行く場合、右手に深い山を見ながら軽く右へ曲がる道である。

 

 食事と休憩を挟みながら、道を進む。

「はあ…はあ…」

 歩き続けるが、風景があまり変わりない。

 右に曲がる道が続いている。

 

 水筒の水がなくなったが、川が近いので助かった。

 川で水を汲んでさらに進む。 

 昼を過ぎて夕方。

 少しづつ暗くなっていく…。


 やがて日が落ちて、夜となる。

 杖を発光させ、足元を照らしながら歩き続けた。

 そして、やっと少しずつ道が平坦になってきた。

 

 右手にいくつかの光が見えた。

 あれは火。松明か…。

 しかし、様子が変だ。

 こんな夜に何の作業をしているのか。


 注視しつつ、近づく。

 近づくと状況が見えてきた。

 

 私の目の前には家々が並んでいる。

 多分これは一般領民のものと思われる。

 その向こうに壁、防壁だろうその後ろに大きな館がうっすらと見えた。

 防壁に向かって、たいまつを持ち大声をはりあげている人たち。

 防壁の上からも大声をはりあげている。

 それに全員が剣や槍、斧等で武装していた。


「さっさと消えろ!怪我したくねえだろ!」

「怪我が怖くてやってやれるかよ!。そっちこそビビってんのじゃねーぞ!

 売り言葉に買い言葉。

 怒号が飛び交っている。


「これは…もしかして?」



「襲撃の真っ最中だったんだよ…」 

「そんな時に…」



 私は慌てて、杖の発光を止め家の影に隠れた。

 どうしよう…。

 この状況…どうすべきか…。

 私にとっては、予想外の出来事だった。

 いや、よく考えれば予想できたことだが…。


 多分、壁の手前にいるのが賊だろう。

 それを避けて行かなければならない。

 

 ここに居ても見つかってしまう可能性は高い。

 急いで判断しなけばならなかった。 

 

Copyright(C)2020-橘 シン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ