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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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13/102

1-12


「あんたたちどんだけ親と仲悪いのよ…」

 そうエデルたちに声をかけたのは、髪が短いめの女性。レベッカだ。

「アタシはちゃんと話あって…」

「ベッキー、まずはウィル様にご挨拶を。ナミも」

「え、あっ、はい」

 二人と挨拶を交わし、握手をする。

 ベッキー(レベッカが本名だがベッキーで構わないといってくれた)とナミは親友同士で、西の国シファーレンから来た。

 ベッキーは髪が短め、活発そうな女性。ナミは長めの髪を後ろでまとめてる。

「え?、シファーレンから?でもシファーレンには…」

「言いたいことはわかります。魔法士を目指しているのに何故、ここに来たのか?ですよね?その訳はすでに説明されてまして…」

 二人もリサたち同様、最近魔法士を目指したため、魔法学校には入れなかった。

「都まで行ったのに、すべて門前払いでした…」

 少しおっとりとナミが話す。

 二人はシファーレンの都で門前払いにあった後、その都の南ある港から船に乗りセレスティア王国の西にある港に着く。

 その港町でシュナイツの張り紙を見て、ここに来たのだった。

「何がムカつくって、全員が見下した態度!」

 ベッキーはかなり頭にきてるようだ。

「実際、下だろ?俺もだけど」

「そうだけど、もう少し、こっちの気持ちを考えてくれてもいいじゃない?」

「魔法士にはエリート意識の強い者が多くいる」

「あんたは違うよね?」

 ヴァネッサの問にエレナが小さく頷く。

「自分の事をエリートなんて思った事はない。そもそも以前の私は、他の魔法士に興味がなかったから、上とか下とか、どうでもよかった。」

「今は?」

「今は…」

 エレナは隊員たちを見つめる。

「今は、どうでもいいという状況ではなくなってしまった。自分の事以外にやらなければいけない事が多くなって、正直戸惑っている…」

「今の自分自身の状況に戸惑っているは僕も同じだよ」

 エレナの言葉の僕はそう返した。

「戸惑っているようには見えません」

「そう見えるのは、覚悟を決めたからだと思う。状況に慣れるのとはまた別な気がするよ」

 覚悟を決めたと自分自身に言い聞かせる。

「覚悟…」

 エレナはそうつぶやくと黙ってしまった。

「エレナだって、できてるさ」

 ヴァネッサがエレナの肩を掴む。

「あたしもできてます!」

 ベッキーが右手を上に伸ばし、そう話す。

「聞いてねぇよ…」

「ベッキーとわたしは、五年という条件付きで故郷を出て来たんです。なので覚悟というか気合い?を入れて、何かしら成果を出さなければいけなくて…」

 五年…。長いようで短いんだよね…。

「ここに来て何年?」

「二年とちょっとだよね?」

「うん、そう」

 二年で成長したのか、エレナに訊いてみた。

「個人差はあれど、ここに来た当初よりは成長しています」

「あのー、わたしは成長してる気が全くしないんですが…」

 ナミは小さく手を上げ、そう話す。

「あたなも成長はしているけど、他の四人より、遅れていることは否めない」

「そうですよね…」

「ナミ、大丈夫よ。大器晩成なんて言葉もあるし、一気に成長するかもしれない。がんばろう?」

 ベッキーはナミを元気づけるように言葉をかける。

「うん、ありがとう…」

「成長速度に個人差があるのは、あたしたちも同じだよ。自分と他人を比べる暇があったら、あんた自身ができる事をやりな。その努力は無駄じゃないから」

 ヴァネッサの気遣いにナミは大きく頷く。

「はい」

「成果がでなくたって、帰る必要なんかないわ。ここにいればいいのよ」

 連れ戻しに来るわけじゃないし、とリアンは言う。

 確かに距離的に可能性はかなり低い。

「期限決めたのは心配してるからじゃないかな?手紙は送ってるんだよね?」

 二人は頷く。魔法士になりたいからと、外国になんの心配もなく二つ返事で送り出す親はそうはいない。

「そもそも成果って具体的にどういう事を指すのよ?」

 リアンはエレナに訊く。

「限界突破が目標」

 エレナの言葉に隊員たちからため息が漏れる。

「僕たちにできるのでしょうか?…」

「それはあなた達しだい、としか言えない。それに個人差もある」

 訓練を続ける事が重要と、説明する。

「今は限界突破の事は考えなくていい」

 と言われると余計気になるのが人だ。

「あんた達はやらなきゃいけない事はわかってるんだから、いい事だよ。あたしは竜騎士になったばかり頃は、何をしていいか分からなくてね」

「ヴァネッサ隊長にもそんな時期あったんですか?」

 エデルが意外そうに話す。

「もちろん。あたしだけじゃない。だいたい最初につまづくのが竜の操作」

「馬と同じでしょ?手綱があるし」

「それは誰でもできるの」

 リアンの言葉にヴァネッサは腰に手を当てる。

「あたしらは竜の上で剣を振り回す。振り回しながらいちいち手綱なんか使ってたら、隙ができる。そうならないように手綱を使わないで、竜を操作できるようにならないといけないの」

 ここでヴァネッサがふうっと息を吐く。

 そういえば、さっきレスターが注意していた

「これがなかなか難しくてね…今は全然余裕だけど」

「ミレイはできてるじゃない」

あれは例外だから、と肩をすくめる。

「その頃のあたしは竜の扱いでちょっと遅れてたから、あんた達の気持ちはわかるよ」

 と隊員達をみる。

「うまく扱えるようになったきっかけってあるんですか?」

「いっぱい訓練したんじゃない?」

 ナミとベッキーのヴァネッサが頷く。

「もちろん、訓練したよ。でも、思い通りに竜が動いてくれなくてね。教官や先輩に相談したりもした」

「シュナイダー様には?」

 僕の問に彼女は首を横に振る。

「竜の扱いを教えてもらった事はない。これはあたしだけじゃないよ」

 そうなのか…。

 竜にも人と同じように個性があり、扱い方は竜騎士それぞれ違うそうだ。基本的な動きは教える事はできるが、さらに自分の思い通りに竜を扱えるようにするのは竜騎士個人しだいだという。

「魔法と似てる」

 エレナの言葉にヴァネッサが、そうだねと頷く。

「竜は自分を写す鏡とか、色々聞かされて…それであたしなりにどうすればいいか、必死に考えてやったのが…」


「竜と一晩添い寝した」


 ヴァネッサの言葉に皆が驚き、絶句する。

「ここ笑う所なんだけど…」

「いやいや、笑えませんよ…竜ですよ」

 エデルが竜騎士隊の方を見ながら言う

「なんでまた添い寝なんか…」

「竜と仲良くなろうって思ってね。別に仲が悪いわけじゃないんだけど、もっと近づこうと」

「それで添い寝?そんなので仲良くなれるの?」

 リアンの言葉にヴァネッサは苦笑いを浮かべる。

「さあね。分からないけど、あたしはしてよかったと思ってる」

 添い寝をするとなった時、周囲から笑われたそうだ。

「シュナイダー様も?」

「いや、笑ってなかったね。大笑いするんじゃないかと思ったけど」

「それで、添い寝で何か変わった?一緒に寝たで効果あるとは思えないけど」

「黙って一緒にいたわけじゃないよ。話をしたんだ。いや話すというかあたしが一方的に話しかけてたんだよ」

「何を話したの?」

 そう訊くリアンに、秘密だよとヴァネッサが言うが。

「あたしは竜騎士として一人前なりたいから、よろしく頼むよって。まあ、そんな感じ」

「何か変わった?」

 変わったよと彼女は笑顔で頷いた。

「みんな、びっくりしてたよ。あたし自身もびっくりさ。なんの違和感なく竜が動いてくれる」

 突拍子もないことが、きっかけで劇的に変わることがある。

 ヴァネッサの場合、竜と一緒に寝る(そして話す)という一見、馬鹿げてる事が竜との仲が深まるきっかけになった。

「ヴァネッサ。あなたは自分が置かれいる状況を的確に把握して、それを変えようと考え行動している」

「エレナ?」

「私は自分が置かれいる状況が把握してるけど、そこからどうすべきか分からない…」

「分からない事が分かっているなら、まだ大丈夫。あんたが考える事をやめなければ、分かるようになると思うよ」

 僕にはなんの話かはわからないが、エレナが何かに悩んでいるようだ。

「こんな所で話すんじゃないよ…」

「申し訳無い」

 そう謝る彼女にヴァネッサは笑顔で話しかける。

「そんな事より、魔法をウィルに見せてやってよ」

「そうだね、よろしく頼む。こんな近くで見るのは初めてだし楽しみだよ」

「大した物では…」

「いいから、準備しな」

 分かったと言って、僕たちから離れていく。

 エレナは宿舎と館の間にしゃがみ込んで何かをやっている。

「あんた達にちょっと訊きたい事があるんだけど…」

 ヴァネッサが声を潜め、隊員達に話しけた。

「あたしたちがあんた達の所に来るまで時間が結構あったけど、エレナと話ししてた?」

「話しって?…特に」

「魔法力の使い方に少し助言はいただきましたけど…基本無口な方ですよね」

 エデルとナミがそう話す。

「それだけ?」

「世間話というか雑談的な。いい天気ねとか、今日は寒いねとかしないの?」

 リアンの問に隊員達は苦笑いを返す。

「ええ、か、そうね。だけで終わっちゃいます」

「特にプライベートな事については一切話しませんね」

「前に兄弟や姉妹はないんですかって訊いた時めっちゃ怖かった…眉間に皺よせて」

 個人的な事を聞かれたくない人はいるが…。

「そう…分かった」

 ヴァネッサが、今の話しエレナには言うんじゃないよ。っと言ったところで、向こういるエレナが立ち上がった。

 と、同時に地面が盛りはじめる。

「地面が…」

 エレナが両手を広げ、上に上げていく。すると盛り上がった地面が壁となり、さらに迫り上がっていく。

 足の裏に少しだけ振動を感じる。

 壁はエレナの身長を越える高さで止まった。ヴァネッサいや、ガルドと同じくらいだろうか。

「あんた達もあれできるの?」

「できないすね…」

「そもそも教えてもらってません」

 隊員達にはできない魔法みたいだ。

 

 エレナは出来上がった土壁に片手を置く。するとその手を中心に円や四角、三角そして直線や曲線など複雑に組み合わさった幾何学模様が広がり、すぐに消えた。

 彼女がこちらに戻ってくる。

「お待たせしました」

「うん。…で、あれは?」

「あれは的です。あれに向かって魔法を放ちます」

「大丈夫かな?跳ね返って来ない?」

 僕の心配にエレナが首を横に振る。

「障壁魔法を施してあるので、心配ありません」

 障壁…攻撃魔法を無効化する、だったね。

「ここにいる五人が全力を出してもあの壁は破壊できません」

 そんなにすごいものなら、それでここを囲っちゃいましょうよ、とリアンが言う。

「それはおすすめしません。魔法に対しては強力ですが、その他の力には無力です。あれはただ土を固めただけですから」

「万能な物は作れないの?」

 ヴァネッサの言葉に、作れるがそれもおすすめしないと彼女は話す。

「私が死んで魔法力が消えると、作成したものは崩れ去ってしまう…」

「なるほどね…そううまくは行かないか」

 彼女は苦笑いを浮かべる。


「では始めます。…リサ、ここ立って」

「え?わたしがやるんですか?」

「訓練も兼ねている」

 リサは納得したようで、壁(的)が正面になる位置に立つ。

 僕たちはそれを横から見える所に移動した。

「…それじゃ、始めます」

 彼女は右腕を伸ばし手の平を壁に向け、左手で杖の先端を右掌のすぐ前にもってくる。

 杖の先端が鈍く光り始めのと同時に、火球が杖の先端の前に現れた。

 火球が拳くらいの大きさになった時、リサが押し出す仕草をすると火球が壁にまっすぐ飛んでいく。そして火球は壁に当り霧散する。

「おお…」

 と、声が出てしまった。

 そのまま続けて、とエレナが指示する。

 リサは先ほど同じように火球を作り、飛ばしていく。

「あの魔法、火球はどうやって作り出しいるのかな?」

「分かりやすく言うと、使いたい魔法のイメージを、魔法力を使い具現化しています」

 分かりやすく?…

「魔法力で具現化?…」

「分かんないよ、あんたたちには」

 ヴァネッサは自身は分かっている口ぶりだ。

「君は分かるの?」

「まあね」

 ヴァネッサがニヤリと笑う。彼女は魔法は使えない。

 分からないのは当然だが、いともたやすくやっているのを見ると不思議でしょうがない。

「物すごい魔法を想像すれば、物すごい魔法が使えるの?」

 リアンの問にエレナは首を横にふる。

「残念ながら物すごい魔法を使うには、物すごい魔法力が必要になります。魔法力が足りなければ、具現化せず発動しません」

「そう…バランスが大事なのね」

「そのとおりです」

 エレナが頷く。

「みんな…杖でいいのかな?を持っているんだけど、それを使わないと魔法は使えない?」

「いいえ、なくても魔法は使えます。杖には魔法力の安定化させる特殊な模様を彫り込んであるのです」

 エレナが自分の杖を見せてくれた。

 うん、確かに縦横に複雑は模様が彫り込んである。

「へえ」

 杖の長さ、太さに基準はないと言う。 

 彫りを入れるため、木製(丈夫で硬い物がいいらしい)で、自分で彫りを入れる。

「そう、硬い木ならたいへんだろう?」

「たいへんですが、自分の杖を作る。その作業工程が大事なのだ、と。そう先生から教えられました…よく分からないですが…」

 彼女は自分の杖を見ながら話す。

「杖って一本だけ?何本も作っちゃだめなの?」

「だめという事はありません。基本一本で事足ります。折れたりした場合の時に予備を作っても構いません」

 リアンにそう話す。

「あんたはどうなの?今持ってるの、使い込んだ感じだけど」

「これは最初に作った物。他に二本作った事がある。だけど、これが一番しっくりくる。馴染んでいる気がする」

「じゃあ、他のはボツ?」

 エレナはそうではないと言う。

「他の二本は一本目より、うまく綺麗に作れる事ができた。だからボツという事ではない」

「最初に作ったから、思い入れがあるんだよ、きっと」

 僕の言葉にかもしれませんと小さく頷いた。

「あたしも最初に作った剣は、まだ持ってるね」

「え?竜騎士も自分で?まさか鍛冶もこなすとか?」

「自分でって、そういう意味はじゃないよ。実際作るのは鍛冶屋だよ。費用はこっち持ちだから」

「そうだよね、ははは」

 竜騎士の剣は個々人によって違うという。

「普通の剣より若干長いのは皆同じだけど、細くしたり太くしたりとかね。重心も違う」

 剣術は個々人のよって、剣の構え方や振り方、防御等が微妙と違うとか。体術に似ている。

 そのため、それに合わせ剣を作る。

「あ!そうそう、面白い杖をもってるヤツがいるんだよ。杖と剣の話で思い出した」

「ああ、あれは彼らしい独特な杖」

 ヴァネッサに言葉にエレナが頷く。

 ヴァネッサはエデルを呼び寄せた。

 彼の杖が変りもので面白いらしい。

「あんたの魔法の杖、見せてやってよ」

「いいですよ」

 彼が見せてくれた、杖。

 普通の杖にしか見えないけど…。しいていえば、長い事か。彼以外の杖は下腕程度の長さ。

 エデルのは立てれば、僕の腰くらい。太さはあまり変わりない、手首より細い。

「長いくらいで特に面白い要素はないさそうだけど。他のみんなの杖より長いけど、彼は左足に怪我をしているし、これくらいの長さの杖はむしろ普通じゃないかな」

 魔法の杖ではなく、通常の杖と両方を兼ねていると僕は思った。

「ウィル様の言う通り、通常の杖も兼ねてます。これには仕掛け、いや仕込んであるんです」

「仕込んてある?」

 彼は杖の四分の一くらいの所を両手で捻った。切れ目が見える。

「え?」

 切れ目を境にゆっくりと両手で杖を引いていく。中身がきらりと光った。

「これは…まさか、剣?」

「そうです」

 仕込み杖だった。エレナの彼らしいとは、(元剣士の)彼らしいという意味。

 ヴァネッサは彼から杖を借り、剣を引き抜いた。

「細身で両刃、ガードのないレイピアか、スモールソードだよね」

 何故か笑顔で話す。

「これは特注?」

「いえ、店で売ってました」

 彼によれば、護身用に丈夫な杖を探していたという。魔法士なるために故郷を出たばかりだったとか。

「短剣は持っていたんですが、杖は道に落ちていた枝だったので…」

 彼はヴァネッサから杖を受け取る。

「槍でもよかったんじゃないの」

「槍だと取り回し良くなくて…覗いた露天でこれを見つけたんです。丈夫で振り回せる丁度いいながさ、で比較的重い。重いのは仕込みだからなんですが、その時は知りませんでした。で値札に700と」

「700?普通の杖なら高すぎる」

「おれもそう思いました」

 宝石が埋め込まれていたり、綺麗な彫りが施されているなら分かるが、彼の杖にはそんなものはない。エレナが言った、魔法を安定化させる彫りはあるが、これはエデル本人がしたものだろう。

「仕込み杖なら…どうだろうね。妥当かな。あたしなら剣を買うけど、あんたはね…」

 ヴァネッサがそう話す。

「うん。君がこれを持ってるという事は買ったと?」

「ええ…なんとか500まで値切りましたけど」

 彼は仕込み杖と聞いて、どうしても欲しくなったとか。その後の旅費について悩むことなるが、それは別の話し。

「俺的には気に入っています」

「なんで、魔法士が剣を持つのよ…」

 エデルの後ろから、そう声を掛けたのはベッキーだ。

「だから、俺的に、つってんじゃねえか。お前には関係ないだろ」

「保険って事でしょ?。予備にもう一本、剣を背負う奴もいるからね。あたしだって短剣くらいは予備に持つよ」

「ヴァネッサ隊長が剣を持つのは、全然変じゃないです。むしろ普通。でも、あたしたちは魔法士だし。それにエデルのは、短剣じゃくてガチ剣ですよ」

「…うるせぇな」

「魔法を扱うのに支障がなければ、特に制限や規則はない」

「だとよ」

「…」 

 エレナの言葉にベッキーは納得いってない様子。

「でも…」

 とベッキーが話しかけた時、バン!と大きな音がした。

 

「痛っ…」

 リサが右手を押さえしゃがみ込んでいる。

 リアンがびっくりした様子で僕の袖を掴んでいた。僕の視線に気づきすぐに離す。

 魔法を見せてもらうはずだったが、エデルとの会話に夢中で見ていなかった…。

「大丈夫かい?リサ」

 ウェインが素早く駆け寄る。リサが落とした杖を拾い、痛めた手を見る。

「だ、大丈夫。たまにやっちゃうのよね、わたし…」

 そう言って、あはは…とから笑いをする。

「集中していない証拠。適切に魔法力を使わないと暴発する」

「すみません」

 リサは頭を垂れる。

「下がってろ。今度は俺がやる」

 リサがウェインに手を引かれ下がり、エデルに交代した。

 リサと同じような構えだが、杖を地面につけ、立てている。

 彼の前に作り出した物は、透明な球体。一見、ガラス球のようだが柔らかそうだ。波打っている

「あれは?…」  

「水です」

 なるほど、水か。

 魔法で作り出した水球が壁へと飛んでいき、ぶつかり弾ける。それを繰り返す。

「火球もそうだけど、あんなのがいくつも飛んできたら、いやだな…」

「そりゃ、嫌だろうね」

「戦闘時、魔法を使う事はあまりない」

「ああ、そうなんだ…」

 ヴァネッサは小さくため息を吐く。

「魔法は威力が高すぎるんだよ。それに魔法に頼り過ぎるのも良くない」

「調整はいくらでも効く」

「あんたがよぼよぼの婆さんなっても、できるの?リサみたいに怪我されたら、たまったもんじゃない。あんた一人が怪我するならまだしも、周りに被害が出たらどうすんの?」

「被害が出ないよう十分に注意し、配慮する」

「あんたの様な優秀な魔法士を前線に出して、矢一つであっさり失うなんて事は絶対にさせたくないんだよ」

「私は役に立ちだけ」

 エレナはヴァネッサを見つめ…睨んでるようだ。

 ヴァネッサもその視線を正面から受け止める。

「これでは研究所にいた時と変わらない。居候でしかない」

「居候…まだ、そんな事…あんたはシュナイツの人間だよ。あんたはいつまでそう思ってんの?あたしは魔法が嫌いなわけじゃない。使うべき時に使ってる。そうでしょ?なのに…」

「もういい加減してよ」

 リアンが二人の会話に割って入った。

「何回目?その話」

 何回目?過去にも同じ話があったのか?

 エデルは訓練を止め、こちらを見ている。

「エレナに言いなよ」

「あなたもエレナにそう思わせないように、しなきゃいけないんじゃないの?」

「あたしが悪いの?」

「二人ともよ」

 そう言うとため息をはき、黙って聞いていたリサ達に声をかけた。

「リサ、手は大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

「そう。ウェイン、あなたいつまでリサの手握ってるの?」

「え?あ…はい…」

 ウェインがゆっくりとリサの手を離す。

 リアンが僕を含め、周囲を見回した。

「私、執務室に戻ってる。エデル、訓練がんばってちょうだい」

「はい…」

 リアンが一人で館へ帰っていく。


「喧嘩は誰もいない所でやるべきなんじゃないかな」

「そういうんじゃ…」

「ヴァネッサがそう思わなくても、周りから見れば仲違いしてるようにしか見えないよ」

 そんな所を見せるのは良くないんじゃないか?と声を潜めて言った。

「…確かに、あんたのいうとおりだよ。気をつけなきゃね」

「私も自重する」


 エデルに代わり、ベッキーが訓練を始める。

「えいっ」

 と言って放った火球が、少し上向きに飛んでいく。

 このまま飛んで行くと、壁を越えてしまうのでは…向こう側が館だ。

「あ…やっば!」

「はあ…」

 エレナが火球が飛んでいった方へ手を差し出す。すると、彼女の手から水球が飛び出し火球を追いかける様に飛んで、火球を消してしまった。

「おいおい、あんなでかい的、外すか普通?」

「…」

「さっきはわたしに向かってちゃんと放ってたじゃない」

「…」

「緊張してる?肩の力を抜いたほうがいいよ」

「…」

「ベッキーは張り切り過ぎると実力が出ないタイプなんですよ。ヴァネッサ隊長とウィル様にいい所、見せたかっただけで、つ、次は大丈夫だと思います…たぶん…」

「…」

「館を燃やす気?勘弁してよ…」

 なんともひどい言われよう…。

「ちょーっと失敗したくらいで、なんなのよ!みんなして。当てればいんでしょ、当てれば!だったら…」

 と、言って火球を作り出す。作り出した火球がどんどん大きくなる。

 今度の火球はさっきよりも倍以上も大きい。かなり熱さを感じる。

「行けええ!」

 叫び声とともに火球が飛んでいく。そして壁にぶつかり、霧散する。

「はあ…はあ…どうよ?」

 パチパチパチ

 ナミ一人だけが拍手をしていた。僕もそれに加わった。

「ベッキー、あなたは落ち着きが足りない」

「はい…ナミ、変わって」

 さっきの火球がで魔法力を消費したようでベッキーはナミと交代する。

 ナミはかなり控え目な火球を放つ。火球と作り出す時、苦しそうな表情だった…。

「もう少し、魔法力を引き出す事はできない?」

「これくらいが限界です…」

 申し訳無さそうに話す。

「そう」

「やっぱり、わたしには才能がないのでは…」

「訓練量に対して魔法力の増え方が極端に遅い。才能がない、という事でないと思われる」

「じゃあ、なんだっていうの?サボってるんじゃ…」

「ヴァネッサ…」

 ヴァネッサの言い過ぎな発言につい声をだしてしまった。

「彼女はミャンの様な怠惰な性格ではない。むしろ五人の中では一番真面目。私はそう評価している」

「サボってるのは、こいつですよ」

「はあ!?ちゃんとやってるし!」

 ベッキーがエデルに怒っている。

「原因は分からない。今は訓練を続けるしかない」

「はい…」

 ナミは訓練を再開した。

 エレナは隊員たちから距離を取る。

「…」

 彼女は何も言わず、隊員達を見つめる。

「ナミの事だけど、見当すらもつかないの?」

「肉親に魔法士いると魔法を扱える能力が非常に発現しにくいと言わている。しかしゼロでない」

「そう。ナミには?」

「曽祖母が魔法士だったと聞いている」

「それが原因じゃ…」

 エレナは僕の指摘に首を振った。

「考えにくいです。魔法は使えていますし…。他に何か原因あると思わます。原因がわからない以上、私がすべき事は限られていて…そもそも私が指導すること自体…」

「間違いだっていうんでしょ?」

 ヴァネッサがエレナの言葉を奪う。

「シュナイダー様はあんたを高く評価していた。あんたが持っている魔法の知識、経験を後の者に伝えていかなければならないって言ってたでしょ?」

「私の知識も経験もたかが知れていると思うけど、理解はしている。…魔法士の特性上、私は彼らを見守る事しかできない…」

 唇に力が入っているのが分かる。

 エレナは見捨てているわけではない。何とかしたい思っているに違いない。

「もし先生だったら…こんな時、的確なアドバイスをしているに違いない」

 彼女はそうつぶやく。

「エレナ、どうにもならない状況って誰にでもあると思う。僕も今、ここシュナイツの財政状況なんとかしよう考えている。それには時間がかかるし、それで解決するかどうかも分からない」

「とりあえず、待つしかないんだよね」

「ああ」

 ヴァネッサに頷く。

「待つ…」

「現状維持って言えばいいのなか。それに、ふとしたきっかけで解決策が見つかるかもしれない」

「お言葉ですが、待って入れば降って湧くようなものではありません」

「とりあえず今はって話だよ」

 ヴァネッサがエレナの肩に手を置く。

「ヴァネッサは僕に言うんだ。考えて解決できないなら、何も考えないとの同じ、時間の無駄だって」

「時間の無駄…」

「そして、時間と無駄にしないでみんなと話しをしろってね。で、竜騎士隊から順番回ってここにいる」

「あんたにも言ったね」

「言われた。でも、何をどう話していいか…」

 彼女はため息を吐く。

「あなたはいとも簡単にやってのける」

「あんたとあたしじゃ経験してきた状況が違うから。出来るようになるよ、そのうちね」

 時間がかかりそう…とエレナは呟く。

「あたしも悩み事がないわけじゃないよ」

「そうは見えない」

「見せてないだけ。あんた達には直接は関係ないから」

「ヴァネッサが悩んでいるのは想像できないな。今の所、自信たっぷりで羨ましく思うよ」

「隊長のあたしがそんな所見せたら、下が不安になるでしょ?」

 なるほど。

「なら、領主になった僕も見せちゃいけないね?」

「出来るだけね。意識はしたほうがいいよ。エレナ、あんたもだよ」

「ええ…」

 彼女の返事は上の空だ。

「あんた、聞いてるの?」

「聞いてる。…何か、あった模様」

 え?

 確かに兵士達が先程とは様子が違う。

 なんだ?何があった?


Copyright(C)2020-橘 シン

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