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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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12/102

1-11

 ゲイルとレスターが準備を始める。

 二人とも、指なしの手袋(たぶん革製)をはめる。

 レスターの方はため息混じりだ。そんな彼にリアンが声をかけた。

「どうしたのよ?」

「別に…なんでもありません」

 と言いつつ、準備運動を始めた。

「こいつが暗くなってるは、俺とは相性が悪いからですよ」

「相性?」

「まだ俺に勝ててないよな?」 

 ゲイルに言葉にレスターが舌打ちをする。

「そうなの?」

 リアンがヴァネッサやジルに訊いた。

「そうだよ。だからってやる前からあんなんじゃね…」

「レスターさんは平均以上の実力を持っています。ゲイルさんには劣りますが、差はわずかと思われます」

「苦手意識を持っているから、いつまでも勝てないんだよ。捨てちまいなよ」

 ヴァネッサは酷なことをいう。

 苦手意識を捨てるなんて難しいだろうに。

「今回は勝負抜きしましょうよ。ウィル様に体術の基本を見せるだけにしません?」

 ゲイルがそういいながら、何度も小さく飛び体をほぐしている。

「どうする?」

「それは任せるよ」

 そうすることにした。実際にやるのはゲイルとレスターの二人だから。

「解説はジルとヴァネッサ隊長二人でおねがいします」

「あたしらがやるのかい?あんたたちじゃなくて?」

「体動かしながらじゃ、舌噛んじゃうんで」

 ゲイルが笑顔で言う。

 はいはい…とヴァネッサ返事をした。

 ゲイルはレスターに声をかけ、お互いの拳を軽く合わせる。

「ガチ勝負じゃねえけど、気を張ってくれよ。じゃないと怪我するぜ」

 お互いに拳を軽くぶつけ合う。

「わかってるよ、それくらい」

 二人はお互いに少し距離を取り、構える。

 ヴァネッサの 始め!の掛け声で模擬戦兼解説が始まる。

 

 始まってすぐに二人が動き、素早い突きが繰り出される。

 時には受け止め、時にはいなし、避ける。時々、力の篭った突きが出る。

「要するに殴り合いよね。体術って」

「そうだけど、ただ闇雲に殴ってるわけじゃないよ。それぞれ自分の得意な間合いがあるからね。牽制で自分の間合いに持っていったり、相手の間合いに入らないように、気を配らないといけない」

 動きながら考え、さらに動いてく。

 まあ、その辺は剣や槍とかと同じだね。とヴァネッサが話す。

 その時、レスターの蹴りがゲイルの頭を掠めた。

「…っぶねえ…」

 ゲイルがのけぞりそのまま後方へ回転し、一旦大きく距離を取って構えを解く。

「蹴っていいんだね」

「そりゃ、”体術”だのも、殴ろうが蹴ろうがルールなんてないよ。頭突きをしたっていい」

 噛み付いたっていいよ、と笑いながら言う。

 目潰しや男性の急所への攻めも別に構わない。非常時にルールなんてものはない。

 訓練では当然、禁止だけど。


 距離を取ったゲイルが少しづつレスター近づいていく。

 二人は模擬戦を始めた時と同じような位置で対峙し、構える

 そして、また打ち合い始めた。

 始めてすぐにゲイルがレスターの腕を取り、背負い込んで投げしまう。

「痛って…」

 レスターが腰と背中を打って呻き声を上げた。

「投げてもいいすよ」

 と、投げた本人が言ってる。

 ゲイルがレスターの腕を引っ張って助け起こす。

 起き上がったレスターが、そのままゲイルの腕を掴んで後ろ方にねじり上げる。

「あー、こうやって関節を決めても全然、構いません」

 と、これまた決めている本人が言ってる。

「おい。もういいだろ?」

 レスターが腕を放し、解放する。ゲイルが決められた腕を軽く振り、気にしている。

「今ので、体術の内容は一通りやりましたけど?」

「そうだね…体術も語り始めたらキリがないし、とりあえずいいかい?」

 レスターの言葉を受け、ヴァネッサが僕に訊く。

「ああ、いいよ」

「これで終わり?…もう少しいいすか?レスター、ガチでやろうぜ」

「ガチって、お前、さっき勝負抜きって言っただろ?」

「説明つうか解説?は終わったし、ちょうど体が温まったきたし、やるならいいタイミングだぜ?」

「なんでそんなにやりたがるんだよ…」

 レスターがため息を吐きつつ、こちらを見る。

 彼は明らかにやりたくない様子だ。

「まあ、いいんじゃない?怪我しない程度にね」

 ジルも頷く。

「おし。さあ、やろうぜ」

「はあ…」

 レスターは大きなため息を盛大に吐くと自分の頬を両手叩いた。

 

 二人はさっきと同じように対峙する。

 ヴァネッサがもう少し離れるように指示した。

「こっちに吹っ飛んてくるかもしれないからね」

 指摘を受け、二人は僕らから離れる。

 離れて、向かい合い構える二人。

 が、ゲイルの構え方がさっきと違う。

 レスターの方ははさっきと同じだ。両拳を握り、脇を締め肘を曲げて肩ぐらいの高さに上げている。

 ゲイルはさっきはレスターと同じような構え方だったが、今は違う。

 拳は握らず、胸の前で右手を前、左手を右手と胸の間当たりに置いている。力んでいるようには見えない。

「あの構え…ジル、あんたの…」

 ヴァネッサは少し驚いた様子でジルに訊く

「そうです。.わたくしが得意とする流派のものです」

 体術にはいくつもの系統、流派があり、それぞれに独自の構え、攻撃、防御が存在する。

 一つの流派を極める者もいれば、どの流派に所属せず自己流を貫く者もいる。いくつもの流派を習う者もいる。

 必ず流派に所属しなければいけないわけじゃない。

「いつから教えてたの?」

「ここに来た時からです」

「ここに来てから?でもゲイルがあれを使うとこ見たことないね」

「わたくし以外の者とするのは、今日が初めてかと」

 ヴァネッサは腕を組み、少し唸る。

「ヴァネッサ、なにかマズいの?」

「いや、別に。なにもマズい事はないよ」

 僕に問に首を横に振る。

「ゲイルのあの態度を見ると、相当やり込んでみたいでさ」

 彼女が言うには、ジルから習った流派を試したいのだろう、とのこと。

「多分、そうでしょうね」

 ジルが大きく頷く。

「二人ともさっきから、全然動かないんだけど?…」

 リアンがじれったそうに言う

「動かないんじゃなくて、動けないんだよ。特にレスターがね」

「どうしてよ」

「レスターはゲイルがあの構え、流派を使う事を今知った。勝てない相手がいつもと違くて警戒してね。ゲイルもそれを予想してるから自分からは動かずに見てるのさ」

 余裕のあるゲイルの方が上手だね。とヴァネッサが話す。

「ですが、レスターさんはわたくしと何度も手合せしてますし、全く知らないというわけでは…」

「忘れてんじゃない?…んなわけないか」

 ヴァネッサは呆れ気味に話す。

「レスター!!ボケっと突っ立ってじゃないよ!]

 突然の怒号に隊員たちがビクリとしてヴァネッサを見る。

「訓練なんだから、相性だのなんだの余計な事は考えないでやり込むんだよ!今更、いちいち言わせんじゃないっての!」

 ものすごい大声にリアンが耳を塞いだ。

 ヴァネッサの言葉がきっかけになったのか、レスターが

「くそぉ!…」 

 と、言いながらゲイルへ殴りかかる。

「やっと始めたね…」

 ヴァネッサの口から安堵の声が漏れる。

  

 始まったゲイルとレスターの試合。

 ゲイルの言葉を借りるなら”ガチ”というものだ。

 さっきのとはまるで動きが違う。突きも蹴りもものすごい速さで繰り出される。

「あれでも抑えています」

「あれで?…」

 ジルはもう少し抑えてほしい、と心配そうに言う。

「大丈夫だよ。あれくらいじゃないと訓練にならない」

 一方、ヴァネッサは特に心配はしていないようだ。

 素早い突きや蹴りの応酬。体に当たった時になる音がなんとも痛々しい。

 ゲイルが後退りしながらレスターの攻撃を防いでいる。

「ゲイルが押されてるわ。結構いけるじゃない?」

「後退はしていますが、レスターさんは有効打を与えていません」

「見切ってるね。もう少し落ち着いて相手を見りゃいいのに…レスターのやつ。完全にゲイルのペースだよ。剣術の時はちゃんとできてるんだからさ」

 ヴァネッサは残念そうに話す。

「君が教えてあげればいいんじゃ…」

「新人じゃないんだから、あの程度、自分で状況判断して修正しないと。基本だよ、竜騎士としてね」

「意地悪ね…ジルもそうなの?」

 リアンが尋ねる。

「わたくしは…」

「レスター!押し過ぎるな!一旦、引いて様子をみろ!」 

 ジルがいいかけた時、太い声が響いた。

 ガルドだ。いつのまにか見に来ていた。

「ガルド…」

 彼だけじゃなく他の竜騎士たちも来ていて、レスターに声をかけている。

 

 ガルドの言葉にレスターが動きを止め、そして少しゲイルと距離を取った。

「…それでジルはどうなの?」

「あ、はい。わたくしは教えます」

「ジルは教えるそうよ?」

「それはジルのやり方。指導のしたかに正解なんてないんだよ。あたしはあたしのやり方をやるだけ」

「わたくしは指導者としてはまだ未熟です。個人個人の状況判断能力を鍛える事は、考えていませんでした。これから気をつけてみたいと思います」

「ジル、あんたはよくやってるよ。十分過ぎるくらいね」

「…はい」 

 ヴァネッサがジルの肩を軽く叩いた。ジルは照れているのか、それ以上は言わなかった。

 

 レスターが一旦、距離を取った事で試合が止まるかと思ったが、そんな事はなかった。

 二人も積極的で、さっきみたいな激しいものじゃないものの、相手への攻めは止まらない。

「レスターさんの動きがよくなりました」

「ああ。いいね。あいつは動体視力がいいから、落ち着いて集中すれば問題ないよ」

「はい。ですが、ゲイルさんになぜ勝てないのか。腑に落ちません。差は僅か、ほぼ互角と思うのですが…」

 ジルは少し首を傾げる。

「あたしもゲイルとは何度もやってるけど、動きが読めない時があるんだよね…。ジル、あんたが教えたわけじゃないんだね?」

「わたくしからはなにも…それは多分、ゲイルさんが経験から編み出した、自己流ではないでしょうか?以前、隊員から聞いた話では幾つもの流派を渡り学んできたらしいのです」

「いくつって?どれくらい?」

「本人もわからないそうで…」 

「そう…幾つも学んで、更に自己流に落とし込んだ?…。だけど、レスターが勝てない理由にはならない」

「わたくしもそう思います。やはり気持ち、精神面でしょうか?」

 ジルの問にヴァネッサは小さくため息を吐く。

「だろうね…それならあたしにできる事はもうない」

 と言い切った。

「あ…」

 リアンが声を漏らす。

 レスターが尻もちをついていた。

 胸を突かれたようだ。胸を押さえ咳き込んでいる。

 ゲイルが手を差し出すが、レスターはそれを払い除け自分で立ち上がった。

「まだやれそうだね」


 小休止らしい。

 レスターは腰に手を当て息を整えている。

 ゲイルはウロウロと歩きながら、肩を回している。

 やがて二人はゆっくりと近づき、対峙した。

 構えてからすぐに動き出した。先に仕掛けたのはレスター。彼の素早い前蹴りから始まり、さっきのような攻防が繰り広げられる。

 そんな中、レスターがゲイルの突きを避けると、その腕を取り引き込んで、彼の胴を掴み横へ投げた。

投げた後、ゲイルの腕は放さずに捻りる。

「良いですね。うまく関節技に持っていきました」

 と、ジルが誉めるが…。

 ゲイルが器用に体をくねらせ、レスターが極めていた腕を解いてしまった。

「おしいね…」

 ヴァネッサが小さくため息を吐く。

 腕に解かれしまったが、レスターに動揺は見られない。一旦、距離をとろうしているゲイルに追撃する。

「突っ込み過ぎるなよ!」

 ガルドがレスターに言葉をかけている。

「ゲイル!行けー!」

「竜騎士なんてぶちのめしちゃってください」

 弓兵隊も声を上げる。竜騎士に対するちょっと汚い言葉が多い。

 ヴァネッサが苦笑いを浮かべる。

「竜騎士って嫌われてるの?」

「嫌われてるんじゃなくて、やっかみの対象なのさ」

 僕の問に彼女は普通の事ように話す。

「竜騎士だからって偉ぶる奴がいるんだよ。そういう奴を見てきたんだろうさ。いや、ここにはいないんだけどね…。それと戦闘時は竜騎士に従う事が多いってのもある」

「そう…僕が言うことじゃないが、その連携?とか大丈夫?」

 声を落とし、彼女に訊いた。

「大丈夫だよ。竜騎士が精鋭なのは知ってるからね。ああ言ってるのは、こういう時じゃないと対等になれないからだよ。それ以上になにかあったらちゃんと注意するから」

 彼女は特に心配する様子もなく隊員たちを見る。

「…そうなら、いいけど」

「たまに、ああやって感情を出してやらないと鬱憤が溜まって、なんでもない事で喧嘩が始まったりするんだよ」

「なるほどね…」

「二人とも、もうバテたのかい?レスター!足がついていってないよ!」

 ヴァネッサも大声で言葉をかける。

「ゲイル!遠慮はいらないから、やっちまいな!」

「どっちの味方なのよ…」

 どっちでも。と言ってヴァネッサは笑う。


「遠慮なんてしてねえよ」

「わかってるよ。お前が遠慮とか、気配りなんかしてたら気持ち悪いぜ」

「はっ、男にはしねえが、女相手ならするぜ」

「そんな事は当たり前だ、バカ」

 ゲイルとレスターが試合しながら器用に会話をしてる。

 二人は一進一退を繰り返しいる。

 疲れ始めてるのか、動きが鈍く息も荒い

「もうダメだね…」

「そうですね。今回は引き分けという事で」

 ジルの言葉を聞いて、ヴァネッサは手を三回叩いた。

 ゲイルとレスターが動きを止め、こちらを見る。

 ヴァネッサが彼ら向かって両手で手招きして見せた。それを見た二人がこちらに向かって来る。

 肩で息をしている。

 こちらの向かいながら握手をし、お互いの肩を叩く。

「悪いけど、止めさせてもらったよ。…レスター、落ち着いて状況見るんだよ。あと迷い、焦りを知られないように、相手の思う壺だよ」

「はい」

「わたくしからは特に言うことはありません。レスターさんは攻守の基本ができていますし、このまま訓練を継続していけば実力は確実に上がっていきます」

「はい」

 レスターの表情に悔しいさようなものはない。.むしろ清々しさを感じる。.

「あー、俺は?」

「あんたは別にいいよ」

「いつもどおりですね」

 ゲイルが苦笑いを浮かべた

「それだけ?」

「そうだよ。…あーそうそう、今回は引き分けね」

「引き分け?うーん…まあ、いいか」

 そう言うと隊員たちの方へ行った。健闘を称えるように肩や背中を叩かれてる。

「引き分けか」

「悔しいかい?」

「別に。ただ俺は竜騎士だから、体術で勝てないからどうこうって考えなくていいのかなって…」

「そうだね。そういうのもうちょっと早く気づいていたら、また違ってたかもね」

 ヴァネッサの言葉に、結果はあまり変わらないと思いますよ、とレスターは肩をすくめ答えた。

 そう言う彼の肩を叩き、

「気持ちの問題だよ。今日はもう訓練しなくていいから、体を休めな」

「はい」

 背中を押して、少し離れた所にいたガルドたちの方へ向かわせる。


「何も言うなよ」

「もう少しヤツの動きをだな…」

「レスターさん、いい動きしてたっすよ」

「だから、言うなって!」


 ゲイルとレスターの試合の後、体術や弓について詳しく教えてくれた。

 ゲイルに他流派をいくつも学んでいる事について質問してみた。

「俺は自分に合う体術を探してるだけすよ。その結果いろいろかじってしまった」

「自分に合うってどういうの?」

「口では言えませんね。すみません」

 リアンの問に苦笑いを浮かべ、肩をすくめる。

「いくつも習った事は無駄にはなってないんでしょ?」

「そりゃ、もちろん…でも、習うたびに自分が求める体術が変わっていくんすよ」

 彼は握りしめた自分の拳をみながら、ヴァネッサに答えた。

「ジルから教えてもらったのは、どうだい?」

「あー、ジルのは…俺にあってる気はしますね、なんとなく」

「なんとなくね…理想を求めるには構わないけど、変に固執するんじゃないよ」

「理想なんて大層なものじゃ…」

「迷いが出てくるよ」

「迷いがある方が面白いでしょ?」

 あんたね…、そう言うと苦笑いとももにため息をはく。

 この後、隊員と少し雑談をシた後、弓兵隊を後にした。

 

「ヴァネッサ隊長」

 魔法士隊の方へ行きかけた所で、ジルに声をかけらた。

「なんだい?」

「ミャン隊長の事で…」

「ミャンの?」

「短槍の件、聞いておりました」

「ああ、あれね」

「わたくしは杖術、棒術の基礎だけですが、心得があります。他にも、長物でしたら扱った事があります。お役に立てるかと。短槍とは似て非なるものでしょうが…」

「なるほど…そうだね…」

 ヴァネッサは腕を組み、考えこんでいる。

「あんたの負担にならない?」

「負担になど…」

 ジルは首を横にふる。

「そう、じゃあ協力してもらおうかな」

「はい」

「助かるよ。後で話そう。あの”馬鹿”を交えてね」

 ヴァネッサは馬鹿の部分を強調する。

 ジルは一つ頷くと戻って行った。

「ジルは体術だけじゃないんだね?」

「ああ…すっかり忘れてた。ジルはあたしなんかより、ずっと武器や体術に詳しいんだよ」

 吸血族は体術だけでなく、武器ついても学ぶらしい。

「ジルがいるなら、なんとかなりそう…」

 ヴァネッサは安堵のしたように、ふうっと息を吐いた。

 そんな彼女ともに魔法士隊へ向かう。

 

 魔法士隊はすでに整列していた。

「待たせたみたいで、申し訳ない」

「いいえ…」

 魔法士隊の隊長 エレナが首を横に振る。

 それじゃ、頼むよ、と言うヴァネッサの言葉にエレナは小さく頷き、魔法士隊の紹介を始める。

 

 魔法士隊はエレナを含めて六名。

 隊員はリサ、ウェイン、エデル、レベッカ、ナミの五人。

 最初にシュナイツに来たのはリサ。その次にウェインとエデル、次にナミとレベッカと順だ。

「リサです。よろしくお願いします」

「よろしく」

 彼女と握手をする。

 彼女は僕より少し低い身長。スタイルのいい女性。

 はるばる南の国サウラーンからやってきたそうだ。

「サウラーンから?」

 サウラーンはシュナイツがあるヴェルヌ大陸の南にある。島国だ。

 サウラーンからシュナイツに来るには一ヶ月以上かかる。

「はい…サウラーンには魔法を勉強することろがないんです」

「サウラーンからシファーレンにも船が出てたと思うけど」

「船代がかなり高くて…」

 サウラーンから大陸|(セレナ王国)は近い。

 シファーレンへはかなりの日数がかかると聞く。

「そう…それでセレナ王国に?」

「はい。で王都に立ち寄ったんですけど、学費がかかると…かなり」

 彼女は少し肩を落とす。

「学費が賄えず、諦める者もいます。才能があると認められれば、学費が免除になったり、奨学金や支援者に学費を工面してもらえる可能性はあります」

 エレナが説明してくれた。

「あんたは確か、学費を免除されたんだよね?」

 ヴァネッサの言葉にエレナが頷く。

「免除って、才能がると認められたって事?学費はいらないなんて、相当才能があるんだね」

「運が良く、私の才能に気づいてくれた方がそばにいましたので…」

 才能に気づいてくれた人がいたとしても、その才能を生かすのは自分自身だ。

 エレナは魔法を勉強しその才能を伸ばして来ただろう.。

 

 リサの話を戻そう。

「それで、シュナイツに?」

「はい、王都で張り紙を見たんです!。魔法士生徒募集。良師在中、学費免除と。それに!食事支給、宿舎完備!」

 少し興奮気味に彼女は話す。

「でも、こんな所だったとは…」

「こんな所?どういう意味かしら?」

 リアンが難色を示す。

「え?あ…とっても素敵な所です…あはは…」

 リサがこんな所と言った気持ちは分かる。何もない、ど田舎だしね。

「あの張り紙、いい事しか書いていないんだよね。シュナイダー様はこれでいいって言ったけどさ…」

「嘘は書いてないし、いい事悪い事全部書いたら、たぶん誰も来ないわ」

「誰も来ないって、リアンが言っちゃいけないと思うよ」

「まあ、そうだけど。私は、シュナイツ好きよ。でも、好き好んで来るような場所じゃないでしょ?」

「だから、君が言ったら…」

 隊員たちからクスクスと笑い声が聞こえる。

「わたしは来て良かったと、思ってます。エレナ様という素晴らしい魔法士に出会えましたから」

 リサは胸に手を当て、そう話す。 

 他の隊員たちも同調する。

「私は、いち魔法士に過ぎない。あなたたちは買いかぶり過ぎている」

「そんな事…」

「謙虚でいいと思うよ。あたしは」

 ヴァネッサはエレナの肩に手を置く。

「エレナの事はいいとして…リサ、あんた親に手紙送ってるの?」

「もちろん、送ってますよ」

 送っても返信は2ヶ月以上待たないと行けない

「心配してるんじゃない?」

 僕の言葉に彼女は笑顔で、

「心配し過ぎなんですよぅ。過保護というか。家出る時も直前まで、うるさかったし」

 と話す。

 心配して当然だと思うが…サウラーンから女性ひとりで、ここまで来るのは相当苦労したはず。

「お金が尽きちゃて、日雇い仕事とかしました。意外とたのしかったですよ」

 リサはすごく前向きで明るい性格のようだ。

「君のような性格、見習いたいよ」

「見習ってどうすんだよ」

 そう話したのは、ウェインとエデルだ。

 これをきっかけに彼らの紹介に移る。

 彼らと握手をする。


 ウェインは背格好は僕とかわらない。爽やか好青年といった感じ。

 エデルは長身のガッシリとした体格。魔法士のイメージではない。

 二人とも服装も貫頭衣ではなく、シャツにズボン。他の隊員たちと変わらない。

「彼らはイースタニアから来た」

 イースタニアは大陸の東側約三分の一を支配する帝国だ。

「二人は友人同士?」

「いえ、違います」

「違うんですが、行く先々で出くわすもんで…」

 ウェインが声をかけたそうだ。

「旅は道連れなんて言いますし、話と聞けばお互い魔法士を目指してるとわかったので一緒に行動するようになりました」

 そうなのか。

 二人は当初、西の国シファーレンに行く予定だったとか。

「シファーレンに行くのが理想だったんですが、リサと同じく張り紙をみてから…」

「船代やら色々考えて、ここに来ることにしたんです」

 彼らの判断は正しかったと、エレナが話す。

「シファーレンに行ったとしても、あなたたちを受け入れてくれる学校はない」

 彼女は言い切る。

「それ相応の才能あれば、別だけど…」

「あれば、とっくに…ね?」

「ああ…そうだな」

 ウェインとエデルが苦笑いとももに肩をすくめる。


 魔法士は幼少期から訓練と勉強をしなければ、成長しづらい。と、エレナが教えてくれたっけ。

「俺は魔法士になることしか、道が残ってない。出遅れたからいって諦めるわけにいかない」

 エデルは目に力を入れそう話す。

「入れ込みすぎると体に毒だよ」

 ウェインが気遣う様子を見せる。

「道がないとか、大袈裟よ」

「うるせえ。お前らに俺の…」

「やめな」

 ヴァネッサがエデルたちをたしなめる。

「自分の道は自分で決める。周りが口をはさむことじゃないよ。ね?」

 と彼女は僕に話しかけるが、僕自身は周りに流され気味だったからどう言っていいかわからない。

「うん…まあ、そうかもね。あの、エデル。君はどうして魔法士以外に道がないと思ってるの?見た感じ、体格はいいし体力もありそうだ。ぼくなんかよりずっと」

「俺は元々、剣や槍を振っていた普通の兵士でした…昔、訓練中に怪我してしまって…」

 彼は左脚を半歩前出した。ガシャリと音がなる。

 彼の左脚、いや左膝から下だ。その膝を守り支えるのように、金属の複雑な支柱と革で覆われいた。

「そうだったのか…すまない…」

「いえ、いいんです」

 彼は首を横にふる。

「こいつで支えていれば、立ったり歩いたりぐらいはできます。ですが、走れないし何より踏ん張りが効かない。これじゃまともに武器は使えない」

 これじゃ、足手まといもいいとこ、と彼は話す。

「戦うぐらいしか、俺にはできない。どうすればいいか、考えて…魔法士になることした」

「戦うぐらい…なんか理由でも?」

「大した理由じゃ…そういう家系なんですよ。親父も爺さんも。親戚もそういうのが多くて、そんな中で生きてきたから、他の道がイメージできないんですよ」

「なんとなくわかるよ。僕もずっと商人だったから、他の事で食べていける自信がない」

 とヴァネッサが呆れ顔で僕の肩を叩いた。

「あんたは大工の仕事をやってるじゃないか」

「あれは…」

「なんです?」

 不思議顔の隊員たちにヴァネッサが、僕が臨時で大工として働いた事とデボラさんの家のドアを直した件まで喋ってしまう。

「へえー、すごい。器用なんですね、ウィル様は」

「四ヶ月程度だけじゃ大した事できなけど」

 いい経験になった事は確かだ。

「エデルもやってみたら?大工さん」

「お前、俺の話聞いてねえだろっ」

 エデルがリサを睨みつける。

「こわ~い」

 リサが笑顔でウェインの影に隠れた。

「君は信念を持って、魔法士になろうとしている。それは尊敬に値するよ。僕にはないから」

「大げさだぜ」

 エデルは肩をすくめながら、ウェインにいう。

「ウェイン、君も魔法士志望じゃないの?」

 彼は僕の問に否定も肯定しぜず、

「魔法士目指したのは最近でして、それまでは自分が何をやりたいのか、分からなかったんです」

 と苦笑いで答えた。

「帝国では何をしていたの?」

「下級事務官です」

 そうリアンに答える。

「悪くないじゃない」

「ええ。悪くありません。でも両親はそれ以上を望んでいまして」

「それ以上?」

「はい…」

 ウェインはご両親の期待に応えようと頑張ったが、結果が出なかった。

「期待に応えるのも大事だけど、それだけが全てじゃないでしょ?あんたにもやりたい事があったはず」

 ヴァネッサの言葉に首を横に振る。

「当時の僕は…親の期待応える、それが当然で全てだと思っていました。いや思い込んでいたんです。両親も喜んでいたし、褒めてもくれた…」

 ウェインの表情が暗くなる。

「結果がついてこなくなると、怒られる…それが怖くて、追い込まれて結果がでない、と悪循環に」

「前も言ったが、反抗すればよかったな」

 ああ、その通りだ、とエデルに答えた。

「悪循環からはどうやって抜け出したの?何かきっかけが?」

「はい」

 下級事務官として採用されたその日、街で起きた火事を魔法で消し止めた所を目撃したのだという。

「見事に消し止めた事に感動すら覚えました。それから魔法に興味が湧いて、調べたりして、自分にも魔法が使える事がわかった時は運命すら感じました」

「運命か。おい、こいつの話は大袈裟じゃないのかよ?」

 エデルがリサに話しかける。

「とっても素敵な話でしょ」

 はいはい…とエデルは肩をすくめる。

「帝国では魔法ついて調べには限界ありました。学校はないようで…」

「ああ、それな。参ったぜ」

「帝都の宮廷魔法士ならどうかと思って行きましたが、門前払いで。自分で調べろ、と」

「ひどいわね」

「魔法の研究ついて公開する事はあまりない。宮廷なら尚更、閉鎖的になる」

 エレナが話す。

「どこかに紹介だけでも、と思ったんですが、それすらも…」

 ウェインが肩を落とす。

「新人を受け入れずにどうやって魔法士を確保してるんだろうね?帝国は」

「引き抜きではないかと思われる」

 ヴァネッサの問にエレナが話す。

「まだまだ勉強中、発展中にやめて行く者を何人も見てきた。先生たちは引き止めていたけれど…ほとんどがやめて行く」

「金銭的理由では?」

 僕の問にエレナは首を横に振る。

「それはない。将来有望とされ、奨学金が出ていた」

「奨学金を蹴ったってことは、それ以上の報酬を提示されたんだね」

「なにそれ、お金が目的なの?」

 リアンが声を上げる。

「引き抜き自体はよくあることだよ。竜騎士なんかいい例さ。正規軍をやめてどっかの領主の下につくなんてザラ。ていうか、あたしもシュナイダー様のに引き抜かれてる」

「あなたは場合はちょっと違くない?」

「変わんないよ」

 ひどい話だ。竜騎士はともかく、奨学金を払ってまで育てた者を引き抜くとは。

「先生たちも危惧していました。できるだけ外部の者と接触をしないようにと訓告はしていましたが…」

 なんにでも限界はある。

「あなたたちはそういう事しないでよね」

 リアンが隊員たちに話す。

「引き抜かれるだけの能力はないです…」

 ウェインが肩をすくめる。

「それに僕は親と決別してきましたから」

「遅い反抗期だな」

「そうだね」

 エデルの言葉に苦笑いを浮かべる。

「手紙は?」

「送ってはいますが、返事はきません。一度も」

「そう…」

 特に気にしてないと笑顔を見せる。

「母は反対してましたが、父は理解してくれていましたから、資金もくれましたし」

 なるほど、家出同然というわけではなさそうだ。

 エデルも似たようなもんです…と答える。

「あんたたちどんだけ親と仲悪いのよ…」

 そうエデルたちに声をかけたのは、髪が短いめの女性。レベッカだった。


Copyright(C)2020-橘 シン


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