1人目② 楠 さゆり:語り手→野中 聡
サイレンの音がどんどんと増えていく。
楠さんが血を吐いて倒れてから、僕たちは先生達に連れられて、体育館へと集まった。
体育館に集められた後、しばらくは生活指導の大阪先生が僕らの付き添いとして立っていたけど、数学の土井先生に呼ばれて、どこかへ行ってしまった。
先生達はバタバタと忙しそうにしている。
僕らのクラスだけでなく、他のクラスも、授業を中断して自習してるらしいと滝本くんが話しているのを聞いた。
どうやら、この様子では今日の授業は無くなりそうである。
体育館の中、まばらにクラスメイト達が仲の良い同士で群を作っていた。
僕は、孝則と二人で座った。
衝撃的な事件があった後なので、2人の中で会話は少なかった。
志伊良さんのすすり泣く声がずっと館内に響いている。
彼女のすぐ傍で、高橋さんが、その背中を擦っていた。
館内を見渡すと、皆がそれぞれ真剣で、考え事をしているような顔つきだ。
特に伸一なんかは、僕らから離れた場所で頭を抱えている。
僕と、伸一と孝則はクラスでは三人いつも一緒に行動してるから、伸一がどうして僕らの元に来ないのか不思議でならなかった。
もしかしたら、伸一は楠さんのことが好きだったのかもしれない。
席も隣だし、偶に会話をしてるのも見たことがある。
そうだとしたら、僕らにそれを言わないのは水臭いと思うけど。
それにしても静かだ。
志伊良さんのすすり泣く声と、サイレンの音がよく響く。
いつもの賑やかなクラスとは、到底思えない。
(大変なことになっちゃったな)
僕は、クラスメイトが亡くなったかもしれないというのに、少し呑気でいた。
突然のことで実感が沸かず、朝が早いからきっと、まだ寝ぼけている。
外はどんよりと暗く、朝見た天気予報によれば午後から雨が降るらしい。
楠さんとは、おおよそ会話らしい会話をしたことが無かった。
僕のクラスメイトで、僕と同じように、気が弱く、背の低い女の子。
授業中、先生に当てられると恥ずかしそうに小さな声で、教科書に半分顔を隠して発言をするような子だった。
そういえば字が綺麗だったな。
高校生なのに、律儀に教科書やノートに名前を書いてた。
昼休みに、志伊良さんと二人で片手で持てるぐらい縫いぐるみに、針を刺している姿をよく見たな。二人とも手芸部だから、恐らく課題か何かだったんだろう。
僕は、思い返している内に段々と腹が立ってきた。
どうして楠さんはこんな目に会わなければならないんだろう。
病気だったのかな?
あんなに大量の”血”を見たのは初めてだ。
どうして楠さんはこんな目に会わなければならなかったんだろう。
僕はようやく悲しみに胸を打たれた。