1人目① 楠 さゆり:語り手→徳井 伸一
――クラスメイトの中に、殺人鬼が居ます。どうか、貴方の手で殺してください。
伽藍洞の引きだしの中から、変なメモを発見。
教室では、SHが始まろうとしている。
メモを裏返す。
僕はギョッとした。
クラスメイトの名前がずらっと並ぶ。
そして、その名前のとなりに物騒な文字が並ぶ。
絞殺、毒殺、焼殺、刺殺……
どうやら【殺され方】が書いてあるようだ。
さらにはご丁寧に、その【日時】と【場所】まで。
クラス全員分【33】人の名前が、ここには書かれていた。
(悪質な悪戯だな……)
僕はそれを、くしゃくしゃに丸めて捨ててしまおうと思った。
けれど、ふと気が付いたことがあったので、再度それを見直した。
楠さゆり ☆毒殺 【教室:5/9(水)9:37】
(これ、今日のことじゃないか……へぇ……)
僕は隣の席に座る 楠 さゆり を見た。
楠さゆり は背丈が小さい。おそらく150cmもない。
手芸部に入っていて、手先が器用だった気がする。同じ中学だったので、体育祭の横断幕や、文化祭の小道具なんかを彼女が主導となって作っていた覚えがある。
その出来映えを見て、
(これ、中学生のレベルじゃないだろ)
と感心していた気がする。
気弱な性格らしく、自分から話しかけているところを見たことがない。友達は少なくないようだが、どこかぼんやりしたイメージの女の子だ。
容姿はそれなりに可愛いらしいが、彼氏なんかは居なさそうだ。
そして、このメモによれば5分後に、彼女は死んでしまうらしい。
(教えてあげようかな?――楠 さんは5分後に死ぬらしいよ って)
教室ではSHが開かれ、担任が次回の中間テストの日程について話している。
至っていつも通りの日々と言えるだろう。
(しょーもない悪戯だな。でも、聡や 孝則の仕業ではないだろうな。これ、悪趣味すぎるし)
正直言って、気味が悪いメモだと思った。書いた奴は正気じゃない。
そんなとき、隣に座る 楠 さゆり が右手を高く上げた。
(ん、どうしたんだ 楠の奴?)
僕がそんなことを思っていると、担任も手を上げている彼女に気付いた。
「どうかしましたか? 楠さん?」
楠 さゆり は静かに立ち上がる。
「すみません……気分が優れないので、保健室に行っても構いませんか?」
そう話す 楠 さゆり の表情は優れず、どこか青白い顔をしているように見えた。
「ええ、構いませんよ。一人で行けますか?」
そう心配する担任には答えず、楠 さゆり はフラフラと教室の後ろの扉を目指して歩きだした。
教室はそんな 楠 さゆり の姿を見て、ざわざわと色めき立つ。
「さゆり、大丈夫?」
学級委員長で 楠 さゆり と仲が良い 志伊良秋穂 が彼女の傍に駆け寄った。
楠さゆり は 志伊良 秋穂 に支えられながら、教室を出ていこうという手前で――突然座り込んでしまった。
「オ、オエェェェェェ」
楠 さゆり が胃の中のものを床に吐いてしまったようだ。教室の後方から悲鳴が上がる。
「きゃ、きゃーーーーーーー!!」
教室で上がる悲鳴とは比べ物にならない、より深刻な事態を告げるように甲高い声で悲鳴を上げたのは 志伊良 秋穂 だった。
「さゆり!さゆり!」
只事ではない雰囲気だ。教室の後方に人が集まりだして、皆が口々に”や、やべー” ”きゅ、救急車!” ”先生、早くこっち来て!”などと騒ぎ立てた。
流石の騒ぎに、僕も野次馬共の後方に付いて、状況を確認しようと首を伸ばしたが、無駄に背の高い奴らに邪魔されて、見ることが出来ない。
仕方ないので、前にいる顔面蒼白のノッポ、 斎藤 孝則に尋ねた。
「どうなってる?教えてくれ」
斎藤 孝則 はこちらに振り向くと、口をパクパクとさせた。
「血、血だ……」
「血?」
僕がそう尋ねると 斎藤 孝則 は、ゴクリ と喉を鳴らした。
「楠 が口から大量の血を吐いたんだ!床中血だらけだ……」
「何だって!?」
僕は背筋が凍る思いだった。
そして、教室の前方にかかった壁掛け時計を見た。
――9:37
(まさか、このメモ……)
僕は右手にあるメモが、悪戯なんかではないのかもしれないと思い始めていた。




