10公爵令嬢が平民の絵師と深く関わっているという事実は一部の保守的な貴族たちの間で批判の的となる
アルフレニスを誘って、二人きりで過ごす初めての機会。コテージでの休暇を提案。
「アルフレニスさん、最近少し疲れていない?少し気分転換に郊外のコテージで休暇を過ごさない?」
アルフレニスはミルナリスの気遣いに驚き、喜ぶ。
「ミルナリス様……ありがとうございます。ぜひ、ご一緒させてください」
返事にミルナリスは心の中でガッツポーズをした。
休暇の日。ミルナリスは目立たない普段着に着替え、フォビアンには少し離れて待機するよう指示。馬車の中、ミルナリスとアルフレニスは他愛のない会話を交わしながら、コテージへと向かう。
コテージに到着すると、息をのむような美しい湖の景色が広がっていた。湖面には夕日がきらきらと輝き、周囲は静寂に包まれている。
「なんて、美しい場所なのでしょう」
アルフレニスは感動したように言葉を漏らした。ミルナリスもまた、目の前の景色に心を奪われる。
コテージの中は暖炉があり、簡素ながらも温かみのある空間だった。メイドに準備させておいた食材を取り出し、夕食の準備を始める。
「アルフレニスさん、何か手伝えることはあるかしら?」
「もちろんです、ミルナリス様」
慣れない手つきで野菜を切るミルナリスの隣で自然な動きで、薪をくべてくれた。二人で協力して夕食を作る時間は普段の仕事とは違う、穏やかで満たされた時間が過ぎる。
夕食を終え、暖炉の火を見つめながら語り合う。コミックのこと、これからの夢のこと、互いの生い立ちのこと。普段は仕事の話ばかりだが、この日は個人的な話を多く交せた。
「アルフレニスさんは、昔から絵を描くのが好きだったの」
「はい。でも、まさかミルナリス様と、こうして一緒に仕事ができるとは思いませんでした」
笑んでから意を決して、アルフレニスに近づいた。
「アルフレニスさん……」
手をそっと握るとアルフレニスの指がミルナリスの指に絡まる。
「私も、あなたと出会って、本当に人生が変わった。貴族としての役割だけでなく、自分の本当にやりたいことを見つけることができた」
目を見つめた。
「あなたといると本当に心が落ち着く。特別な、大切な存在だと感じて」
男は顔を近づけた。ミルナリスもまた、瞳を閉じて受け入れる。唇が触れ合い、暖炉の炎が二人の横顔を優しく照らす。初めてのかけがえのないキス。
翌朝、コテージでの穏やかな一夜を過ごしたミルナリスとアルフレニスは新鮮な気持ちで公爵邸に戻った。間には、以前よりも増えた愛おしさが育まれていたが現実は甘くない。
公爵は関係を静観しているものの、社交界での噂は止まらない。公爵令嬢が平民の絵師と深く関わっているという事実は、一部の保守的な貴族たちの間で批判の的となる。
「ミルナリス様、いくつか不穏な噂が流れております」
ルグダムがいつになく真剣な表情でミルナリスに報告した。
「やはり、そうですか……」
覚悟していた。そんな中、公爵がミルナリスとアルフレニスを執務室に呼び出す。
「ミルナリス、アルフレニス君。お前たちの関係については知っている」
緊張した。
「公爵様……」
何かを言おうとしたが公爵が手で制した。
「私が言いたいのは、お前たちの関係をどうこう言うつもりはないということ。国の伝統と貴族の慣習は簡単には変わらない」
二人のことを案じているようだった。
「そこで、一つ考えがある。アルフレニス君、君に名誉子爵の位を授けようと思う」
目を丸くした。
「名誉子爵……でございますか?」
信じられないといった表情で公爵を見つめた。名誉子爵とは貴族ではないが、国の功績を認められて貴族と同等の地位が与えられること。
コミック文化をこの国に広めた功績は、それだけの価値があると公爵は判断したのだ。
「ああ。もちろん、コミックがこの国に与えた影響は計り知れない。識字率の向上、新たな産業の創出。夢を与えた功績は貴族の位に値する」
アルフレニスに温かい眼差しを向けた。
「これならば、お前たちの関係も、少しは世間から認められやすくなるだろう。あくまでこれは私の秘策だ。あとは、お前たち二人の力で身分の壁を乗り越えるのだぞ」
公爵の言葉にミルナリスとアルフレニスは、深く頭を下げた。計らいは未来に大きな希望を与えてくれたのだ。
名誉子爵の称号を得たアルフレニスは以前よりも自信に満ち溢れ、コミック制作に邁進。ノラウグスト・コミック出版には新たな才能を持つ人々が次々と集まり、様々なジャンルのコミックが生み出されていく。
エリーゼは庶民の日常をユーモラスに描いた作品で、多くの読者の心を掴み。パージェルは壮大なファンタジー作品で子供たちの間で絶大な人気を誇る。
チラリリーもまた、慈善活動の傍ら、新しい物語のアイデアをミルナリスに提供し続けた。
ミルナリスとアルフレニスは忙しい日々の中でも互いの存在を慈しみ、以前よりも堂々と街でデートをしたりコテージで静かな時間を過ごしたりするようになる。
世間の批判の声は完全には消えていないが、コミック文化が社会に与える良い影響はそれらの声をかき消すほどにまで。




