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01婚約者のヴァビル・アンダース子爵は物語の裏で悪事を働く典型的なクズ男

「はっ……!」


 飛び起きるようにベッドから身を起こした。全身から嫌な汗が吹き出す。今の夢はあまりにも生々しかった。本当に起きたことかもしれないと思ってしまう。


 自分は物語の悪役令嬢であり、本来の高慢でわがままで婚約者であるヴァビル子爵をいじめ抜く。最終的にはヒロインを虐げた罪で断罪され、修道院に送られる運命なのだ。

 だが、今のミルナリスは違う。魂は日本のどこにでもいるごく普通の一般人のものなのだから。


「よりにもよって、悪役令嬢に転生だなんて……」


 鏡に映る自分は黄金の髪にエメラルドの瞳を持つ、完璧な美少女。美しさが逆に未来の破滅を予感させて震え上がらせる。

 前世でこの物語を読んだことがあったので結末を知っているからこそ、断罪イベントを回避することに決めた。


「クズな婚約者を、捨てる」


 彼女の婚約者、ヴァビル・アンダース子爵は物語の裏で悪事を働く、典型的なクズ男。

 表面上は穏やかで、誠実な貴公子を装っているが裏では違法な賭博に手を出し、貴族の娘たちを騙して金品を巻き上げているとか。


 最終的には断罪された後、ヒロインに取り入って成り上がりを図る根っからの悪党。

 断罪される理由の一つに、ヴァビルの悪事の濡れ衣を着せられるというものもある。そんな男に未来を潰されてたまるか。

 拳を握る。ベッドから降りると書斎へと向かった。まずは現状把握から。ミルナリスは書斎の机に座りペンを握る。


「ヴァビル子爵の悪事を証明する証拠を集める」


 それが、ミルナリスの目標で証拠がなければ、婚約破棄は難しい。特にミルナリス自身が悪役令嬢として世間から白い目で見られている現状では、確固たる証拠が必要になる。

 前世の記憶を頼りにヴァビルの悪事について箇条書き。


 違法賭博への関与:裏カジノに出入りしているらしい。

 女性関係の乱れ:複数の貴族の令嬢から金品を巻き上げている。

 詐欺行為:怪しい投資話を持ちかけ、貴族たちを騙している。

 私腹を肥やす行為:子爵家の領地経営を疎かにし、自分の贅沢にばかり金を使っている。


 これらを証明する証拠が必要。なぜこんな男がシナリオに出てくるのかというと、ストーリーのスパイスとメリハリだ。ミルナリスはまず屋敷の使用人たちに目をつけた。

 使用人たちは貴族の最も近くで働く者たちだから、彼らからなら何か有益な情報が得られるかもしれない。


「メイド長のメアリー、執事のルグダム」


 特に、メイド長のメアリーは長年ノラウグスト家に仕えているベテランだ。彼女なら、ヴァビルがノラウグスト家に出入りするようになってからの彼の振る舞いをよく知っているだろうと、書斎から出る。まっすぐにメイド部屋へと向かった。


「メアリー、少し話したいことがあるのだけれど」


 ミルナリスの突然の訪問に、メアリーは驚いた顔をした。普段の使用人には高圧的な態度をとるので、びっくりしているのだな。


「ミルナリス様?何か御用でしょうか」


「ええ。少し、個人的なことなのだけれど相談に乗ってほしくて」


 できるだけ穏やかな声で話す。出だしって大切だから。普段のミルナリスと違う雰囲気に、メアリーは戸惑いながらも話を聞く姿勢を見せた。

 よかったよかった。ヴァビル子爵に関する情報をさりげなく聞き出す。


「メアリーはヴァビル子爵がいらっしゃる時、何か変わったことなど気づいたことはないかしら?」


 メアリーは少し考える素振りを見せた後、静かに話し始めた。


「そうですね……ヴァビル様はよく、夜遅くにお出かけになられることがございます。朝方にお戻りになることも……」


 早速得られた。まさに違法賭博の証拠となるかもしれない情報。夜遅くに出かけるということは、どこかの秘密の場所に通っている可能性が高いな。


「何か、特別なお客様がいらっしゃることは?」


 聞き込む。探偵っぽいなぁ、今。


「いいえ。ただ、一度だけ、随分と粗野な身なりの男の方が、ヴァビル様をお尋ねになられたことがございました。何でも、ヴァビル様への借りの取り立てだとかなんとか」


 心の中でガッツポーズをした。これは、間違いなくヴァビルの裏の顔を示す情報だ。粗野な身なりの男、借りの取り立てで違法な賭博の借金だろう。わかりやすい。


「ありがとう、メアリー。とても参考になった」


 メアリーに優しい笑みを向ければ、相手は笑顔に少し驚く。普段のミルナリスからは想像もできない顔だからだろう。次にミルナリスは、執事のルグダムに話を聞いた。

 ルグダムはノラウグスト家の帳簿管理も任されている。ヴァビルがノラウグスト家から不当に金を引き出していないか、きっかけくらいは、持っているかもしれない。


「ルグダム、ヴァビル子爵に関することで、一つ聞きたいことがあるのだけれど」


「はい、ミルナリス様。何なりと」


 ルグダムは常に冷静沈着な男で、感情を表に出さないタイプなので情報収集は慎重に行う必要がある。


「ヴァビル子爵は以前、私に代わっていくつか投資の話を進めていたようだけれど、その件で何か気になることはあったかしら?」


 ヴァビルはミルナリスの名を使って、貴族たちから投資金を集めていたらしい。もちろん、ミルナリスはその事実を知らず、これもまた、ヴァビルが詐欺行為を行っている証拠になるだろうし。


 ルグダムは、眉一つ動かさずに答えた。


「確かにヴァビル様は、いくつかの投資案件にミルナリス様のお名前を使っておられました。投資の詳細は不明瞭な点が多うございました。書類の記載も曖昧で、不審に思ったことは何度かございます」


「そう……具体的に、どんな点が不審だったの?」


「はい。投資先の企業名が明記されていなかったり、利益配当の仕組みが非常に複雑であったり……また、投資金の一部がミルナリス様のご名義でありながら、ヴァビル様個人の口座に振り込まれていたこともございました」


 思わず拳を握りしめた。

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