落とし穴
ブラナテラ軍が、ついにリーベルタ軍を追い詰めようかという、まさにそのとき。
周囲の建物の上にいた人物――恐らくは連絡係――その何人かが、ほぼ同時に、さっと手を挙げたことを、パウルスは見逃さなかった。
――何か来るッ!
――ゴボッ。
突如。
ブラナテラ軍の前衛に努めていた剣術士たちの足下に、巨大な穴が出現した。
――落とし穴! 恐らくは魔術によるもの――!
「衝撃!」
咄嗟の空中跳躍で回避したパウルスを除き、その場に居合わせた剣術士の殆どが、そして、近くにいた槍兵、魔術士それぞれ数十名が、出現した穴の中へと落下した。
穴の深さは身長ほど。この程度であれば、大した怪我人も無いと思われた――。
直後。
穴を目がけて四方八方、中空より飛来する大小の塊! その数――数百!
――投石ッ!
この質量は『乱気流』では流せないッ!
「散れぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
誰の叫び声だったかはわからない。
穴の近くにいた者たち、全員が、無我夢中で、その場から離れるべく駆けていた。
数百に及ぶ岩石は瞬く間に着弾。鼓膜を破らんばかりの凄まじい轟音を、腹を抉るが如く鳴り響かせた。
――音が止み、静寂が辺りを支配した。
そして、つい今しがた出現した、巨大な穴――そこは、無数の岩石で埋め尽くされていた。
はたして結果は、穴の近くにて、岩石をその身に喰らい負傷した、十数名の重軽傷者。
そして、穴に落ちた者――恐らくは、全員圧死――。




