教会とお酒と私とリュート
魔法の授業が終わって今日は解散。子どもたちがそれぞれ家に帰って行く。
リュートが教会の影から覗いていた私を見つけてやって来た。リュートたちを指導してた男性神官(後で名前を訊いた。ヤンさん)も一緒。ヤンさんは顔だけは知ってた。ハナの癒しの為にうちの村に来てくれたから。
そしてアリーさんとヤンさんが話してる間に私もリュートと相談。
この間作った日本酒もどき、あれは教会に任せようと思ったんだ。
うちの村はシードル(私たちがそう呼ぶものだから正式にその名になった。こっちの言葉では「軽いもの」という意味になる)と干し果物で手いっぱいだから。日本酒もどき作りは神様に誘導された気もするから、神様にあげよう?そう言ったらリュートも賛成してくれた。
私たちの相談が終わるとまもなくアリーさんたちの話も終わったらしい。ヤンさんが私たちの方にやって来た。
「すまないがリン、明日も来てくれるかい?」
「え?」
「明日は私が君を見る。」
「はい。では明日またリュートと来ます。」
「ではさようなら。気をつけてお帰り。」
「さよなら。また明日。」
急いで家に帰る。お昼を食べて少し採取。その後鍛練。静思はなし。危険だから。
夕方の家畜の世話をして、夕食。明日も教会に行くことを両親に告げる。
両親は何やら感動してたけど、なんでかなあ。
次の日。一応持たされた石盤とチョークと日本酒もどきをナップサックに入れて昨日と同じ道をリュートと歩く。
「リュート、このお酒の名前なんだけどさ。」
「ああ、流石に日本酒もどきじゃな。」
「考えたんだけど、ラムドルはどうかなって。」
「軽いものに対して強いもの、か。うん、良いんじゃないか。実際シードルよりアルコール分高いし。」
「ん。そうする。」
教会の入り口にヤンさんが立ってた。
教会の裏庭に私を連れて行き、ほぼ昨日と同じことをさせられた。ただ確認してるだけかな、と思った時。
いきなりヤンさんが自分の掌にナイフで小さくだけど傷をつけた。
「ヤンさん、何してるんですか!」
「リン。この傷が癒えるように魔力を使えるか?」
私を試すだけの為に傷つけるなよ。やるけどさ。はい。
「うむ。癒しも使えるか。リン、神官に」
「なりません。」
即答した。だってリュートは絶対神官にならないもの。癒しの魔法を使えても神官にならない人もいるし。
「それよりも、これ、見てくれますか?」
まだ背負っていたナップサックを降ろしてラムドルの入った瓶を出して渡す。
「何だ。薬かこれは。」
「お酒です。リュートと一緒に作ったんです。」
「ああシードルだな。ありが」
「違います。家畜の餌の雑穀でお酒が出来るかなと思ったらシードルより強い感じに出来たので、ラムドルって名づけました。作り方はリュートが覚えているから教会にお任せしたいんです。これ、神様へのお供えになりますか?」
「…リン、ちょっと待っていてくれ。」
ヤンさんはそう言うと教会の中へ入って行った。
仕方ないから石盤とチョークを出して裏庭の木に咲いている花のスケッチをして待つ。昔、美術の授業で版画とか彫塑は苦手だったけどデッサンと水彩画は得意だったんだよ。
やがて子どもたちが帰宅し始めてリュートが迎えに来た。
「今日は早く終わったんだ。で、神官たちが俺たちに来て欲しいって。」
「ラムドルの件だよ。お酒って凄いね〜」
二人で神官さんたちがいる部屋(事務室だと思う)に行くと、中身が減っているラムドルの瓶と、お酒で少し顔を赤くした神官さんたちに囲まれた。
神官さんたちによるとワインよりアルコール分が多くて美味しいらしい(シードルはワインよりアルコール分が少ないのだ)。
是非教会で作り、神様への供え物にしたい、余った分はギルドを通して売りたいそうだ。本部に知らせて、いずれは全ての教会で作りたいって。
じゃ、後はリュートよろしくね。任せた。
え?売った分は利益の一割を渡せって?ちょっとリュート?
「俺に任せた、そう言ったよな?」
それはその通りだけども。
アルコール度数の設定
チクトック 1から3度(酒粕を溶いてつくる甘酒位)
シードル 10度前後(ビール位、ただし無発泡)
ワイン 15度前後(ワイン位)
ラムドル 20度前後(日本酒、ただし原酒位)
まあ大体そんなものだと思ってください。




