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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
72/360

帰京


 アルビア最南端に位置する町ソビア。

 そこは南の国境のすぐ目の前に存在する町であり、外敵の侵入を防ぐ為の要塞の役目も果たしている町だ。

 町の特徴は2つの地区に別れており、まず兵士達の住む戦区。

 ここには国境を護る兵士達の本部となる砦や暮らす為の寮、訓練場から武具を揃えるための鍛冶屋等兵士達の為に造られた施設が多くある。

 また他国からの商人や旅人の関所の役割を果たしており、アルビアに入る為にはここでチェックを受けねばならない。

 そしてその戦区に守られる様にその内側にあるのが、一般市民が暮らす民区。

 この場所には関所を通過した商人の為の宿屋や食堂、更に兵士達の家族が暮らしている。

 ノエル達は今、その民区の入り口まで来ていた。

「はぁ~」

「大丈夫ですかライルさん?」

 憂うつな表情で盛大にため息を吐くライルに、ノエルが心配そうに声をかける。

「いや、大丈夫だ。 色々覚悟はしてんだけど、いざ帰ってみるとなんとなくな」

 ライルは苦笑して頭をかいた。

「でも驚きました。 まさかライル様がギエンフォード様の息子さんだったなんて」

「だな。 通りでこっち方面来たがらねぇはずだよ」

 リーティアの言葉にリナが頷く。

 実際ライルはリナと共に旅をするようになってから1度もこの国境周辺には来たがらず、当然ソビアにも帰って来てはいなかった。

「ふひひ、それだけライル君にとってここは帰ってきたくなかったってことだろうね」

「というかエルモンド。 あなたライルがギエンフォードさんの子供だって知ってたわね」

「まあね。 当時の軍なら末端の兵士全員の顔と名前と素性、身体的特徴から嗜好まで把握済みだよ」

「そこまで行くと凄い通り越してキモいわ」

 苦笑いを浮かべるレオナの横で、イトスは自身の師匠ながら弁解できずにいた。

「おれも、皆の匂い覚えてる。 キモいか?」

「ああ、ジャバはキモくないキモくない。 ジャバのは凄いから」

「そうか! おれ嬉しい!」

 レオナの言葉にジャバは笑顔で胸を張る。

 因みにジャバはエルモンドの調合薬入りのアメにより体を縮めてもらっており、ライルと同じくらいの身長にしてもらっている。

 普段留守番や小屋に入れられていることの多いジャバは、皆と一緒に出掛けられると上機嫌でニコニコしている。

「すんません。 ずっと黙ってて」

「だからもう気にすんなっての」

 謝るライルにリナはやれやれと答える。

 実際エルモンドの小屋でのライルの告白に一番驚いていたのはリナだった。

 ギエンフォードとはラズゴート同様昔からの付き合いだった。

 ラズゴートと違い無愛想で手加減を知らない所から流石のリナも少々苦手な存在だったが、共に戦場に立ったこともあり信頼出来る相手だった。

 そんなギエンフォードの息子と知らずに何年も一緒にいたのだ。

 偶然とはいえ、リナは不思議な縁を感じていた。

「ま、お前はおっさんとしっかりケリ付けてこい!」

「うす!」

 リナに激昂するように背中を叩かれ、ライルは気合いに満ちた表情で頷いた。「張り切るのはいいけど、あんま無茶すんなよ。 あんたもクロードさんも、傷は塞いだけどまだ治ってねぇんだからな」

 前回の戦いでのライルとクロードの傷は、実はまだ完全には治っていなかった。

 クロードは全身に雷撃を受け続けた為暫く安静が必要と言われリーティアの中に引きこもっている。

 ライルと目に見える傷こそ塞いだが腹を貫かれた時内臓を損傷しており、全快には程遠い状態だった。

「本当はあんたも安静にしててほしいんだけど、そうもいかねぇんだろ? 何かあったらすぐ俺に言えよ」

「ありがとよイトス! 頼りにしてるぜ!」

 イトスの忠告をライルは素直に聞き笑顔で答えた。

 そんなライルに、イトスも悪い気はしなかった。






 全員が町に入ると、町は賑わっていた。

 異国の品を並べた店があちこちに並び、宿や飲食店は他国からの商人や旅人が行き交っている。

 人も亜人も他国の人間も1つの町でこうして共存している光景を、ノエルとイトスは意外そうに見ていた。

「結構賑わってるね」

「ああ。 亜人とかはともかく、他の国の連中も随分いるみてぇだし、ちょっと驚いた」

「ふひひ、そりゃ当然さ。 確かにこの国は他国から恐れられているけど、10年も立てばこのくらいの人の出入りはあるさ。 何より、ノルウェ君は自身を悪役にした事で恨みを一身に受けたからね。 その魔帝が消えたのだから、恐怖や恨みも半減する。 更に聖帝フェルペスが恐怖のイメージを無くすような外交をしたことで、完全とは言えないけど周辺諸国もかつて程の危機感はないだろうね」

 エルモンドの解説に、ノエルは少し嬉しく思った。

 父であるノルウェの死は悲しいことだが、その想いはこうしてしっかり形になっている。

 ノルウェの願いをフェルペスが引き継ぎ実現させた。

 それだけで父の死は無駄ではなかったと、ノエルにとって小さな救いとなった。

 だが同時に疑問もある。

 それだけアルビア復興の為に力を尽くしているフェルペスが、何故再びアルビアを危険に晒す可能性のあるラミーアを復活させようとしているのか。 

 フェルペスを動かすものがいったいなんなのか、ノエルにはそこだけがどうしても引っ掛かっていた。

「ノエル君。 今はそっちよりライル君を手助けしよう。 その先に君の求める答えがあるはずだしね」

「・・・はい!」

 エルモンドに自分の考えを読まれた事に驚きながらも、ノエルはライルへと気持ちを切り替える。






「ここが・・・俺の家ッス」

 ライルに連れられた一行は、住宅街にある一軒の家の前に来ていた。

 そこは他の家と変わらず、ごく普通の一軒屋といった感じだった。

「将軍様の家にしちゃあちっちぇな」

「親父はあまりそういうもんに拘らねぇんスよ。 お袋も無駄に広いより手の回る位の大きさがいいって気に入ってます」

 話すライルの顔に緊張の色が浮かぶ。

 ほぼ家で同然の形で飛び出してから10年ぶりの対面だ。

 ライルは頭の中の不安を消すように息を吐き出すと、扉をノックした。

『はいよ~。 ちょっと待っとくれ』

 聞こえた女性の声にライルが反応すると、扉がゆっくりと開く。

「はいはい、どちらさ・・・・ま」

 扉から現れたふくよかな体型の女性は、ライルを見ると一瞬固まった。

「ら、ライルかい?」

「おう・・・」

 突然の息子の帰りにライルの母親は何かを思い小さく震える。

 感動の親子の対面、そんな空気の中、ライルもなにか言おうと必死に言葉を探しているようだった。

「お袋、その、」

「この馬鹿息子が~!!!」

「ほぐわ!?」

 瞬間、先程までの空気を吹き飛ばすようにライルの母親の鉄拳がライルの顎に炸裂した。

 その光景にノエル達が唖然とする中、仰向けに倒れたライルに母親はその上に乗り頭を叩いた。

「勝手に出ていって10年も音沙汰なし! 人がどんだけ心配したと思ってんだい!? この親不孝もんが!!」

「お、お袋ごめん! 悪かったってば! ぐひぇ!?」

 母親にボコボコにされるライルを見て、我に返ったノエル達は慌てて止めに入った。


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