↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未だ蕾の勇者様(ノベライズ版)  作者: さじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/80

065_幻の珍味

 村へ帰ると、四人でギルドへ向かった。


 支部長の卓へゲレゲレキノコを出すと、彼は嬉しそうに身を乗り出した。


「おぉ! これだよこれ! よく手に入ったね!」


 包みを開いた途端、その笑顔が止まった。


「ぅ……噂に聞く通り凄い匂いだな。これ本当に美味しくなるのかな……?」


 聞かれても困る。自分も道中、なるべく袋が風下になるように気をつけていたくらいなのだ。後ろのエレノアとネージュが下がる中、プリシラだけが鼻を近づけた。


「まぁとにかく作ってみよう。ちょっと待っていてくれたまえ!」


 支部長が奥へ引っ込んだ。ほどなく、肉の焼ける匂いが漂い始めた。初めは期待していたウィルも、次第に戸の方へ寄った。火を通せば収まるどころか、キノコの匂いまで強くなっている。


「……完成したよ。これが、ペムペム牛の骨付きステーキ……らしい」


 支部長が戻ってきた。皿には立派な骨付き肉が載り、焼け目も美味しそうについていた。見た目だけなら、喜んで食べたかった。


 皿を差し出されると、目の奥までつんとする。


「……これさ、食べられると思うかい?」


「……ちょっと僕は遠慮したいですね」


「……むむむ」


 誘ってくれた本人も、一口食べようとは言わない。


「えぇ~? 結構いい匂いすると思うけどな~?」


 プリシラが卓へ近づいた。三人の視線が一斉に向いても、平気な顔をしている。


「食べてみたいな」


「待って。お腹壊すかもしれないよ」


「えぇ~……」


 伸びた手をネージュに止められ、プリシラは口を尖らせた。その隙に、支部長がウィルへ皿を差し出す。


「……これは君に進呈しよう」


「えっ」


 受け取ってから、しまったと思った。


「いやぁ、ほら。とは言っても珍しい料理だよ?」


「……そうですけど」


「なにか使い道あるかもしれないじゃないか。冒険者たるもの、道は自分で切り拓いていかないとイカン」


 この肉の使い道まで、冒険者の仕事にされてしまった。


「とにかく、依頼の方は達成だ。報酬は受付の方で受け取ってくれたまえ。おつかれさま」


 ペムペム牛の骨付きステーキ。ありがたい料理を皿ごと頂いて、一行は部屋から追い出されてしまった。報酬を受け取りに受付に行くと、ノエルが物凄く嫌そうな顔で対応してくれた。


     *


「ねえ、ちょっとだけでも駄目?」


「あれだけ期待してた支部長が食べなかったんだよ?」


「だから、あたしが」


「プリシラ。今日はもう、十分心配したわ」


 ネージュに言われ、ようやく手が引っ込んだ。さっきまで毒と傷を治してもらっていたのだ。村へ戻って早々、また世話になるのは避けたい。


 受付へ向かう途中で荷がずり落ちかけた。皿を片手に持ち替えようとすると、プリシラがすぐに手を出す。


「あたし持ってあげる!」


「じゃあ、この袋をお願い」


「そっちじゃなくて~」


 エレノアがもう一つの袋を持ってくれた。二人に荷を任せ、ウィルは皿だけを両手で抱える。


 猫には意外とイケるのかな。


 鼻を寄せたがるプリシラを見て、山小屋の猫を思い出した。あの猫は、好物を持ってくれば話を聞くと言っていた。猫獣人と猫が同じ好みかどうかは知らないが、あの喋る猫なら、嫌なら嫌だと言ってくれるだろう。


 そこで、ノエルに呼ばれた。


 依頼の達成を報告し、二千ゴールドの報酬を受け取る。討伐の証明も渡すと、彼女は記録を確かめてから顔を上げた。


「ウィルさん! ギルドポイントが八千を超えましたので、冒険者ランクがCに上がりました!」


「……C、ですか?」


「こんなに早くCランクまで到達してしまう人はなかなか居ませんよ? これは将来有望かもですね、私も担当として鼻が高いです」


 といいながら、その高い鼻は今、片手でつまんで塞がれている。プリシラが隣で顔を上げた。エレノアは笑い、ネージュもこちらを見て、頷いてくれた。


 Cはベテランと呼ばれるランクだ。もうそこまで来たのか。嬉しいのに、今日の廃墟であれほど手こずった自分が、とも思ってしまう。


 ネージュと目が合った。何度も治してもらった肩には、もう痛みも残っていない。一人で得たランクではないのだと、ウィルは三人へ顔を向けた。


「でも油断は禁物ですよ? 怪我など無いようにお気をつけて、これからも頑張って下さいね!」


「はい。ありがとうございます」


 頷いてから、ウィルは三人の方を見た。


「みんなも、ありがとう」


「やったね、ウィル!」


 プリシラが寄ってきたので、皿を少し横へ避けた。彼女の手が空中で止まり、今度はウィルの肩へ軽く触れる。


「Cランクになった人が、お肉ぐらいで逃げちゃ駄目だよ?」


「それとこれとは別だよ」


 まだ肉を諦めていないプリシラに答えると、エレノアとネージュが笑った。ウィルも笑ってしまい、ようやく昇格を喜ぶ余裕ができた。


     *


 帰ってから、拾った品をそれぞれ分けた。


 報酬から返済に回す分も取り分ける。借金はまだ五十六万ゴールドほど。少しずつ返してきたのに、最初の五十万より増えている。Cランクになった今なら、受けられる仕事も増えるはずだ。ウィルは今日の報酬を、生活費の入った財布とは別にした。


 望遠鏡と敵コナーズは、明日にでも届けよう。板材の傷みと錆びたバネは、工作の前に一手間加える必要がある。帰ってきたばかりだが、明日することも随分増えた。


 キノコの魔物から拾った二つの魔石は、少し手元へ残しておくことにした。


 ステーキは包んでも匂っていた。明日の朝、一人で山小屋の猫へ持っていってみよう。そう決めて床の隅へ置いたが、今日拾った品の中でこれだけは家に残したくなかった。


 窓を開けても、部屋の匂いはなかなか抜けなかった。支部長は今頃、厄介払いができて部屋でほっとしているのだろう。


 猫が食べてくれなかったら、最悪の場合はどこかに埋めよう。ウィルはそう決めて、窓をもう少し大きく開けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。