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揚げ物の香りは希望の匂い─無口なエビフライ少女と“だぎゃー”の相棒&”ころんとまなぴー”の商店街革命!  作者: かぐつち・マナぱ


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②納涼祭、開幕(序)――揚げ物にかける想いは――

お待たせしました!納涼祭”フライ・ルネサンス”の二話になります!

(≧▽≦)<遂に”アノ方”が出ちゃいます!、お楽しみに!

(ご本人様から了承済でございますm(__)m)

更にその方のエッセイなどからの引用もあります。


果たして、エビフライ娘”シューリン”、凸凹コンビ"ころんとまなぴー"、商店街の人々は祭りを成功させ、街を復興できるのか!?


(´人・ω・`;)<書いてたら10000字超えちゃった…お時間ある時にお読みくださいね〜

【――納涼祭、”フライ・ルネサンス”、開宴 (序)――】



祭りの夜が、ゆっくりと幕を開けようとしていた。


商店街の中央にある広場には提灯がいくつも吊り下げられ、夏の夜風にふわりと揺れている。


「さぁさぁ、寄ってらっしゃい!見てらっしゃい! 本日の目玉イベント――“セルフ揚げ物体験”の時間だぎゃー!」


生きているエビフライ(?)のマスコットキャラクター、”えびふりゃーちゃん”が腰をフリフリ、声を張り上げている。


その物珍しさも手伝って、広場の周りに子どもたちや家族連れ、大人たちが集まってきた。


広場の中央には、ぐつぐつと煮えた油を湛えたフライヤーが九台。


その手前には、衣をまぶすための台がコの字に並べられ、子どもから大人までが楽しそうに列を作っていた。


会場に設けられた『納涼祭”フライ・ルネサンス”』『セルフ揚げ物体験コーナー』の横断幕は、紅白の布に大きな筆跡で描かれ、遠くからでも一目で分かる華やかさを放っていた。


その文字はただの飾りではなく、まるで墨から熱が立ち上るような力強さを帯びている。


「字には魂が宿る・・揚げ物も人が揚げれば魂が宿る・・そういうことやな」


真剣な眼差しでそう呟くのは、白髪まじりの髪を後ろでひとつに結び、爪先が黒く染まった人物――この横断幕を手掛けた、文房具屋の主人であった。


かつては書道の教室を開き、町の子どもたちに筆を教えていたが、時代の流れと共にその生徒も絶えていた。


しかし、「あ、先生!お久しぶりです! 学校の放送でも、このお祭りを案内してたんだよ!」と、久方ぶりに会う子どもたちの声に、「おお! しばらく見ないうちに皆、大きくなったな!」と相好(そうごう)を崩し、優しい笑顔で出迎えている。


商店街の大人たちだけでなく、そこに住む子供たちもたくさん参加してもらうようにする――"ころんとまなぴー"の子ども総動員計画の成果が現れていた。


セルフ揚げ物コーナーのテーブルの上には、ころんとしたコロッケのタネ、アジ、串に刺さった串カツ、野菜などの具材を載せたパットが並び、 温度管理のため、その下には魚屋の親戚の氷屋が準備した氷が()かれている。


「お、おれでもできるん?」「わたしもやりたい!」


集まってきた子どもたちが、わいわいとはしゃぐ。


「もちろんだぎゃ!ただし、油は危ないから大人と一緒に安全第一だぎゃ!」と、えびふりゃーちゃんは念を押す。


――揚げ物屋台で、ただ揚げたものを売るだけの祭りではない。


調理する具材は揚げやすいように水気などを取り除き、食べやすいように串に刺してあり、安全面などを考慮した上で、お客さん自身で揚げてもらい、食べてもらう。


老舗の揚げ物屋”コロッケン”の店主――”衣川 勝造(ころもがわ かつぞう)”が中心となって安全に目を光らせ、町内の若者や商店街の人々がスタッフとして立ち回る。


商店街の人々とお客さんが一体となって祭りを盛り上げる、体験型のイベントであった。


混雑しないように整理券が配られ、大型の卓上電気フライヤー1台に、1~2組が仲良く揚げていく。


「粉はこうして、ぱらぱらと・・ほら、あんまり付けすぎると真っ白お化けになっちまうぞ」


揚げ物のプロである勝造は、笑いながら子どもにアドバイスを送る。


その隣で小学生の男の子が、手いっぱいに小麦粉をまぶしたアジを見て、「雪みたいだ!」と歓声を上げると、周りの大人たちもついつい笑っていた。


「コツはな、衣をつけすぎんことや。余分な粉は落として、油に入れるとこは”そっと”沈める」


店主がにやりと笑い、揚げ箸を掲げて解説を始めた。


「勢いよく入れたら、油がはねて熱い目に遭うで。それと欲張ってイッパイ入れんこと!、油の温度が下がるからな!・・そやけど、怖がらんと音を聞くことや」


子どもたちが更にパン粉をまぶし、油に落とすと――じゅわっ!と、弾けるような音が夜空に広がる。


「うわぁ!」「踊ってる!」「やばい!」


その瞬間、家族連れの子どもたちから一斉に歓声があがった。


油の中で白色から黄金色に変化するアジは、まるで小さな花火のようで、誰もが目を奪われた。


「しゅわぁ・・って心地よい音がしたら、それが上げてもいい合図やで」


「わっ!、ほんまや!、音が美味しそうになった!」


「そうやろう? この“揚げ音”は料理人の音楽や。焦らんと、きつね色になったら網で持ち上げてみい」


男の子が黄金色に揚がったアジを取り出すと、同じ組になった人たちからも「おおーっ!」と歓声があがる。


「あとは直ぐに食べたらアカンで・・余熱で中がしっとりとしたら・・さあ、食べごろや!」


揚げ上がった熱々のフライを受け取ると、子どもたちは「アチチ!」と叫びながらも夢中でかじりつく。


口の中で衣がサクッと割れ、魚の旨味がぶわぁっと広がると、頬をゆるませて「うまい! 魚って骨があるからニガテやけど、これなら何枚でもいけるわ!」と叫ぶ。


そんな様子を見て、魚屋の店主は「きっちり骨を抜てるから食べやすいやろ?・・手間をかけるの方が売れる・・正に目からウロコやわ!」と大きな声で笑った。


見知らぬ子どもの親同士も隣で笑いながら「やっぱり自分で作ると特別やなぁ」と頷き合っていた。


違うテーブルでは「あっつい! でもうまっ!、ビールのアテに最高やな!」と、父親が豪快に串カツを揚げて得意げに頷く。


肉屋の店主が「せやせや、大人も遠慮せんでええ! 串カツでもなんでも、自分で揚げたら格別やで!」と笑顔を弾けさせている。


一方で、若者たちや観光客たちも祭りを楽しんでいた。


浴衣姿の女性たちがスマートフォンを手に、三連のうずら卵串を掲げて写真を撮り合っている。


「自分で揚げるなんて初めて!、うずら三兄弟だって~♪」

「すごいサクって!? うわぁ! なにこれ、おいしい!」

「中とろーり! もっと食べたい!」と弾んだ声をあげる。


ちなみに、この”うずら三兄弟”というメニューを考えたのは、ころんである。


その”ころん”という名の通り、丸くて転がる”たまごの企画”はお手のモノ――かもしれない?


しかし、会場で響く声は日本語だけではない。


「Here, you can fry yourself anything you like!」

(ここでは、自分の好きなものを揚げて食べることができますよ!)


本屋の主人――分厚い瓶底メガネをかけ、少し猫背の中年紳士が、奥の目をきらりと光らせ、大げさに両手を広げて得意の英語で案内をする。


『Are there also vegetable fries like onions and eggplants?"(タマネギ揚げにナス揚げ?、 野菜まであるのか?)』


その言葉に外国人旅行客たちは「Wow!」と歓声を上げ、『So funny! Fry yourself!』と英語で書かれた看板を指さして笑いながら列に並んだ。


「Delicious! Japanese fried foods are not just ”Tempura”!?」


外国人旅行客の一人が、自分で揚げた物を頬張りながら、笑顔でこう叫んだ。


「ほう! お客人は『美味しい!日本の揚げ物は天ぷらだけじゃない!』と仰っておるぞ!」


本屋の意気揚々とした調子に、付き添っていたうどん屋の大将が、ふんと鼻を鳴らした。


「アホう! それぐらいの英語、わしでもわかるわ!」


そんな二人の様子に、国を超えた者同士からドッと笑い声が上がる。


普段は顔を見れば、やれ『外国かぶれ』や『時代遅れ』と罵り合う犬猿の仲のふたり。


だが、異国からの客人と町の人々が同じ食べ物を囲んで笑い合う光景に、本屋とうどん屋の心の中は、『この町の商店街は、協力し合えば、きっとまだまだ賑わう』と確信していた。



 【――納涼祭、同じ頃、飲食スペースにて――】



祭りは始まったばかりだが、広場やアーケードの空き店舗にはベンチや立ち食いのテーブルが設置され、揚げ物を持った人々が集まっては笑顔を交わす。


「でさあ、このソースやばくない!? お金出して買って正解だよね!」


祭りに来ていたギャルたちが市販とは違うソースの瓶を手に取り、ぱしゃりと写真を撮る。


揚げたての素材の美味しさに一役買っているのが、甘みと酸味のバランスが絶妙で、油のコクを引き立てながらも、しつこさを残さないソース。


市販の物と比べ、味と香りが一段も二段も違う、まさに別格の旨さ。


すぐさまSNSにアップロードしながら、指は迷いなくタグを打ち込んでいた。


> #納涼祭 #揚げ物天国 #手作りソース #香りと格がダンチ #美味すぎ #販売中


投稿が流れるやいなや、スマホ画面のハートマークが次々と赤く染まっていく。


「やば、バズる予感しかしないんだけど!?」


彼女の言葉に友達が大笑いし、さらにソースをつけたコロッケを上げてピースサインを決める。


そのソースとは、商店街が独自に作り出した特製品。


セルフ揚げ物体験コーナーを始め、屋台や物産店など様々な場所で販売されており、「揚げ物につけるソースは無いの?・・え? ソースは別売り!?、それなら要らないよ」と購買を辞める声もあったが・・・


「・・食べ過ぎや、胃もたれが気になる人には、秘伝の薬があるよ~、いらんかね~?」


そこへ、なにやらボソボソとした声が響いた。


挿絵(By みてみん)


「何ごとか?」と思った人々の視線にたじろぐ、ローブを着た謎の人物。


すると八百屋の女将さんが、「あはは、こわがらんといたって!、怪しい人じゃないんよ・・ただの光線過敏症(ひかりによわい)で人見知りの薬局の店長さんなんよ!」、と間に入って来た。


「ほら! 今つけてるソースは、この”ゲンラさん”が、ウチの野菜で作った自家製のソースなんだから!」、とローブを着た人の肩をバンバン!叩く。


「女将さん、やめれ・・ワシが一人で作ったわけじゃないけぇの・・」


”ゲンラさん”と呼ばれた女性が戸惑うような素振りをした時、小さな少年の声が耳に届いた。


「そんなにおいしいソースなの?・・でも、ボク、ソースつけられない・・」


見ると、悲しそうな顔をした幼い男の子が母親の袖を引いていた。


「ごめんね、ソースにはお米由来のものが入ってるから我慢してね?・・すいません、この子、実はお米アレルギーなんです・・だから、そのままでいいんです」


揚げ物を持った母親は、困ったような笑いを浮かべながら首を振る。


「え、マジ!? お米アレルギーなんてあんの!? ちゅうか、ソースにお米って入ってるんだ!?」


その言葉を聞いたギャルたちは、初めてことに驚きの声を上げた。


「ほら、ここはあんたの出番やで! 怪しい顔しとらんと、ちゃんと教えたげな!」


親子の気持ちを感じた八百屋の女将さんが、ゲンラさんの背中をぐいっと押した。


「お、女将さん急に押さんと・・これはな、ワシが作った特製ソースや。 米は一切使っとらん・・」


強引に押されて一歩前に出ると、少年の前でローブの裾を揺らしながら言った。


喋りながら、ゲンラさんの脳裏には今も続く辛かったこと、苦労したことが過った。


「だから、お前さんと同じ”()()()()()()()”のワシでも、安心して食べられるソースなんやで・・どうでしょうか、お母さん?」


本当なら人前に出ることも、喋ることも避けたい――だが、その気持ちを上回る想いが彼女を動かしていた。


そして、”幻のなまら(とても)うまい ソース”を取り出し――母親に静かに(たず)ねるのだった。



 【――時は(さかのぼ)り、祭りの準備中にて――】



ここは、納涼祭でメイン会場になる予定の中央広場。


時は夜の灯りがともる前――提灯や屋台の骨組みが次々と立ち並んでいく。


「ほな、これで九台全部つながったで!」


電気屋の親父が額の汗を拭いながら声を上げた。


卓上サイズとはいえ、大型の電気フライヤーが九台も並べば、壮観だ。


町内会長の鶴の一声で集まった人々による祭りの準備で、商店街は久方ぶりの活気に満ちていた。


「これで揚げ場と提灯の電源は万全や。途中で止まったら、電気屋の笑いモンやさかいな!」


裏手には発電機がぐうんと唸りを上げ、電源を確保している。


電気屋が胸を張ると、子どもたちが目を輝かせて覗き込む。


「これ見てみい! ウチの小麦粉はな、北海道の純国産や!」


白い割烹着姿のうどん屋の大将が、大きな袋を担いでやって来た。


「外国産みたいに腰が弱ぁない、粉の香りが違うんやで! 揚げ物の衣に使うんなら、これ以上のモンはないわ!」


腕まくりをしながら、自信に満ちた白い歯を光らせる。


「じゃあ、パン粉は私に任せて! 焼いたばかりの食パンを贅沢に、そのままパン粉にするわ!」


黄色のエプロンに粉をつけた、ふっくらした笑顔のパン屋の店長が言う。


「揚げたらサックサク、嚙んだらジュワっと素材の旨味を包み込む・・これぞ商店街の底力よ!」


「わぁ! これで、どんだけでも揚げられるね!」

 

近所の子どもたちが、笑顔でぱちぱちと大きな拍手をした。


「ねえ、でもさー!、揚げ物ってソースがないとイマイチじゃない?」


そこへ、緑色のお団子ヘアを元気に揺らしながら、ころんが駆け寄ってきた。


「・・本番の串カツ屋さんみたいに、”二度漬け禁止”にしないとね」


隣で黒髪に眼鏡のまなぴーが、真面目な顔で付け加えた。


「そらそうやな、二度漬けは唾液が入って衛生的やあらへん・・ちゃんと一人ひとり、使い切りの容器にするか?」


揚げ物屋"コロッケン"の店主――衣川(ころもがわ) 勝造(かつぞう)が、どっしりした関西弁で応じる。


「じゃあ、よく見る魚型のしょうゆ入れを使う?、あれカワイイよね!」と無邪気なころん。


「でも・・市販のソースを一つずつ小分けにするのは大変だね・・」とまなぴーが眉を寄せる。


すると、エビフライ娘のシューリンがきっぱりと言い切った。


「使い切りは手間がかかる・・ だから最初から、()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()


「「「(;゜Д゜)(゜Д゜;(゜Д゜;) ナ、ナンダッテー!?」」」


突然の発言に、ざわつく商店街の一同。


「えっ!?お店のじゃない、別のソースを販売するの!?」ところんが目を丸くする。


「特製ってまさか・・自分たちでソースを作っちゃうの・・?」とまなぴーも目を丸くする。


シューリンは頷き、空気を吸い込むように鼻をひくつかせた。


「この商店街で、特別なソースの匂いを感じた・・持ち帰って家で使えば、きっとリピーターが現れる・・この納涼祭を通してそのソースを販売すれば、商店街が息を吹き返す”(かなめ)”となる」


「「「(;゜Д゜)(゜Д゜;(゜Д゜;) ソ、ソンナコトガー!?」」」


揚げ物が関係する調味料に対して、エビフライ娘の嗅覚は確かだった。


ざわめく一同の視線を受けたシューリンの瞳が、とある人物を捉えた。


「・・”ゲンラさん”・・あなたから美味しそうなソースの匂いがする・・ごくり・・」


挿絵(By みてみん)


少女は嗅ぎ分けていた――ローブ付きのフードを深く被った人物が隠し持つ、特別な香りを。


「・・確かに、このソースはワシが作ったモンやけどな・・」


ローブの袖から、”茶褐色の液体入りの瓶”、を取り出した女性が呟く。


彼女こそ、商店街の"(まぼろし)よろず薬店"の店主――”ゲンラさん”だった。


彼女は光線過敏症ゆえ、昼間は自宅の薬店に引きこもりがちで、尚且つ、お米アレルギーのせいで市販ソースを食べることすらできない。


「役に立つか分からへんけど・・揚げ物にはソースが付き物やで、一応、持ってきてたんや・・」


しかし彼女には、薬師としての腕とスパイス調合の才覚があった。


「正直、ひとりじゃ無理や・・切って切って切って、煮込んで冷まして、砕いて絞って煮詰めて、冷まして出来上がりって、とんでもない手間やからな?・・どれだけの量がいるか、わからんけど・・」


その作業の困難さを知るゲンラさんは目を伏せ、首を横に振る。


「ゲンラはん、アンタひとりやおまへんで!、ウチらが協力しますえ。人手も場所も材料も、みんなで担いまひょ!」 


だが、その言葉を遮るように、町内会長が力強く笑った。


「「「おう!商店街のために!祭り成功のために!」」」


会長の言葉に、周りのみんなから賛同の声があがる。


「野菜が必要なら、ウチにまかせとき!」と八百屋の女将。


「調味料なら、ワシの酒店がそろえたるさかい!」と酒屋の老主人。


「ぎょうさんの調理器具がいるんちゃうんか?、ほなコッチで用意したる!」と金物屋の旦那。


「「「オレモオレモ━!(_゜ロ゜)人(゜ロ゜)人(゜ロ゜_)━ワタシモワタシモ!」」」


次から次へと、ひっきりなしにゲンラさんへの協力を申し出る人たちで、周囲は賑やかさに溢れかえっていた。


「・・会長さん・・みんな・・ホンマに作るのは大変なんやで?」


ゲンラーさんの口元が少し緩む。


「よし!、ころんも手伝うよ!・・味見係で!」


「・・そう言いながら頑張るのが、ころんのよいところ・・」


ころんとまなぴーも手をあげる。


他の子どもたちも「ソースって作れるん!?やってみたい!」と声をあげていく。



――こうして始まった“商店街総出の特製ソースの仕込み作業”は――


りんご、玉ねぎ、人参、セロリをみじん切りにして炒め、完熟トマト缶で更に煮込む。


次に、十数種のスパイスを調合して鍋に入れる。


1時間弱火でぐつぐつ煮詰め、醤油やモルトビネガーなどの調味料を入れる。


そこから更に30分煮込み、冷めたらフードプロセッサーにかける。


それを()し布で丹念に、ひたすら()して、ようやく商品であるサラサラのソースとなるのだ。


「搾りかすのペーストは、カレーやハヤシライスにいいかもしれんな!」、と手際の良い仕事を見せる洋食屋の店長。


「ソースを作るのって、こんなに大変なんや!?」


大人や子どもたちを始め、みんな汗だくになりながらも、どこか楽しげに手を動かしていく。


その中には、ころんの意中の人"諫山(いさやま)陽斗(はると)くん"や、ライバルである"椎名さん"の姿もあった。


――途中、ころんが諫山(いさやま)君にいい所を見せようと、出来あがったソースを運ぼうとして転んで、まなぴーが顔面で受け止めたりしたけれど――


こうして出来たソースを瓶詰めする作業は、祭り当日まで続いた。


その香りは、すでに商店街を包み込み、祭りの成功を約束しているかのようだった。



――ちなみに、いつもならアレコレと騒がしい、”えびふりゃーちゃん”は?――


「・・う、うちのこと、みんな忘れたらアカンのだぎゃ~?・・とほほほ・・」


二度揚げのせいで黒く変色した”えびふりゃーちゃん”が、痛みに震えながら、静かに見守っていた。


むしろ、要らぬちょっかいを出さなかったので、作業がスムーズに進んだ、まである。


こうした出来事を経て完成したソースは、ゲンラさんの要望(自分の名前は出さないで!)もあり、”幻のなまらうまい ソース”という名で販売されることとなり、笑いが絶えない作業場であったことも付け加えておこう。



 【――時を戻し、再び納涼祭、飲食スペースにて――】



ゲンラさんから差し出された”茶褐色のソース”を見つめる母親。


「貴女もこの子と同じ、お米アレルギーなんですか!?・・あなたが大丈夫なら、きっと!」


母親は一瞬だけ驚いた顔をし、次の瞬間、期待に満ちた眼差しを送る。


「おかあさん、ぼく、ソースつけてみたい!・・おねがいします!」


男の子は母親から揚げ物を受け取り、ゲンラさんに差し出した。


「・・何かあったら、すぐに言うてほしい・・ワシは薬屋やで・・」


揚げたてで、まだ湯気が上る野菜揚げ――そこに”特製ソース”がかけられる。


恐る恐る、そして勇気をふりしぼるように、揚げ物をひと口、かじる。


「・・っ!?、 おいしい!!!」


ぱっと咲いた男の子の笑みは、まるで夏の向日葵(ひまわり)のように弾けた。


「おかあさん、このソースとってもおいしいよ! ボクでも食べれるよ!」


小さな手がぶんぶん振られ、足は思わずトントンと地面を蹴る。


目をキラキラと輝かせ、口の周りにソースをつけながら夢中で頬張る。


「あぁっ・・! この子が・・この子が安心して食べられるソースがあるなんて・・!!!」


母親は揚げ物を持つ手を震わせ、溢れる涙を隠そうともしなかった。


頬を濡らしながら、我が子が”当たり前に食べられる幸せ”をただ噛みしめる。


それは、これまで幾度となく『食べられない』と断らねばならなかった痛みが、一瞬にして救われた瞬間だった。


「アレルギーは直ぐに出るもんと、遅うから出てくるものがあるで、注意せんといかんけど・・大丈夫そうやね」


ゲンラさんが静かに見守りながら言葉を添えると、母親は両手で口を覆い、深く頷いた。


「ゲンラさん、本当に・・本当にありがとうございます!・・こんな日が来るなんて・・!」


「ぜひとも、このソース買って帰ります!・・いえ、ずっと買わせて下さい! お願いします!」


感極まった母親が涙を流しながら、ゲンラさんに向けて頭を深々と下げた。


「まあ、今回は1グループで1本って数量限定で販売しとるで、多分、買えると思うけど・・継続して作り続けられるかは分からん・・あかんかったら、レシピは教えるし、ワシの使いさしで良ければやけど・・あと注意する食べ物も教えてあげるわ」


挿絵(By みてみん) 


男の子の喜び様と、母親の苦労を思うゲンラさんは、ちょっと怪しい身なりだが、とても良い人物であった。


「え、ヤバっ!? これってチョーいい話じゃねっ!? 」

「うわぁーん! ワタシの涙腺破壊されたー! マジ泣けるー!!」

「お米アレルギーってキツすぎ!? お母さんとボクちゃん大変じゃんかー!?」


感極まって目元を指でこすりながら、ギャルたちはすぐさまスマホを構えた。


画面には、ローブ姿のゲンラさんと、満面の笑顔を浮かべて揚げ物を頬張る男の子。


「お母さん、大変やったね・・ウチにも違うアレルギーの子がいて、ちょっとは苦労が分かるでな・・」


母親が涙ながらに再び感謝を告げ、八百屋の女将がハンカチを渡している姿も映り込んでいる。


「これは撮るしかないっしょ!」

「よっしゃ、世界にバズらせるよ!!」

「ウチらJKの力、みんなに見せてやんよ!!!」


鼻を豪快にすすりながらも、指先は迷いなくタグを打ち込み、次々と投稿されていく。


> #商店街の奇跡 #アレルギー対応ソース #マジ泣ける #幻のなまらうまいソース #食の未来ここにあり #販売希望殺到中


スマホの投稿がアップロードされると同時に、スマホ画面に「いいね」のハートが凄まじい速度で点滅を始めた。


最初の数秒で数十、数分もしないうちに数百の反応が寄せられ、コメント欄には各国語の感想が飛び交った。


「So touching… I wanna try that sauce in my country!」


「日本すごい! お米アレルギーにも優しいとか神!」


「Where can I buy it?? Please ship overseas!」


驚きと称賛、そして購入希望の声が一気に押し寄せる。


「やばっ! これもう、バズどころじゃなくて炎上・・いや、良い意味での大炎上じゃん!」

「わかる~! これ全国ニュースになるんじゃね?・・ウチら伝説の目撃者じゃね!?」

「ショボイ祭りかと思ったけど、来て良かった!・・また来年も三人で来ようね~♪」


ギャルたちが笑いながら言うと、周囲から拍手と歓声が沸き起こる。


「なんて良い話なんや・・オレらもソース買いに行こうぜ!、売り上げに貢献や!」

「他のソースと香りも味も段違いや!?・・ぜひとも、続けて売ってほしいわ!」

「なるほど、使い捨てじゃないのは、こういう意図があったんや!・・商売上手やな!」


あちこちのテーブルからソースを求める声があがっていく。


その様子を見た八百屋の女将さんが、「苦労して作った甲斐があったやないの、なぁ?、あの”()()()()()()()”」、と笑いながら、ゲンラさんを肘でつついた。


「ウチの名前で呼ばれんように、”()のなま()うまい()()()”って名付けたのに・・」


ゲンラさんは少し照れたように肩をすくめた。


「ワシはただ、ソースの作り方を教えただけや・・でも、みんなが美味い言うて笑ってくれるんやったら、それで十分や」


その時の彼女の笑みは、スパイスの香りのように人々の胸に染みわたり、納涼祭で初めて販売されたソースは、すでに人々を虜にしていた。


こうして生まれた”ゲンラーソース”は、やがて“幻の味”として長く語り継がれ、この商店街の新たな伝説となっていく。


屋台の灯りに照らされる商店街は、いつの間にか祭りの喧騒を超えて――ひとつの物語が生まれる場へと変わっていた。



はい!、アノ方とは”幻邏様”(https://mypage.syosetu.com/1850894/)でございました!

(*人´▽`*)<この度は、快く出演を受けていただき、まことにありがとうございます!


ちなみに、特製ソースの元は、こちらの幻邏様のエッセイ――

【写真多め】ウスターソースを作ったよ!

https://ncode.syosetu.com/n5618js/

から色々と引用させていただきました!(´人・ω・`)<ありがとうございました!


(ちょっと長いけど、このエピソードについてm(_ _)m)

今回登場した『ゲンラーソース』は、モデルとなった幻邏様が、もともと お米を使わない調味料作り に取り組まれていたことをきっかけに生まれた発想です。


私たちの多くにとって『お米』は当たり前の食卓にあるものですが、アレルギーを持つ方にとっては、それが食べられない苦しさや孤独を日々背負う現実があります。


給食でみんなと同じものを食べられない悔しさ、外食で選べるものがほとんどない不便さ(丼ものとか)、そして何より「食べることを楽しめない悲しさ」。

それは想像以上に大きな痛みだと思います。


だからこそ、安心して口にできる「おいしいもの」があること、それを通じて「一緒に楽しめる時間」を持てることが、どれほど救いになるか……

このエピソードは、その願いと祈りを込めたものです。


この世界が、ほんの少しでも優しく、誰もが笑顔で『おいしい』と言える場所になりますように。

そんな想いを胸に、書かせていただきました。

(ꈍᴗꈍ人)<最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

まだ祭りは始まったばかり!次回も宜しくお願いします♡

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― 新着の感想 ―
お祭りの盛り上がっている様子がとても伝わってきました。「揚げ物も人が揚げれば魂が宿る」という言葉、インパクトがあり、揚げ物への愛を感じました。 ローブの謎の人物、とてもいい人ですね。様々なアレルギー…
ゲストは幻邏様なのですね。素敵なお話でした! 食べることは身近な幸福(この場合は口福、ですかね)、それが制限されてしまうことは、とてもつらくて大変なことも多いと思います。その中で「安心でおいしい」を探…
 いつも書き手として活躍なさっている素晴らしい先輩方がお話の登場人物として出ていらっしゃるのが、とても新鮮で、それだけでもお祭り感があって、拝見していてとても楽しいお話ですね。  その上、謎のエビフラ…
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