20 こちらが青木ティーチャーです!
ルークが私の高校に転校してきて三日目になる。
登校時に二人で並んで会話をする時間もとても楽しく感じている。
電車の中は、相変わらずルークの腕の中でガードしてもらうという体勢に、ドキドキですけどねっ!!
駅の改札を出て、正門に向かって歩き出す。
「今日は英語の授業があるね! ルークは退屈しちゃうかな~」
「たいくつ?」
「つまらないってこと」
「そんなことないよ」
ルークとの日本語での会話は不便さを感じていない。
それでも時々、日本語で表現しにくい時にはゆっくりな英語で話してくれて、
それを日本語で何と言うのか聞いてくることもあった。
「ルークのおかげで、私も英語のヒアリングがちょっとできるようになってきたかも」
むふふふ。このままルークの英語を聞き取る練習をしていれば、W2のルカ様がステージでペラペラ話している内容も、これからは聞き取れてしまうかもしれない。
ホストファミリー側の私にもメリットがあるなんて、一石二鳥じゃないの!!
ルーク! ホームステイに来てくれてありがと~
心の中で盛大に感謝する。
「そういえば、ルークは結局、青木ティーチャーにまだ会っていないよね?」
私は担任の山田先生が、困ったことがあれば英語で青木ティーチャーに相談するようにと伝えていたのに、その後、紹介するのを忘れていたことを思い出す。
思いっきり失念していたわ!
「まだ会っていません」
「ごめんね。私が紹介しないといけないのに忘れていたの」
私は手のひらを合わせて、ごめんなさいポーズをとると、ルークは頭をポンポンと撫でてくれる。
相変わらず、前髪で目が見えないけれど、口元が笑っているから怒ってはいないのだろう。
ルークが来日して五日経ったけれど、ルークの口元だけで彼の感情がある程度読めるようになってきた。口元マスターと呼んでいただきたい。
ん〜、おかしいなぁ。
カッコよくネーミングしたいのに、私が名付けるとなぜか卑猥な言葉に聞こえてしまう。なぜでしょう。
アメリカの習慣なのか、ルークからのボディタッチが時々あるけれど、それが少し嬉しくもあり、キュンキュンしてしまう時もある。
怖いね、免疫ないって。
そんなことされたら自分の事を好きなんじゃないかと、錯覚してしまうわ!
私は、心の中のソワソワとした気持ちを見抜かれないように、青木ティーチャーについて説明をしておく。
「青木ティーチャーはね、すごく若い先生なんだけれど生徒に人気があるんだよ!」
「そうなんだ。男の人?」
「そう。爽やかなんだけれど、とても面倒見がいいんだよ。だから、困ったことがあったら、きっと助けてもらえるよ!」
「わかった」
「それとねぇ、我が家の近所に住んでいるんだ!」
「そうなんだ」
「だから、お休みの日とかばったりスーパーで出くわすこともあるかもよ」
そんな説明をしていたら、ちょうど高校の駐車場から歩いて校舎に向かう青木ティーチャーを発見する。
噂をすれば…というやつだろうか。
「青木ティーチャー!!」
私は、少し先を歩いている青木ティーチャーを呼び止める。
ルークを紹介するためだ。
「笹波さん、おはよう。あれ? 隣の男の子がホームステイに来ている子?」
「おはようございます! ルーク、こちらが青木ティーチャーです。先生、こちらが我が家のルークです。何かあったら英語で助けてあげてくださいね!」
「ルークです。はじめまして」
「へぇ、日本語かなり話せるんですね」
「はい。英語が話せない私とも日本語で会話して意思疎通できていますよ!」
青木ティーチャーは成人男性だし、背も高い方だけれどルークの方がもっと高いから先生は少しだけ視線を上げて、ルークと目を合わせそうとしているみたい。
残念ながら、なかなか前髪に隠れた先にある瞳を拝むことはできないですけれどね。
ん? 先生、ルークのことを見すぎじゃない?
うちの子、シャイですからそんなに見つめないであげてください。
そう言ってあげれば良かったのかもしれない。
よくわからないけれど、ルークの口元が少し強張っている気がする。
青木ティーチャーとは初対面だから、まだ緊張しているのかな?
無口なルークがその時、何を感じていたのかは全然わからなかった。




