21 キューピットは全裸で羽の生えた子供
青木ティーチャーと別れて、いつも通り教室に入る。
「おはよう、ことり! ルーク!」
「おはよう! あかね!!」
「……おは…ようございます…」
シャイなルークはまだクラスメートと話す時は、小声で話す。
「ルークって素敵な声だから、もっと大きな声で返事したら?」
私が素直にルークの声を褒めると、ルークが口元を手のひらで覆った。
あれ? 声に関して何か気に障ることを言ってしまったのかしら!?
そう思ったけれど、ルークから予想外の言葉が返ってきた。
「ことりは…この声は好きですか?」
「ええ! ずっと聴いていていられるくらい好きかも!!」
「……そうですか…では、もう少し大きい声で話します」
耳が真っ赤になって、口元を隠したままのルークを見ていてやっと気が付く。
これは! ルークは照れていたのね!!
「そうね! ルークの素敵な声をみんなに聴かせてあげましょう!」
「……」
精一杯励ましてみたけれど、それに関してはルークは何も語ってくれなかった。
この時の私は、ルークの本来の声がとてもよく通る声でできる限り声量を抑えて来日していたとは知る由もなかった。
「そういえば、ことりは…青木ティーチャーのことはどう思っているの?」
机にカバンを下ろして着席するなり、ルークが先ほど対面した青木ティーチャーについて質問してくる。
うふふふ。ルークも青木ティーチャーという英語で話せる先生と出会えて嬉しいということかしら?
「えっとねぇ、私が好きなアーティスト知ってる?」
いきなり話題を変えた私に驚いたのか、ルークが少し顔を横に背ける。
考えているのかしら?
そう思ったのも束の間、相変わらず遠慮がちな声でボソリと正解を告げてきた。
「W2?」
「そう!! そのW2がデビューしたのを教えてくれて、歌詞を調べながら英語が好きになるといいよとアドバイスをくれたのが青木ティーチャーなの!」
「……そうなんだ」
「だからね、青木ティーチャーがW2の存在を教えてくれたから、私はW2をこよなく推すことができるようになったし、彼らの存在に感謝しながら生きてこられたのよ!! きっかけをくれたのが青木ティーチャーってわけ!」
「はぁ~。なんだか、フクザツ…」
ルークの心境を語っているとは気が付いていない私は、日本語が難しかったのだと勘違いして、言葉を言い直す。
「青木ティーチャーのおかげでW2に出会えたんだよ!! 感謝してもしきれないわね!!」
「……喜んでいいのかな…喜ぶべきなんだろうね…」
「そうね! 私は喜んでいるのよ!!」
「わかったよ。じゃあ、ことりにとっては青木ティーチャーはW2を知るきっかけをくれた人ってことだよね?」
「そうね!」
「それだけだよね?」
「? そうね。言い換えるなら、W2との間を取り持ったキューピットかしらね。キューピットっていうのは、全裸の羽の生えた可愛らしい子供なんだけどね。あ、でも青木ティーチャーは全裸の子供でも無いし、背中に羽が生えているわけでもラッパを吹いているわけでもないけれど、そんなイメージってことよ!」
私の説明が通じたのか、わからないけれど「キューピット」という単語を口にした途端、ルークはフフフフと声を出して笑った。
「なんだ。オレのライバルじゃないならいいか」
小さな言葉で囁いていたルークの言葉は、ホームルームの予鈴でかき消されて聞こえなかったけれど、黒縁メガネの奥の柔らかそうな瞳が細められているのが笑ったはずみで揺れた前髪から見えて、少しドキッとしてしまう。
ルークの瞳って、前髪で隠れてよく見えないけれど大きくて綺麗なんじゃないかと気が付いてしまったからだ。




