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翼の少女

「……よし、中々上手く湿っているな」

翌日、村の近くにある森の奥にある川でアレリアの湿った木の皮を取っていく。

これは川さらしと言って、昨日のうちに取った皮を川にさらすことでふやけさせ、外皮を取りやすくしているのだ。

……本来、天日干しする必要があったが、加工場の近くにアレリアの木の幹の皮が捨てられていて助かった。日当たりの良い場所に捨てられていて程よく乾燥していたからな。これが無かったらもっと時間がかかっていた。

てか、これは何で捨てられていたんだ?家具にも使えないのに。……後で辺境伯に聞こう。

「ほいほいっと」

貸してもらったナイフで景気よく外皮を切っていく。

この剥いだ皮は白皮と呼ばれ、これが和紙の材料になる。ちなみに、この時切った外皮でも一応作れない事はないが、白皮の方が綺麗に仕上がる。

「さて、これが今日の難関だな……」

川から水をすくい、鍋の中に皮と一緒に入れ、灰も鍋の中に突っ込む。

この煮る作業で繊維を柔らかくさせるのだが……いかんせん、俺は火付けが出来ない。王族である以上、飯を作るにしてもそもそもそんな事をする機会が無いのだ。

知識だけあってもすぐに出来る訳では無いんだよちくしょう!

『――――――――――――――――――』

ん?何だこの奇妙な歌にも聞こえる雑お

「ぬおわっ!?」

突如鍋の下に敷いた木々が一気に燃え盛った。

自然発火でもしたいのか?あれは特殊な化学物質や酸化、発酵や光の照射によってなるものだが、それを行える条件は無かったし、条件を満たしていてもここまでいきなり発火することはない。

つまり、これは人為的に発火(・・・・・・)した事になる。

(だが、どうやって?)

火矢を射たれた訳でもなく、ましてやガソリンや油を撒かれた訳でもない、不可解過ぎる現象。そして、それをやったであろう人間が見えないどころか足音すら聞こえないのだ。

ここは森の一画だ。そのため、この辺りには木々が生い茂っており、地面には木の枝や枯れ葉が落ち、草が生い茂っている。そのため、どれだけ凄腕の暗殺者でもここを音なく突破できるのは困難なのだ。

そして、ここまでヒントを貰えば誰がやったのかくらいは理解できる。

(ウィルベカトリ族)

ヨルトル山に住む御神『ベガス』を始祖に持ち最も始祖の血が濃い種族。その種族には翼が生えており、数少ない文献では空を飛ぶこともでき、飛ぶことも可能としていると書かれていた。

となれば、後は探すだけだが……この種族は法術と呼ばれる魔法のような技術に特化した種族。それの中には透明化もあるのだろう。眼には見えず、足音も聞こえない。探しようが存在しないのだ。

(……?何か、微かに羽音が聞こえる)

虫の羽音……にしては大きい。どちらかと言えば鷹などの猛禽類などの大型の鳥のような……これだ!

「ふぅ……」

鎖鎌を手に持ち、頭上で分銅を振り回す。

勝負の時は一回。眼には見えないから眼を閉じ、聴覚だけを集中させて……

「今だ!」

『ふにゅ!?』

振り回した分銅を投げ、空中で不自然に絡まると間抜けた声が聞こえる。

この声音からして恐らく俺とそこまで年齢が違わない少女だと思われる。取り敢えず、引き下ろすか。

『ま、まってまって!ミュウはそんなつもりは……!』

「?いや、面を向かって礼をしたいだけだが……」

『強引過ぎない!?』

礼をしたいのは事実だし。まあ、法術と言うのがどういう物なのか知りたいと言う知識的な欲求も無くはないが。

『分かった!分かったから!』

翼が羽ばたくのと同時に悲鳴のような声をだしながらミュウが俺の近くに降り立つ。

さて、手助けしてくれたお礼を言わないとな。

「ありがとな、火を起こす手伝いをしてくれて」

『いいよいいよ!ミュウもたまたまここを通り過ぎたてただけだし!』

……やはり、何もない空間に向かって喋っているのは誰かに見られたらかなり危ないやつと思われるだろうな。

『うーん……もどかしい!ちょっと待ってね!』

「うん?』

何かごそごそと動くような音がしたかと思うと、何もない空間から背中に白い翼が生えた少女が現れた。

何かをしていたようだが……何をしていたんだ?

「へっへーん!これが法術だ!凄いでしょ!」

「……素直に見せびらかせて良いものなのか?」

「うーん……別にいいんじゃない?」

(……勿体無いな、マジで)

ころころと笑うミュウを見て若干残念だと思ってしまう。

年相応に幼いながらも整った可愛い顔立ちに、短めに切り揃えられた真っ白な白髪、髪に反比例するかのような金色の瞳。礼儀作法をちゃんとすればガチの天使に見えるのに……立ち振舞いが幼い過ぎるからか、その明るい笑顔だからなのか……それは分からないが、見た目とのギャップが凄い。

「ねえねえ、何を作っているの?」

「紙だよ。植物の繊維から作っているんだ」

「へー……そんな事が出来るんだ!手伝ってもいい?」

「構わんが……鍋にはまだ触るなよ?火傷しても知らんからな」

「う、うん……分かった!」

ミュウが火がついた鍋に触ろうとしたところを触るな直前で注意して止めさせると、ちょっと残念そうな顔をして近くの倒れた木の幹に座るのだった。

ちょっと変わっているけど、裏表の無く、悪いやつでは無さそうだ。警戒する事は無いだろう。


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