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甘色のラブレター

「恋人の日」のSS

「ほい」


 そう言われ急に近寄られた為、彼女は思わず身を引いてしまった。

「……何です?」

 この先輩は、たまに突飛な事をする。なので、不躾にもほどがあるとばかりの無遠慮な視線を投げつけると、やはりニヤリと笑われた。

「今日、すげぇ痛い日なんだろう?」

 その意味する所に直ぐに理解が及び、彼女は素直に驚いた。

「どうして、知ってるんですか?」

「さあ、どうしてだろうな?」

 いくらルームメイトでも、そこは男と女で秘密はあって然るべきだろう。まさか、実は毎月把握されているのでは?と思うと妙な不安感が押し寄せてくる。この得体の知れない感情に言葉を付ける事が出来ず、ぽろりと本音が溢れてしまった。

「恋人でもないのに」

「恋人でもないんだけどな。お前に関しちゃ、ある程度分かるのよ」

 そんな彼女の言を繰り返し、敢えて茶化された言葉で宣言された内容はかなりおかしい。あんたは俺の何なんだ、と内心で突っ込まずにはいられない。なので。

「……恋人でもないのに」

 不服を伝える為にわざと同じ言葉を口にした。

 現に、彼女はこの国の王子の婚約者だから間違ってはいないのだ。けれども、そこは一癖も二癖もある個性の塊。しかも、監督生なんていう生徒の鑑のような存在のフェルメールがそこで簡単に引き下がってはくれなかった。

「恋人でもないけど、そこは肩を貸そうっていう優しい先輩にたまには素直に感謝しろよ」

 それはまあ、確かに、と彼女も思わなくもない。

 入学してしばらくして直ぐに性別が女だとバレたものの、今までやってこられたのはこの男あってこそだ――とは、多少なりとも思わなくもない。

「……それじゃあ」

 ならば、今回はお言葉に甘えてみようか、と彼女が彼の肩に頭を乗せようとした瞬間。


「まあ、傍から見れば恋人だけどな」


「!」

 にやにやと笑って冷やかす声が上から降ってきたので、反射的に体勢を元に戻した。

「……今日はもう部屋に戻ります」

 少しばかり恨めしそうになったのは仕方ない。

 ふらりと立ち上がると、どこから見ていたのかセラフィナが慌ててやってきて肩を支えてくれた。

 前世が男であった為に、いまだ慣れないこの女性特有の現象にはどうも耐えられそうにない。鈍く痛む腹部は速やかに部屋へ戻るよう促しているかのようだ。

 一応、ここでは年長者として先輩を立てておくべきか。そう思い、彼女はフェルメールに頭を下げた。

「おう。ゆっくり休んどけよ」

 何となく、これは始めからこのつもりで茶番に付き合わされたような気がする。だが、今更噛みつくのもどうかと思うし、ここはいっそ甘えてしまえ、と何より腹部が訴えてきた。

「……はい」

 上手く丸め込まれたのは気にくわないが、ここは諦めるしかないだろう。そう決めて、彼女はもう一度頭を下げると出て行った。


「お前のそういう素直なとこ、ほんと好きだぜ」


 机に肘をついて口元を覆うフェルメールの呟きが聞こえた者は誰一人としていない。



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