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マガツヒの神 ~純酷の葬列~  作者: 印西たかゆき
8/8

これから

 あれから数日の時が経つが……未だに連絡員からの連絡がない――連絡員が連絡を寄こさないのは、いかがなものか……普通の会社だったら、そのような人間はとっくにクビになっているだろう。

 だが、あいにく私の属する組織は普通ではないし、会社でもない。ということで、今日もゲームセンターのシューティングゲームで暇を潰している……。

 最初はただ暇つぶしになればいいと思っていたが、今では完全にドハマりしてしまった。近頃はゲームセンターからシューティングゲームが続々撤去され、その代わりにユーフォーキャッチャーや小学校低学年向けのゲームばかりが置かれる、非常に世知辛い世の中だ。

 幸い、ここのゲームセンターはそんな世の中にあって、未だに昭和のゲームが陳列されている隠れた名店だ。年老いた老夫婦が個人で営業しているからこその、私の心のオアシスとなっている。

 しかし……残念ながら、この日はラストステージまで進むことが出来ずに中ボスにやられてしまった……はっきり言って、自分が向けている銃口と着弾点にあれほどの誤差があるようでは、当たる弾も当たらない。

 今度、爺さんに抗議してやろうか……この数日でだいぶ顔馴染みになったし……。

 冗談はさておき、私が持っている本物の銃は、私の右側の腰で今か今かとその時を待っていた。

 私としてはこの銃器を使うような時――ゲームセンターにいる時に襲撃される――は来てほしくないのだが、ようは油断大敵というやつだ。

 何の連絡も無しに、いきなり射殺……という手段を組織がとらないとは限らない……そんな不安を抱きながら、私は郊外の自宅まで帰ってくることが出来た。

 車を車庫に入れ、車庫から出て玄関へと向かう。


「主任っ!」


 っ!……びっくりした~っ!

 すわっ! とうとう刺客がっ!……と思って銃を抜いて振り返ったら、そこには私服姿の加藤さんとアビゲイルがいた。


「よぅ、ボスッ! いいとこ住んでんなーっ!」


 アビゲイルは隣の私の家をわざとらしく見上げ、閑静な住宅街でこれ見よがしに大声で叫んだ……私は渋々二人を家に招いたのだが、加藤さんは首を横に振った。


「いえ……申し訳ないのですが、これから仕事がありますので……」

「アタシ達は故郷に帰って、またちょっくらビジネスをなっ!」


 私がその訳を二人に訊ねると、彼女達はお互いに見つめ合ってから口を開いた。


「その……私はアビーに付いて行って、ビジネスの手伝いをしようと思うんです」

「おうよ。マキの頭がありゃ、アタシ達はあっという間に大金持ちだぜっ! あっはっはっはっ!!」


 アビゲイルがとんでもない笑い声をあげるので、慌てて彼女の口を塞ぐ。


「うごっ!? てめ、なにす――」


 私は加藤さんに、『組織』の事は大丈夫なのか問いかけた。


「それが……あの施設から脱出してから少しして、連絡員の方から解雇の通知が来たんです。おかしいですよね? 『組織』を抜ける時は死ぬときだけって聞いていたのに……」


 そこで、アビゲイルが私の手を噛んで脱出する。


「はぁ……はぁ……ま、絶対に組織のことは話すなって、めっちゃ念を押されたがなっ!」


 ……なるほど、と納得してしまえば楽なのだろうが、どうしても引っかかってしまう。まさか……私も解雇なのかっ!?


「あ、あの……それでは主任、失礼します。その……しばらくの間でしたが、色々とご指導ご鞭撻べんたつ、ありがとうございましたっ!」


 そう言って、加藤さんは走り去ってしまった……と思ったら、近くに路上駐車してあった車の中に入っていった。


「……おい」


 隣から、肩をボンッと強く叩かれた。


「アタシの妹が、この国で情報屋をやっててな……アタシに似て騒がしい奴だが、腕は確かだ。アタシから話は通しておくから、何かあったらたよんな……高くつくけど」


 最後に気になる事を言って、アビゲイルも加藤さんの待つ車に乗り込む。少し経って車は発進し、再び私の所にくる。


「おいっ!」


 窓を開け、運転席からアビゲイルが現れた。


「言っとくがなっ! アタシ達の関係は終わりじゃねぇからなっ! いつでもアタシ達を訊ねてくれよっ!」

「お願いしますよ、主任っ!」


 ……私はその言葉に感動し、涙を流すのを堪えて肯定の返事をした。


「へへっ……じゃあなっ!」


 アビゲイルは照れ笑いをして、車を発進させた。

 タイヤのスピンを轟かせ――角を急に曲がり――激突音を響かせながら――大丈夫なのか?……まぁ、たぶん大丈夫だろう。

 それより、今日も終わりだ。早く食べて寝よう。

 そう思って正面の門を通って玄関を開けようとするが、その下に一枚の紙があることに気がついた。

 私が警戒しながら、それを拾って中身を見ると、


『大丈夫。あなたは私が守る』


 と書かれていた……意味深過ぎて怖いのだが……ま、いっか……。

 いつも通り我が家に帰り、運動をして夕飯を食べ、風呂に入って自室でくつろぐ。

 すると、久しぶりに携帯端末に連絡が入った。

 画面を見ると、『その者』から一通のメッセージが送られていた。


 『明日から、オモイカネ機関で働いてもらう』


 ……どうやら、私はまだまだこき使われるらしい。私は了承の返事を出して、ベッドに潜り込んだ。

 ……未だにあの時の夢を見る……そのたびにいつも思う。仲間達の死に意味はあったのかと……。私は……私は、あると思う。

 私が見たあの半透明の子供達……アレはきっと、失踪した子供達の霊なのではないだろうか? それこそ、怨霊のような……普通の人が聞いたら、間違いなく変人扱いだろう。

 だが、私は彼らあるいは彼女らが、少なくとも今は昔より良い思いをしていると信じている。

 なぜならあの時……消えゆく子供達を見つめるなか、私の耳元でハッキリと聞こえたのだ。

 『ありがとう』と……。

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