これから
あれから数日の時が経つが……未だに連絡員からの連絡がない――連絡員が連絡を寄こさないのは、いかがなものか……普通の会社だったら、そのような人間はとっくにクビになっているだろう。
だが、あいにく私の属する組織は普通ではないし、会社でもない。ということで、今日もゲームセンターのシューティングゲームで暇を潰している……。
最初はただ暇つぶしになればいいと思っていたが、今では完全にドハマりしてしまった。近頃はゲームセンターからシューティングゲームが続々撤去され、その代わりにユーフォーキャッチャーや小学校低学年向けのゲームばかりが置かれる、非常に世知辛い世の中だ。
幸い、ここのゲームセンターはそんな世の中にあって、未だに昭和のゲームが陳列されている隠れた名店だ。年老いた老夫婦が個人で営業しているからこその、私の心のオアシスとなっている。
しかし……残念ながら、この日はラストステージまで進むことが出来ずに中ボスにやられてしまった……はっきり言って、自分が向けている銃口と着弾点にあれほどの誤差があるようでは、当たる弾も当たらない。
今度、爺さんに抗議してやろうか……この数日でだいぶ顔馴染みになったし……。
冗談はさておき、私が持っている本物の銃は、私の右側の腰で今か今かとその時を待っていた。
私としてはこの銃器を使うような時――ゲームセンターにいる時に襲撃される――は来てほしくないのだが、ようは油断大敵というやつだ。
何の連絡も無しに、いきなり射殺……という手段を組織がとらないとは限らない……そんな不安を抱きながら、私は郊外の自宅まで帰ってくることが出来た。
車を車庫に入れ、車庫から出て玄関へと向かう。
「主任っ!」
っ!……びっくりした~っ!
すわっ! とうとう刺客がっ!……と思って銃を抜いて振り返ったら、そこには私服姿の加藤さんとアビゲイルがいた。
「よぅ、ボスッ! いいとこ住んでんなーっ!」
アビゲイルは隣の私の家をわざとらしく見上げ、閑静な住宅街でこれ見よがしに大声で叫んだ……私は渋々二人を家に招いたのだが、加藤さんは首を横に振った。
「いえ……申し訳ないのですが、これから仕事がありますので……」
「アタシ達は故郷に帰って、またちょっくらビジネスをなっ!」
私がその訳を二人に訊ねると、彼女達はお互いに見つめ合ってから口を開いた。
「その……私はアビーに付いて行って、ビジネスの手伝いをしようと思うんです」
「おうよ。マキの頭がありゃ、アタシ達はあっという間に大金持ちだぜっ! あっはっはっはっ!!」
アビゲイルがとんでもない笑い声をあげるので、慌てて彼女の口を塞ぐ。
「うごっ!? てめ、なにす――」
私は加藤さんに、『組織』の事は大丈夫なのか問いかけた。
「それが……あの施設から脱出してから少しして、連絡員の方から解雇の通知が来たんです。おかしいですよね? 『組織』を抜ける時は死ぬときだけって聞いていたのに……」
そこで、アビゲイルが私の手を噛んで脱出する。
「はぁ……はぁ……ま、絶対に組織のことは話すなって、めっちゃ念を押されたがなっ!」
……なるほど、と納得してしまえば楽なのだろうが、どうしても引っかかってしまう。まさか……私も解雇なのかっ!?
「あ、あの……それでは主任、失礼します。その……しばらくの間でしたが、色々とご指導ご鞭撻、ありがとうございましたっ!」
そう言って、加藤さんは走り去ってしまった……と思ったら、近くに路上駐車してあった車の中に入っていった。
「……おい」
隣から、肩をボンッと強く叩かれた。
「アタシの妹が、この国で情報屋をやっててな……アタシに似て騒がしい奴だが、腕は確かだ。アタシから話は通しておくから、何かあったら頼んな……高くつくけど」
最後に気になる事を言って、アビゲイルも加藤さんの待つ車に乗り込む。少し経って車は発進し、再び私の所にくる。
「おいっ!」
窓を開け、運転席からアビゲイルが現れた。
「言っとくがなっ! アタシ達の関係は終わりじゃねぇからなっ! いつでもアタシ達を訊ねてくれよっ!」
「お願いしますよ、主任っ!」
……私はその言葉に感動し、涙を流すのを堪えて肯定の返事をした。
「へへっ……じゃあなっ!」
アビゲイルは照れ笑いをして、車を発進させた。
タイヤのスピンを轟かせ――角を急に曲がり――激突音を響かせながら――大丈夫なのか?……まぁ、たぶん大丈夫だろう。
それより、今日も終わりだ。早く食べて寝よう。
そう思って正面の門を通って玄関を開けようとするが、その下に一枚の紙があることに気がついた。
私が警戒しながら、それを拾って中身を見ると、
『大丈夫。あなたは私が守る』
と書かれていた……意味深過ぎて怖いのだが……ま、いっか……。
いつも通り我が家に帰り、運動をして夕飯を食べ、風呂に入って自室でくつろぐ。
すると、久しぶりに携帯端末に連絡が入った。
画面を見ると、『その者』から一通のメッセージが送られていた。
『明日から、オモイカネ機関で働いてもらう』
……どうやら、私はまだまだこき使われるらしい。私は了承の返事を出して、ベッドに潜り込んだ。
……未だにあの時の夢を見る……そのたびにいつも思う。仲間達の死に意味はあったのかと……。私は……私は、あると思う。
私が見たあの半透明の子供達……アレはきっと、失踪した子供達の霊なのではないだろうか? それこそ、怨霊のような……普通の人が聞いたら、間違いなく変人扱いだろう。
だが、私は彼らあるいは彼女らが、少なくとも今は昔より良い思いをしていると信じている。
なぜならあの時……消えゆく子供達を見つめるなか、私の耳元でハッキリと聞こえたのだ。
『ありがとう』と……。