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歪んだ輪舞曲(ロンド)〜鉄の処女と白銀の駿馬〜 ――私の婚約者(馬車)が、元婚約者の婚約者(馬)と不倫していました。※乗れません  作者: 山田りく
4章 僕の愛した精霊と、僕の大切な相棒

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歪輪舞曲


「……ねえ、ゼツ。いつまでそうやって固まってるつもり?」


 宿屋から街へと続く街道。隣を歩くリーンが、呆れたような、でもどこかソワソワとした声で尋ねた。


 ゼツの右腕は、ロボットのようにギクシャクと不自然な動きを繰り返している。


 指先がリーンの手に触れそうになるたび、跳ね上がるように引っ込められていた。


「し、仕方ないだろう! 『恋人』になったからには手くらい繋ぐべきかと思ったのだが、タイミングというものがサッパリ分からないんだ!」


「バカね、そんなのタイミングなんて計るものじゃないわよ……ほら」


 リーンはふっと小さく笑うと、自分からゼツの無骨な手をギュッと握りしめた。


「ッ……!? リ、リーン……!?」


 真っ赤になって硬直するゼツに、リーンも耳の先まで赤くしながらプイッと横を向く。


「……文句ある?」


「あるわけないじゃないか!……ただ、君の手が驚くほど温かくて、胸の奥が暴走しそうなだけだ」


「相変わらず表現が重いのよ……」


 繋いだ手に少しだけ力を込めながら、二人はゆっくりと並んで歩く。


 一人で空回りしていた頃とも、ただの相棒として喧嘩していた頃とも違う、気恥ずかしくも愛おしい感覚。


「……ねえ、ゼツ」


「なんだい、リーン?」


「……きゅーちゃんのおかげ、なのかな」


 リーンは空を見上げ、ぽつりと呟いた。


「あの子が私たちのマナを混ぜ合わせて、勝手に出てきて……勝手に私たちを『パパ』と『ママ』なんて呼んで消えて……。あの子がいなかったら、私達、ずっと意地を張ったまま平行線だったかもしれないわね」


 ゼツも立ち止まり、かつてきゅーちゃんがふわふわと漂っていた空を見つめた。


「そうだね。僕に『隣にいる君の尊さ』を教えてくれたのは、間違いなくきゅーちゃんだ。……あの子は本当に、僕たちの愛の結晶だったんだよ」


「……もう、またそういう恥ずかしいこと言う」


 リーンは照れ隠しにツンと突き放そうとしたが、握った手だけは絶対に離さなかった。


「……でも、感謝しなきゃね。あの子がくれたこの縁を、ちゃんと大切にするわ」


「ああ。僕も全力で君を幸せにするよ、相棒……いや、僕の恋人」


「言い直さなくていいわよ、照れるじゃない……!」


 二人で顔を見合わせ、思わずクスッと笑い合う。


 歪だった二人の輪舞曲は、ようやく綺麗な円を描き始めていた。


 それから、数年後――。


 二人は共にさまざまな試練や冒険を乗り越え、誓い合い、ついに正式な結婚を果たした。


 二人と一匹で過ごしたあの日の約束と愛は、しっかりと実を結ぶこととなる。


 後に、長命種であるエルフの歴史において、彼女の名は異例の形で語り継がれることになった。


 子宝に恵まれ、賑やかな愛に溢れた家庭を築いたリーンはエルフの里で、多産・豊穣の象徴として讃えられるのだが――


 ――それはまた、別のお話である。

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