歪輪舞曲
「……ねえ、ゼツ。いつまでそうやって固まってるつもり?」
宿屋から街へと続く街道。隣を歩くリーンが、呆れたような、でもどこかソワソワとした声で尋ねた。
ゼツの右腕は、ロボットのようにギクシャクと不自然な動きを繰り返している。
指先がリーンの手に触れそうになるたび、跳ね上がるように引っ込められていた。
「し、仕方ないだろう! 『恋人』になったからには手くらい繋ぐべきかと思ったのだが、タイミングというものがサッパリ分からないんだ!」
「バカね、そんなのタイミングなんて計るものじゃないわよ……ほら」
リーンはふっと小さく笑うと、自分からゼツの無骨な手をギュッと握りしめた。
「ッ……!? リ、リーン……!?」
真っ赤になって硬直するゼツに、リーンも耳の先まで赤くしながらプイッと横を向く。
「……文句ある?」
「あるわけないじゃないか!……ただ、君の手が驚くほど温かくて、胸の奥が暴走しそうなだけだ」
「相変わらず表現が重いのよ……」
繋いだ手に少しだけ力を込めながら、二人はゆっくりと並んで歩く。
一人で空回りしていた頃とも、ただの相棒として喧嘩していた頃とも違う、気恥ずかしくも愛おしい感覚。
「……ねえ、ゼツ」
「なんだい、リーン?」
「……きゅーちゃんのおかげ、なのかな」
リーンは空を見上げ、ぽつりと呟いた。
「あの子が私たちのマナを混ぜ合わせて、勝手に出てきて……勝手に私たちを『パパ』と『ママ』なんて呼んで消えて……。あの子がいなかったら、私達、ずっと意地を張ったまま平行線だったかもしれないわね」
ゼツも立ち止まり、かつてきゅーちゃんがふわふわと漂っていた空を見つめた。
「そうだね。僕に『隣にいる君の尊さ』を教えてくれたのは、間違いなくきゅーちゃんだ。……あの子は本当に、僕たちの愛の結晶だったんだよ」
「……もう、またそういう恥ずかしいこと言う」
リーンは照れ隠しにツンと突き放そうとしたが、握った手だけは絶対に離さなかった。
「……でも、感謝しなきゃね。あの子がくれたこの縁を、ちゃんと大切にするわ」
「ああ。僕も全力で君を幸せにするよ、相棒……いや、僕の恋人」
「言い直さなくていいわよ、照れるじゃない……!」
二人で顔を見合わせ、思わずクスッと笑い合う。
歪だった二人の輪舞曲は、ようやく綺麗な円を描き始めていた。
それから、数年後――。
二人は共にさまざまな試練や冒険を乗り越え、誓い合い、ついに正式な結婚を果たした。
二人と一匹で過ごしたあの日の約束と愛は、しっかりと実を結ぶこととなる。
後に、長命種であるエルフの歴史において、彼女の名は異例の形で語り継がれることになった。
子宝に恵まれ、賑やかな愛に溢れた家庭を築いたリーンはエルフの里で、多産・豊穣の象徴として讃えられるのだが――
――それはまた、別のお話である。




