おまけ(特等席のふたり)
夫婦の冷戦が終結し、リビングの棚の特等席に並んで飾られることになった二つの相棒。動けないプラスチックの身体と、首の傾いた綿の身体の奥で、金綿家の夜の静寂を破る、もう一つの激しい会話(漫才)が幕を開けていた。
「ちょっと聞いた、ぽんちゃん!? 今日の肉じゃがの話! 翔太さんがついに『味が薄い』って面と向かって言ったわよ! いやだ、あんな死んだ魚の目をしてた男が、ちゃんと自分の口で本音を喋るなんてねぇ! お姉さん、棚の奥から見ててちょっと感動しちゃったわよ!」
マーク3のモノアイが興奮で火花を散らすような熱量に対し、隣に座るぽんちゃんのプラスチックの瞳は、どこまでも冷ややかだった。
「うるさいぞ、マーク3。声のボリュームがデカすぎるんだよ、そのプラスチックの身体は。……だが、あの腑抜けた翔太にしては上出来だ。ウジウジとクローゼットに逃げ込んできて、私の耳元で泣き言を垂れ流していた頃に比べれば、少しは男のツラ構えになってきやがったな」
「あら、手厳しいわねぇ! でも見てよ、あの二人の空気! なんかこう、付き合いたてのカップルみたいにソワソワしちゃってさぁ! ああもう、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうわ! ほら翔太さん、そこは男らしくバシッと行きなさいよ! ほらほら、あの二人の雰囲気、完全にアレじゃない! ちゅ~しろ! ちゅ~!!」
「煩い!!」
ぽんちゃんの鋭い一喝が、心の中の静寂をぶち抜いた。
「脳味噌までプラスチックが詰まっているのか、お前は。……いいから静かに見守れ。それと、私の綿にその安っぽいプラスチックの肩を寄せるな。暑苦しい」
「あら、照れちゃって可愛いわねぇ、ぽんちゃんは!」
今日も金綿家のリビングでは、少しだけ騒がしく、しかし風通しの良い夫婦の会話が響いている。
そしてその横の特等席では、動かない二つの相棒が、お互いに一歩も引かない辛口な言葉をぶつけ合いながら、新しい家族の景色をいつまでも楽しそうに見守り続けているのだった。




