激突する二つのフェティシズム
社交界の至宝と謳われた侯爵令息エドワードと、子爵令嬢セレナの婚約破棄は、あまりにも醜悪な罵り合いだった。
セレナは激しく扇子を机に叩きつけた。
「もう限界よ、エドワード! 見なさい、私のこの激しく叩きつけた扇子を! バチーンって言ったわよ、バチーンって!」
「言葉を慎め、セレナ!」
エドワードも負けじと端正な顔を怒りに歪め、セレナを指差す。
「君こそ、その目が完全にあの白馬の繋の角度、理想的な45度の傾斜しか追っていないじゃないか! 僕がステップを踏むたびに、君の指先は空中で馬のブラッシングの動きをしている!」
「何よ! アレクサンダーの毛並みはシルクなのよ! あなたの愛車『マリアンヌ』のC型板バネサスペンションが生み出す、あの淫らな衝撃吸収性と一緒にしないで!」
エドワードは胸ポケットからワックスを取り出し、これ見よがしに磨いてみせた。
「我がマリアンヌを愚弄するか! あのマホガニー仕上げの木製車輪と西陣織の内装の美しさに比べれば、君の馬の管の細い貧弱な脚なんて、ただの棒切れだ!」
「そこまで言うなら婚約なんて破棄よ! 破棄破棄! はい破棄!」
「望むところだ! 教会に多額の寄付をしてでも、僕はマリアンヌと正式に婚約してやる!」
「私もアレクサンダーと聖壇に立つわよ! 見てなさい!」
社交界を揺るがす大騒動の末、二人はそれぞれ前代未聞の暴挙に出た。エドワードは最高級特注馬車『マリアンヌ』と、セレナは純血アラブ種の駿馬『アレクサンダー』と、それぞれ正式に「婚約」したのである。
楽しんで頂けたら幸いです。
1章の改行を見直して、読みやすくしました。




