友達の定義って
私の記憶が確かなら、今回の企画って「美少女&転校生」だったよね? ちゃんと「and」が入ってたよね? ってことは二人一組のはずだよね?
「……」
まぁ、理解できなくもないんだけどさ……。
ははっ――この格差社会め。
なんで私がこんな教室の入り口に身を潜めてるかって?
見てよ、私の席にこれ以上、針一本差し込む隙間が残ってると思う? みんなして瑞希をすし詰め状態で囲んじゃってさぁ。
ヒールのサイズが間違ってた件については、クラス委員以外誰も責任を取ろうとしなかったくせに、今になってこれ見よがしに心配そうな顔して群がりやがって。
「あの……」
フフン、だがありがたいことに、今の私も仲間がいるのだ。
「あの……千鳥さん。すごく怖いんですけど……放、放してもらってもいいですか?」
「えー? なんで? 私たち転校生仲間でしょ? もっと仲良くしようよ~、雨宮さん~」
「うう……だったらヘッドロックしないでくださいよぅ」
脅迫なんかじゃないやい! これはスキンシップによる親愛の情の表現ってやつだよ、わかってないなぁ。
ていうか、「可哀想よ、ナツキちゃん」ってどういう意味? 喧嘩売ってんの? 私の怪我は肩だし、誰も知らないはずなんだけど。
もし今ここでナツキちゃんが服をはだけさせて、そのセクシーな生肩をお披露目しちゃったら~、それこそ大パニック間違いなしでしょ?
世界の平和を守るために私が黙って耐えてあげてるんだから、もっと感謝しなさいよね。
なにが「みんな瑞希の心配ばかりで、ノーバディ・ケア・ミー」だよ!
「放してくださいぃ……千鳥さん……。私、ただ伝言を預かってきただけなんです……」
「あ、ごめんごめん。脳内モノローグの処理に忙しくてさ」
「はぁ?」
「なんでもない、なんでもない」
危うく忘れるところだった。雨宮さんは伝言に来てくれたんだった。隣のクラスの誰かが私と会いたがってるんだって。
ほうほう、この展開。もしやナツキちゃん、無自覚に誰かを虜にしちゃいました?
「お昼だっけ?」
「はい……あの……もう放してもらってもいいですか?」
雨宮さん……逃げ足、早っ。私、そんなに恐ろしい人に見えるのかな。
チャイムが鳴った鳴った、やっと席に戻れる。
いろんな香水の匂いが混ざり合ってカオスなことになってる……。
うん、私の安物香水はもう完全にクビにして良さそうだ。入学以来、一度たりともその香りが生存を主張できた試しがないし。
「さっき、入り口のところで何してたの?」
「え? 見てたの?」
「うん、雨宮さんと一緒にね。ずいぶん仲が良さそうに見えたけど」
「転校生仲間だからね」
「そうなんだ……」
それにしても、他クラスの生徒からお昼の呼び出しねぇ。
まさか本当に、『ナツキちゃん~ひとりごと』の中で訴え続けた効果が出ちゃって、あいつ、私にヒーローでも用意してくれたのかな。
まぁ、私としてもそこまで高望みはしてないよ?
身長177センチ、体重62キロで、髪型は……って、ちょっと待って、あんた今私の本音を引き出そうとしてない!?
なんという恐ろしい罠!
ここか……どんな人が待ってるんだろ。
あ、見っけ見っけ……って、女の子じゃん!
「こんにちは。私に用って、あなた?」
「こんにちは、転校生さん」
いや、それわざとでしょ!? わざわざ人をパシリにして呼び出しておいて、その呼び方はあんまりじゃない!?
「千鳥ナツキです」
「あ、ごめんなさい! 夏ちゃんが、あなたも転校生だって言うから……」
「夏ちゃん?」
「真夏ちゃんのこと。彼女も転校生なの」
いや、私も夏ちゃんなんだけど。
「初めまして! 桃原菫です」
悪いけど、みんなもう『ナツキちゃん~ひとりごと』で知ってるから。本当にごめん!
「よろしくね、桃原さん。私に何か用?」
でしょ!? あんたも思うよね、今の桃原さんの表情、どう見ても告白直前のそれじゃん! こっちまでどうしていいか分かんなくなっちゃうでしょ!
「千鳥さん、東雲さんとは仲の良いお友達なんですか?」
「それは友達っていうものの定義が人によってどう違うかによるよね。もしも……」
『※ここでナツキちゃんの価値観語り二万字を省略』
ちょっと、これ私が何年もかけて導き出した集大成なんだけど! 誰がカットしていいって言ったよ、ちくしょー!
「あの、私は他のクラスの人間ですし、本来ならこんなことを言うべきではないのかもしれません。でも……千鳥さん、もしよかったら、クラスの皆さんに声をかけて、東雲さんにこれ以上あんな企画を続けさせないように説得してもらえませんか?」
ちなみに、その隣にいるメイドが私です。
親愛なる桃原さんよ、そこ気づいてる?
「何か知ってるの?」
「私、生徒会の書記をしていて、今回の各クラスの企画で使う小道具の発注を担当したんです……」
「ってことは、あのヒールも……」
「すみません」
桃原さん、私より少し背が低いんだ。いかにもお淑やかそうな女の子って感じ。
瑞希には聞くなと釘を刺されてるけど……でもさ……
「誰がやったのか、教えてもらえる?」
「ごめんなさい、私が言っていいことなのか分からなくて……。提出される時にサイズが書き換えられていたことには気づいていたのに、私は……結局、何もできませんでした。東雲さんがそんなに酷い怪我をするなんて思わなくて。本当にごめんなさい」
あんた、こんな言葉を聞いたことない?
『善人ほど、銃口を突きつけられる運命にある』って。
桃原さんがこの件を知らんぷりしていれば、誰も彼女のせいだなんて思わなかったはずだ。
なのに彼女は、どう見ても十中八九瑞希にチクりそうな私をわざわざ選んで打ち明けている。
この子、きっとずっと自分を責めてたんだろうな。
ちょっと、他の女の子にそんなだらしない顔見せないでよね。どうせ今、頭の中で『あ~菫ちゃん超可愛い、しゅき』とか考えてるんでしょ?
この浮気者め!
でも、これじゃあ無理に聞き出すわけにもいかないか。
「大丈夫だよ、桃原さん。言いづらいなら言わなくていい。瑞希の怪我を心配してくれてありがとうね。桃原さんがずっと責任を感じる必要なんてないよ、そもそもあなたのせいじゃないんだし。瑞希だってあなたを責めたりしないよ」
よし、戻ってお昼ご飯にしよう。
どっちみち撮影タスクはまだ正式に再開してないし、いっそのこと「お嬢様&メイド」の企画はこれきりにするって説明した方がいいかもな。
「あ……あの! 東雲さんの、ごく身近にいる人です!」
ここはスマートに背中を見せて、片手を軽く振る――「私に任せときな」的なポーズ。
完璧、イケメンすぎる。
桃原さん、今の一幕であたしにすっかりメロメロになっちゃったに違いないね。
「ナツキ、聞くなって言ったよね?」
「うひゃあ――っ!? み、瑞希……? なんでここにいるの!?」
「ナツキ、どうしてそんなに知りたがるの?」
「いや、別に知りたがりなわけじゃないって。ただ、これって明らかに誰かの嫌がらせじゃん? 瑞希の足があんなにボロボロにされたんだよ、むしろ私の方こそ、なんで瑞希がこれ以上追及しようとしないのか聞きたいくらいだよ」
「だって……誰だか分かっているもの」
「誰なの?」
「お友達よ」
友達……ね。あんなことされて、まだ「友達」って呼ぶわけ? 正直、ちょっとイラッときた。自分の友達にそんな仕打ちをされて、それでもまだ友達って呼べるの?
おかしくない?
「ナツキ、さっき桃原さんに私とお友達かって聞かれた時、どうしてあれこれ言い訳するばかりで答えなかったの? 私達、お友達じゃないの?」
最初から最後までバッチリ聞かれてたぁぁぁ!
「いや、そういう意味じゃなくてさ……友達の定義って人それぞれ基準があるっていうか、私の場合は……」
「私達、お友達じゃないの?」
近い近い近いってば!
これが美少女の放つ馨しいフレグランスですか!? おい私の安物香水くん、今すぐ出てきて私をガードしろよ!
「ナツキ、私達――お友達じゃないの?」
「とも……友達です」
「本当?」
「ホントホントホント! この学校で一番の大親友でーす!」
「よろしい」
ううう、お嬢様マジで怖すぎる! 私のメイドモード、一体いつになったら解除されるのよー!




