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1 親友の婚約

あけましておめでとうございます。新年からの連載開始。みなさまのお暇つぶしになると嬉しいです。


こちらのお話は、できるだけ単体で読んでいただいても大丈夫なように書いております。


『婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ』と『宰相家次男の嘆き』との関連話になっておりますので、そちらもお楽しみいただけますと幸いです。

『リズ、僕は貴女を必ず迎えに行きます。だから、どうか、どうか、僕を信じて待っていてください。

貴女の側にいる権利を他の者に与えないでください


 貴女と一緒に空を見つめてみたい

      イヴより』


〰️ 〰️ 〰️


 ブリジット・シャーワントは、ガーリウム王国に住む公爵令嬢だ。彼女の家族は、父母と4つ上の兄イリサスと2つ上の兄ドナテル。父親は、このガーリウム王国で、宰相を務めている。


 ブリジットは幼き頃から、婚約者がいる。ことのきっかけは、5歳の頃、父親に連れて来られた王宮であった。そこでブリジットを待っていたのは、同い年の姫シャルロット王女であった。まだ5歳とはいえ、二人は王侯貴族としての教育を受けているので、礼儀や距離感をわきまえ、警戒しあい………

 なんてことは、全くなく、すぐに仲良しになり、初日から、お互いを『リジー』『シャル』と呼び合うほどであった。


 基本的には、まずは会う約束をし、ブリジットが王宮のシャルロットの部屋へと伺う。月に1度は会いに行き、交流を深めた。


〰️ 〰️ 〰️


 二人が10歳となっていたある日、シャルロットが少し塞いでいる様子だった。


「シャル?今日は元気がないのね?どうしたの?」


 東屋での二人きりの茶会であった。ブリジットはシャルロットの隣に行って、手を繋いで聞いてみた。


「わたくし、大きくなったら、リジーと一緒にはいられないのですって……」


 シャルロットは、小さな体を震わせていて、声まで震わせていた。泣きそうなのは一目瞭然であった。


「シャル?わたくしもあなたも結婚はしなくてはならないわ。だから、一緒にはいられないわよ。今と同じよ。お友達ですもの。時々こうして会うのよ。わたくしたちが大人になれば、もっともっと会えるようになるわ」


 ブリジットにはシャルロットの言いたいことが、わからない。目をキョトンとさせてシャルロットへと手を伸ばし、お互いに小さな手をつなぎあった。ずっと俯いているシャルロットに、ブリジットはゆっくりと話した。

 王家公爵家の娘として、二人とも、結婚しないという選択肢はない。国のため家のために結婚するのだと教育を受けている。


「結婚はするわ。でも、リジーと近くにいたかったの。でも、でもね、わたくしの婚約者様は、とっても遠くの方なのですって」


 シャルロットがポロポロと泣き出した。ブリジットもシャルロットの婚約の話を知らなかったので、ショックを受けた。


「シャルが婚約していたなんて、知らなかったわ」


「わ、わたくしも…、きの…う、聞いた…ばかりなの…ヒック」


 シャルロットはハンカチを出して泣きじゃくる。右手はブリジットの手をギュッとにぎっていた。


「そう……。わたくしもシャルと離れたくないわ」


 理由を知ってしまったブリジットは、シャルロットの涙を見て、堪らず一緒に泣いてしまった。

 少し遠くで見ていたメイドたちが慌てて集まり、理由を聞いてきたが、もう10歳である二人は、王家公爵家の娘として、今泣いている理由をメイドたちに言うわけにはいかないと思い、でも涙は止まらず、その日の王宮の中庭は大変な騒動になってしまった。


〰️ 


 夕方に公爵家に戻ったブリジットは、部屋に引きこもり、そのまま寝てしまった。朝、目が覚めたときには、メイドによって着替えもしてあり、暖かなベッドで気持ちよく起きた。


 ブリジットが起きた時間はいつもと同じくらいだったようで、呼ばなくてもすぐにメイドが現れて、あれやこれやと世話をやいてくれて、いつもの様子で食堂室へ行くことができた。


 それでも、昨夜の夕食に顔を出さなかったことで、家族に心配された。


「ブリジット、後で二人でケーキでも食べましょう」


 母親のセザリーヌがブリジットを笑顔で誘い、ブリジットがそれに応じたので、家族の男たちは、セザリーヌに任せることにした。


 昼前にセザリーヌの部屋に呼ばれたブリジットは、再び、泣きながら昨日の話をした。セザリーヌは、真剣な面持ちでしっかりと聞いてくれた。


「そう。わたくしも、シャルロット王女殿下が、ルシュコファ王国の第1王子殿下と婚約なされたとは聞いていたわ。なんでも、あちらの公爵様が強く薦められたそうよ。

でもね、シャルロット王女殿下も王家のお方。大人になれば、理由も理解なさると思うわ」


 ルシュコファ王国は、ここガーリウム王国に南西で隣接するタニャード王国のお隣にある国である。馬車で1月以上かかる。


「それに、嫁ぐまでには、まだ10年近くあるでしょう。シャルロット王女殿下との思い出をたくさん作りなさい」


 セザリーヌの優しい口調に、ブリジットは、小さく頷いた。


「それにしても、二人とも、理由をまわりに話さなかったのは、偉かったわね。王女殿下が他国との結婚を嫌がっているだなんて、悪い意味でとって、噂を流す者もいるのよ。

本当に、よく我慢したわ」


 セザリーヌはブリジットを抱きしめ頭をなでた。ブリジットは気が済むまでセザリーヌの胸で泣いた。



〰️ 〰️ 〰️



 それから2ヶ月後の朝早く、シャーワント公爵家に手紙が届いた。封蝋を見て、執事は心の中で驚いた。すぐさま、朝食中の主の元へ届ける。普段は書斎へ届けておくのだが、これはそうもいかない。


「旦那様、こちらを……」


 盆に一通だけのせて、シャーワント公爵の脇に差し出す。


「ん?……………は?わかった」


 シャーワント公爵も封蝋を確認すると盆に乗ったペーパーナイフで、すぐに開封し、手紙を読んだ。右隣に座るセザリーヌが心配そうに見ている。


 公爵は小さなため息を一つ落として、手紙を盆に戻した。


「セザリーヌ、君も読みなさい」


「はい」


 執事から受け取った手紙を読んで、セザリーヌは驚愕した。


 差出人は、王妃殿下。内容はブリジットの婚約についてであった。


〰️ 



 王妃殿下は、シャルロットの婚約について、大いに不安があった。

 大陸の最西国ルシュコファ王国からの外交官として来ていたリヴァンスカヤ公爵は、人当たりの良さそうな笑顔であったが、国のためというより、リヴァンスカヤ公爵家のために動く人物のように感じられた。


 すぐにルシュコファ王国へ赴いている自国の外交官に手紙を書いた。早馬にも関わらず、一月以上もかかって戻ってきた返事は、なるほどと、思わざるをえない内容のものであった。


 ルシュコファ王国では、2大公爵家のペシュコブ公爵家とマクレンツェ公爵家が力を持っている。マクレンツェ公爵家には、第1王子と同い年の息子がおり、将来の側近候補と言われていた。


 そのような状況で、ペシュコブ公爵家の長女がまだ赤ん坊であるにも関わらず第2王子と婚約をすることになった。年齢が丁度いいことと、王妃と公爵夫人が大変仲が良いという理由で、というか、その二人のお茶会でのノリで婚約することになった。だが、第1王子の婚約より早くするわけにはいかない。

 まだ10歳だとのんびりしていたので、特に婚約候補は考えていなかった第1王子の周りは、にわかに騒がしくなる。


 2大公爵家に追いつきたいリヴァンスカヤ公爵家にとって、チャンスだと思った。しかし、残念ながら成人に近い息子たちしかおらず、第1王子の側近にもなれない。それならばと、ガーリウム王国へ話を持ってきたようだ。外交官であることを利用して、『王妃はリヴァンスカヤ公爵家の後押しである』という形にしたかったのだ。

 ルシュコファ王国と深くつながりを持ちたかった国王陛下は了承し、すぐに婚約の運びとなった。


〰️ 〰️ 〰️


 三月も前に決まった婚約にも関わらず、国王陛下はシャルロットに伝えることを王妃殿下に任せ、王妃殿下は調査中という理由で、シャルロットには婚約の話は届いていなかった。

 それが、ルシュコファ王国の第1王子からの贈り物だというルシュコファ王国特産の生地が贈られて来てしまい、シャルロットにお礼文を書かせることになった。

 あちらからの文は、明らかに大人の文字なので、気にすることもなかったのかもしれないが、贈り物が来たことに喜んだ国王陛下は、まさかまだシャルロットが婚約を知らないなどとは思わず、シャルロットにお礼文を書くように言ってしまったのだ。

 結局、お礼文は、外交文官が代筆したのだが、何も知らないシャルロットが、自分の婚約を知ることになってしまった。 


 そして、その翌日、ブリジットとのお茶会での事件となる。

ご意見ご感想、評価などをいただけますと嬉しいです。


毎日、昼過ぎに更新予定です!

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