小さな僕の裏の顔②
本編の14歳の頃の殿下視点のお話です。
今回のざまぁは、リナリス嬢で。(笑)
十四歳になったユリオプスは、あっさりとセレティーナの身長を抜いた。
しかし、セレティーナは相変わらず弟を見守る姉の様な眼差しを向ける事を止めてはくれなかった……。
ただでさえ歳の差コンプレックスを十年近くも拗らせていたユリオプスは、やっと並んで歩いても釣り合いが取れる様になった自分に対して、未だにセレティーナが向けてくる見守る様な眼差しにいつしか苛立ちを覚える様になった。
頭の中ではセレティーナには、一切非がない事は理解している。
しかし、二人きりの際に甘い言葉を囁いても、夜会の時に慈しむ様に触れても、セレティーナは、それを家族愛的な愛情表現としか受け取ってくれなかった。
そんなセレティーナの無自覚な仕打ちは、思春期真っ盛りなユリオプスの反抗期を簡単に誘発させてしまう。
この期間、ユリオプスはあからさまにセレティーナとの交流を控えた。
押してダメなら引いてみる……初めはそんな心境からだった。
しかし、セレティーナはそれをユリオプスの巣立ちと感じたのか、引き続き成長を喜ぶ様な温かい眼差しを止めてくれない。
そんなセレティーナの接し方は、更にユリオプスの反抗心を煽ってしまう。
ユリオプスは、セレティーナとのお茶の時間、あえて他の令嬢を褒めたたえる様な話題をし、その令嬢達が気になる様な素振りをあからさまにしてみせた。
しかしセレティーナは、ユリオプスのその行動を成長と感じ、喜ぶような態度をやめてくれなかった。
そんな時、友人クリナムから、リナリスという男爵令嬢の問題行動を止めさせる為に協力して欲しいという依頼を受ける。
今まで一人の令嬢を気に入るという態度は見せた事が無かった事に気付いたユリオプスは、このリナリスという男爵令嬢を利用して、セレティーナの嫉妬心を煽る事を思い付く。セレティーナの嫉妬心を煽れる上に城内で問題視されてる令嬢を駆除出来るのだから、一石二鳥だと。
後にこの浅はかな行動が、自分を大いに苦しめる事になるとは露知らずに……。
そんなユリオプスだが、一応計画としては用意周到に準備をしていた。
セレティーナに種明かしする際に証人的な存在として、友人クリナムのまだ非公開の婚約者であるフリージアも自分が心惹かれている令嬢として、セレティーナに紹介しようと思い付く。
もしこの茶番の種明かしをセレティーナが信じてくれなかった場合、フリージアに証言して貰おうと思っていたのだ。
そして予め二人に好意のある素振りをセレティーナにし、お茶に同席して貰う。
リナリスは予想通り、これ見よがしにユリオプスにベタベタとしてきた。
フリージアには、そういう設定で四人でお茶をする事を告げ、婚約者であるセレティーナの前で、平気でスキンシップを図るリナリスの問題行動を観察出来るという話で持ち掛けた。
しかし、やきもちを焼かせるどころか、ユリオプスの茶番的なこの恋愛相談にセレティーナが親身になって向き合おうとする姿勢をみせる。それはユリオプスがもっとも望まない結果だった。
そしてついに……十年近くもセレティーナに異性として全く見て貰えないというユリオプスの積もり積もったストレスが、一気に爆発する。
リナリスが城内でセレティーナに嫌がらせを受けているという悪評を吹聴していた事や、リナリス本人から茶席でセレティーナから嫌がらせを受けたという虚言をユリオプスにして来た事もあり、それを使ってセレティーナに婚約破棄をチラつかせてみようと、ユリオプスは企む。
そしてわざとリナリスに嫌がらせをしているとセレティーナを責め、その行動から婚約破棄を匂わすような発言をして、部屋を出たユリオプス。
しかし、部屋を出る瞬間、今まで見た事もないセレティーナの悲しそうな表情にこの下らない計画を実行してしまった事を大いに後悔した。
だがセレティーナの性格なら、この後必ず自分の許へと弁明に来てくれるはず。
その時に事の真相を説明し、しっかり謝罪をしようと……。
しかし自室に戻ろうとしたユリオプスは、登城していた目ざといリナリスに見つかってしまう。そして茶番をしている時、黙認していたユリオプスにベタベタ触れる行為を更に調子に乗って行ってきた。
その吐き気さえ覚える不快な行為をユリオプスは、必死に耐える。
フリージア達がリナリスを断罪するまでは、ここでユリオプスがキレる訳にはいかない。彼らも彼らで、この問題児の男爵令嬢を駆除する為にかなりの準備をして来たのだから……。
しかしこの日のリナリスは、かなりしつこかった。
この間のセレティーナ達とのお茶に招いた事で手応えを感じたのか、今日は意地でもユリオプスとの仲を進展させようと躍起になっているようだった。
そして気が付けばユリオプスの自室前まで付いてきて、部屋に入れてくれるまでは、頑としてユリオプスを解放しないという姿勢を見せた。
だが今、ユリオプスの自室には、リナリス駆除の打ち合わせをする為に友人クリナムとその婚約者フリージアが待機している。
さらに弁明に来るであろうセレティーナにもこの二人から、今回の茶番の真相を証言して貰おうと思っていたユリオプス。
だがその前にこの鬱陶しい男爵令嬢を追い返さないと、どうしようもない。
何とかしてリナリスを追い返そうとしたユリオプスだが、リナリスの方はユリオプスが強く言えない状況なのをいい事にかなり粘って来た。
そんな攻防をしていたら、ついに弁明にセレティーナが来てしまう。
セレティーナ本人は上手く隠れたつもりだが、ユリオプスからはその姿がハッキリと確認出来た。
その時……ついユリオプスは魔が差してしまった。
この状況で、リナリスを自室に招き入れたらセレティーナは嫉妬心を抱いてくれるだろうか、と。
そう思い付いた瞬間、何のリスクも考えずにユリオプスは実行していた。
部屋に招き入れて貰ったリナリスは、ここぞとばかりにユリオプスに抱き付いてきた。それをユリオプスは、汚物でも見る様な目で突き放す。
「リナリス……僕が君を部屋に招き入れたのは、君と大事な話をする為だ」
「まぁ……殿下。大事な話とは一体どのような素敵なお話ですの?」
熱を帯びた視線を向けてくるリナリスに吐き気を覚えながら、ユリオプスが冷たく言い放つ。
「君が登城する度に何人かの令息に色目を使い、迷惑しているという苦情が父の許に上がってきている……。そしてそれは僕に対してもだ。本来なら公の場でその件を追求し断罪もと考えたが、もしこれを期に一切こちらへ登城してこないと約束するならば、この件は内々で処理する。君に関しては、むやみに僕に触れた不敬罪、僕の婚約者セレティーナの悪評を吹聴した名誉棄損の罪状も付く。それらに関して目をつぶる代わりにもう二度と登城しないで欲しい」
ユリオプスが冷たい声で事務的に淡々と警告する。
するとリナリスは、砂糖菓子のような甘い顔立ちにはそぐわない浅ましい笑みを浮かべた。
「殿下……今この状況をご理解されていないのですか? 今わたくしは、殿下の自室で二人っきり……。そしてわたくしがこの部屋に入った事は事実。この状況で、わたくしが外部に殿下自らがわたくしを自室に招き入れ、わたくしがご寵愛を受けたと吹聴すれば……どうなるとお思いでしょうか?」
「君は僕を脅迫するのか……?」
「脅迫だなんて滅相もございません。ただ……その様な事をわたくしが致しましたら、世間はどう感じるかをお話ししたまででございます」
するとユリオプスは、盛大にため息をつく。
その様子にリナリスは、自分の勝利を確信した様だ。
「クリナム、すまないがフリージア嬢と出て来てくれないか?」
ユリオプスのその一言でリナリスが、ギョッとする。
するとカーテンの陰から、二人が姿を現した。
「二人共、今のリナリスの発言、聞いていたかい?」
「ええ、もちろん。どう聞いても殿下を脅迫する物言いにしか聞こえない内容をリナリス様から、しかと聞き入れました!」
光のない瞳でフリージアが、一瞥するようにリナリスを見据えて言い放つ。
「なっ……!! どうしてお二人が!」
「リナリス、これのどこが二人っきりだと言うんだい? しかも君は明らかに僕の事を脅迫したね? この不敬はかなり処罰が重いけれど……君はその事を知ってて言ったのかな?」
するとリナリスが、ブルブルと震えだす。
「殿下!! お許しください!! わたくしは男爵令嬢とは名ばかりの哀れな女でございます!! 家族に虐げられ、このままでは身売りされる状況だったのです!! その為、城内で殿方に見初めて貰う他、あの地獄の様な家から逃れる事が出来ないと思い、ついこの様な愚かな行為を……」
「その事なら君のお父上から話は聞いているよ?」
「えっ……?」
「お父上は君の事を『野心に満ちた浅ましい娘ゆえ、その恥ずかしい振舞いに家族も何も対処出来ずに困っている』と……。罪状の件を伝えたら、出来れば早々にでも国外追放にして二度と家に戻れぬ様に処罰して欲しい……。そうおっしゃっていたよ? 君は男癖が悪いだけでなく、浪費家でもあったみたいだね。悲鳴を上げているのは君ではなくて、ご家族の方だ」
「ち、違うのです!! それは家族がわたくしを罠に掛けようと……っ!!」
するとユリオプスが、すぅっと目を細める。
「リナリス……さようなら。もう二度と僕の前には現れないでね?」
そして部屋中に響き渡る声で「捕らえよ!」と叫ぶ。
すると、隣の部屋から警備の騎士が三人程、突入してきた。
「殿下!! お待ちください!! わたくしは何も……」
「早く連れていけ」
「殿下!! 殿下ぁぁぁー!!」
喚き散らすリナリスが、連れ出されると急に部屋が静まり返った。
するとユリオプスが、大きく息を吐く。
「殿下……この度はご協力頂きまして本当にありがとうございます!」
フリージアが、満足そうな表情を浮かべ丁重にお礼を述べてきた。
「君らに頼まれなくても、遅かれ早かれ彼女は僕に絡んで来たと思うから、最終的にはこういう結果にはなっていたと思うよ? でもあなたの様に声を上げてくださるご令嬢がいる事は心強い。クリナムには勿体ないくらいのご婚約者だ」
「ええ。私の自慢の婚約者なので!」
「のろけるのも大概にしろよ……。それよりも……君らは、そろそろ婚約している事を公表するのだろ?」
「はい。フリージアに言い寄る輩が増えてきたので……。そろそろ害虫駆除に本格的に乗り出さないと……」
苦笑しながらそう答えるクリナムの横で、フリージアが嬉しそうに微笑む。
しかし、その笑みはすぐに心配そうな表情へと変わった。
「ところで殿下、セレティーナ様への誤解は、解かれなくてもよろしいのですか? 本日はその件でわたくし達はこちらで待機していたのですが……」
するとユリオプスが盛大にため息をついた。
「そのつもりだったけれど、あのバカ男爵令嬢の所為で予定が大幅に狂ってしまった……。セレには明日僕から弁明しておく……。でもその際に君らにも証言して貰わないと信じて貰えないかもしれないから、その時は頼むよ……」
力なくそう答えたユリオプスだが……。
翌日セレティーナの部屋を訪れると、そこには誰もいなかった。
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