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魔王は倒せるが、スライムが倒せない 〜最強魔王も倒せるけど、スライムが倒せないってどういうことですか〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第3章「封惑の魔王」

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11話 エミルアリス



 この騎士団長が何を言ったのか理解ができなかった。


「は……?」


 健治も理解ができなかった顔をする。


 そしてエミリは、


「ユリアリア程度の……命と言いましたか?」


 騎士団長が言った言葉に、低く、今まで聞いたことがない声で返した。


「も、申し訳ございませんエミルアリス様! ユリアリア程度と言ったことは口が過ぎました。しかし、ユリアリアの命よりもケンジ様の命の方がこの国にとっては重要なのです! それはこの場にいる誰もがわかっている事でしょう。ユリアリアであればこの国にはほとんど痛手がありません。エミルアリス様の側近が一人いなくなるだけでしょう」


「カルデム!! 口を閉じなさい!! ユリアリアは私の一番の側近です! それを侮辱するとは!」


「そこまでにするのだ、エミルアリス!」


「っ!? お父様!?」


 エミリがカルデムの言葉に反論をし始めた時、王様がエミルアリスを止める。


「カルデムの言うことが正しい。この国の為にと考えればわかる事だろう? それ以上は其方のわがままだ!」


「わがままですか!? 違います! これは……」


「もうよい。この考えはもう覆らないことだ。エミルアリスはここにいる。攫われたのはユリアリア。もう諦めるしかないと考えよ!」


「……っ!!」


 声にならない声をエミリが噛みしめる。


「お、王様! それは!!」


 健治も王様の言葉に反論しようと声を出すが、


「勇者ケンジ! 其方もこれ以上は口出しを許さぬ。所詮其方は異世界から召喚された純粋にこの国の者ではないのだ。これ以上この国の事には首を出す権利はない!」


「なっ……!」


 言い捨てられた。

 この王は本気で言っているのか!? エミリの意見も健治の意見も全て捨てやがった!


「わかってくれエミルアリス。この国の為だと思えばこの選択が一番なのだ! それにユリアリアの影響は其方を悪い方向に向かわせていた。今までの行動もユリアリアの入れ知恵なのであろう? 其方は完璧にしていると思っているのだろうが、時々其方の言葉使いや仕草が冒険者の様になる時があるらしいぞ? 一国の王女がそれは駄目であろう? 其方は可愛い余の娘なのだ! 一人の父親として悪い方向には行ってほしくない!」


「それとこれとは違います! ユリアリアは私にとってかけがえのない……」


「はっきり言おう! 其方がどうしてもというので許したが、本来ならユリアリアは王女の側近になれるような身分ではないのだ! 周りは良い顔をしておらん! この機会に新しい側近を其方に付ける事にする!」


「お父……陛下!」


 その言葉にエミリが王を睨む。

 その目に一瞬たじろぐ王。


「そ、その目だ! 王女がそんな目をしてはいけない! 余はエミルアリスの事を思って言っているのだ! もうユリアリアの事は諦めるのだ。……ならこうしよう! ユリアリアの事を諦めたら今までにあった処罰の対象になる件を全てなかったことにしよう! これからは城に籠ることなく自由に外に出ても良い! な?」


「……」


 この王は最悪だ。俺ももう我慢ができない。聞いてるだけで反吐がでる。

 こいつはエミルアリスの事、国の事だと言っているが全ては自分の為の事だ!

 ゲンダルフィンとの戦争に負ければこの国つまり自分が失脚する。まあ、死ぬ事になるだろう。

 ユリアを見捨てると言うのもエミリの為にはならないし、自分の思う通りの王女として作り上げたいだけだろう。

 そんな王は王ではない。一人の父親としてもどうかしている!


「この国と其方の為なのだ。わかってくれ」


「この国の為?」


「そうだ、この国の為だ!」


「……」


「エミルアリス」


 そして沈黙していたエミリが最後の王の言葉に決断したように答える。


「……わかりました」


「そうか! わかってくれたか! 流石余の娘だ!」


「はい、この国はもう駄目なのだと。王も政治も考え方までもが」


「……っ!? エミ……」


「では、国とは一体何でしょうか?」


 エミリが冷たい声で王に質問する。


「国とはだと……? 国とは我々王族、貴族が管理する領土か?」


「領土も大切です。しかし、最も大切なのは国民ではないでしょうか! 国民がいなければ何もできません。食料も寝床も生活すら確立しなかったでしょう。国の始まりは人なのです。そして我々王族、貴族も1国民。その国民を守らなければ国の存在意義がなくなります」


 王の返答に苛立ちを抑えながら、エミリの声が大きくなる。


「側近と言えども、1人の国民が理不尽に攫われたのに、救出しないのは国と言えるのでしょうか?」


 そしてエミリの手が硬く握られる。


「国の意義を放棄するのが国王の務めでしょうか? 私は違うと思います!」


「エミルアリス……?」


「ここで動かなければ一生負け犬呼ばわりされる王族となるでしょう! そしてゲンダルフィンの属国として一生生きていかなければならないことになります!」


 エミリが凛とした立ち振る舞いで、誰にも臆さず、目を力強く見開く。


「なら私がこの国の代表として、ユリアリアを助けます! そしてこの国を負け犬の国にはさせません!!」


 力強くその言葉を言いきったエミルアリスは王の間を飛び出す。


 すごくカッコいい。これが本当の王女なのだと言う立ち振る舞いだった。

 俺よりも年下なのに俺よりもしっかりした考えを持って生きている。

 これがエミリ、エミルアリスなのだと感じさせられた。


「エミルアリス!」


「エミルアリス様!」


「王女様!」


 騎士団長と健治がエミリを追いかけようと走り出す。


 はははっ、こんな素晴らしい人に助けられたなら、俺も助けないといけないよな!


 俺はエミリを追い越し「隠密」を解き、前に立つ。


「きゃあっ!」


 エミリは突然俺が出てきたことに驚いたが、勢いを殺せず俺にぶつかる。

 

「お、おにーさん……?」


「お疲れ様」


「だ、誰だ貴様は!! エミルアリス様から離れろ!!」


「え? 春原さん?」


 追いかけて来た騎士団長の声を聞き、他の騎士達が集まってくる。


「き、貴様は! クシカツのスライムか!」


「……外で待っていてくださいと言ったではないですか」


「すごいかっこよかったよ。あれが王女様なんだって思った」


「……聞いていたんですか」


 エミリが俺を見る。

 その目は力強く決心した目をしているが、うっすらと涙が浮かんでいた。

 ……我慢していたんだな。


「これからどうするんだ? この国は動く気がないんだろ? 戦力もないエミリだけでは何も動く事はできないよな?」


 俺の言葉にエミリ目に溜まっていた涙が一瞬こぼれる。

 しかし、その涙は見せないように俯き、次の瞬間には俺の目をしっかり見て話す。


「そうです。ですが、私が動かなければこの国もユリアも終わりです! 手が無くてもどうにかしなけらばならないのです!」


 エミリの声は震えている。目には我慢しても溢れる涙を溜めながら。

 この年の女の子が普通考えない様な事をしているんだ。そりゃ恐怖も不安もあるだろう。

 だから助けられるなら、助けたい。それが今までの恩を返せるなら。


「俺さ、今から用事があってゲンダルフィンに行くんだよな」


「……っ!!」


 その言葉にエミリの動きと言葉が止まる。


「用事って言うのは、俺とエミリの大切な女の子を助けに行くんだけど」


 エミリが王女様らしくない仕草で目を手でこすり涙を拭う。


「乗っていくか?」


「当たり前です!!」


 力強く、いつものエミリの目でそう答えた。


「じゃあ行くか!」


 そう言いながら俺はエミリの後ろまで走ってきた騎士団長と王を睨む。


「な、なんだ貴様は! 余をそんな目で見るのか! カルデム、こいつを捕まえるのだ! いや、この場で殺してもいい!」


「はっ! 承知いたしました! クシカツのスライム! 早くエミルアリス様から離れろ!」


 騎士団長が剣を抜き俺に向かって構えた。


「……あ?」


 その瞬間俺は魔力を解放する。

 解放すると言っても氷系統の上級魔法を練るだけだが、寒気はやばいだろう。


 思った通り騎士たちは動けないで固まり、次々とその場で膝をつく。


「すみません、陛下、カルデム。私はユリアリアを助けに行きます! 陛下の言葉を借りれば、これも全てこの国の為なのです。もちろんユリアリアを助けたい気持ちの方が強いですが!」


 エミリがはっきりと言い切った。


「くっ……エミルアリス……」


 王がエミリを呼ぶが、エミリの目には王はもう映っていない。

 映っているのはこれからの事とユリアの事。


「待ってください!」


 倒れている奴らの中に一人だけ動ける奴がいた……健治か。


「春原さん! 俺も付いて行かせてください!!」

 

 健治が膝をついている騎士達を通り抜け俺達の前まで来る。


「俺もユリアリア様を助けたい! それにあなたがどれだけ強くても王女様も連れて行くんだ、戦力が多い方がいいだろ! それに王女様の側には俺が付いていれば貴方も思う存分動けるだろ」


「そうだな。うん。わかった、付いて来い!」


「はい!」


 なんだか今日の健治はいつもより勇者っぽく感じる。いや、勇者なんだけどな?


「おにーさん、ちなみにどうやって行くのでしょうか? ここからゲンダルフィンの王都までは馬車でも丸2日はかかります。それに相手は転移魔法を使いましたので確実に王都の城の中にいるはずです。ユリアの下に行くにしてもそこまで通してもらえるか……」


「ああ、そこは大丈夫だ。もう呼んでいるから」


「呼んでいる……?」


 そう言った時、周りが一段と騒がしくなった。


「か、カルデム様! 大変です!」


 騎士が数人廊下を走って来る。それも顔面を蒼白として。


「ど、ドラゴンが! ドラゴンが攻めてきましたぁ!」


「な、なんだと!?」


 その瞬間空が黒く染まった。


 ナイスタイミングだ!


「主! 飛ばして来たぞ!」


「スノハラ! 準備はできているのじゃ!」


 ドラゴンの姿のティオルが風を起こし、周りの物を舞い上げながら中庭に降り立つ。

 その背中にはアルデが乗っていた。


「お疲れー! お前らナイスタイミングだわ!」


「当たり前であろう! ユリアが攫われたのであろう! 早く乗るのじゃ!」


「うん、だから今から助けに行くからお前らを待ってたんだけど……」


「何をもたもたしておる! 早く助けに行くのじゃ!」


「そうだ! 早く我に乗れ!」


 はは、なんだよこいつら、俺よりやる気があるじゃねーか!


「な、何事だこれは!! しゃ、喋るドラゴン!? それになぜ貴様がドラゴンと喋っている!?」


「……まさか、ケンジ様の言葉は本当だったのか?」


 なんか周りでごちゃごちゃ言っているけど今は聞く気がない。今はユリアを助ける事に頭を置いている。


「さて、エミリと健治早く乗れ! すぐに出発するぞ!」


「わかりました!」


「はい!」


 エミリ達がティオルに乗り、続いて俺も飛び乗る。


「お、おいカルデム! 貴様何をしておる! 王女が! エミルアリスが攫われるのだ!」


「わ、わかっているのですが、身体が先程の魔力で動きにくく……」


 王と騎士団長が膝をついて叫んでいる。

 ははっ! この強さで騎士団長とか笑えるな! そりゃ健治の方が強いわ。


「陛下、安心してくださいませ。私は攫われるのではなく、攫われたユリアリアを助けに行くのです! 何も動かない、動く事ができない能無しのこの国の陛下の為に!」


「え……エミル、アリス……」


 エミリも中々ズバッと言うようになったな。隣の健治も唖然としているよ。


「ではおにーさん、出発しましょう!」


「ああ! ティオル!」 


「了解した、主!」


 そしてティオルが飛び上る。


「ぐわぁぁぁ! 風が!!」

「ドラゴンが、ドラゴンがぁぁ!」

「ぐわぁぁぁぁ!」

「エミ……エミルアリス……」

「陛下ぁ! お気を! お気を確かに!!」


「さあ、行くぞ!」


 目指すはゲンダルフィン! 俺達に喧嘩を売ったんだ、覚悟はできてるだろう。



 さて、初めての国潰しと行こうか!





   

さて、国潰しと行こうか!

エミリがかっこいいです!


今日の集中連続更新はここまで。

次回の更新は火曜日の12時頃です。

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