第一話 ハズレ人物に転生した
部屋で一人ネットゲームに没頭する青年『仲島惣介』35歳は憂鬱だった。
幼少期から友達は少なかったがある程度真面目に勉学に取り組み、ある程度優秀な進学校に通い、ある程度有名な大学を卒業しある程度未来を有望されていた彼であったが、どこかで進むべき道を見失ってしまった。一流企業に勤めた一年後に仕事を辞め、自宅の部屋に引きこもってしまったのだ。たまに外に出る事があるとすればコンビニで立ち読みや食料の買い出し程度だ。
それからの十二年間ずっと自宅警備員である。時々さいなまれる自己嫌悪を振り払いただパソコンに向かう日々だった。
その日、食料の買い出しにでもとコンビニに向かう途中、仲島惣介は車にはねられ死亡した。
目の前の暗闇が明るさを取り戻し、目を開けるとそこは何もない星空だけが浮かぶまるで宇宙の様な空間だった。
「ここは……あの世?」
混乱し続ける惣介が回りを見渡していると光の塊が目の前に現れた。
それはまばゆいばかりに自ら光を発している美しい女神?だった。
『私は異世界の創造主、あなたを異世界に転生させてあげましょう。』
『は?もしかしてこれって最近よく見る深夜アニメの展開と同じヤツ?』
そう思い惣介は今までの人生を振り返る。学生時代真面目に下積みしてきたものを全てちゃぶ台返しの様に台無しにし、ただ自宅で無駄な日々を送ってきた結果三十五歳で死を迎える最悪の人生。特にずっと自宅に籠っていたせいで女子とまともに付き合った事も無かった。これをやり直せるものなら今度こそと考えた。
『これからあなたを異世界に転生させてあげますが、前世の記憶を保ったまま、赤ん坊の頃からやり直すわけではありません。前世の記憶は持ちこせますが、すでにこの先の世界に存在した五人の中から一人を選ばせてあげましょう。どれも比類なき能力を持った英雄達と呼べるでしょう。』
一、人間離れした身体能力と魔王をも打ち滅ぼせる剣技の英雄
二、大賢者として全ての魔法を行使できる英知の英雄
三、想像した全てのアイテムを創造できる匠の英雄
四、どんな人間も魅了し全ての美を超越する不老の英雄
五、病弱な辺境の下級貴族
『さぁ、あなたはこの五人から英雄を選択しますか?』
「いや、四人だろ。明らかにおかしいのが一つ混じってるぞ。」
『……おかしいですね。どれも英雄を提示したはずだったのですが……。まぁ良しとしましょう。』
(良しとしましょうじゃねーよ!)とツッコミを入れたくなったが他の四択はどれも魅力的だったので初めから四択だったと思い込むことにした。
悩んだ末に惣介が出した決断は「二」の大賢者だった。
『それでは始めましょう!ルーレットスタート!』
「まてまて!選ばせてくれるんじゃねーのかよ!」
きょとんと目を丸くした女神が答える。
『いえ、どれになりたいのかなぁと興味本位で聞いてみただけですが?』
「じゃぁ五番目を消してくれ!」
『あぁ、そうですねぇ。五番目は明らかにこちらのチョイスミスぽいですからね。分かりました、ではこうしましょう。』
そういって女神はルーレットの各選択肢が七十二度と均等になっていた範囲の「五」を五度にまで縮小し、余った範囲を「二」に付け足した。
『では気を取り直して始めましょう!ルーレットスタート!』
ルーレットが回り出す。全部無くしてくれるんじゃないのかよと思いながらもまぁ五度とかまず当たらないだろうとダーツの矢を放った。
ルーレットはゆっくりと回る速度を落とし、やがて止まる。
矢がささったのは――。
『五、病弱な辺境の下級貴族!ではいってらっしゃーいっ!』
「うそだろおおおおおおおおおおおおお…………」
その空間に一柱残った女神は小さく囁いた。
『……ちょっと可哀そうだから一つだけおまけして差し上げましょう……。ウフフ、これで病気位は克服できるでしょう。』
◇
その日、スターク連邦の辺境ヘルタベルン領、領主ヘルタベルン家の屋敷で一人の少年、イザーク=ヘルタベルンが息を引き取った。穏やかな性格だった彼は幼いころから病弱でほとんど外にでることが叶わず、本を読みながら窓の外を眺めながらいつか病を克服し外の世界を思う存分走り回る事が夢であった。その夢も虚しく天へと召されたのだ。
イザークが横たわるベッドの周りには父クラウス、母エリーザ、姉アシュレイ、妹アリーゼが涙を流しながらそれぞれに彼の死を悼んだ。
「可哀相なイザーク……どうしてこのこがこんな不幸な目に……。」
母のエリーザが嘆く。
「病気などに負けるなどあなたらしくもない……、あれだけ早く元気になって私と剣の稽古がしたいと言っていたのに……。」
姉のアシュリーが悔やむ。
「おにいちゃああああん!」
悲しみのあまり泣き叫ぶことしかできずにいる妹のアリーゼ。
その体からは既に体温が奪われていたが誰もそこから離れようとはしなかった。彼が息を引き取ってもう一時間が経とうとしていた。
「――ぶはぁっ!!」
死んだはずのイザークの上半身が突然起き上がった。
驚きで気を失いそうになる家族達。
仲島惣介ことイザーク=ヘルタベルンは大きく肩で息をしながら周りを見渡す。
そこには絶望から希望に変わった表情で涙を浮かべる愛すべき第二の家族がいた。
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