第二話 ハズレではなかった
イザークは夜中にふと目が覚めた。
そこには洋館の天井があった。豪華絢爛とはいかないが質素で品のある作りだった。
そうだ、仲島惣介改めイザーク=ヘルタベルンは奇跡の復活を遂げたのだ。
ふとイザークは体の窮屈さを覚え、顔だけ横を向けた。
両隣には姉アシュレイと妹アリーゼがイザークにしがみつくように寝息をたてていた。
姉のアシュリーはイザークの二つ年上。艶のある銀髪の細く長い髪に整った美しい顔立ちで、体は薄く筋肉ののったすらりと引き締まった無駄のない体格だ。そしてかなりの巨乳である。
右腕がアシュリーの豊満な胸で挟まれて形を変えている。イザークは幸せをかみしめていた。
妹のアリーゼは二つ下。栗色のすこしウェーブのかかった髪が肩の下まである。長いまつげにくりっとした大きな目で可愛らしい顔だちをしていて、細身の体で胸は……今後の成長に期待といったところか。
どうやら前世の記憶は持ち越せてるようだった。そしてイザークの今までの記憶もしっかりと継承していた。
あの後、死の淵から蘇ったイザークに家族は驚き医者を呼び戻して診察したが体に問題は無いと診断された。むしろ病気も完治しているとの事だった。しかし今日はゆっくり休ませようという事になったが姉と妹が隣で寝たいと駄々をこねるのでしかたなく了承して今の現状となっていた。
ちなみに母も一緒に寝ると言ってきかなかったが父のクラウスがこれ以上はベッドにスペースが無いと説得し泣く泣く自分の寝室に連れ戻していった。
イザークは左手をかざし自分のステータスウィンドウを開く。
その一連の動作に迷いはない。今までの記憶も継承しているのでこの世界の常識は体に染みついていた。
名前:イザーク=ヘルタベルン
職業:貴族
年齢:15歳
LV:1
HP:130
MP:60
スキル:【超回復】【時空魔法】
知らないスキル……死ぬ前には無かった【超回復】が追加されていた。
不憫に思った女神が追加してくれたのだろう。おかげで健康体を取り戻すことができ、普通に生活する分には問題なさそうだ。
レベルが1なのはずっと寝たきりで生活していたため仕方のない事だろう。
それよりも注目すべきはこの【時空魔法】だろう。
どうやらこの世界では程度によれど貴族だろうが平民だろうが一人一属性の魔法適正があるらしい。逆をいえば生まれ持った属性以外の魔法は使えないのだ。
ほとんどの人間が【火属性】【水属性】【風属性】【土属性】の四属性のどれかの適正があり、極稀に【光属性】【闇属性】の適正を持つ者もいるらしい。
イザークの持つ適正【時空】はどうだろう。この属性適正を持つ者はこの世界に彼一人だった。しかし魔法とは剣に代わる攻撃手段や生産的手段に活用するのが主な考えのこの世界で、かれの家族はイザークの属性適正に憐れみ同情していた。
しかしイザークはこの生まれ持った属性適正を悲観した事は一度も無かった。そして今も。まさに他の選択肢にあった英雄設定に負けないほどだと思えた。
二人を起こさないようにベッドから降りたイザークはそれを証明する様に右手で光る門を開けた。
部屋の空間に青白く光を放つ門が現れる。イザークはその門を開きゆっくりとその向こう側に消えた。門を越えた後には扉は消え去り、明かりの消されたいつもの夜の部屋だった。
門の中に入るとそこはダンジョンになっていた。
以前のイザークはここを【時空の迷宮】と名付けていた。
そこは古代の魔物やレアな魔物の巣窟だった。ダンジョンは下に下る洞窟階層型の迷宮と、上に上る塔に分かれていた。どちらも階層を進むにつれて高レベルの魔物が生息している様だった。まだ一階層も踏破はしていないがイザークはそう感じた。
そしてこの空間は時空の挟間に存在するダンジョンで、外の世界と時間の流れが違うのだ。
ここでの十時間が外の世界の一時間、丁度十倍の流れの差があった。これは以前のイザークが何度もここに出入りし、検証した結果で正確なものだった。
残念ながら彼の体力ではこの入口から先に進むことは叶わなかったが――。
【超回復】を得た今であれば、休むことなくここで鍛錬しレベルを上げる事が可能なのだ。なにせ一年の修行で十年分の時間が与えられるのだ。今まで成長できなかった遅れを取り戻すどころか大きなアドバンテージすら得られる。
「今度こそ時間を無駄にはできない、効率良くここを利用させてもらうよ。」
イザークこと旧仲島惣介としては今まで無駄に過ごした人生の後悔を取り戻すかの如くここを有効に活用することを誓った。
「さて、始めるか!」
といってもまだレベル1である。足元に落ちていた棒を拾い上げたイザークはそのまま奥へとすすんだ。十メートルほど進むと突然目の前に何かが飛び出してきた。
名前:エンジェルスライム
LV:5
HP:10
MP:0
スキル:無し
「いきなり格上かよ!」
そう言いながらイザークは突進し、棒を振り下ろした。イザークの攻撃はひらりとかわされ、反撃を喰らう。レベル1のイザークにはかなりのダメージを受ける事になったが、【超回復】によって傷はすぐさまふさがった。
「ふはははは!【時空の迷宮】と【超回復】最高だな!このコンボさえあればレベル上の効率はうなぎ上りだぜ!。」
朝の光で目が覚めたアシュレイとアリーゼはベッドにイザークがいないことに気づき急激に不安にさいなまれた。もしかしたら昨日の出来事は夢であって、現実に引き戻されたのではないだろうか、そしてやはりもうイザークとは永遠に会えないのではないかと。
するとドアがガチャッと開き、隙間からイザークが顔を出す。
「姉さん、アリーゼ、もう朝食の時間だぞ!」
今まで見たことも無いイザークの生気に満ちた声に二人は満面の笑みで答え、ベッドから飛び起きた。




