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『盾を捨てろ、ぶっ飛ばせ! ~不遇スキル「シールドバッシュ」の無双英雄譚~』  作者: まーサンタ


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第零話:平穏の終着駅

アラームの電子音が部屋の静寂を切り裂く。 時刻は午前七時半。上掛けの布団を蹴飛ばし、身を起こすと、どこにでもあるワンルームの一室が視界に飛び込んでくる。散らかしっぱなしの脱ぎ捨てた服はなく、カーテンの隙間からは心地よい朝の光が差し込んでいた。

「よし、今日も頑張るか」

独り言を呟きながらベッドから這い出す。 俺の名前は……まあ、どこにでもいる、しがない社会人だ。今年の春に晴れて大学を卒業し、世間ではホワイト企業と名高いIT関連のベンチャー企業に新卒として入社した。 入社して半年。慣れない仕事に悪戦苦闘した時期もあったが、今では先輩たちとの関係も良好で、残業も少なく、休日出勤など都市伝説レベルのホワイトっぷり。同期との飲み会では「当たり引いたよな俺たち」と笑い合うのがお決まりだった。

顔を洗い、トーストとコーヒーで簡単な朝食を済ませる。スーツに身を包み、革靴の踵を鳴らしながら家を出る。 最寄りの駅までの道のりは、見慣れたアスファルトと、通勤・通学の人々で賑わうありふれた光景だった。すれ違う近所のおばちゃんと「おはようございます」と挨拶を交わし、自動改札機をタッチしてホームへと上がる。

数分待つと、定刻通りにやってきた緑のラインが入った通勤電車が滑り込んできた。 運よく吊り革を掴むことができ、揺られること三十分。オフィス街の最寄り駅で降り、同期の佐藤と合流してビルへと歩く。

「お疲れ、昨日頼まれた資料、完璧だったわ。助かった」 「お疲れ。先輩のチェックも一発で通ったし、余裕っしょ」

和気藹々とした空気が流れるオフィス。デスクに座り、キーボードを叩く音と、時折聞こえる穏やかな雑談。昼休みには同期数人で近くの定食屋へ行き、ボリューム満点の唐揚げ定食を頬張りながら、最近流行りのアニメやライトノベルの話題で盛り上がった。 「やっぱ主人公のあのチートスキル、ロマンあるよな」「でも地味な不遇スキルから這い上がる系も捨てがたいぞ」なんて、他愛のない、どこにでもある幸せな日常。

定時を少し過ぎた頃、上司から「今日はもうあがっていいぞ、お疲れ様」と声をかけられ、足取り軽く会社を後にした。

帰りの電車も、行きほどではないが適度な混雑具合だった。 文庫本サイズの端末を取り出し、最近ハマっているライトノベルのページを開く。ページをめくる指が止まらない。目の前で繰り広げられる剣と魔法のファンタジー、理不尽な追放劇からの逆転劇――そんな刺激的な物語に夢中になりながら、自身の平穏で満ち足りた日常の続きを疑うことすらなかった。

電車がガタンゴトンと音を立てて速度を落とし、俺が降りるべき乗換駅のホームに到着する。 ドアが開き、スマホから目を離さないまま、人の流れに乗ってホームへ一歩を踏み出した。

「お前、マジそれウケるんだけど!」「うわ、押すなよ!」

すぐ隣を、部活帰りなのだろうか、大きなバッグを担いだ高校生くらいの男子グループが、じゃれ合いながらふざけ合って通り過ぎようとしていた。 ほんの些細な、日常のノイズ。 しかし、その一瞬の気の緩みが、すべてを塗り替える。

ドン、と背中を強く押されるような衝撃。

「うっ……?」

バランスを完全に崩した。足元が宙を舞い、視界がぐるりと激しく回転する。 耳を劈くような、金属が擦れ合う高音の警笛。 見上げた視界の先に飛び込んできたのは、目の前に迫る、巨大な鉄の塊のヘッドライトだった。

ブレーキの間に合わない電車の圧倒的な光が、俺の視界を真っ白に染め上げていく。 ――え? 思考が追いつくよりも早く、全身を激しい衝撃と、冷たい感覚が貫いた。

意識の糸が、プツリと、音を立てて途切れた。

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