表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2分でわかる!殺人犯  作者: 幸円一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/5

第1話 お前か。(速攻)

 大学生活を満喫中の俺、光一こういちが、友人たちとひと夏のバカンスを楽しむために訪れた孤島。

 青い海。白い砂浜。都会では見られない満天の星空。

 ――を期待していたのだが、俺たちが島に到着した日の夕方から天候は急変した。


 窓の外では、横殴りの雨が吹き荒れている。木々は今にも折れそうなほど大きく揺れ、古びた宿の窓ガラスが、絶え間なくガタガタと音を立てていた。


 島と本土を結ぶのは、民宿の主人が操船する船のみ。当然、この天候で出せるわけがない。電話で連絡を受けた警察も、この嵐ではすぐに島へ来ることはできないらしい。


 孤島。嵐。外部からの救援は期待できない。

 令和のこの時代においては、ちょっと失笑してしまうようなクローズド・サークルである。まさに天然記念物。


 そして宿の広間には、腹を刺されて死んでいる男がいた。

 畳の上に仰向けに倒れた男の腹部から、赤黒い血が広がっている。夕食の席で見かけた宿泊客だ。

 つい一時間ほど前まで、大声で騒ぎながら酒を飲んでいたはずなのに、今は目を見開いたまま、ぴくりとも動かない。


 宿泊客と宿の関係者は、全員この広間に集まっている。この状況だ、島の外から誰かが侵入したとは考えにくい。多分、この中に犯人がいる。


 ならば、使うしかない。


 俺は意識を集中させた。キィン、と頭の奥で短い音が鳴る。“能力”を発動すると、いつも聞こえる音だ。

 人間の耳では、歳を重ねると捉えられなくなるというモスキート音を、頭蓋骨の内側へ直接流し込まれているようで、何度経験しても不快だった。


「龍二! 龍二ィッ!」


 甲高い叫び声が広間に響く。

 死んでいる男のそばに膝をつき、遺体にすがりついている若い女性。夕食のときの様子からして、死んでいる男、龍二の恋人なのだろう。


 まずは、彼女に意識を合わせる。

 俺の頭の中へ、濁流のような思考が流れ込んできた。


【なになになんなのなんなのなんで龍二が怖い怖い怖い怖いどうしてどうして】


 恐怖と混乱で、まともな文章にすらなっていない。

 一応さらに数秒ほど思考を探ってみたが、犯行の記憶も、何かを隠そうとしている気配もない。

 

 うん、コイツじゃないな。

 次。

 少し離れた場所に立っている、宿の従業員・実子みこちゃんへ対象を切り替える。

 彼女は口元を両手で覆い、小刻みに肩を震わせていた。顔色は真っ青で、今にもその場に崩れ落ちてしまいそうだ。


【はあ? マジで勘弁してよ。明日本土に戻ったらディズニー行く予定なんだけど。取り調べとかで拘束されたらどうすんの? はー、帰りてぇ】


 嘘だろ。真面目そうでちょっと可愛いと思ってたのに。その震えや顔色は演技なんか? ひええ、女って怖い。

 まあとにかく、この人でもないな。

 じゃあ、その実子ちゃんを、たった今抱きしめた宿の女将・文代ふみよさん。

「しっかりして、実子ちゃん。しっかりするのよ……」

 声は落ち着いているが、実子ちゃんを支える腕は震えている。っていうか、実子ちゃんのそれ、演技ですけどね。


【怖い。なんで、こんなことに。私がしっかりしなければ。お客さんたちを落ち着かせないと】


 気丈な人だ。この人でもないか。

 俺は次々と対象を切り替えていく。

 最後に目を向けたのは、広間の隅で呆然と立ち尽くしている宿の主人だった。五十代くらいの、日に焼けた大柄な男だ。口を半開きにし、床に倒れた龍二を見つめている。突然起きた惨劇を、まだ理解できていない――そんな顔に見えた。


 俺は主人の心へ意識を合わせた。


【よし。ここまではオッケーだ】


 おやぁ?


【死体も予定どおり見つかった。あとは罪をなすりつけて……】


 ほーん。お前か。


 遺体が発見されてから、およそ二分。

 俺は人間の心を読み取る能力「思考マインド盗聴ワイヤタップ」によって、あっさりと犯人を特定した。事件解決である。(ちなみにこのカッコいい能力名を考えたのは俺だ)


 ただし、ここからが問題だ。


 俺は、心を読んだ相手から、この能力を持っていることを指摘された瞬間、死ぬ。


「お前、まるで人の心が読めるみたいだな」

 そんな一言を向けられただけで、俺の人生は終了する。

 だから、犯人が分かったからといって、俺がわざわざ事件を解決してやる必要はない。宿の主人には近づかず、友人たちと一緒に朝までやり過ごす。嵐が収まり、警察が島へ来たら、あとはそれとなく主人を調べるよう仕向ければいい。


 犯人が誰か分からないまま一晩過ごすのは恐ろしいが、正体さえ分かっているなら対処のしようはあるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ