春と挫折と宮古島 18話
俺はハッと目が覚める。
気がついたら3時間も寝ていたようだ。
「まだ……空の上か。」
雲が下にあり、まだ自分は天高く空の旅をしていることがわかる。
あまりにも刺激のある3日間だったせいかこの退屈さがむしろ新鮮さえ感じていた。
「あら、直輝起きたんだ。」
「母ちゃん。」
母ちゃんは隣で本を読んでいた。
でも……その内容に突っ込まずにはいられなかった。
「宮古島のるるぶ……母ちゃん、宮古島回りたかった?」
「べ……別に!?ほら!なんか飛行機って暇じゃん!」
「普通は旅の前に読むものだと思うんだけど。」
「まあいいのよ、翔子とも仲直り出来たんだし」
母ちゃんは寂しそうだけど、どこか嬉しそうな顔をしていた。
「そうか、17年も仲違いしてたもんな。」
「そうなの!ほんの小さなきっかけなのに17年もかけちゃった!直輝は1日だから大したもんよ。」
「そうだな。」
夢華との時間を思い出す。
時には厳しく、時には優しく、美しくも儚い彼女はまるで宮古島の海のような人でもあった。
また会えたらゆっくり話もしてみたい。
「まあでも……直輝はちょーっと仲良くなりすぎだと思うけどな。」
「そんな……あいつとはただの……ともだ」
そう言い切ろうとすると、先程夢華に抱きしめられてキスされたことを思い出す。
流石に、友達同士ではやらないか。
「……あれ?いや、そんなまさかな。」
ちょっとした仮説が出来た。
もしかして、夢華は俺に好意を抱いていた?
い……いや、そんなまさかな。
「全く……我が息子ながら末恐ろしいわ。急に孫とか作らないでよ。」
「作るわけないじゃん!段階が早すぎるわ、だいたいそんなノリで子ども作るやつなんて……。」
「いるじゃない、ここに。」
「そうでした。」
そういえば母ちゃんは17で俺を身篭ってたんだった。
そして、母ちゃん無駄にドヤ顔をしていてその様子がウザさを際立たせていた。
「間もなく……着陸いたします。座席を戻してください。」
「っていよいよか……。」
「はぁ〜旅が終わる〜。」
「やっぱ未練あるんじゃねえか!」
こうして、俺たちの旅は間もなく終わるのだった。
飛行機は少しずつ高度を下げていく。
そのうちに少しずつ非日常が終わることを示すようで少し寂しさを感じる自分がいた。
☆☆
「たっだいまー!ふぅー!なんか夏から春に戻った感じ!」
「だな……少し寒い。」
俺たちは自宅にもどると、母ちゃんがソファーへとダイブする。
そして、何やらお酒を取り出してロックグラスに注いで飲んでいた。
「か〜!泡盛美味しい!」
「いや、家帰って飲むなし。」
母ちゃん一昨日は飲まされすぎて、次の日まで寝込んでたのにそこから酒を飲みたがるとは大人とは不条理なものだと呆れてしまう。
「いい〜?直輝、大人という名は酒で人生を繰り返すんだよ。やなこと忘れて、そこからまたゼロから大変さを乗り越えていくものなの!」
「なるほど、分からん。」
俺は母ちゃんとは違ってコーラを飲む。
炭酸とコーラの甘みが喉を刺激し、快感で頭が少し痛くなるほど爽快感に溢れていた。
「ヘヘッ乾杯!」
「乾杯なのか……?これ。」
母ちゃんは美味しそうに泡盛を飲んでいた。
どうやら翔子さんに飲まされて美味しさに感動したらしい。
でも突然、母ちゃんは少しだけ表情が強ばる。
こういう時の母ちゃんは大事な話をする顔だ。
俺は咄嗟にシリアスな雰囲気に合わせて唾を飲む。
「で、直輝……色々あったけど、あんたはこれからどうしたいの?試験は厳しい結果だった、多分これからも沢山挫折すると思うよ?」
「ああ、それについてだけど……改めて頑張ろうと思う。」
俺の答えは変わらなかった。
俺の夢は医者になりたい。
夢華と向き合ってわかったんだ。
あいつは歌手になる夢を俺に宣言したからこそ前に進んだんだ。
あいつは俺を導いてくれたと思ってるけど俺の方が学ぶことばかりだった。
お互い目指す道はイバラの道だ。何度も何度も傷ついては踏み抜いて登っていく。
だから、俺は何度でもこの宣言を挫折の度に唱えようと思う。
「俺は、人を助けて希望を持たせる医者になりたいんだ。だから母ちゃん……医学部に行かせてくれ。」
ぶっちゃけ医学部なんてコストがかなりかかる。
まずは母ちゃんに頼らないといけないけど、母ちゃんに宣言してからじゃないと前に進めない気がした。
「ふふ……それでこそ直輝って感じだね!応援してるから。」
「ありがとう、母ちゃん。」
俺たちは旅を終えて、人生のやりたいことを固めて言った。
本当に素敵な旅だった。
そのために連れてってくれた母ちゃんや、共に旅を楽しみ切磋琢磨してくれた夢華にも感謝していた。
「さーて、じゃんじゃん飲むわよ〜!」
「おい、母ちゃん……?じゃんじゃんは飲まなくていいからな?」
結局、母ちゃんは翌日も飲みすぎて昼過ぎまで寝ることになったので、暫くは泡盛は禁止令を出すことになった。
☆☆
それから、数日後に模試の結果が届いた。
希望の医学部の試験で、想定通り結果は散々だった。
国語 65
英語 58
数学 54
生物 57
化学 55
総合偏差値
59
判定 E
今のままでは到底、医学部に合格することはできない。
その現実が数字として出されていた。
「よぉ、なおっち。結果どうだった?」
「龍。」
親友の龍が俺にポケットに手を突っ込んだままゆっくりと近づいてくる。
その威圧感は、まるでこれからやりきる覚悟があるのかとか、まるで試してるかのような目をしていた。
「こんな感じだ、惨敗もいいところ。」
「どう思った?かなり厳しい現実を突きつけられてると思うけど。」
「厳しいね。でも……俺はやりきる事にしたよ。」
「というと?」
「龍のお陰で基礎はだいぶ出来てきた。でも、まだ理解は浅いから龍と一緒に医学部を目指したい!だからこれからも……俺と一緒に走ってくれないか?」
正直、俺も独学で頑張るけど、俺は母ちゃんや沢山の人の力を借りなきゃこの夢は叶わない。
そういうと、龍は少し悪そうに片方だけの口角を上げて鋭い目を細めた。
そう、人相は悪いけど彼は笑っていた。
「これから、バシバシいくからな?その言葉後悔するなよ?」
「……ああ!ありがとう!」
「ほら、そうと決めたら勉強するぞ?とりあえず今から4時間みっちり教えてやるからな。」
「あはは……やっぱ龍は容赦ないな。でも俺はやるよ。」
こうして、挫折から立ち直った俺は桜並木の間をまっすぐ進む。
楽しく、美しかった宮古島を背に俺は春と共に前に進んだ。
春と挫折と宮古島……それらが俺をまた一段と強くしてくれたのだった。
桜並木は舞い散り、俺は桜の花びらを踏みしめていく。
受験まで、あと10ヶ月。
ここから俺は、どう成長するのだろう。




