春と挫折と宮古島 13話
俺たちは自転車を漕いで南へと進む。
特に坂もなく平坦な道が続いて、俺たちは進んだ。
「こうして見ると……意外と色んなお店があるな。」
「そう?めっちゃ田舎じゃない。」
宮古島とはいえ、思ったより生活は快適だった。
例えばコンビニは普通にあるし、マックやドンキ、マックスバリューなど意外と見慣れたものが沢山ある。
こんな所まで拡大する日本の企業努力が伺えて俺は少しだけ関心していた。
そして、見慣れた食べ物やお店が見えると空腹がより際立つような気がした。
「なあ夢華?お腹空かないか?」
「そうね、もう少しでお昼か。じゃあマックにする?」
「いいじゃん!」
俺たちは意気投合してマックにチャリを止めてお店に入る。お互いに好みのハンバーガーを頼んで食事をする。
「あはは、直輝がっつきすぎでしょ!お腹すいてたの?」
「……まあな。」
朝6時にどこの誰かさんに叩き起されてからなんだかんだずっとビーチを見てはチャリを漕いでるのだから腹が減るのは当然である。
それにしても、やはりジャンクフードのこの濃い味と炭水化物、脂の不健康な感じを身体が求めてる感じがして食べたあとの満足感は何ものにも変え難い。
「直輝ってたまーに子供っぽいとこあって可愛いよね。」
「そうか?初めて言われたぞ。」
夢華は楽しそうに俺の顔を見つめる。
ちょっと上目遣いで普段は怒り気味なのにそのギャップがあって少しドキッとしてしまう。
ん?ドキッと……?何言ってるんだ俺。
「ウチにお兄ちゃんとかいたらこんな感じだったのかな。直輝みたいな人がにお兄ちゃんなら毎日楽しいのにな〜。」
そういって、妙に寂しそうな顔をしていた。
俺もこんな短期間で仲良くなれるとは思ってもいなかった。あと少しでこの子との時間も終わる……そう考えると妙に胸が締め付けられるようでもあった。
「直輝、沖縄住めば?ここなら暖かいし私が遊んであげるわよ。」
冗談のはずなのに、夢華の目は冗談にしてはヤケにシリアスな表情をしていた。
まるでもっと一緒に居たいっていう気持ちの現れかのように。
「…………。」
簡単に「無理だ。」と言えないあたり俺はこの時間が本当に楽しかったらしい。
妙にその時だけは居心地が悪く、顔が熱くなり冷や汗が出るような気持ち悪さが全身を襲うようだった。
「なんて冗談よ!直輝にとっては帰る場所違うもんね!もー、真に受けすぎ!」
わざとらしく夢華は笑った。
15歳とは思えぬ駆け引きに俺は一瞬負けかけた。
妹のような存在だと思ったけど、この数日で彼女なりに成長してる気がしてたまに対等になる時がある。
「直輝、大丈夫?」
疲れてるのかそれとも眠いのか、妙に俺は景色がグラつくような感じがした。
「ああ……すまん、ちょっと疲れてるらしい。」
「大丈夫?ホテルで休む?ごめん……ウチが朝叩き起こしたせいだよね。」
「いやいや!?そんなことないよ、実際楽しいし……。」
夢華は心配そうな目でこちらを伺っていた。
まるで、俺に負担をかけたくないとか、嫌われたくない……そんなことを言わんとばかりの顔で。
「そ……そうだ!夢華の歌とか聞いてみたいな!カラオケとかどう?」
「カラオケ?いいけど……。」
「よし!じゃあ……ちょっくら行くか!」
「うん!でも疲れたら正直に言いなさいよ!」
俺たちはマックを出てカラオケに向かった。
この時の気温は25℃を超えていて完全に常夏状態。
潮風が妙に生ぬるくしょっぱい。
そんな中、俺たちは進むのだった。
☆☆
カラオケに入ると、見慣れた個室のような感じでプライベート感があった。そういえば俺はあんまりカラオケなんて行ったことない。
「直輝からいいよ、何歌う?」
「んー、そうだな……。」
しかし、カラオケ慣れしてない俺は曲を選ぼうとするもなかなか決まらず少し悩むと夢華が徐々にカリカリしだした。相変わらずせっかちな性格は治らないらしい。
「……やっぱ夢華から歌う?」
「いいの?じゃあ……デュエットにしよーよ!」
「いや、難易度高いなおい。」
「ええ……んー、何ならわかるかな。ディ〇ニーはどう?」
「ア〇雪くらいしかわからんぞ。」
「いいじゃん!そしたらこれにしよ!」
すると、夢華は勝手にデュエットの曲を選曲する。
曲名はとびら開けてだった。
えっと……どんな曲だったか。
そう思うとセリフから入ってくる。
「ねぇ、ちょっとおかしなこと言っていい?」
夢華が透き通った声でそう語りかける。
すると、歌詞のところにセリフが写る。
俺は突然の事で反射神経が鈍く反応して少し遅れてセリフを言った。
夢華の歌声はとても綺麗だった。
まるで子供向け番組の歌のお姉さんかのような透き通っていて、それでいて優しい声をしていた。
いつもは少し荒らげた鋭い針のような声が優しい波のような包むような歌声に変わる。
カラオケは音程とか意外と二人が合わせやすいようにできている。
音程とかのバーとか、他にも色分けでどっちが歌うかとかだ。
最初はぎこちなくノイズのような俺の声が混じるけど、少しずつ夢華と歌がシンクロするようで俺はこの時初めて人と歌う楽しさをわかってきたような気がした。
でも、この歌はお互いの境遇の居心地の悪さが意気投合するような曲まさに俺と夢華の心境そのものだった気がして妙に気持ちが入ってきた。
最後に曲の終盤に入る。セリフが締めのように出されるのは以下にもディ〇ニーって感じだった。
「おかしなこと言っていい?僕と……け……結婚してくれ?」
セリフとはいえ少し大胆な発言に少し口ごもってしまう。
すると、夢華はその様子に少し笑って
「もっとおかしなこと言ってもいい?もちろん!」
妙な告白チックな事になってしまって俺は恥ずかしくて赤面してしまった。
いや、たかが曲なのに何をムキになってるんだ俺。
「おーれおれー、どうしたの?」
「……謀ったな。」
「なんの事かなー?」
しかし、夢華も赤面していた。
いや、お前も恥ずかしかったんかい!
しばらく曲は止まりカラオケの広告が流れてくる。
それだけ俺たちはしばらくの間無言になっていた。
何を話せばいいか……この時ばかりは何も浮かばなかった。
「……直輝、実は色々悩んでる?」
「え?」
「なんか、たまーに辛そうな顔するからさ。でもそれを取り繕うような表情してる気がして。」
「……まあ人並みに。」
「なによ!ウチは全部ゲロったのに。水臭いわね。」
確かにそうだ。
夢華の周りと打ち解けないことや夢がまだ無いことの苦悩など全て聞いた。
でも、俺からは何かを話せばいいのかは分からなかった。聞くのが得意になると……話すのは苦手になる気がする。
でも、ゆっくりと俺は気持ちを伝える。
「俺、医学部目指してるけど……この前模試を受けてみたら全然ダメだった。夢だけ語って何も地に足が着いなくて……それで気がついたら母ちゃんに宮古島に連れていかれてたんだ。」
「うん。」
夢華は何も言うことなく静かに聞く。
少しだけそれが心地よく、俺は言葉をさらに続けた。
「俺、母ちゃんがガンで入院したこととか、ある人が亡くなる所を見て人を助ける医者になりたいって啖呵切って勉強してたのに全然通用しなくて、本当に俺は前に進んでるのか分からないんだ。」
「……そっか。」
「ごめん、弱音吐いた。せっかくカラオケきたんだ、まだ次の曲を」
そう言うと、俺は夢華に抱きしめられる。
夢華の身体は小さく、抱きしめたら潰れてしまいそうなほどほっそりとしていて、まるで暖かい宮古島の海のような心地良さから、俺は頭がフリーズしてしまった。
でも、やはり彼女なりに緊張してるようで心臓の音がバクバクと伝わってくる。
「大丈夫だよ。」
「あ……え……。」
「直輝は優しいし、頑張り屋さんすぎて疲れちゃったんだよね。よしよし。」
彼女にある訳ない母性がとても心地よく。
一瞬だけどもっとこの場にいたいような感じがした。
「直輝、わたしの歌聞いて欲しい。一番得意な曲なんだ。」
そう言うと、夢華は曲を入れる。
それは涙そうそうと如何にも沖縄っぽい歌だとおもったけど、夢華は本気で歌っていた。
静かに……それでいて優しく歌い、サビに入るとカラオケボックスだけでなくもっと広いところまで彼女で包み込めそうなほどの迫力があって、今の彼女のやさしい気持ちが体現してるようであった。
俺は、それを見て泣いていた。
本気で好きなことをしてる夢華に対して、感動していたんだ。
人の歌声で泣くことがあるんだなと俺は驚いてしまった。
「もー!直輝、めっちゃ泣いてるじゃん!可愛いな〜。」
「……凄く、素敵な歌だった。」
「へっへ〜、なんせ歌の天才だからね!」
すると、夢華はハッと思いマイクを持って喋り出す。
まるでこれから何かを宣言するかのような……カラオケのエコーがより強みをましていくようだった。
「直輝、私は歌手になるよ。」
「え?」
「今決めた。こうやって直輝みたいな人に感動させれる人になりたい。ウチ性格はアレだけど……歌なら人にやさしくできそうだから。」
そう宣言する彼女は……昨日の弱気な少女ではなく、もう一人前の女性であり、むしろ今の自分が置いていかれるような気がした。
それくらい、今の夢華は大きいものに見える気がしたから。




