春と挫折と宮古島 2話
「おはよう。」
俺は教室に入り自分の机に座ると大きく伸びをする。
「おはよ、飯田ー!今度バスケ部の試合助っ人頼むよ!」
「いやいや!それよりも今度また合コン開いて欲しいな!」
「あはは……わかった、順番に聞くぞ。」
飯田は相変わらず背が高く人当たりもいいのでとにかく人から好かれていた。
教室に入ると俺たちはそれぞれの人間関係の対応に追われるので程よい距離感でいる。
多分ここまで彼と長く接しているのもこの近すぎず遠すぎない距離が好きなのかもしれない。
「おはよ!直輝くん。」
「お、舞衣!おはよう!」
彼女は俺の隣の席に座る。そして、少しだけ疲れてるのか軽くため息をついていた。
「昨日メイド喫茶めちゃ忙しかったんだよー」
「またNo.1だったんだろ?」
「ふふん、当然ですご主人様。」
この子は俺の彼女の舞衣。
去年から交際関係にあり、家事もできるしバイト先のメイド喫茶でも持ち前のスタイルと絹のような黒髪が人気とのこと。
正直、見た目だけなら勿体ないくらい素敵な彼女だ。
「いやー、久しぶりだね!今日は6時には起きてたんだね!」
「……なんで俺が起きてる時間把握してるんだよ。」
「へへん、彼女だからね。」
「またこっそりカメラとか仕込んだのか?」
「そ……ソンナコトナイヨー。」
「確信犯過ぎないか?」
ただ愛が深すぎて、時折過激行動にでるところがたまにキズかな。
母ちゃんも彼女のスタイルには協力気味とはいえ、こうして頻繁に監視されている時がある。
「すまんな、医学部の勉強ってなかなかハードで時間作れなくて。」
「ううん!こっちも最近忙しいし、お互い様だよ!」
俺は医学部の勉強、彼女はバイトでとても忙しい。
スケジュール併せをするにも去年とは違って一苦労にさえなっていた。
「そっか……できる限り時間もつくるから何かあれば」
「直輝くんの声を盗聴して声を聴きながら生活するの幸せだからね。」
「……えっと、警察向けの電話番号は。」
「ちょっと、彼女なんだけど!?」
どうやら想像以上らしく少し背中が悪寒がしていた。
大丈夫かな……この子そのうち何かとんでもないことをしでかさないかなと心配してしまう。
パンパン!
「はい、騒がない。」
全員
「……」
「今年からこのクラスの担任になりました」
松本みなみです。
彼女は松本みなみ先生。26歳の若手でスラッとした体型と黒髪がスーツと似合っていて、高嶺の花のような美人だった。
しかし、俺は松本先生がいることについて驚いていた。
「……え?松本先生?」
「ああ、そっか……このクラス天野くんか。」
実はこのクラスの担任は諏訪先生という筋肉質の男性だった。
彼女はクラスは持っていなく去年は生徒会顧問で接する機会があったのだけど……そんな彼女がここに立つということに俺は大きく疑問を抱いていた。
「あの……諏訪先生は。」
「1年生の学年主任やることになったわ。私が今日からこのクラスの担任になります。」
「ひゅー!チリコじゃん!俺たちのこと見てくれるの?」
「今日も前髪キッチリしてて可愛いぞ?」
「……あ?」
彼女は少し睨むと男たちは萎縮してしまう。
この人切れ長の美人なんだけど普段怒ってる感じがして怖いんだよな。(実際はすごく優しくていい人なんだけど)
彼女はそう言ってゴホンと咳払いをして、話を続ける。
「えー、改めてこのクラスの担任になりました。松本みなみです。皆さん、今年は3年生ということで高校生最後の年になります。部活や行事、そして受験など皆さんの人生を分ける大きな岐路となります。何かあれば遠慮なく言ってください!」
そう言って、彼女は新学期の挨拶を続ける。
しかし、その言葉に俺は少し緊張を覚えていた。
そう、この1年は本当に勝負の歳かもしれない。
医学部目指しているものの、どこまで通用するか分からないからだ。
来年の今頃にはここにはいない。
残された時間は短いということをこれでも思い知り、俺は息を飲んだ。
「じゃあ、朝のホームルームは終わりです。始業式がこれから始まりますので、各自体育館に集まってください。」
そして、俺たちはホームルームを終えて、俺は頬杖を着いて桜並木と晴れ模様を眺めて自分の医学部に行くという志について考えていた。
「なんか難しい顔してるね、直輝くん。」
「ああ……なんか、もうすぐ俺たちの高校生活も終わりなんだなって。寂しい気持ちと怖い気持ちが混ざったような気持ちになった。」
「あはは!直輝くんは考えすぎだよ!」
そう言って、舞衣は太陽に照らされ白い肌を反射させて笑う。絹のようにサラサラした黒髪をいじりながら彼女は言葉を続けた。
「何事にもいつか終わりは来るんだから、それまでどれだけこの時間を楽しめるかじゃない?結果も大事だけど過程もゆっくり楽しめないとダメだよ!」
「……そっか。そうだよな。」
彼女の言葉に納得したのか俺は不思議と身体が動き出した。
そうだ、いつか来るものにモヤモヤしても仕方がない。
それよりも……この一年を後悔ないように走りきる。
そっちの方が何百倍も大事だった。
「いつもありがとうな、舞衣。」
「ううん!また悩んだら言ってね!1日20時間くらいまでなら聞いてあげるから。」
「怖……睡眠時間どこ言ったし。」
そうやって俺たちは教室を出る。
春模様の窓際とは違って廊下は少し肌寒く、足の指が少し冷たく感じるようでもあった。
でも、その冷たさが妙に心をスッキリさせるようでもあった。
その時、俺はまだ知らなかった。
この一年が、人生で一番長い一年になることを。




