月下に灯るメイド長 14話
メイド喫茶、キュートローズがオープンして一週間が経った。
私メアは相変わらず容量が悪かった。
「……メアちゃん、4卓ってハイボール出した?」
「あ!え……えーっと、あれ?3番テーブルと間違えてました。すみません。」
「……一応2人とも飲み放題だから今回は大丈夫だけど、気をつけてね。」
「はい!」
学校に入っても虐められて、社会を経験してないとモロに其の要領の悪さが表に出てしまう。
今日も3回はオーダーミスしてるし、チェキもまだ自分の盛れるアングルが分からないから可愛く取れてない。
「ことねさん!私掃除します。」
「……メアちゃん、すずのちゃんがさっき掃除したばかりよ。」
「え。」
「……まだピーク時間じゃないし、呼び込みお願いできる?」
「はい、行ってきます……。」
このように視野も狭く他の人がやった作業をやってしまったりと少しずつ疲れて行った。
私は頑張りが足りてない、SNSでも頑張れって言われてるんだ……頑張らなきゃ。
そう思う度に胸が張り裂けそうで私は少しずつ弱っていくのを感じた。
☆☆
「……じゃあ、メアちゃんとすずのちゃんは上がって大丈夫だから。気をつけてね。」
「「お疲れ様でしたー!」」
そういって、私はすずのちゃんと並んで帰る。
人気のない秋葉原は昼に比べたら静まり返っていて、ビルのすきま風が肌を指すように寒かった。
あと少し……あと少しで帰れる。
大好きで始めたはずのメイド喫茶はいつの間にか自己嫌悪を作るようでもあって、少しだけメイド喫茶の時間がしんどく感じてきた。
人気も出ないし、ミスも多いし、できること少ないし……そんな私には何ができるだろう。
「……ちゃん?」
とりあえず、SNS更新して自撮りだけでもあげよう。
私を推してくれてる人にも喜んでもらうために。
「メアちゃん!聞いとるん?」
「ひゃあ!?す……すみません、私またボーッとしてて。」
「なあ、メアちゃん?いい加減敬語やめへん?うちら同い年なんやで。」
「そ……そう……ですね。」
「あー!また敬語になっとる!もしかして、うちの事嫌いなん?」
そういってすずのちゃんはジト目になってこちらを見てるので私は慌てふためく。
「そ!そんなわけ!いつもすずの……ちゃんにはお世話になってばかりだし!」
「そんなの仕事だから当然やん!ほかに?うちの好きなとこ言ってみい?」
すずのちゃんは妙に嬉しそうにむふーと鼻息を鳴らしながら耳を立てていた。
すずのちゃんのいい所や好きな所……えーとえーと……。
「…………………………………………………………………。」
「ないんかい!!」
「ご……ごめんなさい!」
すずのちゃんの鋭いツッコミが入る。
こういう時の私の観察力と語彙力の無さは本当に厄介だ。
人を褒めるって言うことすらできないのだから。
「いや、もうええで〜。」
「ごめんなさい!悪気がある訳じゃないけど、言葉にするのがよく分からなくて……。私、小中とデブスって言われてから人との関わり方がわからないの。顔変えてもそれが治ってなくて。」
「あはは!わかっとるわかっとる!」
すずのちゃんは本当に大人だ。
同じ16歳とは思えない物腰の柔らかさで褒めるところがないという失礼極まりない状況でも笑ってくれた。
「あった!優しいところ!」
「お?どんな所が?」
「失礼な私でも笑ってくれるところとか……普通の人なら……怒ってるよね?」
「まあ、関西なら引っぱたかれてるかもしれへんな。」
「……関西こわ。でも、今の感じ忘れない方がええで、人の心を掴むには抽象的な言葉なんて誰でも言ってると思われるで!どっちかと言うと、今みたいに具体的に言う方がええかもな!」
そういえば、私はよく動画きっかけで来る人をちゃんと褒めてあげれただろうか?
今みたいに優しいとかすごいとかヤバいしか言ってなかったぎする。
「うちなら、沢山言えるで?メアちゃんのいいとこ!」
「えー?あるかな、私みたいな子に。」
「まず、あんさんいつもメイク動画見てるやろ?それを必ず次の日には試してるし、整形もするほどやから行動力あるな〜。何より、いつも全力で仕事しとるからきっと誠実で真面目なのかなとか。」
すごい、初めて可愛い以外で褒められた気がする。
というか、よく見ている。
すずのちゃんとは距離があるように見えたけど、実は私のことをよく見てくれてたのだ。
「その点、うちなんかは出来ることが増えたら省エネでやっとるからな〜。」
「それって要領がいいってことでしょ。」
「お!褒め方覚えてきとるやん!メアちゃん、最近肩の力入れすぎやで。人によく見られようとか、その感覚も大事なんやけど、それに囚われて目の前のことに集中できなくなっとる。」
彼女の鋭い指摘に私はハッとした。
私は……頑張りすぎていた。
「まあ、しんどくなったら頼ってや。それに……うちもメアちゃんと仲良くなりたいし。」
そういって、前にわかれたホームまで着いてもう少しで私たちの雑談が終わりを迎えようとしていた。
「ほな……おつかれさん!次シフト被るの楽しみにー」
「すずのちゃん!」
彼女の言葉を遮り、私の声は駅の壁が少しだけ反響するけど、数多の人間の移動する音でかき消されてその音に注目してるのは私とすずのちゃんだけだった。
「……なんや?どうしたん?」
「その……私さ……友達全然いなくて、人と本音で話すの苦手で……その……その……。」
「うん。」
「私でよければ、友達になってくれませんか?」
しばらく沈黙が流れた。
その瞬間は一瞬なようで永遠にも感じるようだった。
彼女はキョトンとしていて、妙にさっきまで話してた安心感はどこかへと消え去っていた。
「ぷっ……ふふ……あははは!」
「え?わたし……なんか変だった?」
「変も変……大変や!うち、もうメアちゃんとは友達のつもりでおったんからな!ほんま傑作や!おもろい!」
そう言って笑う彼女に少しだけ恥ずかしくて赤面してしまう。
やっぱり人との距離感は……わからない。
「なあメアちゃん?今度サシで遊びに行こうや!」
「え!?いいの?」
「むしろお願いしたいくらい!うち化粧白塗りしかわからへんから教えてな!」
「も……もちろん!」
そういって、私たちはちいさな約束をして笑いあった。
「てか、いい加減メアちゃんLINE交換せえへん?」
「い……いいよ!あれ、どこから追加したっけ?」
「なんや、LINE友達数5人って……ホンマに令和育ちなん?」
「いやいや!すずのちゃんなんで200人もいるのよ!?」
「なんでやろーな?よし!追加できたで!今度遊びに行こか!」
秋葉原のホームは日比谷線とJR、更には末広町からは銀座線もあって人が川のように止まることなく進んでいく。
夜は遊びに来た人ではなく、帰りに集中するために省エネで帰ろうとするビジネスマンに溢れ空気が澱んでいた。
でも、その中で私たちだけは笑っていた。
小さな友情が芽生えて、世知辛さを吹き飛ばす。
まるで、敷き詰められたアスファルトの中から小さな一輪の花が咲くように。




