月下に灯るメイド長 6話
面接2日目。
私たちはまた同じ席に座る。
慣れないことをしたせいでお互い妙に疲れ切ってきた。
「ぷはー……あ、動画上げておきましたよ。」
「……見たわよ、ありがとうね。仕事が早くて助かるわ。」
「見返しましたけど、やっぱ1人目と4人目の子が今の所いいかなって感じですね。」
「……くるみちゃんとメアちゃんね。」
昨日は面接で大分採用が決まってきたのであと一人に絞りたいところ。
でも、状況によってはそれより少し多めでも大丈夫かもしれない。
さて、間もなく5人目が来るので私たちはペットボトルを飲んでいると対象の方が来る。
「どうぞ、お入りください。」
「失礼しまーす!」
………………。
「……不採用で。」
「不採用ですね。」
「ちょっとー!?2人とも初っ端から酷くない!?」
何故私たちがこうもあっさりと不採用を選んだのかと言うと、相手は知り合いだった。
彼女は笛吹さやか、一応ベストセラー作家だ。
本棚ではいつも彼女の作品が1冊は見かけるほどの文豪で才能にも溢れてる。
そんな彼女がメイド喫茶の面接に来るなんて不自然にも程があった。
「頼むよー!ことねぇ、同じ施設育ちの仲じゃん!酒なら飲めるから!」
「あんたねぇ……、ただ酒飲みたいから来ただけでしょ!」
彼女にはレンタルキッチンで営業してた時もバイトをしてもらっていた。でも今回は話が別である。
彼女は本来は小説に集中しなきゃいけない人材なのと、普通に遅刻してきたりこっそり店の酒飲んで潰れたりと破天荒にも程がある。
それならただの友人に留めた方が良いのだ。
「……えっと、ここに来た動機は?」
「え、ことねさん。笛吹さんですけど面接続けるんですか?」
「……まあ、理由だけは聞こうかなと。」
すると彼女は腕を組んでドヤっとした後に息を飲んでゆっくりと自分がここにいる理由を告げた。
「まあ……あれだよ。」
「……なによ。」
「敢えて言うなら、遊ぶ金欲しさ……かな。」
「……お疲れ様でした。合否の方は不合格でお願いします。」
「ちょっとー!ことねぇ〜私がいればバズること間違いないからさ!まだゆっくり話を!」
「はいはいーことねさん、外に出しますね。」
「……お願い。」
こうして私の友人はあっという間につまみ出された。
正直彼女は見た目は可愛いし、酒も飲めるんだけど出版社とか訴訟が知らないところで起きそうだから穏便に済ませることにした。
後でお酒1杯奢れば機嫌も撮り直すだろう。
しばらくすると、舞衣ちゃんが戻ってきてため息を着いた。
「あ、次の人来たっぽいですよ?」
「……そうね、じゃあ面接しましょうか。」
正直カメラは回っていたけど、ここはカットにしておこう。笛吹さやかは映画化もしてる小説家だから笛の1文字でも載せないように綿密に編集すれば行ける。
こうして、その後も面接は続いたが面接に遅刻してきたり、他にもキャラがなかったりと能力よりも問題が多い子が続いて1日目に比べたら手応えが少ないような面接に感じてしまった。
☆☆
「では、次の方どうぞ!」
次に出てきた女の子は髪型をサイドテールにしていて、年齢は女子高生の物腰柔らかそうな女の子が出てきた。
「どうも〜本日はよろしゅうございます!」
おお……関西弁。
落ち着いた雰囲気と八重歯が愛嬌があって、スタイルも良い母性溢れる女の子が出てきた。
「……ええと、名前は。」
「すずので頼んますわ〜!」
「関西弁の人初めてですね!出身は関西なんですか?。」
「ちゃうねん、自分出身は秩父どす〜。」
いや、めっちゃ東京じゃないの。
私たち二人は一気にズッコケる。
なんで関西弁なのかとか、ツッコミどころが多すぎる。
「え……えっと……関西弁なのは何かきっかけがあったんですか?」
「せやな〜、元々ウチ舞妓はんに憧れて修行しとったんどす!厳しい稽古の末に関西弁がデフォルトになりました〜。」
舞妓さんか、よく見れば彼女は姿勢がいいしどこか私たちよりも気品を感じる。
対する私はタバコを愛する28歳のメイド喫茶以外経歴なし……圧倒的な敗北感さえ感じた。
しかも彼女の資格を見ると何やらズラリと資格が並んでいる。
えっと……漢検一級や、TOEIC725点。
その他にもたくさんの資格を持っていて私は履歴書を持つ手に汗が滲むのを感じた。
「えっと……すずのさん。あなた才能に溢れてるように感じるけど、どうしてうちに?」
「メイド喫茶には憧れがあったんよ〜。うち人の前で踊ったりするのほんま好きでな〜。でも、親の病気を機に舞妓はんを引退して、その先でことねさん推しになってからがきっかけなんどす。」
私は本当に彼女のことを認識してたのだろうか?
こんなにキャラが濃いなら絶対覚えてそうなんだけど。
舞衣ちゃんもあまりのキャラの濃さに若干フリーズ気味だった。行けない、完全に私たちのペースとられてる気がする。
そして、こんなハイスペックな子を本当に採用していいのかという悩みすら出てしまうほどだった。
「……えっと、じゃあ特技は。」
「ええ〜舞妓はんのアイデンティティまで話したらもう話すことないで〜。ほんまいけずな人やな。」
「……ああ、ごめんなさい。無理に話さなくても大丈夫よ。」
「あ、でも英語で外国人とかと喋ってたし、この前もウチのスタイルを活かしてコスプレもできるで〜。」
そう言って、彼女はスマホからコスプレの写真を取り出す。他にもTikTokやインスタとかでも動画を出していて再生数が40万程になっていた。
「……これ、あなた?」
「せやねん〜、こうしてコスプレして定期的にダンス動画も上げとるで〜。」
「ことねさん、どうしよう!私たちじゃ彼女に勝てません!」
「……落ち着いて、舞衣ちゃん。ここは面接よ。」
ついにあまりのスペック差に舞衣ちゃんが壊れてきてる。でも、面接は彼女の本質に1度でも触れた方が良い。
私は気合いを引き締めて話を続けた。
「……すずのさん、貴方はとても素晴らしい方よ。能力もキャラも申し分無いわ。」
「おおきに〜。ことねさんにそう言っていただいて光栄どす。」
「……でも、まだあなたのコアな部分に触れてないから敢えて聞きたい。あなたはうちでやりたいことは何かあるのかな?できれば一緒に働く仲間としてそういう所も応援したいんだけど。」
ぶっちゃけただのバイトの面接でその質問は深堀過ぎてる気がしたけど、カメラが回ってる以上他のバイトよりも強い動機がなければ彼女のためにならないと思って少し踏み込んでみた。
しかし、流石は元舞妓さん。間髪入れずに彼女は淡々と自分の本音を語った。
「うちはな、見習として家を出て、帰るに帰れない辛さを乗り越えて舞妓はんになったん。」
「……はい。」
「でも、親の病気の知らせを聞いてうちはせっかく叶えた夢を直ぐに手放してもうたんどす。今ウチはとても中途半端な人間のままや。そのままで終わりたくない、ウチはまたあの頃のような舞台を、ここで舞う所存で来たんどす。」
はんなりとした彼女の表情が一変して強く感じた。
仕方ないとはいえ、彼女は後悔をしていたのだ。
まだ17だと言うのにセカンドチャンスなんて……まだアラサーの私すら辿り着いてない領域に彼女は踏み込んでいた。
少し涙ぐんで私は拍手をしてしまった。
歳をとるとどうも涙腺が脆くなる。
健気な彼女を応援したくなったのだ。
「すずのさん、ありがとう。合否はまた3日以内にご連絡致します。」
「おおきに。ウチは何考えてるか分かりずらいけど、是非ことねさんの元でまた頑張りたいと思います。」
そう言って彼女は深々と綺麗な角度でお辞儀をして、面接は無事に終わった。
☆☆
「終わったー!もう4時間も座ってておしり痛いです……。」
「……私も。」
さて、今日は6枚の面接シートを確認して、お互いに意見交換を始めた。
「……舞衣ちゃんは、誰が良かった?」
「いや、圧倒的にすずのさんですよ。」
まあやっぱりキャラの強さは彼女に軍配が上がる。
私は検討に検討を重ねてこの3人を採用することにした。
・整形の努力家さんのメアちゃん。
・危なっかしいけど一通り経験してるくるみちゃん。
・元舞妓さんで、次のチャンスを求めるすずのちゃん。
この3人に私は合格のメールを作成して、無事面接を終えることとなった。
個性が十人十色のメンバーで私たちはお店をやっていく。
徐々にその実感が湧いてきて疲れてきたけどワクワクが勝っていた。
「……これから忙しくなるわよ。」
「ええ、どんと来てください!私もついて行きますから!」
こうして無事に面接は終えた。
しかし、その後も色んなトラブルに見舞われるとはこの時思いもしなかった。
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☆YouTubeコメント☆
「あれ、面接に来たの10人だったよね?9人しか写ってない……。」
「遅刻して謝らなかったしこの子は不採用かな。」
「うーん、ことねさんは誰を選ぶのだろう。」
「舞妓さんの子キャラ濃すぎww」
「すずのちゃんメイドジョイン?大型新人じゃん!」
「すずのちゃんのコスプレ写真集はマジでいい。」
「ことねさんに蹴りあげられたい。」




