AV女優でも母親でもない私 4話
「それじゃあ!素敵縁を祝福して……」
「「「カンパーイ!」」」
「……乾杯。」
結局、山崎ちゃんのせいで相席になり合コンが始まってしまった。
「じゃあ、私から……山崎咲で〜す!今は看護師してまーす。」
「おおー!」
ハイテンションな山崎ちゃんたちに混じって挙動不審な私が混じっている。
相手をよく見ると20代半ばであり。
明らかに私が一回り年上なので疎外感で押しつぶされそうだった。
「あ……えっと……天野遥香です。」
「もう!そんなんじゃ魅力伝わらないですよ!」
なんの魅力よ!なんて突っ込もうとしたけど、ここは大人として対応した方が良い。
私は眠い目を擦ってこの子のストレス発散に付き合うことにした。
「今は、35です。普段はお医者さんやってます。」
「ほれ!聞いたかー男子。この人普段は白衣を着てるんだぞ。」
そういって山崎ちゃんが私の背中をバンバン叩く。
……落ち着け私。心頭滅却すれば火もまた涼しよ。
「え、お医者さんすごいですね!先輩!」
「だな〜、せいぜい俺たちはFラン出身の商社勤めの営業マンっすよ。きっとすごく勉強頑張ったんですね。」
若い男性とガードをしていたけど、相手は思ったよりも誠実で優しかった。
というか、多分10年以上若い男性とプライベートで話してなかったから耐性が着いてなかった。
「あ……まあ、高校の頃はずっとやってましたね。1年浪人しましたけど。」
「俺らそんな努力できないっすよ〜。営業成績上がらないぽんこつコンビっていっつも詰められてますからね。」
「いや、先輩。外回りでパチンコ誘うのやめてくださいよ!あれマジで困ってるんですから!」
そんなやり取りを聞いて笑ってしまう。
彼らの生き方は若い頃の私にとっては否定していたものだけど、案外悪くないのだと妙に安心感出てきた。
「え、あんたもパチンコやるの?」
「山崎ちゃんもやるの?」
「やるやる!この前も開店前にならんで番号狙ってましたもん!」
「だよな!え……なにやるの?」
「んー、北斗の〇とかエ〇ァとか……まど〇ギもアツいんだよね。」
「分かるわ〜山崎ちゃんわかってる!それで……やっぱり演出で最高なのは…………。」
「「ィユニコォーーーーーーーーーン」」
2人は両手の人差し指をVにしておでこに当てたポーズをして、私と後輩くんは置いてけぼりにされていた。
「……え、何言ってるかわかる?」
「わかんないです。」
「なんというか……お互い苦労人ですね。」
「ですね〜。」
お互いビールを飲み少しだけ安心感が出てきた。
きっとこの人は聡明で優しい人なのかもしれない。
「遥香さんは彼氏とか結婚はしないんですか?ぶっちゃけ綺麗な方だと思ったし……。」
「やめてよ、おばさんおだてたって何も出ないわよ。酒代は出してあげるかもしれないけど。」
「いや、流石にそれは遠慮しますよ!」
そういって、男は静かに間を置いてゆっくりと私の目を見る。
どうやら、本当に私に興味あるようだった。
「私……高2の時に妊娠したんだ。」
「え!そうなんですか?じゃあ子どもは……。」
「いないよ、育てられないと思って降ろしちゃった。」
「そっか……あれ、父親に当たる人は居たってことですか?」
「うん……でもその人も津波に巻き込まれて亡くなった。」
そう淡々と言うと、男は少しだけ驚いてから……ゆっくり頷いた。
「あの地震の被災者だったんですね。」
「そうなの……家族もみんな居なくなって、残された遺産で医者になったの。でも、ちょっとした罪悪感を背負ったまま今日まで生きてきたの。多分独り身なのも……そのせいなのかな。」
昔はそれを思い出す度に泣いていた気がする。
でも、もう流す涙は枯れてしまったようで密かに悲しさはあるものの私は感情はどこかへ置いてきたようだった。
「俺!そんな遥香さん素敵だと思います。」
「え?」
「俺なんかは、東京から左遷されてこっち来てもまあいいやで流されるほどの人生でした!俺とは違って芯があるのがとてもかっこいいです。」
初めて……私の生き方を認めてくれる人がいた。
妙に心が温まるようで、でもどこか腑に落ちないよく分からない感情が私を支配していた。
気が付けば……私たちは2時間も飲んでいて、私も疲れは感じなくなったけど、妙に体のコントロールは聞かない程になっていた。
頭と行動がリンクしない、そんな感じだった。
「んじゃあ!山崎ちゃん、これから打ちに行こーぜー!」
「天野先生、お疲れっした〜!」
何故か山崎ちゃんと解散して先程の男と2人っきりになる。
まだ、この男に承認されたいような、満たされない感覚が私を支配する。
「あの……これからどうします?」
男はどっちつかずだった。
私はもう完全にいつもの理性とはかけ離れていた。
「2軒目〜行く〜?」
「いや!絶対ダメっすよね!あ〜もう先輩も俺じゃなくてパチンコ優先して。」
逆に男は酒が強いのかまだ辛うじて理性は残っていた。
私を介抱しようかと、私を案じてくれる。
しばらくすると男はタクシーを捕まえて、私を優しくタクシーに乗せる。
「あの!住所は……。」
「んー?あのスーパーの近く〜。」
「い……いや、番地は。」
「ゼロイチニーゼロ、イチマルナナ、キューニーキュ」
「いや、それ城〇クリニックに繋がる電話番号じゃないっすか!とりあえず……あのスーパーの近くで。」
そういって、タクシーはゆっくりと動き出す。
右か左かも分からず、ふわふわとした爽快感が私を支配していた。
そして、しばらくしてタクシーは止まる。
「お支払いは……。」
「カードで!」
そして、男は私を担いでゆっくりと歩く。
「近くのスーパー着きましたよ!あとどれ位で着きますか!」
「ん……。」
景色は見慣れた景色だと辛うじて認識はできた。
でも、そこからどうやって帰ったのかは忘れていた。
「えーっと……この角曲がって。」
「はいはい。」
そういって、私は情けなくも初対面の男に誘導され、ゆっくり……またゆっくりと自宅に近づいてやっとのこと私の家の前へと着いた。
「はあ……はあ、着きましたよ!」
「……ごめんね〜。」
「いえいえ!俺もこんなに酔わしてすみません!では……。」
そういって、いなくなる男にもう会えないかもと思うと……妙に寂しくなっていた。
その時、私は寂しいのだと改めて自分の本音が理解できた。
「……もう少し、一緒に居ない?」
「え。」
「家……上がってよ。」
そういって、私は男をマンションへと誘う。
時刻は22時を周り、蒸し暑い感覚は急に涼しくなり、酒で火照ったからだを冷ましてくれる。
夜の沖縄は少し暗く、これから私でない私の過ちを……静かに隠すようでもあった。




