アリス①
「アリス、ご飯よ。」
階下から私を呼ぶ母の声が聞き、1階に降りた。
「わかった!」
この冬、私は魔法学校へ進学する。物語の英雄たちのような魔法を使うのが小さい頃からの夢だった。
「今日のご飯は何?」
「今日はお父さんの誕生日だからね、お父さんの大好きなシチューよ。」
「やったー」
お母さんのシチューは煮込まれて柔らかくなったお肉が絶品で楽しみな料理の1つだった。
「お父さん中々帰ってこないね。」
「そうねえ、誕生日だし早く帰ってくると思ったんだけど……」
「それにさっきからなんだか外がうるさくない?」
1階に降りて気づいたのだがその日はなんだか街が騒がしかった。
「おい!ロナウドさん!大変だ早く逃げなきゃ。」
「ベスターさんどうしたんですか!?」
「スタンビードだよ、第三迷宮だ。ギルドの奴らやらかしやがった。」
父は兵士だった。そしてその日は第三迷宮の門番をしていたはずだった。
「え!あの人「今日は第三迷宮の門番だから楽だ」って言ってたのに」
「何てこった、ガルムの奴……仕方ねえ!男がいないと何があるかわかんねえ!うちの家族と一緒に逃げるぞ!」
「でも……あの人が帰ってきたら」
「帰ってくるわけねえだろ!現実を見ろ!あんたには娘もいるんだ。」
ベスターさんは隣の家の人だった。よく遊んでくれたのを覚えている。
「ねえママ何処いくの?」
「大丈夫ちょっとお出掛けするだけよ。」
ーガアァァァァァー
今思えばあの咆哮をした魔物がお母さんには見えていたんだと思う。
「伏せて!」
そう言ってお母さんは私に1つのアミュレットをかけて伏せさせた。そのアミュレットはお父さんがもしもの時のために買っておいた。防護のアミュレットだった。
「アリス、貴方だけは生きてね。」
それが私が聞く最後の母の声だった。